Skyting stjerner1-31
が大森林に行ってからというもの、帝国側に不穏な動きは見られず三か月の月日が流れようとしていた。となるとが解放軍に入ってから既に五ヶ月余り経ったということである。あまりにも慌しく、思い返してみれば日々濃い日常にも関わらず短く感じられたが。
「結構経ってるもんだねぇ・・・・。」
は思い返してぽつりと呟く。そんなに同じく少し離れた木々の下で、読書をする少年が言った。
「才能ないんじゃない、あんた。」
思わず息を詰まらせるである。
解放軍に従事してから五ヶ月余り、ルックと師弟を築いたのもまた五ヶ月の月日が流れている。
毎日というわけではないが、週に幾度となく洗濯ものやら後片付けを素早く済ませその空いた時間にやら、時には休憩時間も彼のもとへ通っていた。なので、そろそろ魔法の一つや二つ、使えるようになってもいいはずなのだが。はまったく、魔法を発動させる気配がなかった。
「だから、才能ないんだって。そろそろ諦めたら?」
「あ、諦めない!私は諦めない女なんだぁあああ!!」
視線は本へと向けながらも呆れた口調で言うルックに、はさすがに参りかけていた自身を叱咤するかのように声をあげ、頭を横へと振る。そして昂ぶった感情を深呼吸で抑え、目を瞑り、木々の擦れる音へと耳を済ませた。正座をしてそんなことをし出したのは三週間程前であった。
毎日でなくても定期的にルックに紋章についての知識を教わり、無理やり弟子に入った彼女への嫌がらせとしてルックも態と脱線しつつも、さすがに四ヶ月も経てば、まぁそろそろ基本の実践に入ってもいいじゃない、ということになった。なのでは彼から教わった知識通り、魔法を使うため紋章を使うためにまず一番に必要なこと、紋章球を体に宿すため、少しではあるが解放軍で給金され溜まったお金基全財産を持って城内に紋章の店を構えているという、紋章師のところへと向かった。
紋章球を体に宿す事は、宿す者の魔力を見極め、宿させる事の出来る特殊な紋章師にしか出来ない。だからはその人物の元へ向かったのだ。本音を言えば一人では非常に心細く、師匠であるルックも連れて行きたかったのだが、紋章球を体に宿す際、それはその者の魔力によって違うが右手、額、左手と三箇所にしか宿せないのである。そして宿す場所は魔力が少なければ右手だけ、もう少しあれば額、更にあれば左手、といった流れだ。それはにとって少し不都合なものであった。の右手には既に紋章が宿っている。それも真の紋章といった希少なもので、狙われることも多いため、滅多なことでは人目に触れてはならないものだ。だから料理を作る時でさえも、は過去、ドワーフの村で住んでいた頃、長老と彼女の世話係であるヒューイの共同制作で作ってもらった手袋を外すことはなかった。
紋章を宿すためといっても、右手だけは手袋を外すわけにはいかなかい。その為紋章球を宿して貰う事にも悩んだが、折角数えるのも馬鹿らしいほど切り裂きを食らわせられながらも、めげずにルックから教わったのだ。そこで引き下がるのも躊躇され、結果誰も連れず一人でその者へと尋ねに行くことにしたのであった。幸い、魔力さえあれば右手を飛ばして額、左手にも宿すことが出来る。だからとりあえず自身の魔力を見てもらって、それから判断しようと思っていた――のだが。
「あんた紋章一つも宿せないんだから、無理だって。」
「無理じゃない無理じゃないうん、私出来る私なら出来るよ出来るったら出来るんだうん出来る!」
痛いところつかれたは、集中しようとしていた事すら忘れて動揺も露にルックへと反論、というか自分へと暗示を掛けた。
―――そう、城に紋章店を構えているという紋章師に会いに行ったは、色々と驚かされた。
