Skyting stjerner1-30

使用人であるの仕事は大半が炊事洗濯であったが、稀に交代制で城内の掃除をする事もあった。 この日、は城内の掃除を任されていた。それもとしては始めてである大広間である。 大広間は解放軍に志願してくる者など来客の者が一度は通る場所なので、念入りに掃除しなければならない。はそう意気込み張り切って掃除をしていたのだが、時も忘れて掃除をしていると彼女の耳になにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「お前!何者だ!!」
「おっと!そう警戒なさんなって。俺は解放軍志願者だ。軍主とやらに会わせてくれよ。」
「・・・・しばし待たれよ。」
「おう。早くしてくれよ。」
そこでは掃除に熱中していたのだと気づいたのだが、内容からして、ただの軍志願者であり特に不法侵入者などではないと気づくと、少し強張らせていた意識を安堵に緩め、再び掃除へと意識を向ける。
箒でごみを集め、そろそろチリトリで取るかと少し離れた位置に置いてあったそれを取りに行きながら、しかし志願者は皆ティルに会わなければならないのか、そういえば自分も少し特殊ではあるが、雇用時マッシュに会わされていたな、と思い出す。志願する者皆に、いちいち顔をあわせなければならないとなると、さすがのティルも大変だろうなと同情の念を抱きながらどれその志願者の顔を少し拝んで見るかとは顔を上げて、出入り口の方を見てみたのだが。
志願者も自分を見ていたらしく、ばちりと目が合う。
「「あ。」」
見たことのあるその顔に同時に声を上げていた。
「な、あんたなんでここに!?」
「なんでって・・・・見ての通りこの城の使用人ですけど。」
驚きも露に声を上げるのは、4日ほど前に会ったばかりの人物であった。金色を帯びた茶色の髪を短く切り揃え、今日もゆったりした衣服に身を包み、鎖骨を覗かせるといった少し露出のある服を着た美青年、シーナである。
はエプロンを着用し、ほうきを持ったどこからどうみても使用人の出で立ちを、少し両手を広げ見せるようにして彼の問いに答える。
「そうだったのか・・・・。て、そんなことはどーでもいいんだよ!」
顎に手を当て納得したような表情を浮かべたシーナだったが、我に返ると出入り口付近から少し離れた位置にいる、に近づく。足が長いこともあってか、あっという間に距離を詰められたは彼の勢いに目を白黒させた。シーナはの前に立つと、短く切った髪を片手で乱暴に掻き毟る。
「あの帝国兵の奴らが言ったのかわかんねーが、帝国兵に睨まれちまってよ。どこ行っても追われるようになっちまんたんだよ。」
シーナが溜息混じりに言う。はその内容に驚いた。彼と会ったのは4日前、テイエンの街へとグレミオと買い出しに向かった時だ。
一度、買い忘れた物を買いに行くグレミオと離れたのだが、少女が絡まれていたのを目撃したのである。
その時は思わずその少女を庇うように前に出てしまったのだ。しかし戦う術も持たない彼女は、その後ちょっとした乱闘となってしまったとき、庇いに行ったというのに必死に逃げまくっていた。加えて庇われた少女は相当強く、自分で襲い掛かってくる男共を伸していたというなんとも出てきた意味がないである。そうして逃げ回っていただが、それがそうそう上手くいくはずもなく。が殴られそうになった時に現れ、助けたのがこの美青年、シーナであった。
と、過去を思い出しては若干顔を青ざめた。その後、帝国兵に誰何を問われた時名を堂々と言ったシーナであったが、彼は今そのことから帝国兵に追われているらしいという。
(・・・・ということは。)
「・・・・私のせい?」
もしかしなくてもその通りであり。 は途端シーナに申し訳なくなった。彼女の様子を見て、最初こそどうしてくれると帝国兵に追われ続け溜まった苛立ちを彼女にぶつけようとしていたシーナは途端自身の怒りが鎮火されていった。そんな八つ当たりまがいのことをしようとしていた自分が情けない。
