Skyting stjerner1-4
その次の日、里の用事があると滞在2日にしていつもより早くサスケが村を出た後、はある行動を起こした。自分の数少ない元の世界の荷物を、全てどでかい袋に詰め込み、そして自前で作成した一番のお気に入りの服を着込む。
黒のノースリーブとゆったりめのカーキ色のズボン、その上に首まで覆う襟と長袖、そして裾が中華服のように下半身から踝まで二枚の布に分かれたグレー上着を羽織り内側につけた紐で結んだあと、胸元と襟に設置した前ボタンできっちりと留めてしまう。それは森の中に潜むにとっては未知数の虫に刺されないようにで、あとは寒がりなとしては防寒の役目も持っていた。そうして両手に指先だけ切られた二の腕までの黒い手袋をつけ、いつもつけている自作の腕輪をつける。腰に茶色の薄い皮で出来たポーチを携え一振りのナイフもベルトとの間に差し込んだところで完成。
部屋に置いてある姿見の前に立つ。は満足そうに頷いた。何度かこの村に訪れた人達を参考に作成したこの服だが、どこからどう見てもこの世界の住人スタイルである。少なくても元の世界の制服でいるよりはおかしくはない。機能性も抜群だとは思う。虫対策OK。防寒OK。たまに見かける思わず目を覆いたくなるようなお姉さんの衣服みたいに無駄に肌の露出もなくOK。別に自分のスタイルに自信がないわけではない。この世界の女性がスタイルよすぎるのである。
まぁとにかくも。暑い時だってボタンと紐を外し上の部分だけ脱いでしまえばいいだけだし。あとはもしものとき、この格好のまま野草の上で寝たって大丈夫そうだし。うん、さすが私!
とまぁすっかり準備万端。あとにすることといえば。
はいそいそと姿見の前からベットの脇にあるサイドテーブルへと移動する。その引き出しから一枚のメモ帳とポーチから元の世界から持ってきたボールペンを取り出した。
そしてさらさらと書き綴り、誤字脱字がないのを確認。
『人が恋しくなりました。なのでこの村を離れます。皆さん、今まで色々とありがとう。また会う日までどうかお元気で。』
完璧である。
最後に、村で拾った手ごろな大きさの石をそのメモの重りとしておき、彼女はいつのまにか半年も暮らし続けていたドワーフの村を旅出たのだった。
そしてしばらくした後、腹を空かせたヒューイが昼食を即しにの部屋にやってきたとき、それは発見され。
ドワーフの村中に野太い声が響き渡ったという。
(今頃メモ、発見されてるかなぁ。)
同時刻、はいつもよく見かけるドワーフではなく、人が行き交う道を歩いていた。
最初は特定人物以外の久しぶりの人間達に興奮していただったが、今では違うことに意識をとられていた。
それは住宅や店、屋台といった町の様子、人々の着る衣服だ。
やはり異世界だと思わされる景色である。少し廃れてはいるものの中世ヨーロッパのようなロマン溢れる石造りの家や木でつくられた屋台があるとおもえば中国圏のように赤い鳥居や白の円柱、紫の暖簾などといった色鮮やかな建物があったりする。和洋折衷、基中洋折衷か。もしくはカンボジア辺りの建築物に似ていると思えばいいか。いやそれにしても行き交う人々はアジア系ではなく白人系が多い。うーむ、異世界とは難しい。は一人考え耽る。
そこではっとは気がついた。かなり重大なことを。それは。
(そういえば朝ごはんと昼ごはん食べてない・・・・。)
致命的問題である。彼女からすれば。はくそうっと道端で頭を抱えだした。肝心の携帯食料を持ってくるのを忘れしまっていたのだ。
ここ、カクの街には彼女が作った道具で旅支度が終わったあと、今思い出せば朝ごはんも昼ごはんも食べず一瞬で来たのである。
ちなみにその道具は名づけてどこでも水鏡―――どこか似たような名称だというのは彼女がどこからそんな道具を発想したかがわかる――それは盆に水を張り、行きたい場所の名を頭の中で唱え顔を突っ込めばどこにでもいける一回限りの優れものであった。
もちろんどこにでもいる、平凡な女子高生だったにそんな便利な道具を作れる才能があるわけではない。それは一重に今は彼女の手袋によって見えないが、右手の甲にある真の紋章によるものだった。この世界へと来た元凶、不老の元凶、というかすべての不幸の元凶とさえが思っている彼女の真の紋章の名を工の紋章という。