それはその紋章師――ジーンというのだが、彼女は艶やかな長い銀色の髪、白い肌、魅惑的な赤い唇に陰すら落としそうな長い睫、気だるげな蒼い瞳と色気が半端ない上とてつもない美貌をもった美女であったり、その格好が要所を布で隠しただけ、という太ももやら腹や胸やらととにかく同姓であるでさえ顔を赤くして目を覆いたくなるほど魅力的な体を、惜しげもなく露出した格好であったり、―― が一つも紋章を宿すことが出来ないと告げられたり。
は三週間前の出来事を思い出すと顔を赤くしたいやら青くしたいやら忙しなく感情の起伏が変わる。実の所彼女は、自身が右手に紋章、それも世界に数多ある紋章のかけらではなく、27しかない真の紋章を宿している事から高確率でそのかけらである紋章を宿す事が出来ると思っていたのだ。だが現実はどうだ。かけらのそれを一つも宿すことは出来ないという。なんだそれは。じゃあなんでこの紋章は宿せたんだとはやさぐれたい気持ちになった。自惚れていた分、その衝撃は強い。
その事実をルックへと話したところ、彼は言ったのだ。大抵魔法というものは、呪文を唱え意識を集中して魔力を高めてから発する。そして紋章は世界を構成するものであり、その世界を感じとろうとすればどうにかなるんじゃないのとかなんとか。は彼の話を受けて、なるほど、と集中して自然を感じ取ろうとこうして城の外のちょっとした森林の中、座禅を組もうとしてそれは出来なかったので代わりに正座をしてみたりして、こうして三週間が経ったのである。
そして今現在。偶にジーンのところへ確認しに行っても、首を振られ続けとまったく向上の兆しがない。も真剣に取り組んでいるというのに。
は閉じていた目を開けて溜息を吐いた。
「やっぱ才能ないのかなぁー・・・・。」
「だから、最初から言ってるじゃん。」
即座にそう言われ、は思わずめげそうになったが堪える。そして再び集中し自然を感じ取ろうと目を閉じたのだが、数秒もしないうちに本へと視線を落としていたルックが口を開いた。
「――ねぇ、星が流れるってどういう事だと思う。」
は罵倒皮肉嘲笑こそすれど、珍しくもルックから普通に話しかけられた事に、目を開けて彼を見る。ルックは読んでいたはずの本を閉じ、しかしを見る事もせずに視線を前へと向けていた。
彼から話題を振られるのは珍しい。ので、は彼から尋ねられた事を考え、真剣に答えを出した。
「流れ星じゃない?」
「馬鹿じゃないの。」
しかしそれは彼が求めていたものではなかったらしい。即座に切って捨てられた。はならば、と再度考え、その場には沈黙が落ちたが、やはり幾ら考えてもそれしか思い浮かばない。
そんな彼女にルックは言う。
「誰も、そんな事で悩みはしないよ。レックナート様がおっしゃってたんだ。」
「レックナートって・・・・ルックのお師匠さんだっけ。」
それがどうかしたのか、といった彼女に、顔を見なくても雰囲気で察したらしいルックは続けた。
「レックナート様は星見をなさる。今回この戦いを詠まれた時、天魅星が動いた時に――」
「ちょ、まった。待って!」
は思わず声を上げる。話を止めにかかる彼女に、ルックは前へと向けていた視線をそこでようやく彼女へと向け、訝しむように見た。
せっかく彼が状況を説明してくれたところ話を折るようで悪いが。は頬をかく。
「その、星見ってなに?てんかいせいって・・・??」
彼の内容からすると、星見は予言みたいなものだろうが、にはまったく訳が分からなかった。ルックが呆れた視線で見てくるが、分からないものは分からないのだった。
「そんなのも知らないで解放軍に入ったわけ?というか、気付かなかったの?」
「え、いやぁそんな事言われても・・・・気付くって何に・・・?」
「石版だよ。君もよく来てただろ。書かれていたの、読まなかったわけ?」
「え・・・あ、もしかしててんかいせいってティルの名前の横に天ほんにゃら星って書かれたやつ?」
読めなかったのかよ。うろんげな視線がルックから送られたが、だってあんな漢字読めるかといった心地である。