「あー・・、そんなことねぇよ。俺が自分の意思で、あの場に入ったんだからな。悪いとしたらあの帝国の連中だろ。」
シーナはそう言ったものの、の気は晴れない。彼が帝国兵に追われるようになった原因は、どう考えても自分であるように思えるのである。何しろあの場、 が助けに入った少女は自力で脱しており、助けに入ったはずのはお荷物状態であった。が庇わなくてもあの少女、ことテンガアールの瞬時に襲い掛かってくる男共を伸す凄腕で、きっとあの場は彼女だけで切り抜けられていたはずだ。そう考えるとやはりどうにも彼が追われるようになった責任は、自分にあるようにしか思えなくなる。
見るも明らかに気落ちしていくに、シーナといえば内心焦っていた。当初こそ彼女に八つ当たりのように怒りをぶつけようとして反省した事もあってか、彼女にそこまで落ち込まれると居心地が悪い。
再び髪を掻き毟り、何か少女の感情を浮上させる方法を探す。そして思い浮かんだ我ながらいい考えに、シーナは口の端を上げた。
シーナは落ち込んでいく気分とともに、地面へと顔を俯かせているの顎を掴む。そして自身を見上げるに、不適な笑みを浮かべた。
「あんたのお陰でこうなったんだ。それなら責任とってくれるよな?」
怒るか頬を染めるか。どちらにしてもこれで彼女を落ち込ませることはないとシーナは思っての行動であったが。
「志願者って君のこと?」
背後からの肩を掴みシーナから剥がし、突如として間に入った者に彼は目を瞬かせた。
「あ、ああ、俺がそうだ。シーナって言う。」
どもりながらも問われた言葉に答える。間に入った、一般的に見て美青年であるシーナですら少し気後れしてしまいそうな程美しい顔立ちの少年、ティルは友好的に見える笑みを浮かべた。
「そう、君がレパントの言っていた息子さんだね。」
シーナは彼の言葉に思わず固まる。しかしそんな彼の様子に気づいた様子なく、というか気づいていて意図的に無視してティルは続けた。
「お噂はかねがね。まさか、そのレパントの息子さんが志願しに来るとは思わなかったよ。」
「あーその噂っていうのは・・・・というか、なんで親父を知って・・・・?」
いやな予感に冷や汗流しながら尋ねてシーナに、やはりにこにこと笑みを浮かべたままティルは答える。
「それは本人聞いてみた方がいいと思うよ。あ、レパントさん、息子さんがいらっしゃいましたよ。」
いやな予感、とうとう来るところまできてしまったシーナである。ティルの言葉に否応なく再度固まり、逃走する事すら忘れていると、丁度大広間に現れティルに声を掛けられたシーナの父、オレンジの髪を後ろで一つに結んだレパントが大広間にいるシーナに気づく。彼はシーナを見とめるや否や物凄い表情になり、瞬時に近づくと彼の胸倉を掴んだ。
「貴様!見聞を広めるなどと家を出ておいて、あちこちでよからぬ噂を聞いたぞ!!なんでも、女の尻を追いかけているそうじゃないか!それでもお前は俺の息子か!!!」
「い、いや親父・・・それは誤解で・・・・」
「何が誤解だ!お前は家に居たときから不抜けたやつとは思っていたが、この家の恥さらしめ!ちょっと来い貴様には言ってやりたい事がたんとある!丁度アイリーンもいる事だしな!」
「な、か、母さんまで・・・・!?お、親父悪い!俺が悪かったから!!」
「煩い!今日という今日はお前が二度とそんな考えを持たぬよう、アイリーンと共に話聞かせてやるわ!!」
「な、お親父!勘弁してくれって!!」
物凄い勢いでやってきたかと思えば、シーナの襟首を掴みずるずると彼を引きずり大広間から出て行く男性に、は呆気に取られる。必死に謝っても引きずられように行ってしまったシーナの姿に思わず同情を覚える程だ。武運を祈る。そう彼へと口に出すことなく言葉を送り、さっそく掃除へと戻ろうとしただったが。
。」
男性とシーナにより忘れかけていた存在に声をかけられ。はぴたりと止まる。しかもその声が、いつもの彼とは違って硬質に感じて、はゆっくりと彼に振り返った。ティルは笑顔を浮かべていたがは知っている。彼は微笑ながら怒ることの出来る人種だと。そして今肌に指すピリピリとした雰囲気と、声音は同じであるがどこか硬質な彼の声に、は彼が怒っているのだと察した。
