Skyting stjerner1-3
別に世界を救う力だとか世界を破滅する力だとか欲していたわけではない。そりゃあ平凡な女子中学生が突然大きな力を手にし世界征服を企む悪の組織相手に世界を守るだとかそういう話に小さい頃憧れていなかったわけではないが、それでも大人になりかけた今では既に望んでいるわけではないのだ。
だがだからといって。
理不尽までにそれまでの平凡な日々を全て奪われ、しかもその代償が手先が器用になる基ぶっちゃけると工作ぐらいにしか役にたたない力だなんて。
やってらんねぇ。やってらんねぇにもほどがあった。
そうしてがぐれにぐれ日長布団の中で過ごしていると、あっという間にがそんないらない力を得て1週間の月日が流れていた。
「、飯持ってきたぞ。」
食っちゃ寝食っちゃ寝とぐうたら生活を送るに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのこの地に現れた当初からの世話をしてくれたドワーフのヒューイである。
他のドワーフも時々の部屋をのぞいたりとのことを気にかけているのだが、特にヒューイは長老からのバックアップを全面的に頼まれているらしい。
4日ほどは誰が来ても頭から布団の中にもぐりひたすら無反応だっただがヒューイの時だけは違った。その理由は食べ物は冷める前にがの基本だからである。はヒューイが何かしら匂いを漂わせくるときはすぐさま嗅ぎつけ布団から出ていた。もはや犬の餌付けに近い。どんな状況下でも食い意地だけは変わらなかった。
布団の上に大人しく正座し、はサイドテーブルに食事の載ったプレートが置かれるのを待つ。やはりその様は待てをうける犬のようだ。
そしてプレートが置かれると、はすぐさまフォークをとりにかかった。
「上手いか?」
半分ほど食べたところで、ヒューイはいつもにそう尋ねていた。そしてはいつもその言葉に食べる手を止める。
実は言うと、この料理、美味しくはなかったのだ。むしろ結構不味い。切り方は大雑把で大きな具は大抵芯まで火が通っていないし、味付けがやたらと濃い。塩は多いわこしょうは多いわ唐辛子は多いわ。初めて食べたときは思わず声にならない悲鳴を上げ加減をしれ加減を!と怒鳴ってやりたいほどであった。
しかし無償で食べ物にありつけることはありがたいことこの上ないので何もいわずは頂いている。そのうち味覚が狂ったり生活習慣病にかかってしまいそうだと真剣に彼女は思う。
そしてその日ももちろん本音などいわず、実は吐き出してしまいたいスープを飲み込んでから頷いて見せた。ああ、今日のスープは唐辛子多い。
そうするとヒューイは満足そうに大量の髭の中から黄ばみがかった歯並びの悪い歯を除かせ、いつもは釣り上がっている極太の眉毛を下げいかつい顔を笑顔に変えた。ああこれもエルフのお兄さんだったら。と失礼にもついつい思ってしまうである。
この森にはドワーフの集落の他にエルフの集落もあるということを知ると昔から某映画の影響からエルフに憧れを抱くとしてはその思いは一押しなのだ。だからこそつい遠い目をしてしまうであった。
そんなことをが思っているとは露知らず、ヒューイが暖かい目でが食事を終えるのを見守る。そうして最後の一品を口にした時、口の中に広がる例のごとく極限に近い甘みにはつい言葉を漏らしていた。
「・・・・ケーキ、食べたいなぁ。」
が食べた最後の一品は黄色の芋のようなもの――つまりは大学芋だと思われた。生憎自分は黄色い熊かといったようなたっぷりとした蜂蜜の多さで芋の味がせずそこは予測形である。
そしてそこからは、自身の世界にてお気に入りのお店のケーキを思い出し、思わずそう呟いたのだ。
ああ、あの時何事もなく家に帰っていればきっとあのケーキを食べられていたのに。今も向こうの世界にいたら食べていたかもしれない。それにしてもあのケーキをもう二度と味わえないだなんて。そう考えるとどうしようもなく落ち込むだが、そこへ思わぬところから思わぬ言葉が発せられた。
