Skyting stjerner1-5

カクから出されるトラン湖にある解放軍の本拠地、トラン城行きの船旅は数十分といったものだった。
その船は最終便だったらしく、とティル以外乗っている人はいなかった。
お陰で船の上で見目麗しいティルを守るべく警戒を行わなくても良かったのだが、トラン城へとついたときには日がどっぷりと暮れていて、あれ、夜これからじゃん。しかも船最終便じゃん。逃げ道はねぇぜってやつ?あれ、おい、やばくない?と冷や汗流したある。しかしティルにそう言った危機感はないのか涼しい顔でトラン城へと船から出された板の上へと向かう。けれど固まったを振り返り陸へと降りる不安定な板を渡る為手を差し伸べる姿はナイス紳士。騎士だ。騎士様がここにいる。だがしかしこれから自分はティルという姫を守るべく騎士にならないといけないというのにこれではいけない!というのにその手を振り払わずちゃっかり差し伸ばされた手を握ったのは一歩踏み込んだ陸への板が本当に不安定でというか手すりもなく段差もなく長い板一枚で揺れまくりという状況にびびったからである。森の獣道といったようにこういうのは現代っ子には厳しい道だ。乗るときは船が陸へと身を乗り出しておりそのまま船に設置された階段を上るだけだった為まったく気にしていなかったが、まさか降りる時はこんなのだとは予想もしないところで難問が待ち構えていたわけである。
そうしてティルの助けもありおっかなびっくり板の上を歩き、なんとか陸へとたどり着いたときは思わずはその場にへたりこみそうになった。
けれど今だ震える膝を叱咤して顔をあげる。このままではいかん。これからが本番なのだ。心持ち顔を引き締め上げただったが――視界に映ったそれに口を開きまんまと間抜け面をさらすことになる。
「・・・ティルー」
のその様子に思うところがあるのか、ティルは特に心配することなく苦笑を浮かべた。
「何?」
「これすっごー・・・・。」
が呆然と見上げているのはトラン城だ。城と聞いてまずが思い浮かべたのは御伽噺に出てくる西洋のお城だ。ついついそれが見れるかと思うと期待してしいただったが、船の上で遠目から見たとき思わずがっかりした。トラン城はが描いていたようなものではなく、まるで岩の塊のように見えたからである。
だからこそトラン城に期待などしておらず、船が近づいたときも降りるときも特に城へと目を向けることはなかったのだ。
けれど実際陸に下りて間近から見て、は佇むトラン城に驚愕した。岩の塊のようだったそれは間近で見ればきちんと均等に窓がいくつもあるのだ。そして城の四隅には柱みたいなものもある。まるで馬鹿でかい岩を削ってつくった岩の城――まさに城というだけはあるものであった。一種の芸術である。それも相当な。あまりにもすごすぎるには開いた口が塞がらなかった。
ティルもまた、初めてこの城を間近で見たときは相当驚いたので彼女の気持ちが良くわかった。だからそんな彼女の様子に苦笑するだけに留める。
そうして彼女が我に返るまで彼はじっと待ち続ける。彼女が我に返ったのはそれから数分後だった。


まず城内に入るとき、門の脇には数人の鎧を着た軍人さんらしき人がいた。どうやら門番さんらしい。はまずは門番さんから話をつけさせてもらおうと意を決してなるべく温和そうで若そうな門番の一人へと近づいたのだがそれはティルに腕を引かれ止められた。どういうことかとティルを見るに彼は首を振る。
「大丈夫だから。」
「え、え?」
そう言うと彼はの腕を引っ張り門番に何を言うまでもなく門を通り過ぎ、城内へと入っていった。門番に何も言わなくてもいいのか、というか門番も何も言わなくていいのか、ティルどこに自分を引っ張って歩ける力があるんだ。などと色々と混乱し声を上げるがティルは見事に無視した。そのまま空間の大きく空いた恐らくは大広間らしき場所まで入り階段を上っていく。そのときにはの腕も放していたが、も解放軍の本拠地の中、どうしていいのかわからずもはやティルについて行くしかなかった。