「帝国兵とかなんとか言っていたけど――どういうこと?」
ティルは笑顔のまま首を傾げる。
は思わず顔を蒼褪めた。


***


実はテイエンに行った時帝国兵とひと悶着ありました――
それを告げた時のティルの表情は怖くて見れなかったが、肌に突き刺さる空気は更に痛いものになったように感じて、はいよいよティルの秀麗な笑顔を浮かべつつも怒りの表情というなんとも矛盾したものを見ることなんて出来なかった。そしてそんな彼に逆らう気すら起きず、先を促され細かいところまで誘導尋問されていったのである。事情を聞き終えてから彼のへの説教は、まぁ簡単にいえば戦うことも出来ないのになんでそんなことしたの?である。そこに至るまでの経緯には当時ティルが一人置いていかれた事もあり、未だ根に持っていたらしい部分も加えられ、あまりにも長ったらしいので省く。ついでに通りかかったグレミオにもその事をチクられ、はグレミオからも説教と、が一番苦手な彼の心底心配したような表情を見る事になってしまったのだった。
長いティルとグレミオの説教やら怒気やらで、はくたびれた様子でその日の夕飯を作り終えた。仕事を終え自身も食事をすべく食堂へと入った時は、心身ともに疲れきっていた。足取りすらどこか重々しい。視線も自然と地面と向けられており、その時の彼女は前方不注意であった。その為食堂に入ってすぐに、誰かと衝突したのである。
緩慢な動作で首を上げ、ぶつかった相手を見ると、本日二度目の再会であるシーナが、同じく地面に向けていた視線をゆっくりとへと向けた。
「・・・なんだ、あんたか。」
の顔見て、シーナはぽつりと弱弱しく呟く。彼の顔は酷くやつれていて、あの後どれだけ彼の両親たちに絞られたか一目でわかりそうな程であった。
憔悴しきったた様子の彼についさきほどまでティル達に絞られていたは、仲間意識が芽生え同情の視線を向ける。
「相当、絞られたみたいだね。」
「ああ・・・そういうあんたも、なんかやつれてないか?」
濁った死んだ目をしてふっと笑ったシーナであったが、の同じく自分のように疲れている様子を見て、思わず尋ねる。もまた彼と同じく死んだ目をして口の端をあげた。
「ティル達に怒られちゃって・・・・帝国兵と関わった事、教えてなかったから。」
ふふふと笑いながら告げるに、シーナは彼女もまた自分のような目にあったのだと同情の視線を向けた。お互い仲間意識が芽生えた瞬間である。
「ティル・・・・ああティル・マクドールか・・・?」
の話に出た、脳裏にひっかかったその名を尋ねれば、は彼の言葉に頷く。それにシーナはやはり緩慢な動作で首を横へと倒した。
「ティル・マクドールといえばこの軍の軍主だろ?なんで、一使用人のお前が、そんなお偉いさんに怒られなきゃならないんだ??」
シーナは風の噂で解放軍軍主のリーダー、ティル・マクドールの名を聞いていた。というか既に赤月帝国では誰もが帝国へと対抗する彼を褒め称えている。
彼の名を知らないのは相当なもぐりだけである。そして過去ティルの名を聞いても気づかなかったその相当なもぐりであるは、彼のいう事ももっともだと頷きながら、恐らく彼がまだ知らないであろうティルという人物について話す。
「それが・・・シーナももう会ってるよ。大広間にいた男の子だよ。」
「男の子って・・・・ああ、あの滅茶苦茶綺麗な顔した?・・・・え?」
「うん、その子がティル・マクドール。」
彼の心情は、も過去味わった事があるので大変よくわかる。
「あ、あんな子供が・・・・!?」
「そう、あんな子供が。」
信じられないといった様子のシーナに、 はうんうんと頷きながら答えた。やはり解放軍リーダーが少年だとは、思いもしないだろう。
シーナはやはり信じられないようだったが、ここで彼女が嘘を告げても何にもならないだろう。驚いたような感心したような声をあげた。
「そうなのか・・・あいつが・・・・。」
