Skyting stjerner1-2

「あれ。」
は思わず、呟いていた。何度も瞬きをして天井を見る。が、どうやっても見覚えの無い天井であった。現代日本まず拝めないだろう土色の天井。つまりは恐らく洞窟だと思われる。そっと頬を抓ってみたが痛かった。残念ながら夢ではないらしい。
どうして目が覚めたら洞窟にいるのか。それまでの経緯を思い出そうとして、突然自分の視界に入った顔に目を瞬かせる。
「起きたか。調子はどうだ?」
そう尋ねてきたのは小顔の割には大量の髭を生やしたいかつい親父顔。記憶に無いその顔にぎょっとし、反射的に体を起こして視界に入った光景にまたぎょっとした。
その親父顔の人物は、顔に反して手足から胴体まで体が異様に小さいのである。そう、少年のように。顔を除けば。
しかし驚くのはそこではない。彼は原始時代よろしく茶色の毛皮らしきものを一枚身に纏っているだけであり、しかもその背からどうみても体よりも大きい斧がひとつぎらりと鋭い刃を見せているのである。
なんで石器じゃないんだ。どうみたって金属じゃねーかといったところはまずは置いておいてとりあえず。
「っぎゃああああああああああああああ」
の悲鳴は洞窟内で響きに響き、エコーを帯びた。

洞窟の細部まで響き渡ったと思われるの悲鳴を聞いてなんだなんだと続々と現れるこれまたこの変わった人とそっくりな人々が現れるたびまた同じ顔!と小さく悲鳴をあげることを繰り返し、そして最初の人物から説明というもののを聞いた後、はようやく落ち着いた。そして真剣な顔をして彼女は尋ねる。
「痛いですか。」
「そら痛いがお前さんなんでおらの顔を抓る。」
「痛いですか・・・・。」
「おいこら話を聞け。」
肩を落として落胆した彼女は再び真剣な表情を作った。
「もう一度聞きます。ここはどこですか。」
「ドワーフの村だ。」
「そうですか、映画村ですか。」
「だから話を聞け。」
布団に顔を突っ込ませそうな勢いで落胆する。けれどもう一度、と真剣な表情を作り説明から始まり現在の門答をする人物を見つめる。
「あなたはなんですか。」
「おらはドワーフのヒューイだ。」
「ホビットさんですか・・・・。」
「・・・・・・お前さん、おらの話聞く気ないべ。」
今度こそ彼女は布団に顔を突っ込ませた。ヒューイが呆れたようにそう言うものの、やはり彼女は聞いておらずああ待て、ホビットさんは小人だ。ああじゃあ彼らはドワーフか?などとぶつぶつと布団に蹲ったまま呟いていた。
そして唐突に彼女は顔を上げる。背筋を正す彼女に自然とヒューイも身構えた。
「待ってください。」
「なんだ。」
きっと自分を見据える彼女にようやく話を聞く気になったのかとまじめな表情を作ったヒューイ。
「これは悪い夢です。おやすみなさい。」
けれどどうにも彼女は話を聞くにならないようだった。
それだけいうと彼女はそそくさと布団の中に潜ってしまうのだった。頭まで丸ごと布団をかぶったお陰で「なんじゃそりゃあ!」と叫ぶヒューイの野太い声は聞こえなかった。聞こえなかったのである。たとえ先ほどの彼女の悲鳴同様洞窟内を反響していようとも。布団を頭から被ったは念仏よろしく「これは悪い夢だ。これは悪い夢だ。これは悪い夢だ。」と目をきつく瞑り呟く。
やはり落ち着けれるはずがないのだ。なぜならこの状況が信じられるはずがないからである。
学校帰り、お小遣いを使ってお気に入りのお店でケーキを買って。料理本も買って。それから鈴の音が聞こえたと思ったら地面に穴が開き、しかもそこは水の中で、濁流に飲まれた後は不思議な空間に出て、そしたら今度は空気の激流に飲まれて。気がつけば自分はドワーフに保護されていて。
しかもそれだけではないのだ。彼女の知らぬところで自体は更に悪化していた。――それも最悪なところまで。
一番最初、目が覚めてからがなぜここにいるのかといった説明をしたドワーフのヒューイの話では、彼らドワーフの村には一つの紋章とやらが密かに奉られていたらしい。その紋章というのは、なんでも世界を構成する元だという。
しかも彼らが密かに奉っていたそれはただの紋章ではないというのだ。なんでも他の紋章とは格段に違う、世界に27個しかない真の紋章というもの。その真の紋章は宿主を選ぶらしく、彼女はその紋章に選ばれこの異世界だと思われる場所まで喚ばれたのだという。ドワーフ?紋章?宿主?異世界?なんだそりゃ。そんなもの知らない。知ったことではない。私は家に帰って寛ぎながらケーキを食べるだけで幸せだ!今すぐ帰る!とはヒューイの話を打ち切ろうとしたのだが、彼の話はそれだけで留まらなかった。遮ろうとしたを必死に押しとどめ、彼は苦渋の表情で話を続けたのである。
「真の紋章には力がある。他の紋章とは桁違いの、それこそ世界を構成する一部の力が。
その巨大な力ゆえに真の紋章にはそれ相応のリスクがつきまとう。紋章ごとにその個性が大きく異なるが、真の紋章は呪いを秘めたものも多い。
そしてどの真の紋章にも共通する『呪い』。それは宿主が不老となること。そしてお前さんの紋章にはもう一つ、呪いが秘められてる。お前さんのもつ真の紋章の場合――」
そこでぎりりと歯を食いしばる。冗談じゃない。世界の構成する一部の力なんていらない。不老にだってなりたくなんてない。一人だけ遺されるなど、そんなの悲しいものでしかないとは思う。それに元の世界で周りは年をとっていくというのに、一人だけ年をとらないだなんて初めのほうは良くてもきっと段々と妙な目で見られ始めてしまう。聞いてところでは300年以上生きるのが通常だとヒューイは言った。無理だ。300年も生きるだなんてには生き地獄としか考えられない。お気に入りのあの店のケーキだって、きっと飽きてしまう。
それになによりも。
「――お前さんの『呪い』は『故郷を失う』ことだ。」
目を伏せたヒューイはそうに伝えた。そのときは彼の言葉に正真正銘、頭が真っ白になった。
「どういう、こと?」
何度も唾を飲み込もうとして、それでも舌には何も滲むことなく、目を見開いたままは途切れ途切れに尋ねた。ヒューイもまたそんな彼女に唇をかみ締め、悲痛な表情で真実を告げる。
「そのままの意味だ。おらも詳しいことはわからねぇ。故郷に戻れないのか、それとも故郷が滅びるのか。どちらにしても、」
そうして一度息を吐いてヒューイは決定的な一言を述べる。
「お前さんが故郷に戻ることはもう、できねぇ。」
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
は彼女の右手の手の甲に浮かぶ奇妙な紋章をありったけの憎しみを込めて睨み付ける。そしてそこへと爪を立てた。
けれどその力も段々弱くなり、彼女はいつの間にか両手を力強く握り締め、込み上げてくる嗚咽を必死に押さえ込んでいた。
最高潮に達すればあとは落ちるしかないというが――だがこれはあんまりだ。