ティルはどんどんと階段を上っていった。それは気が付けばが思わず息を切らしてしまいそうなほど上り続け、そこで我に返り近くに設置された窓から外を見れば城の中でも相当高い位置にいることがわかった。
「ちょ、ちょっと待った!」
慌てて今度はがティルの腕を引っ張った。引っ張られたティルはを振り返り、階段を上る足を止める。
「どうしたの?もしかして疲れた?でもあともうちょっとだから――」
「ちがう!ちがうそうじゃなくて!!!」
見当違いも甚だしいティルに声を張り上げる。確かに疲れた。元から授業以外これといった運動をしないというに、最近では授業程度の運動すらまったくせず、体力も落ちまくっており階段を上るだけでも疲れた。だが今、問題はそこではないのだ。
「いいの!?勝手に入っちゃって!?というかこんなところまで来ちゃって!!今まで門番さん以外人に見つからなかったからよかったけど、というかそれも軍として警戒心少なくてどうかと思うけどとにかくも!ここ結構上の方でしょ!?ってことは必然的にお偉いさんたちがいるってことだよね!??そんなとこ歩いてるとこ見つかったりでもしたら・・・・!!」
考えるだけでは青ざめそうになる。ティルを守ると心に誓ったがこんな上層まで無許可で入り込みただですむとは思えなかった。というか門番。なぜ止めなかった。ティルの美貌にやられたのか。
「て、それはないー!」
思わず声に出して自分突っ込みをするである。しかしどうしよう。ああもうどうしよう。もういっそ危なくなったらそこの窓からティルと飛び降りるか。そんなことしたら陸に付いた途端潰れたトマトだ。
半ばパニックに陥るだったが、やはりティルは平然とした様子で。逃げ道を必死に探すの両肩を掴んで意識を自分へと向けさせると彼は爽やかに笑って見せた。
「大丈夫。用があるのは最上階だから。」
「ああ、そっか・・・・て、ん?」
爽やか過ぎる笑顔に思わず流されそうになっただが安堵し頷いて見せたところで違和感に気づく。今、彼はなんといったか。用があるのは?よりにもよって最上階??それを理解するや否や驚愕には叫び声をあげそうになったのだが、それはその前にティルの手で口を塞がれたことにより未遂に終わる。
「ふんむっ!?」
突然の彼の行動に目を白黒させる。しかし彼女はその後ティルの行動にさらに目を白黒させることになった。
なんとティルはの腰を掴んで持ち上げたのである。そしてそのまま肩の上で担ぐ。つまりは俵抱き、であった。それも再び悲鳴をあげそうになったの口を右手で塞ぎ、左手での腰を抱えたところでそのまま階段を上りだしてしまったのである。当然、は叫び声をあげるがそれはすべて未然に塞がれたティルの手の中へと消えていく。
「はいはい。もう遅いからそれは止めようね。」
俵抱きということもあり、近い場所から聞こえた彼の声に思わずは体を硬直させたのだがそう言う彼の口調はどこか楽しげで、今のの様子を楽しんでいるのだとは悟った。
「ほんなっ!ほひっ!」
「何言ってるかわからないよー。」
非難の声もくぐもりティルの言う通りわけのわからないものであった。そしてやはりティルの口調は楽しげで、は頬を引きつらせる。いい人だと!ティルはいい人だと思ったのに!!確かにいい人であろうがまさかこんな――人をおちょくるのを楽しむようなやからだとは!!
そしてティルのような細い体のどこにそんな力があるのか。同年代のを担ぎ上げて階段を上るだなんて、きっとと同年代で体つきががっしりとした者でも無理だろう。
「じゃ、ちょっとペースあげるから。」
まさに生命の不思議だ――そう思ったに更なる生命の不思議を考えざるを得ない出来事が訪れる。
ティルはを担ぎ上げたまま、駆け足で階段を上り始めたのである。こ、これはない!無理だ!ティル、おろして!お願いだからおろして!このままだと君の肩が脱臼する何処ろか足を踏み外して今まで上った階段をティルもろとも転げ落ちてしまう!!