ルックが常に守るようにして立っていた石版に、よくよく見れば何かが刻まれている事にが気付いたのは大分前である。それも漢字が読めず、特に気にしないで居たのだが――どうやら単なる石だと思っていたあれは、結構な重要な役割をしていたらしい。ルックはそんな彼女を心底呆れた視線で見ていたが、溜息を吐いて、彼女にもわかるよう一から説明するため口を開いた。
「この戦いは、星に宿命が持つ者が集まって起こる、世界を揺るがすような大きなものなんだ。あの石版には、星の名とその宿命を持つ者が刻まれている。星見は赤月帝国で行われてる予言みたいなもの・・・・といっても、出来るのはレックナート様だけだけど。」
ルックの言葉から、はこの戦いがそんなに大きなものであったのかと驚きを抱き、言われてみれば赤月帝国を打ち倒すか打ち倒されるかといったこの戦いは、確かに戦火が大きいものであると思い直す。
少なくても大森林で帝国軍を打ち負かした事から、歴史に刻まれるのは必須だろう。この世界に星の宿命やら星見なんてものがあるといった事は、そんなものがなかった世界で生きていたにとってやはり驚かされるものであるが、魔法などといったものがあるのだから、それもあってもおかしくない。
驚きながらも納得した表情のを見とめると、ルックは続きを口にする。逸れていたが、これからが話の本題であった。
「戦が始まる前、星見をしてこの戦を予期したレックナート様が、おっしゃっていたんだ。『星が流れた。』と。」
思わず眉を寄せるを気にせず、ルックは続けた。
「この戦いの兆候であり、星の宿命を宿す者達が集う中心、天魅星のことは教えてくださったのに、レックナート様はそれに対しては特に教えてくださらなかった。ただ、そのうち僕にも分かると。」
はなるほど、と思った。天魅星に星の宿命を持つ者達が集う。石版に刻まれていた天魅星の横にはティルの名が刻まれていた。彼はこの解放軍のリーダーだから、確かにその通りなのだろう。
それだけでなくこの戦いも事前に詠んだことから、星見とやらは相当凄いものであるらしい。だから彼の師である星が流れた、ということもきっと何か意味を持つのだろうが――。
「星が流れる、ねぇ・・・。」
思わずは頭をかく。星の名どころか、つい先程まで星見のことを知らなかった彼女には、それは難解であった。いくら頭を捻っても、わかるはずがない。
その日、は仕事に戻るまで頭を悩ませていたのだが、結局わかることもなく。ルックもやはりいいと首を振り、その日の修行を終えたのだった。
***
翌日。 は約三ヶ月振りに大広間の掃除当番であった。以前掃除した時同様、は来客のある大広間を真剣に掃除していたのだが、偶然なのかそれともしょっちゅうあるのか、その日またもや大広間に声が響いた。以前はシーナが来たのだが、今回は誰であろう。は好奇心丸出しで大広間の出入り口を見る。
入り口に立っていたのは前髪が金、他は黒といった奇抜な髪に青いはちまきとマントをした、これまたシーナ同様美がつく精悍な顔立ちの青年であった。
「解放軍リーダー、オデッサに会いたい。会わせてくれ。」
青年は出入り口に立っていた門番の一人にそう言うが、その声は低く、眉間に皺もよっていて、一見冷静そうな容姿とは正反対にどうにも気が荒んでいる様子である。
彼の言葉に、は首をかしげた。解放軍リーダー、といばティルである。しかし彼は今、オデッサと言わなかっただろうか。
「オデッサ殿は今、各地に散らばった同胞達を集めに・・・」
「いいから会わせろ!!」
とは反対に話しかけられた門番とは違う者は、彼の言いたいことがわかったらしく、少し慌てたように言ったが、それが言い終わる前に青年が耐え切れないといったように大声を上げた。
大広間に響いた声にが思わず肩をびくつかせた時である。
「フリック!」
聞き覚えのある声に振り返ってみれば、それは乱れた黒髪に大きな体躯をしたビクトールであった。
彼は階段を数段飛ばし、危なげなく駆け下りてくると、すぐさま出入り口にる青年の元へと向かう。歯をむき出しにした笑みを浮かべ、彼の肩を叩いた。