理不尽にも慣れ親しんだ地や家族や友人と突然切り離され、不老にさせられた少女。その心境を考えるだけでヒューイは同情の念を覚えられずにはいられなかった。
ヒューイだけではない、この地のドワーフ達はほぼ全て少女を不憫に思えてならなかった。
ドワーフはもともと人に慣れているとは言っても別種族の人間を心から歓迎することはまずない。しかし彼らは彼女を手厚く保護しようと決めていた。彼女がこの地に現れてすぐに行われた集会にてそれは満場一致の意見であった。せめて故郷を失った彼女の第二の故郷になれるようにと。故郷とは、無条件にその者を受け入れてくれる場所。そして同時にそこは、心の拠り所なのだから。
それをなくしてしまうにはあまりにも早すぎる少女の第二の故郷を、この場所にしようと。
布団にくるまり、肩を震わせ声も出さず泣く彼女を見て、ヒューイは何も言えず今はまだ、とそっと部屋を後にしたのだった。


***


それから3日後。
「おはようございます!」
部屋から出てきたは常と変わらぬ笑みを向けてドワーフ達に声をかけていた。
声を掛けられたドワーフ達はそんな彼女に一概に驚きの表情を浮かべてから彼女と同じように笑みを作る。やがてそんないつもと違う空気を察したのかドワーフの中でもよくの世話をしてくれるヒューイがの前に出てきた。もっとも顔形でドワーフを判断するのは難しく、も世話になったというのに声を掛けられるまでそれがヒューイだとはまったく気づかなかったが。
「おう。ようやく吹っ切れたか?」
は頬をかいて苦笑する。どのドワーフ達も驚きの表情を作ったあと喜びの表情を浮かべるその理由。
その日はが部屋に篭ってから初めて外に出た日であった。

それから二人は久しぶりの外ということもあって、日の光と軽い運動をするためヒューイに村内を案内してもらいながら未だ聞いていない詳細を聞くことになった。
ドワーフ達はヒューイとを見る度に笑顔を浮かべ率先して挨拶をしてくる。それに首を傾げ浮かび上がった疑問をヒューイに尋ねてみた。
なんでもこの世界にはドワーフ以外にもエルフなどといったファンタジ―な種族がいるらしい。だからこそ、いくら生命とは等しくても人種違いというところから差別とかはないのだろうか。
今でこその世界で差別は少なくなってきているもの、それはたくさんの月日と努力の結果である。見たところ、この場はの暮らしていた場所より文明が発達しているとは思えない。いくら世界は違うといってもその辺りはどうなのだろう。自身の世界の歴史を思い出しは不思議に思ったのである。
するとなんでものことをこのドワーフの村で世話することに決めたのだとヒューイは語る。
はそれに驚く。なんの取り柄もない、それこそこの世界では赤子同然の、どう考えたって厄介者でしかない自分を世話をするだなんてどういうことだろうと。
ヒューイは首を横に振りながら答えた。すべての責任はドワーフにあると。あの紋章を奉っていた自分たちがと。確かにドワーフは人間との仲は良いというものではないが、お前さんは特別だ。それに、拠り所をなくし途方に暮れる少女を放っておくほど、ドワーフ達は情に薄くはないのだと言った。
それを聞いたとき、つい助けれるなら中年ちび親父達より素敵な美形エルフ達のほうがよかったと思ったりしてしまった自分が恥ずかしくなった。
なんといい人、親父、ああいやドワーフ達だろう。は込み上げてくる感謝の気持ちを表すべく深く頭を下げたのだった。