それは細工が巧妙に成るといった力を得るものなのだが、この紋章、がこんなのを作りたい、と思い描いたものを使う本人も原理がわからないまま勝手に作ってくれるのである。
それにある日気づいたとき、は大いに喜んだ。ちなみに初めて作ったのはの好きな店のケーキである。その後色々作ってみたりしたのだが、さすがになんでも作れるというわけではなかったようだ。
原点というか、当然のごとく材料がなければ作れないし、またそれなりの道具を作ったときはは酷く疲労して寝込んでしまうことがあるのである。
そんなこんなで幾たびが実験を繰り返した末出来た1つがこのどこでも水鏡である。ちなみになんでこれを作ったかというと、元の世界に戻ろうとしてだ。だがしかしそれは出来ず、折角成功したと思ったのに失敗という激しい落ち込みからそれから数日間は部屋に篭っていたりした。
まぁしかしいつかは役に立つだろうとそれから数日後、2つ作ったのだが。
(1つ使っちゃったから、あと1つしかないんだよね・・・・。)
そう、それも残り1つ。そして致命的問題その2。
はまったく、戦えなかった。
元の世界ではそれなりの運動神経でも、ここでは戦闘能力皆無。だというのにこちらの世界に来て半年も経つが、その間彼女はまったく戦闘能力をどうにかしようとは考えなかった。よって街の外になど出て、モンスターなどに会った時にはその場で自分の命を覚悟せねばならない。 むしろこちらのほうが一般的にどうみたって致命的問題である。
すると街に出れないは必然的にこのカクの街で暮らしていくため、働かなければ成らない。のだがここで致命的問題その3。
アレが来る。
そう、アレは絶対に、を追いかけてくる。自意識過剰だなんてモンじゃない。アレはそうなのだここ約半年アレと共にいて十分は判らされていた。
実は今回こうして人が恋しいとドワーフの村を出たのには、アレから離れるためでもある。
だからこうしてドワーフの村からほんの少し離れたこの場所などで働けばきっとすぐにでも見つかり連れ戻されてしまうだろう。それは嫌だった。どうしても嫌すぎで嫌だった。なんのためにアレがいない間に2つしかない水鏡を使ってここまできたのか判らない。
よって、水鏡を使って携帯食料を取りにドワーフの村にもう一度帰るのは論外。
灯台元暮らし――意外と近場の街ならば気づかないかもしれないと思った自分が浅はかであった。
とにかくもここで適当に募集されてるウエトレスなんかで働くことは出来ない。ここはもっとアレに気づかれにくい定職につくのが一番だきっと。
けれど。けれどけれどけれど。
(・・・・お腹へったぁ〜・・・・!)
やはり致命的問題その1、腹が減っては戦は出来ないのである。
当然だがお金など居候の身であったは持っていない。ドワーフの村ということもあり、長老やヒューイなどから装備品はいくつか貰ったこともあるが、それも必要がないと置いてきてしまっていた。
なんてことだ。、人生2度目のピンチ!の心境であった。
***
いくつかのお店で、定職で雇ってもらえないかといったところ、どこもかしこも今は人員が足りていると断られ続けて早3件。既に3時間が経過していた。
幾らなんでもその日中までにアレが追ってくることはないだろうが・・・だがこのままではのほうが空腹で音を上げてしまいそうだ。なるべく街で聞き込みをされたりして、足がつく仕事はしたくないというのに・・・。ああ、それにしてもお腹がへった。
今はまだしっかりとした足取りのだが、それは精一杯必死に歩いているだけであった。いつのまにか気分同様視線も石畳へとむけられている。
体力気力共に落ちているが通りの角を曲がったときだ。
(・・・・いい匂い。)
何かにぶつかったは鼻腔を擽った食べ物とは違った、だからといって香水のようにキツイ匂いとは違うその香りに思わずうっとりとした。何の匂いだろうと、そのまま匂い嗅ぎ続ける。
「ごめん、大丈夫?」