そう必死に叫ぶものの、やはりそれはティルの右手によって阻まれ明確な言葉とならない。の心臓をぶち破るかのその状況は、残念ながら最上階の一室に着くまで止まることはなかった。


大きな音をたてて一つの部屋に入ったとき、はなぜこうなった。いや落ちる。助けて助けてと大分意識が混沌としていて部屋に入ったことすら気づかなかった。
けれど聞いたことのない男性の声が響いたところでようやく意識がそちらへ向く。
「どこに行っていらしてたんですかティル殿!!」
もそちらへと視線を向ければ、そこにはダンディなおじ様がいた。歳は中年程だろうその男性の衣服は皺一つなく、黒い前髪はきっちりと後ろへと流されていて、まさに紳士といった気品が溢れている。どこぞのチビ中年親父達にも見習わせてやりたいほどだと思わずは思った。あの人たちはいい人なのだが、もうちょっと外見にも気を配ってほしい。黄ばんだ歯とか。必要最低限でいいから。
「ごめん。今帰ったよ。」
あ、ちらちと見えた歯はやっぱり白いなと男性を不躾にも観察していただったがティルがそう答えたことによりティルへと視線を向ける。というか、知り合いなのだろうか?それに彼のティルへの態度は一体?殿って??
そう言いたいのだが口を塞がれてる状態では何も言えずはいい加減ティルから降ろしてもらおうと思い行動を起こす前。
「テ、ティル殿・・・・。」
狼狽えた声で一見どんなことにも動じなさそうな男性が声を上げるものだからそちらへと視線をうつす。そこには途惑った表情の男性がちらりとを見てからティルへと視線を向ける。
「あ、あの、その担がれてる方は・・・・?」
「ああ。」
するとティルは笑顔を浮かべて、の紹介をしだした。
「彼女は。この城でメイドとして働いて貰うことになったんだ。担当は炊事洗濯。」
わかった?とでも言うようにティルはが担がれている肩とは反対側に首を傾げる。わかった。わかったはわかったがには彼に是非とも言いたいことがたくさんあった。そしてどうやらそれはだけではなかったようだ。
「・・・・とりあえず、降ろして差し上げれば・・・?」
恐る恐ると声をあげたのは男性。ティルの肩に担がれ口を塞がれた状態でつい人攫い?だなんてことを思ってしまった彼であった。ティルは彼の言葉に目を瞬かせたのだが、合点がいくと苦笑してゆっくりと赤の絨毯の敷かれた地面へと彼女を降ろした。
さてさてそうなれば、今度は彼女の番である。久しぶりの地面につい出る安堵の息を吐いてから自分よりも高いところにあるティルの顔を睨みつける。
「ひとーつ!」
そう声を上げはティルを指差す。
「勝手に人を担ぎ上げない!」
「でも、、疲れてたでしょ?」
「ふたーつ!」と言いそうになったところ思わぬことを言われたは目を瞬かせた。確かに、碌に運動しない自分はあの長い階段でかなり疲労していた。それが理由だったとは思いもしなかった。そう言われてしまえば何も文句も言えず、むしろここまで担いで来てくれたティルにお礼を言わなくてはならない。
――だがここで止まってしまわないほど、には彼に言いたいことがたくさんあったのだ。
「それに関してはありがとう!助かった!」
しかし礼はきちんと言うものである。てなわけできちんとそう言ってからは続ける。
「ふたーつ!許可なしに人の腰掴まない!」
「・・・・・細かったよ?」
「どらああああああいうなああああああ!!!!!!」
巻き舌になりつつは聞かん!と言わんばかりに頭を抱える。お世辞など要らぬのだ。自分の体系は自分がよくわかっていた。しかもなんども言うが自分はここずっと録な運動もせず食べてばかりいる。それでどうして太らないわけがないと!同姓でも触れるのを厭われるというのに、よりにもよって異性に。しかも同年代、加えて美形。一回のみならず二回も。羞恥で穴があれば入ってしまいたいほどだ。
「みーーっつ!これまた勝手に人の口を押さえない!!」
大分羞恥が収まったところで乱れた息を整えてからティルを見上げる。しかしこれもティルは当然といったように答えた。
「でも抑えてなかったら騒いでたでしょ?」
それもまた正論ではなあるのだがはきちんと聞いていたのだ。彼がそんなをどこかで楽しんでいた様子であったのを。じと目で彼を見つめるに彼も思うところがあったのかから目を逸らしてわざとらしくこの場に一人の男性に声をかける。実はこの時彼はの思うような図星をつかれて気まずいといったことなんかではなく、のひとつひとつの思っても見ない行動に耐え切れず笑ってしまいそうになるのを視線を逸らすことで我慢したのであった。