「ケーキ?ああそういえば、お前さんとこのあの白いケーキ、上手かったなぁ。」
その後の反応はすさまじかった。もうなんというか素早くそれこそ目にも見えない速さで言葉を発したヒューイを振り替えり、くわっと目を見開いたその姿すさまじいにもほどがあった。
「なんでヒューイさんがそれを知ってるんですか!?」
はぷるぷるとフォークを握ったまま両拳を震わせる。そんな彼女の生死にすら関わりそうな程の必死な様子に気づかないのか、ヒューイは軽く笑ってみせた。
「なんだ知らんかったのか?あれはお前さんと一緒に来た荷物の一つだろ。」
衝撃的事実。初耳であった。はゆっくりとフォークを握っていないほうの手をヒューイへと伸ばす。それは無意識の行為である。
「そ、それでそのケーキは?どこに?」
恐る恐ると尋ねたにやはり気づかぬヒューイはにかっと不揃いな歯を見せ笑って見せた。
「おら達で食った。」
思わず口元を引きつらせた。
「いやぁほんと上手かったなーありゃー。あっはっは。」
「うっふっふ。」
快活に笑うヒューイは常と違う低い声でが笑うことでようやく様子がおかしいことに気がついた。
「どうしたんだ、お前さん・・・?」
目を瞬かせそう尋ねるものの、遅すぎるそれはもはや手遅れである。俯いていたが顔をあげるとそこには満面の笑みのがいた。
「うふ。うっふふふ。」
しかもその目は据わってる。の両拳はの手のひらの肉に食い込むほど強く握り締められており、肩と同様微弱に震えていた。ヒューイ、ようやく自分がとんでもないことをしてしまったと気づくのであった。
「ええ、と。お前さん?」
しどろもどろにヒューイはに声をかける。威圧感でまくりのに思わず一歩足を退かせた。
「わた、わたしの、ケーキを食べた、だって・・・?」
「あ、いや、そのぉー・・・」
「断りもなく、しかも、わたしの、わたしのお気に入りの、しかも生涯最後になるかもしれない、わたしのケーキを・・・・?」
「え、だから、そのー・・・・あ!あのな!あのままだとあのケーキ駄目になりそうだったしな・・・!」
ようやくなぜがそこまで豹変したのか、原因が自身があのケーキを食べてしまったからだと気がついたヒューイは慌ててそう言ったがは聞いちゃいなかった。
それほどまでに彼女にとってあのケーキの存在は大きかったのだ。それに彼女の言う通り、この地で生涯を終える気などさらさらないが、もしかしたらそれが最後のチャンスだったかもしれないのだ。
そうなると、彼女の憤りはどうにも抑えようがなかった。込み上げてくる怒りのままに彼女は並々ならぬ怒りをヒューイにぶつける。
「わたしの!ケーキをっ!!」
「ひぃっ!」
燃える炎さえ見えてしまえそうなほど強い目で睨み付けられたヒューイは情けない声をあげる。その視線は怒鳴った拍子に自身へとほんの少し近づけられた彼女の右拳に注がれていた。
その手に握られているフォークが、本来は薄暗さを感じる照明を浴びて不自然なほど煌き、彼にはどうしても凶器にしか見れなかったのである。
やられる。絶対にやられる!そう思ったヒューイのその後の行動は早かった。
「すみませんでした!!!」
その場で誠心誠意を込めて精一杯力の限り少女へと土下座したのである。
そうしてその後。何度も何度も謝り倒されようやく怒りが収まっただったが。
なぜか彼女はいつもの彼女の部屋の布団の中ではなく、洞窟に設けられた調理場に立っていた。
は一つ溜息を吐いてから調理台に広げたそれを見る。
あの後、はこの世界へと共に飛ばされていたらしい荷物をヒューイに持ってきてもらった。ケーキ以外。