そして頭上から掛かってきた声には匂いを嗅ぐのをぴたりと止めた。そうして顔を上げて写ったそれに思わず感嘆の息を漏らしていた。
(・・・・いいおとこ。)
若草色のバンダナをし黒の前髪がさらりと僅かな風に揺れ、長く緩やかな曲線を描く眉、切れ長の目は輝く金色で、鼻筋のすっと通った整った鼻に、薄い唇。年頃は少年から青年に差し掛かっている位だろう。そんな彼は誰が見ても見た者を魅了する端正な顔立ちをしていた。
はてさていい女にいい匂いとはよく言うが、いい男もいい匂だったらしいと新発見したであった。
彼はその整った眉を寄せ呆然と反応もせず自分を見上げてくるを心配そうに見た。
「あの、だいじょうぶ?」
だいじょうぶ、と聞かれたら。
「おなかへった・・・・・。」
だいじょうぶではなかった。
は消え入りそうな声で、でもそれだけはきちんと言葉に発していた。
は運ばれてきた料理を次々と口に運んでいき、全て綺麗に平らげたところへコップを手に取った。
そうしてコップに入っていた水をすべて飲み終わった後、テーブルの上にコップ置き、今度は深深と頭を下げる。
「どうもありがとうございました。」
が頭を下げた先――彼女の向かいの席には一人の人物がいた。
彼はそんなに柔らかな笑みを浮かべ首を振る。
「いえいえ。困ったときはお互いさま、でしょ?」
小首を傾げてそう尋ねてきて彼になんでこうも一つ一つの動作が様になるんだというか首を傾げる動作がその辺りの女の子よりかわいいってどいうことだ!とつい赤くなりそうな顔を苦笑を浮かべることで誤魔化すことにした。というか誤魔化されてください。
「ええと、とにかく、本当にありがとうございました。助かりました。」
「だからいいって。それにあそこで会ったのも何かの縁ってね。」
うおーいこれは口説き文句ですかー!いいや絶対違うのだろう。けどなんというか実に希世な美形さんにそんなことを言われるととしては反応に困りそう叫びたくなってしまうのである。
「そういえば君、なんであんなところに倒れそうになってたの?」
「ああ、それはですね!実は―・・・・」
これ幸い!と話に乗ってはそれまで異常なまでの心拍数が嫌な意味で大きくなり、一気に顔を青ざめさせた。それもこれもそれまで食べるのと見目麗しいこの人への対応ですっかり忘れていた過去を思い出したからである。幾ら空腹でいつもより脳が働いていなかったとしても、だからといって私をなんてことを・・・!美人さんにぶつかった挙句謝りもしないで匂いを嗅ぎまくり、そのあと体調を心配してくれた美人さんにおなかへっただなんて間抜けなことをいい、そして美人さんが何かご馳走してあげようか?などと言ってくれたときは遠慮もへったくれもなしに即座に首を縦に振ってみせるなどと・・・・!!
「すみませっしたぁ!!!」
そこまで思い出すとはいつのまにか支給によって下げられていた皿も何もないテーブルに両手をつき、額を強くテーブルへとゴリ押した。し、しまった勢いよく頭下げすぎた。額がいたい。と額を押さえて転げ回ってしまい衝動に駆られたがそこはなけなしの虚勢と根性と誠意で留めた。
唐突に頭を下げられた少年といえば、音を立ててテーブルへと頭を下げたに驚き目を瞬かせていた。ついでに他のテーブルもなんだなんだと一瞬賑やかな食堂内が静まったのだが、少年の驚きが薄れていった頃、同様に食堂内もまたいつもの賑やかな様子に戻っていった。
「ええと。顔を上げてくれないかな?」
少年が頬をかきながらそう即したのではおずおずと顔を上げゆっくりと再度椅子に座り込みながら、彼を見た。
「全然気にしなくてもいいよ。俺も気にしてないし。ね?」
とは言われたものの、には大変恐縮な思いで一杯である。その綺麗で見た者をも穏やかな気持ちにさせてしまう笑みの裏に一体どんな憤りや呆れがあるのかとついつい疑ってみてしまう。するとどうにも彼女がそうは言っても納得しないと察したのか、彼は何か企みを思い浮かべたような、それこそそれまでの笑みとは違う、年相応な笑みを浮かべて見せた。
「どうしてもっていうなら、じゃあどうしてああなっていたのか、理由を聞いてもいい?」