「というわけで、彼女をよろしくね。」
そんな彼を正面から見てしまい、そして彼の人をからかって遊ぶといった実は人畜無害そうな顔のとんでもない本質をそれなりに知っている男性は呆れた表情を彼へと向けるのだがにこりと微笑まれてしまえば頷くしかない。
「わかりました。」
「よーっつ!」
そこでここで話を逸らされては堪らないといわんばかりにが声をあげる。彼女を振り返るティルと男性。勿論ティルの表情は平素のそれに戻っていた。それなりに笑いが収まったようだ。
「よっつ!そもそもなんでこんなとこまで来ちゃったの!?ここ結構上の方でしょ!?てか勝手に入っちゃってよかったの!?というか今更だけど門番止めろよ!!そんでもってそこのお方は誰!?そしてティルとどーいった関係なの!?」
もはや一つではなく誰が口を挟む隙もなく一気に彼女は疑問を口にしていた。言い切った後、の息は一つや二つ乱れていたりする。やった。やってやったぜ。と妙な達成感を抱きながらというかここからが本番だと思い出し気を引き締めてティルと男性を見る。支離滅裂な文章であったことはもはや気にしない。
するとの真剣な表情とは反対にティルはきょとんとしている様子だ。男性もまたしかり。
やがて男性が一つ咳払いをしてからちらりとティルへと視線を向ける。ティルはそれに苦笑を浮かべた。
「申し送れました。私はここ、解放軍の軍師マッシュ=シルバーバーグと申します。ティル殿とは主従関係を築かせて頂いております。」
溜息を吐かれた言葉は思っても見ない内容では目を見開いて男性を見る。ぐんし。漢字に変換すると軍師。その漢字通り軍内で策を立てる人。結構立場上。というか師というからにはトップ2ではなかろうか。まさかそんなどえらい人物だとは。というか軍師なんていうものはの中では白髪でお髭が立派なおじいさんか固定されていた。よくよくそのイメージを思い出してみればドワーフの村の村長に似ていおりドワーフの村で感化され感があるのだが今はまあそんなことはどうでもよく。
そんな軍師殿と主従関係なティル。そしてなぜかティルへと敬語な軍師もといマッシュ殿。それでは、トップ2だと思われる彼に敬れちゃったりしている彼は――?
「あのー・・・もしかしてー・・・。」
「うん?」
穴があいてしまうのではという程はティルを見つめる。やや間抜け面な彼女に彼はにっこりと笑みを浮かべてた。そんな彼ら、というか少女を見るマッシュの目は同情の念が抱かれている。
はもしかしなくても、ティルはお偉いさんでは?と口を開こうとしてやめた。ここまで来れば彼が偉いのは一目瞭然だ。門番だって何も言わなかったのではない。何もいえなかったのだ。彼がそれほど上の立場だから。
「―ティルって、何?」
そうして彼女は、彼女が一番知りたいと思ったことを尋ねた。
「俺はこの軍で軍主なんてものをしてるよ。」
それにティルは笑みを携えたまま顔色も変えず平然と答えたのである。
なんとなく、予期はしていたものの。
は叫けばざるを得なかった。
「皆起こしちゃうから。それは我慢してね。」
しかしその叫び声も、再びティル手に塞がれたことによりくぐもってしまう。
笑顔でそう言うティルは隠しようもないほど、というか隠す気もないのか楽しそうであった。そう、悪戯が成功したような。
こんなところで歳相応さを出さなくったっていいのに。というかこんな同じ年のような子が解放軍のリーダーをやってるなんて。
そう思うとどうしても驚いてしまい、はしばらく開いた口が塞がらなかった。


「あー・・・ちなみにティルの用事は?」
それからしばらくして。ようやく思考回路も落ち着き呆然状態から戻ってきたはふと食堂でティルが言っていたことを思い出した。
なので聞いてみたのだが。
「ん?」
ティルは一瞬何を問われたのかわからなかったようだが、すぐに思い当たったのか。「あーあれ。」と声を上げる。
の紹介。」
そうしてを見たティルは笑ってそう答えた。
食えないやつだ。まさか同年代の子でそんな感想を抱くことがあろうとは。
自然との頬はひきつった。


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