「お前!無事だったか!!なんの連絡もねぇから心配したじゃねぇか!!」
「ビクトール・・・・。」
ビクトールの知り合いであるらしい青年は、そんな彼に一瞬剣呑な雰囲気を下げた。が、すぐに眉間に皺を寄せる。
「ビクトール、お前も無事でよかった。だがオデッサは?」
途端ビクトールの笑顔が強張る。それを認めた青年、フリックは更に眉間にしわ寄せ眼光を鋭くし、彼を睨みつけた。
「ビクトール!オデッサはどこにいるんだ!?会わせろ!!」
「い、いやそれが・・・今はいなくてな・・・。」
「フリックさん!」
ビクトールがいつも陽気な雰囲気を潜め、どこか固くそう言えば、またもや大広間に新たな声が響く。
大広間の出入り口にいる彼らも、彼らの様子を少し離れた場所から見ていたもその声の方向を見る。階段を下りてくるのは二人。フリックが彼らを見て声を上げた。
「サンチェス!ハンフリー!!」
は話したことはないが、何度か目が合い微笑まれ会釈したことのある、恐らく解放軍でも幹部の位置に入るのだろう、優しげな表情をした中年の男性サンチェスと、それにこちらはティル達といるところも偶に見かけるが、誰ともあまり話している様子のない、無口なハンフリーであった。
彼らもまた知り合いなのだろう。フリックの元へと駆け寄る二人に、フリックが尋ねる。
「おい、お前等はオデッサがどこにいるか、知っているか?」
フリックの元へと着いた二人は、彼の質問に言葉を詰まらせていた。フリックとの再会に顔を緩ませていた二人の表情が強張るのを見て、ビクトールが助けるように代わりに彼の質問に答えた。
「フリック、オデッサは今各地を回ってだな・・・。」
けれどその答えは、彼の怒りを煽ってしまったらしい。ビクトールを振り返ると彼は険しい表情をして怒鳴った。
「ここは新しい解放軍の本拠地じゃねぇのか!アジトが襲われた後、散り散りになった解放軍のメンバーを集めて、ようやくここに辿り着いたってのにどういうことだ!」
彼の怒声が止むと、大広間に沈黙が落とされる。すると丁度その時、階段を慌しく降りて来る複数の音がし、そちらを見ればティルを筆頭に軍師であるマッシュが階段を降りてきていた。サンチェス達同様彼らは、いつの間にかいなくなっていた門番の報告を聞き、駆けつけたのである。
「ん、お前ティルじゃないか。オデッサはどうしたんだ。何で出てこない?」
投げかけられた問いに、彼らもまた言葉に詰まったようであった。そんな彼らを見て、この城に来てから何度目かわからないその反応にフリックは眉を寄せたまま、しかし悲しみに顔を歪ませた。
「どこで聞いたって、各地を回ってるだなんて答えやがる。もう何度聞いたかわからねぇ。帝国の奴らに狙われて姿をくらましたって、俺にまで隠す必要はないだろう?」
誰が見ても悲痛な表情な彼のその様子に、その場に沈痛な空気が流れた。もまた彼らのように何かを知っているわけではないのだが、何やらこの件は重大な話であるらしいと察する。
出来るなら理解もしてない、使用人である自分はこの場を居合わせないほうがいいのだろう。しかしその空気の中動くのは憚られて、はただ物音出さず、彼らを静観するしかなかった。
そしてその空気を途切れさせたのは、マッシュだ。
「あなたがフリック殿ですね。」
「何だ?誰だお前は。」
いつもティルの一歩後ろに控えるように立つ彼だが、彼はそういうなり、フリックの前へ立つ。
怪訝そうな顔で見るフリックに、マッシュは顔色変えることなく口を開く。
「私はマッシュ・シルバーバーグ。オデッサの兄です。今は解放軍の軍師をつとめています。」
「オデッサの兄・・・なあ、どうしてオデッサは出てこないんだ?いるんだろ?」
オデッサの兄であるというマッシュに、フリックは一瞬目を見開くが、すぐにそう尋ねていた。そんな彼に、躊躇うことなくマッシュは告げる。
「オデッサさんは死にました。」