なんだか知らないがいい子らしい。その笑みを見て、はついあまりの彼の麗しさと大人びた動作で忘れていたが、彼も自分と同年代なのだと思い出し、恐縮しきった態度をいつもの彼女の態度へと変えていった。
「それがね、つい最近私自分の村から出てきたんだけど、その・・・・携帯食料持ってくるの忘れちゃって・・・・。」
いつのまにかの彼に対する敬語は消え、は苦笑を浮かべる。彼もまたの自分に対する敬語が消えたことを気にせず、内容のほうに気にしていた。
「携帯食料って・・・・お金とかは?」
「あーえーと、」
実に痛いところを疲れてしまった。は頬をかいて視線を少年から逸らす。
「その、働いて、どうにかしようかなーって・・・・思ってたんだよ。」
「・・・・つまりは働く場所がなかったと?」
ものの見事に図星な彼女はあは。と彼に笑って見せた。だがしかしその口元は引きつっていて、粗末な作り笑いである。そんな彼女が面白く、つい小さく笑ってから彼は更に疑問を口にした。
「でも、人手が足りてるわけじゃないと思うけど・・・。たとえばほら、ここの支給係とか。」
彼は数メートル離れた位置の柱に張られた求人の張り紙を指差す。そこには遠目からでもわかるよう大きく太い字で支給係募集!女性も男性も大歓迎!と書かれた。
それを横目で見たは大きくため息を吐く。
「それなんだよねぇー・・・」
「?」
疑問符を浮かべる彼に、彼がその疑問を口にする前には続けた。
「私、常勤を探してて・・・・日雇いなんかじゃなくて。」
「なるほど・・・・それは難しいね・・・・。」
事情を理解すると彼もまた同様難しい表情を作る。彼もこの町に定職の空きがないことは知っているらしい。
まぁ、今日初めて訪れた彼女より長くここにいるだろう彼が言うのだからきっとこの街での常勤は本当に難しいのだろう。はいよいよ気分が塞ぎこんでいき、そのままもう一度溜息を吐いた。
「やっぱそうだよねぇー・・・。」
重々しい溜息を吐く彼女は本当に困りに困っているらしい。何の下心もなしに見ず知らずの腹をすかせた少女にご馳走するといった行為をした彼はやはりお人よしであり、彼は彼女に付き合い、顎に手をあて彼女と共に打開策を探し始めた。
「・・・・常勤以外はだめなの?」
「あーうん・・・・別にいいんだけどさー・・・・ちょっと訳ありってほどでもないけど事情があって。出来れば人目がつかない仕事がいいんだよねぇー・・・。」
そうアレが追いかけてくるという事情が。それを思い浮かべるだけで思わずは身震いしてしまった。嫌いなのではないのだが――どうしても、苦手なのである。
ああどうしよう。ほんとどうしよう。うんうんとはない脳みそを必死に働かせる。いっそのこと右手に宿る真の紋章の力使ってどっかで鍛冶屋でも開くか。いやそれも絶対足がついてしまうだろう。それに北にある大国、ハルモニアとかなんとかが真の紋章狩りだなんて物騒なモンをしているとヒューイは言っていた。ならば事情を知るドワーフの村内でよかったもののこの辺りではあまり使わないほうがいいと思われた。そうなるとその力以外でどうにかするしかないのだが――当然ながら普通すぎる元女子高生のになにかずば抜けた取り得なんてものはなく。
再び唸りだしたにふと少年が声をかけた。
「人目、か・・・。たとえばどんな?」
どんなと来ましたか。が人目を避ける理由としては当たり前ながら、アレしかない。そういえばアレも目の前にいる少年同様、美形ではあるんだよな・・・・。
「うんと、ぶっちゃけると私と同じ村の人、かな。アレ・・・基その人に見つからないよう町の人に聞いても跡がつかない仕事がいいだけどなぁ・・・・。」
テーブルに顔を突っ伏してはぶつくさと呟く。「なーんかないかなぁ・・・・。」しかしそう言って何かがあるほど世の中甘くないとも知っている。というか涙が出るほど身をもって知っていた。たとえば故郷に帰りたいなどといったことだ。私なんでこんなところで頑張ってるんだろう。とついつい感傷に陥りほろりと涙を流しそうに成ったとき少年が唐突に口を開いた。
「君って炊事洗濯とか出来る?」
「できるよーだって村で炊事は私の仕事だったし。洗濯は・・・・まぁ自分の分は自分でしてたからやろうと思えば出来る。」