そういえば、大広間で会った彼は少年で同年代であろうというのに、大分食えない雰囲気であった。それによくよく思い返してみれば、自分は彼に敵意を向けられていたような。そして自身の最大の弱点ともいえる両親に突き出されたのも、彼の仕業であったような。そこまで考えシーナは再び、首を傾げた。今度は反対の肩へとである。
「つか、あいつなんなんだ?」
「え?」
は訳がわからず聞き返す。
彼女はそのティルという少年であり軍主である彼に、自身のように絞られたようであった。それは帝国兵とひと悶着したを心配してのことであろうが、それでも過剰すぎるような。そう思ってのシーナの言葉であり、丁度食堂内へと入ってきたその人物を見て思わず親指で指し示していた。
「だってお前の彼氏、あの金髪だろ?」
は彼の指し示す方向を見る。そこにはを長々と説教していた事から、溜まった仕事を処理していた為遅れて食堂へと入ってきた二人。そんなティルの手伝いをしていたグレミオと、当人であるティルである。
達は食堂出入り口からさして離れていない場所に立っていた。食堂に入り、数歩歩いたくらいで互いぶつかったのだからそれはしかたない、が。その時のシーナの言葉は、思いっきり食堂内に入ってきたばかりの二人に聞こえていた。
グレミオは声がした方向を見て、そのお前、がであり、金髪の彼氏、がシーナが自身を指し示しているため逃れようなく自分を指しているのだと分かると途端冷や汗をかく。ティルといえばシーナを見た彼の笑顔が、とてもイイものであったとか。それを見たシーナは、瞬時に自身が言ってはならないことを言ってしまったのだと気づいた。気づいたが残念なことに、既に遅かった。
「あ、レパントさん。また息子さんがナンパしてますよ。」
丁度、ティル達と同じく幹部であり、長々とシーナへと説教をしていたため溜まった仕事を処理し終え、遅れて食堂へと入ってきたシーナの父、レパントにティルはその笑顔のまま伝えたのだった。
「シーナァァァ!!!」
「ええええ!?」
ティルに言われとシーナを見たレパントの表情は、大広間の時とは比べ物にならないものであった。シーナといえばナンパなどしていない、ただ話していただけだというのにそんな事を言われてしまい頬を引きつらせる。
「貴様あれだけ言ったというのに!また性懲りもなく!!」
「ちがっ親父、違う!俺はそんなこと・・・・!!」
「煩い!言い訳は聞かん!!こうなれば今日一日、もう二度とそんな気が起きないよう説教してやるわ!!」
「ええええ!!!お、親父本当に俺は無じつ・・・・!!!」
息子の襟首を掴みずるずると引きずり、食堂から消えていく親子二人には呆然としていたのだが、我に返ると慌てて二人を追おうとする。シーナの言う通り、本当にナンパなどされていなく、ただ世間話をしていただけだ。
けれど彼らを追いかけ食堂を出る前に、は腕を掴まれていた。
「どこ行くの?」
振り返って は後悔した。先ほどの説教同様笑顔で怒るティルが、そこにはいたのだ。なぜだなぜ再び彼は怒っている。あれだけ怒ってまだ気がすまないのか。
、まだ夕飯食べてないでしょ?もう大分夕飯の時間から遅れてるし、早くしないと冷めちゃうよ?」
「え、いや、でも・・・・」
しかしシーナを放って置くにはあまりにも可愛そうで、はそう言うが彼女の腕を掴んだティルの手は離れそうにもないしティルは怖い。笑顔だけでなく全身から醸し出す雰囲気も怖い。
「美味しいものは冷めない内に、ね?」
シーナ、ごめん。
は昼間のこともあり、我が身可愛さゆえ保身に走ってしまった。というかこんな彼に抗える者がいれば見てみたい。どうにもそんなことが出来る者など、この世界や元の世界を探しても居ないような気がする。はティルに頷きながら、夕飯を食べ終えてからシーナを助けに行こうと思った。どうかそれまで頑張って耐えてくれ、とやつれた表情を浮かべていた彼に心の中でエールを送る。夕食後、同じく彼を不憫に思ったらしいグレミオと共に、はレパントに説教をされているシーナの元へと向かったのだった。




BACK / TOP / NEXT