しかしマッシュが告げるかと思われたその時、ティルが口を開く。
彼の言葉にフリックのみならず、動揺が走った。知っていたらしいビクトールは、咎めるように彼の名を呼び、また知らなかったハンフリーとサンチェスは唖然としていた。
「な、なんと。では行方不明というのは・・・。」
ぽつりとサンチェスがそう呟く。ティルはそれに頷くことで答えると、前に立っていたマッシュの横に並び、フリックの前へと立つ。
動揺も露にしているフリックに、ティル真剣な表情で続けた。
「オデッサさんはレナンカンプのアジトが襲われた時、死にました。俺とビクトール、グレミオとクレオも看取ったのでそれは確かです。」
動揺してたフリックであったが、彼の言葉を聴いている内に正気に戻ったのか目を鋭くし、彼の隣に立っていたビクトールを睨みつけた。
「おいビクトール!どういうことだ!?お前がついていて、どうして!!」
「・・・すまない。フリック。」
ビクトールは彼の剣幕に息を詰めると、頭を下げる。彼はいつもどんな時でも陽気な人物であるからこそ、それは心からの謝罪であり、ビクトールと長い付き合いであるフリックはそれを察し、そんな彼をそれ以上責めることは出来なかった。
怒りを堪え、歯軋りせんばかりに奥歯をかみ締める。怒りを堪えようとする彼に、マッシュが言う。
「オデッサは最期まで、解放軍の行く末を案じていたそうです。」
「・・・そうかい。それでオデッサの後を継いだのが、ティルって訳か。」
フリックは口の端を上げながら吐き捨てるように言い放つ。しかし、そんな彼にかまうことなくマッシュは頷く。そしてマッシュだけでなく、誰も口を挟まないことからそれは決定しているのだと彼は理解した。
「冗談じゃない!おい、いいのかよハンフリー、サンチェス!こんな奴に、オデッサの代わりが勤まるのかよ!」
しかし理解することと荒れ狂う感情は一致せず、フリックは感情のままに怒鳴る。けれど二人は、まっすぐと視線を向けてくる彼から、気まずそうに視線を逸らした。
「・・・リーダーは必要だ。ティルはよくやっている。」
ハンフリーの言葉に驚いたのは、ばかりではない。他の面々も常日ごろから無口を貫いている彼が、こうして話したことに、少なからず驚いていた。彼に続きサンチェスがフリックを宥めるように声を掛ける。
「フリックさん、そんなに興奮しないで。それよりも、用があってここに来たのでは?」
ハンフリーの知り合いであるフリックもまた、ハンフリーが口を開き、それもティルに対して肯定的な意見を口にしたことに驚いていたが、サンチェスの言葉に我に返ると、再び口角を上げた。
「ああ、用があってここに来た。ただ、俺はオデッサに用があったんだ。ティル、お前じゃねぇ!」
薄ら笑いを浮べた彼は、段々と険しい表情へと変化させ、最後にはティルを睨みつけていた。そしてそのまま大広間の出入り口へと踵を返してしまう。
憤り、大広間から出てしまう前に、彼はぴたりと足を止めた。
「ハンフリー、サンチェス。俺はカクの町の宿にいる。気が変わったら来てくれ。お前達だって、そんな奴等と一緒にいる気はないだろ!」
苛ただしげにそう言い残し、彼は大広間を出て行ったのであった。
大広間に残された面々は彼が去ってからも数秒沈黙していたのだが、ややあってサンチェスが口を開く。
「ティル様、フリックはオデッサ様の死に、ショックを受けているんだと思います。普段は、あんな人ではないのです。」
「フリックとはよく話し合ったほうがいいな。何といっても、解放軍の副リーダーだった男だ。」
それにビクトールも続いて言い、ティルを振り返る。ティルは頷く。
「そうだね。今は少しでも戦力が欲しい時だから。」
その顔はもういつものような笑みを浮かべているものの、去る機会もなく一部始終聞いてしまったは、そんな彼に不安を抱いたのだった。
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