さすがに血の繋がらない中年親父達に自分の衣服下着もまとめて洗って貰うのにも抵抗があった。だってお年頃なのだ。この世界に洗濯機なんてものがあるのかはしらないが、少なくてもの世話になったドワーフの村は手動であった。手もみで洗うだなんて現代っ子なには初めてなことで最初こそ戸惑っていたが、今ではそれも要領を得ている。だから手動であろうと洗濯機であろうとなんとかなると思われた。
「ちなみに雇用条件は?」
はテーブルの上に放り出した二の腕の上に頬を乗せていたのだがその言葉に顔をあげ背筋を伸ばし真剣な表情で少年を見る。
「朝昼晩ご飯つき。」
こればかりは何よりも譲れなかった。花より団子。色気より食い気だ。この世界に来て自炊しだしてからはそれに一段と拍車をかけたように思える。
「に、出来れば部屋もってそんないい条件はないだろうから、せめて暮らしていけるお金さえ貰えれば・・・。」
そうして再び正しくさせた背筋を折り曲げテーブルへと突っ伏す。はそう言いながらもう一度溜息を吐きそうになったのだが。
「ある、かも。」
少年の言葉に思わず溜息を飲み込んだ。再度上半身を起き上がらせ、目を見開いて少年を見た。
「い、いまなんて・・・?」
はやる気持ちを抑えは尋ねる。幻聴?幻聴か?ついこんな厳しい世界に付いていけなくて脳内の指令が壊れたか?そんなことだったら本当にへこむぞ私は。ところが現実は、そんなの最悪な予想ではなかった。
「君の条件にぴったりな、それでいて跡がつかないだろう仕事、あるよ。」
苦笑を浮かべてそう告げる少年の後頭には思わず差し込んでくる光を見た。
「内容は全般的に家事、かな。君の求める条件は全部当てはまると思うよ。ただちょっと特殊な状況だし、給金もなさそうなんだけど・・・・」
「やる!やるやるやる!」
少年が全てを言い切ってしまう前にはそう言い切った。なんて幸運!食事を与えてくれただけでなく、仕事まで!ありがとう!少年よありがとう!
「ええと、でも・・・・」
「やるよ!私やる!!どんなに家事が大変だろーが雇い主がむかつかろーが私やってみせるよ!女は気合よ!根性よ!どんな窮地だって今更「待って待って。ストップ!聞いて。」」
意気込み両拳を握り締め、つい熱く語り始めたに数瞬圧倒されてから少年は慌てて待ってをかけた。話を中断させられたはきょとりとした表情で少年を見る。そんな彼女に少年は眉を下げ、気まずそう話し出した。
「あのね、状況が特殊で・・・・働く場所っていうのが解放軍の本拠地になっちゃうんだけど・・・。」
・・・・渡る世間は鬼ばかりとはよく言ったもんだなぁ。
少年の言葉を聴きながらは他人事のようにぼんやりとそんなことを思った。
そして我に返り慌ててやっぱり今のナシ!と声をあげようとしたのだがそこでふと思いつき開きかけた口を閉ざす。
解放軍といえばここ、カクの街から近いトラン湖の向こうに本拠地を構えた反乱軍で、今帝国軍戦争真っ只中の軍である。そして民も今のところ帝国の悪政に反乱軍側に気持ちがあるとの知り合い、サスケは言っていた。ヒューイなどのドワーフ達は人間に組する様子はないが、どちらかといえば帝国に不平を零していることも多くたぶん、どちらかと問われればきっと反乱軍側だ。種族さえ超え不平を抱かれてる帝国がはたしてこの戦争で勝つことが出来るだろうか。の世界の歴史を思い出してみても今の状況ではどうにも難しいとには思えた。
ひょっとしたらもしかしたらもしかする、と。それによくよく考えてみれば、戦争中の今、どこにいても危険なようがした。負けた兵はよく盗賊となり街や村を襲っていたというし。それならばどちらかに組していた方が安全かもしれなかった。それに最悪――組した側が負けてしまった場合、には水鏡がまだ一つ、残っていた。それを使ってさっさと安全地帯に逃げてしまえばいいのだ。
そう考えると、少年の話もいい話のようにには思えてきた。世は民が動かすもの。その民の多くが、今解放軍のを支持しているのならば解放軍に組した方が安全に思える。それにが戦に出るわけではない。要は世話係みたいなものだ。というか戦などに出たらなど質の悪い盾にしかならない。