この世界に飛ばされていたのはがこの地に来る寸前持っていたものだった。青いビニール袋と、通学カバン。そうして何故か荷物と一緒に数人のドワーフ達もやって来て、ヒューイやそのドワーフ達と共に一つ一つ自分の荷物を出してはその機能を問われるまま彼らに説明しながらは元の世界のことを懐かしんでいたのだが、そこでヒューイが青いビニール袋から出した雑誌へと目をつけたのだ。
がここに来る前買った、料理本である。がそれはレシピ集だと教えると、ヒューイは無駄に丸くつぶらな瞳を輝かせてを見てきた。「これ、作れないか。」と。そう言って彼が指し示したのは表紙に載せられたケーキ。がその本を衝動買いしてしまった理由である、お気に入りのお店のケーキと似た形のケーキである。
そしてなぜか、それに反応した者達は多かった。気がつけばはその場に集まったドワーフ達ほぼ全員から全員が全員やはり無駄に丸くつぶらな瞳を輝かされて見つめられていたのである。
結果、あれよあれよと流されは現在調理場に立っているわけである。今思い出してみても、あのドワーフ達の情熱は異常であった。
(というか、もしかしなくてもあのドワーフの中の誰かも、私のケーキ食べたんだろうな。)
が買ったケーキは一個ではなかった。あの情熱はきっと食べたからに違いないとはあの店のケーキ信者として断定する。もしくはそれを食べたドワーフに熱く語られたか。
そう考えると人のケーキ食べといてなんたる図々しさ、誰が作ってやるかと思うのだが。
(でも私もそれなりに図々しいんだよねぇ・・・・。)
何しろ今のは働きもせず無償で寝食を与えてもらっている状態である。それなりに自身の図々しさに自覚のあるであった。
そこまで考えて、はもう一度溜息を吐いてからブラウスの裾を捲り上げる。
(しょうがない。ここはいっちょ、お世話になってる身として頑張りますか。)
そうして彼女はケーキ作りを開始したのであった。
そうして四苦八苦の末出来上がったものはドワーフ達の間で大好評であった。褒めに褒められ彼女は気をよくし、その後も料理本に載っているレシピをドワーフ達にあれもこれもと頼まれるままに作ってやったりしていたのだが、そうしているとめきめきと料理の腕が上達していき、そうなれば基本、美味しいもの大好きな彼女としてはいつの間にか自分の料理は自分で作るようになった。
ついでに、ドワーフ達の分まで作ると彼らもまた大げさすぎるほど大喜びし―――結果いつの間にか炊事は彼女の仕事となっていた。
***
その日の夕飯の為に、村内にある畑へと向かっていたは前方に見知った後姿を見つけ数回瞬きをする。
村内を行き交うのは背の小っちゃな親父ども基ドワーフ。それはいつもと変わらない光景なのだが、の見つけたその後姿はドワーフ程の背であっても、どうにも違うものだ。
ドワーフであれば盛り上り角ばった肩は彼の場合薄く少々丸みを帯びていて、筋肉隆々とした手足は未だ成長途中なもののすらりと細く長い。黒い短髪がそよぐ風で揺れ、その人物が誰かわかるとは黒の衣服を纏ったその人物へと飛びついた。
「サッちゃん!」
抱きつかれた少年、サスケは突然の衝撃に耐え切れず思わず一歩前へと踏み出した。そして後ろを振り向き抱きついてきた人物を睨みあげる。
「サッちゃん言うな!」
「うんもー久しぶりサッちゃんー!元気だったー!?」
無視だった。なにしろはサスケとの再開の嬉しさにそれどころではないのである。
サスケとの出会いは2ヶ月前だった。勿論ドワーフの村でだ。その日サスケはサスケの村の用事でドワーフの村へと保護者同伴で訪れていた。そこで村に来た人間、しかも忍者の少年だということを風の噂で聞きつけたが興味丸出しでサスケの居た仮宿へと会いにいったのが出会いである。
忍者だなんて、時代劇や歴史でしかしらないはそれはもううざったい位サスケに付きまとった。付きまといまくった。それはドワーフの村に滅多に人が来ないということも一押ししているがとにかくその付きまとい具合は半端なかったといえる。そうした甲斐があったのが、今ではまるで兄弟のように仲良しだ――と思っているのは果たしてだけであろうか。しかしその後もちょくちょくと村へと顔を出している辺りサスケものことを嫌っているわけではないらしい。
