Skyting stjerner1-28

(・・・・ボク?)
届いた声に、は首を傾げる。華奢な声は、声変わり前の少年よりも高かったからだ。ボクというのなら男の子なのであろうが――なんとなしに気になって、は声のした方向へと視線を向ける。声の出どころは、人ごみからではない。少し離れた場所からであろう。はベンチに座りながら辺りを見回し、そしてひと気が薄れている壁際に、一人の少女と、彼女を囲む数人の男達を見つけた。
「おお!そんな警戒すんなって。」
「ただ、俺達は君がどこから来たのか、知りたいだけだからさぁ」
言い寄られているのは壁際にいる少女だ。彼らのどこか粘り気のある声に、は顔を歪めたが、壁際にいる少女を見て思わず目を見張った。
「近寄るな!ボクは、戦士の村から来たんだ!お前達なんか、あっという間に倒せるぞ!!」
ボク、そう告げる彼女は、どこかの民族衣装のようなものを着て、燃え上がる火のように見事なまでの赤く長い髪をみつ編みに編みこんでいる。華奢な体に陶磁のような白い肌をした少女であった。
(か、かわいい・・・!)
は思わず衝撃を受ける。容姿からして、既に希代な美少女である上に、一人称がボクである。これは男でなくてもぐっとくるものがあるだろう。
彼女は長い睫毛に縁取られた、赤褐色の大きな目を吊り上げ、前にいる男たちを睨みつけている。可憐な少女のその様子に男達がにやにやとしていしまう心情もわかる、と思っては慌てて我に返った。何をばかなことを!自分は馬鹿か!彼女は恐らく今、ピンチであった。出身地を知りたいと言っている彼らだが、あからさまな常套句で、それだけで引き下がるわけがない。
案の定男達はしまりなくだらしない顔をして、少女を見下ろす。
「そっかー、あんな遠い南西にある所から来たのか!それは疲れただろ。」
「せっかく戦士の村から来たんだ。俺達がこの街を、案内してやるよ。」
「ついでに、嬢ちゃんの疲れもとってやるって。」
戦士の村とはどこだ、とは思いつつも、にまにまとしながら先ほどからか変わらず粘り気のある声で言われた内容に、は思わず生理的嫌悪から背筋に虫唾が走った。
少女も彼らに嫌悪を抱いたのか、目くじらを立てて彼らを睨みつける。
「別に、案内なんていらないさ!ボクはもう帰る所なんだから!!」
「そんなこと言うなって〜あと一日ぐらい、お兄さん達といようぜ〜?」
「近寄るな!」
「まぁまぁそう固くなんなって。な?」
どこから見ても、明らかにナンパであった。男達は多勢な上強引で、美少女のピンチである。無遠慮に近づいた男に、少女はすぐさま離れたが、それも積んであった木箱に阻まれそう遠くへは離れられない。
は眉を寄せる。街の人たちはどうしたのだろう。あんなににも可憐な少女が、今にも連れて行かれそうだというのに。人通りが少ない場所といえど道を行きかう人々はいる。自身のように、彼らを見る人もいたはずだ。しかしいつの間にか、少女が囲まれている場所から、人はまったくといっていいほどいなくなっていた。遠くから彼らを見た人もいたが、すぐに視線を逸らし何事もなかったように道を行ってしまう。
なぜ誰も助けない。少女が大の男共に囲まれているというのに、とそこではようやく気がついた。
男達は皆、同じ服を着ているのだ。麻の布に鼠色の上着の胸元には、金の刺繍で同じ印が縫われている。この世界に疎いでも一度は見たことのあるそれは、甲冑こそしていないが赤月帝国軍の印だ。気づいたは、内心慌て始める。グレミオの言葉を思い出したからである。
(「ちゃん、警戒を怠らないようにしてくださいね。特に、帝国兵には気をつけて。」)
グレミオは街に入る前にそう告げていた。街中で帝国兵らしき者を見かけなかったこともあり、はすっかりそれまで警戒を緩ませていたのだが。
誰も少女を助けないのは彼らが帝国兵だからだろう。グレミオはこの街が、相当帝国から圧力を掛けているようだと推測していたが、確かにその通りであるらしい。
街の人々は誰も見てみぬ振りをして通っていくが――その中には、少女を見て気の毒そうな顔をした者もいるのだ。それでも彼らは、少女を助けるようなことはしない。相手が帝国兵だからだ。逆らうものには容赦はないという。義賊であろうとも裁判など酌量の余地なく、帝国に歯向かったからだと処刑しようとした事もあるのだという。義賊で磔にされていた彼ら、バルカス、シドニアはそこでティル達に助けられ、――そもそも、何も知らずに捕らえたのは当時、帝国軍に着任したばかりのティル達だった為、すぐに和解は出来なかったが――後に、借りを返す為、と彼らは解放軍入りした。
今では彼らもティルを認めて、少ない酒の肴に、帝国軍の圧政について愚痴を零している。その数々や、処刑されかけたことなど、武勇伝とばかりに酒の勢いで大きな声で、陽気にバルカスは話しているが、数日磔にされていた彼や、逃げる術を持っていても、バルカスを残して一人逃げることをよしとしなかったシドニアも、手首には未だ縛り付けられて傷や、鞭打ちの跡が残ったままだ。
人々が帝国を恐れるのも当然だ。も、その気持ちは痛い程に分かる。
「近寄るな!!」
分かる、が。ぐらぐらとした腹の底から沸く感情に、気が付けば足が動かされていた。