そうして大体の村案内が終わったときは真上に上っていた太陽が沈みかけていた。達は最後の日の浴びとばかりに大き目の岩の上に腰掛ける。
「ああ、そういえば。」
村の案内が終わると同時に、大体この世界のことを教えてもらったはふと尋ねる。
「この世界はモンスターが出るんですよね?」
そう、なんと人間以外にドワーフ、エルフと続き不思議な力をもつ紋章も加えこの世界にはモンスターも出てしまうらしい。どこまでファンタジー路線である。それに憧れることがなかったというば嘘であるがそれにしても実際モンスターなんてもんがいるといわれると憧れなんて言ってる場合ではない。特に犯罪はあっても大体は安寧を常とした世界に生まれ必要最低限の運動しかしていなかったには生命の危機に関する大問題だ。
「ああ、そうだ。だから村からは出るなよ?人里がある場所にはモンスターはでねぇがそこから離れればうじゃうじゃ出てくる。特にここは森の中にあるからな。」
ヒューイもまた、の岩より幾分か小さい岩の上に腰掛けそう言った。は両手を後ろへとつき、茜色に染まった空を見上げる。
「ということは、私もそれなりに強くないと生きてけないってことですよね?」
夕日は元の世界と同じ綺麗なものだというのに、視界端に移る鬱蒼と茂る森の中にはの見たことのないモンスターがいるのだろう。
「ああそうだが・・・。お前さん、力に自信は?」
は首を振る。
「これっぽっちも。体育以外全然。そもそも運動嫌い人間でしたし。」
こんなことなら部活にでも入ってスポーツでもなんでもやっておけばよかったと今更ながら思う。しかしこんな状況になっても運動なんかしたくないと思う自分は筋金入りの運動嫌いだなと改めて実感する。ヒューイはの話から出てきた体育という言葉はわからなかったが、なにかの運動と同じ意義だろうと流すことにした。
「あ、そうだ!この紋章は!?ヒューイさん!この紋章でどうにかならないんですか!?」
はなんとなしに空へと伸ばし両手の、右手の甲に浮かぶ奇妙な文様を見てふといいことを思い出したと言わんばかりに体を起き上がらせ声をあげる。
「確か、これってすっごい力をもってるんですよね!?だったらそれでぱぱーっとやっつけられるんじゃ!」
ついわくわくとした音色を抑えられずはヒューイに詰め寄る。その内心はこれで運動しなくてすむ!と大喜びであった。だれが好き好んで汗水を流したいか。いやしたくない!
突然割と大人しいと思われた少女が豹変したその様にヒューイは目を瞬かせ、その内容を理解すると気まずそうに視線を流し始めた。そして豊富な髭のさきっちょをつまみ弄り出す姿はまるで年頃の乙女である。
「あー・・・そのことなんだが。」
ヒューイは髭の先を今度は両手で弄りだし、野太めの声を心なしか潜めて喋りだした。
「実は・・・その、紋章にはそれぞれ名があると言ったろ。それでお前さんの紋章は・・・・工の紋章といってな。」 
「工の紋章・・・・?」
なんだかあまりすごそうな名前ではないな。とヒューイの言葉を復唱しながら思う。でも、真の紋章などといったすごい紋章なのだ。きっとすごい力が込められてるのだきっと。何しろ不服にしろ不老や故郷を失う羽目になった紋章である。
「それで、その紋章のもつ力は・・・・!?」
ごくりと生唾飲み込みヒューイの言葉をまつ。
ヒューイはしばらく沈黙を保っていたのだが、やがて観念したように話し出した。
「あー・・・・細工が巧妙になったり、鍛冶が得意になったり、だな。」

「・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・それだけ?」
は首を傾げて見せた。
ヒューイはそんなに苦虫を噛み潰したかのような顔で、緊張のせいかいつもより野太い声をだす。
「それだけ。」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
これほどまでに痛い沈黙が過去にあっただろうか。いや絶対にない。

聞き間違えかとはその後もう一度ヒューイに尋ねてみたのだが返ってきたのは同じ言葉のみ。

彼女のもつ真の紋章の名を『工の紋章』
その名の通り、細工が巧妙になるというものであった。
そんなふざけたものの為に自分は故郷を失い不老になってしまったのである。
人の人生狂わせといてそれはないだろうと、が再びにやさぐれ状態になり部屋に戻るまであと数秒。


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