更に連ねれば、こうして見ず知らずの少女に飯を与え、一緒に悩んでくれた今時珍しいお人よしな彼が勧めてきたのだ。悪い話であるわけが、ない。
は少年の金色の目をまっすぐと見つめた。
その目はの世界で見たことのない珍しい色だからということを差し引いても――綺麗で。
「やりたい。私、その仕事を、やる。」
そんな澄んだ瞳をもつ彼の言うことはなぜか、信頼できる気がした。
はっきりと、そう告げれば少年はその端正な笑みを穏やかなものにした。笑みを作る前小さく吐かれた息は賑やかな食堂内では耳に届かったのだが、彼をじっと見つめていた彼女には確かに彼が安堵の溜息を吐いたように見えて。それでは少年が何故か、緊張していたのだと気がついた。
「そう。じゃあ俺が案内するよ。」
「・・・え、ええ!?いいの!?」
思わぬ言葉には目を見開く。民から支持をされているといっても軍だ。少年を信じていないわけではないのだが、危険もまったく皆無だというわけではないだろう。
確かに一人で行くよりは二人の方が心強い。けれど、そんな場所にここまで親切にしてくれた少年を連れて行くの途惑われた。しかしそんなの心配を他所に、彼は呆れた視線をへと向けてきた。
「というか、本拠地まで行く船代、あるの?」
まさにその通りである。
思わず視線を少年からあらぬ方向へさ迷わすである。お金がないから、先ほどまで空腹でいて、お金がないから、働き先を探していたのだ。そんなにお金など当然のごとくびた一文もなかった。
「乗りかかった船。ね?それに俺も解放軍に用事があるからさ。」
「で、でも・・・・。」
それは大変大変甘い言葉ではあるのだが。
だからといってそこまで甘えてしまってはたしていいのか。これで彼がより年上で強そうな大人だったらきっとすんなりお願いしていただろうが、彼はと同年代のようで、それに下手すればより細そうな彼がお世辞にも強そうには見えないのだ。むしろ彼が希世な美貌をもつ分、解放軍が彼によからぬことをしようとでもしたら自分が守らなくてはと思ってしまう。何しろ軍とは女人禁制といったイメージが強く、そういった場所にはその、同姓を好む人もいるというし。
そんな下世話なことをが考えているとは思いもしなかっただろうが、それでもちらちらと自分を見ては不安げに視線をさ迷わせるが解放軍を不安の対象として思っていることを少年は察知したのだろう。少年は安心させるようにに笑って見せた。
「解放軍は悪い人たちじゃないよ。」
「でも・・・。」
そうは言われても蓋を開けてみなければ世の中はわからない。というか君が危険なんだ君が。そういった類の人間に迫られやしないかと。
どうにも未だそわそわとするをまだ不安に思っていると少年は解釈したらしい。穏やかな笑顔のまま少年は告げる。
「大丈夫、何があっても君は俺が守るから。」
天使光臨。その綺麗な微笑みにその言葉はとんでもない殺傷力があるが、だからこそそんな彼が心配になるである。むしろ守るのは自分だ。
しかしにこにこと笑みを浮かべる少年には段々と彼は退きそうもないことを知り――
「・・・お願いします。」
と本日三度目、深深と頭をさげたのである。
心では君は絶対守るからね!と強く誓って。
「そういえばまだ名乗ってなかったね。俺はティル。ティル・マクドール。君は?」
食堂から出たところで少年、ティルはに尋ねた。はいつのまにか日が夕焼け色に染まっていた空を見上げてから声をかけてきた少年を見る。夕焼けに古きよき建物(多分)と、とんでも美少年。絵になるな。としみじみ思ってからも遅れながら名を名乗る。
「私は・・・ああ違った、なんでもない気にしないで。。私は・だよ。」
ティルはの変わった言い回しが気になったが、彼女が気にしないでというので尋ねることはしなかった。
「そっか。よろしく、。」
「うん、よろしくティル。」
何がよろしくかは良くわからなかったがきっとこれから船に乗り解放軍に行くことだろうと見当をつけ、も差し出されたティルの手に自信も手を差し出して握手をした。
こうして少年と少女はその日、出会ったのである。
BACK / TOP / NEXT