存分にサスケの頭を撫で回し、そうして彼女が満足した頃にはぼさぼさになった髪のサスケが疲れた表情で立っていた。
「いやぁー本当ひさしぶり!元気にしてた!?」
彼とは対象に疲れた様子など微塵も見せず満面の笑みでそう尋ねるにサスケは一つ溜息を吐く。
「まぁな。あんたも・・・聞くまでもないか。」
「あっらよくわかってるー!さすが我が弟!」
「あんたみたいにやかましい姉はいらん。」
真顔で言い切ったサスケだが当然のごとくにスルーされた。しかも無視された挙句サスケの嫌味は違った意味でカウンターを返されてしまうのであった。
「なんかね、サっちゃんとあったら疲れも吹き飛んじゃったわけよ!」
よくもまぁ、ぬけぬけとそんなこっ恥ずかしいことを。これはが彼を年下の弟と見ているからこそ言える言葉であるが姉どころかあまりの子供っぽさに年上とさえ思っていないサスケとしてはその言葉に照れないはずがなかった。
「そういえばアレは。いつもあんたといる。」
これ以上変なこと言われてたまるか!と赤くなる顔をから背け必死に話題の転換を試みた思春期のサスケである。そうして出した話題にしまったすぐに後悔した。
「ああ、あの人・・・。あいつはじっちゃん、じゃなくて長老の頼みで今鉱山の方に行ってるよ。」
先ほどのテンションはどこへやら、はすっかり平素に戻りなんともいえない表情を浮かべた。サスケもサスケで苦虫を噛み潰したような顔を作り、どちらともなくその場の空気が冷めていく。アレの話題は自然とお互いの気分を下げていくものであった。それもこれもアレの話題が出るとアレの存在が思い浮かんでしまうからである。
「へぇ・・・・よくあんたがここにいるのに行ったな。」
「長老が必死でお願いしてたからね。それにアレも一応私と同じただ飯食らいだし。」
とはいってもも長老と揃ってお願いしまくったのだが。だが長老のためを思ってではない。その裏には少しでもアレと離れることが出来ると思ってだ。
も別にアレが嫌いだというわけではない。だがアレは常ににひっつきすぎるのだ。それこそいつでもどこでも。そうするといくら良くしてくれても人は段々とうざったく感じてしまうのである。とにかくも、はアレが苦手であった。
「そ、そうだ。外の世界は今どうなってんの?サスケ前に来たとき、解放軍とかいうレジスタンスが出来たとか言ってたじゃない。」
「ああ・・・」
冷え切っていた空気を変えるためにも、は思いついた話題を出した。それにサスケもこれ幸いと話に乗る。サスケはとは違ってアレが嫌いなので、アレのことは考えるのも嫌なのである。
特に何かされたというわけでもないのだが、あの何を考えているのかよくわからない能面のような顔やら性格やらあのに対する暑苦しさやらととにかくも無償に彼を苛立たせるのだ。
「大分、活発化してるな。今は新しいリーダーが確かトランの湖上に本拠地を構えてるって話だ。」
「・・・町の人たちの反応は?」
「どこも大歓迎。前に現皇帝の悪政の話はしたろ。俺たち忍としてもこのまま頑張ってもらいところだ。」
「ふーん・・・」
そうは呟いたものはいまいち実感が沸いていなかった。それは彼女が、戦乱とは程遠い土地で育ったということもある。この世界のどこかが今、戦争の真っ只中だといわれても、彼女の元の世界同様やはり遠いそれに実感はわかないのだ。元の世界同様、今彼女が暮らしているドワーフの村も閉鎖的空間だからというのもその一因だった。
しかしその戦争に、その後自身が関わっていくなど、その時の彼女は少しも予想だにしていなかった。
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