感情と理屈は違う。グレミオに帝国兵に関わらないように、は言われていた。しかし、は少女の悲鳴のようにあげられた大声に、おい待てよ、何をやっている、と冷静に外から指摘する理屈とは他所に、飛び出さずに入られなかった。
「なんだ、お前は?」
さて、どうしよう。思わずベンチから立ち上がると、駆け足で少し離れた少女の元へと行き、庇うように前に立ってから は今更ながら冷や汗をかく。
自分は戦う力などない。だというのに少女を庇うように帝国兵の前へと出てしまった。――けれどここで見捨てるわけにはいかない。きっとここで少女を見捨てれば、もっと後悔することは目に見えているからだ。
は少女の前に立ったことにより、近くに立つ男達を前に、少し怯えながらも見上げた。
「・・・えと、あの、こういうのは、やめたほうがいいじゃないかなぁと。」
決意したのはいいが、顔を引きつりながら告げた言葉はどこか怯えを含んでしまい、武器もないのでめちゃくちゃ下手である。
が無事この場を解決する方法は、和解しかない。なので良心に訴えかけてみたのだが、男たちは突然少女を庇うように現れた彼女に丸めた目を更に丸めて、少し間を置いてから笑い出した。
「嬢ちゃん、勘違いしてるぜ。俺達はただ、その子にこの街を案内してやろうと思っただけだぜ?」
「そうそう。で、その子が疲れてるってんで、その疲れも癒してやろうと思ってなぁ。」
嘘付け。 は内心毒つく。そのにやけ顔で下心丸出しな連中に、そんなことを言われて誰がはいそうですか、と納得できる。
「彼女はもう帰るそうですよ。」
は少女の言葉を思い出し、そう言ってみる。すると男たちは一瞬眉をしかめて、邪魔するに剣呑な雰囲気を出すが、一人の男が唐突に軽く笑った。
「なんだ、嬢ちゃんも街を案内して欲しいのか?いいぜ、案内してやるぜ。」
ほら、と腕を伸ばしてきた男からは慌てて退く。誰が言ったかそんなこと!だが退くとすぐに反対の腕も伸ばされ、は思わずその腕を叩き落とす。
「ってぇなぁ・・・・。」
途端辺りの空気がピリピリとしたものになってしまい、は焦る。反射的に叩いたそれが、少女のナンパを邪魔したことに加え、男たちの神経を逆立てしまったようだ。
「下手にでれば調子に乗りやがって・・・ちょっとばかし、痛い目にあいたいらしいなぁ?」
お前等がいつ下手にでたいつ。 は思わず突っこんだが、それが声に出ることはなかった。戦闘及び喧嘩には無縁に生きてきたにとって、男たちが出す不穏な空気に気圧されていたのだ。どうすればいい。こういう場合はどうすればいい。けれど打開策を出す前に一人の男がへと拳を振りかぶした。
(ひいいいいいい!)
女に手を上げるとは卑怯な! は慌ててそれを横へと飛んで避けるが、避けてから気づく。自分は少女を庇うようにして前に立っていたのだ。が避けてしまえば、その拳は少女へと向かってしまう。
「避けて!!」
は避けた手前、素早く少女を庇うことも出来ず、声を張り上げる。けれど少女は動かない。遅かった。彼女は恐怖で動けないに違いない。は少女のことを考えず拳を避けてしまったことに、胸中を罪悪感に支配されたが、それは長くは続かなかった。
「うおっ!?」
彼女の細い体ではきっと吹き飛んでしまう――けれど逆に声をあげ、伸されたのは男の方だった。は瞬きすら忘れて、平然と立つ美少女を見る。
が罪悪感に支配された間に起こったこと。それは少女がまっすぐに振りかぶられた拳を、右手で往なしその腕を左手で掴むと、大の男を一回転させ地面へと叩きつけたのである。
今のはなんだ、映画か。もしくはまさかのフラッシュモブか。華奢な少女が男を一回転させて地面に叩きつけるなどという凄技、は見たことがなく、思わず現実逃避に陥りそうになった。
「痛い目にあいたいのは、そっちらしいね。ボクは加減しないからね。」
胸を張り言い放つ少女は実に可愛らしいが、先ほど男を軽々と伸した光景を見てしまったは、思わず頬を引きつらせそうになった。
これ、もしかして自分が助けに入る意味などなかったのでは――。
しかし華奢な少女にあっという間に仲間を伸されたのを見た男達といえば、のように怯えることもなく、逆に酷く憤慨してしまったようだ。
「なんだと!?女だと思って手加減してやれば・・・・おい!やっちまえ!!」
息巻いた男の号令がかかると、同じく憤慨した男達が襲い掛かってきた。これはいかに少女が強かろうと5、6人もの男を倒すのは難しいのではないかとは危惧したのだが、少女は振りかぶられる拳達を余裕を持って綺麗に避けて、肘を男の顔面へと叩き込んでいた。これは痛い、と思わず当事者のように顔を歪めただったが、すぐに自身にも危機が迫っていることに気づいた。
襲い掛かってきた男たちの相手は美少女だけではない。助けるように入ったまで、当然標的に入っていたのだ。気づけば拳を上げ接近してきていた男に、慌てて距離を取ろうと離れるが、恐怖と不慣れな事になかなか足が旨く動かずもつれてしまう。最初の一発目は慌てて上半身を屈めたため、なんとか避けられた。二発目もまた這うように壁際へと寄ることで、当たることなく終わる。 三発目を避けようと、二発目同様後ろへ下がろとし、そこでは背後が壁だったことに気づいた。考える暇もなく真っ白な頭で避けていたため、壁際へと逃げていたことも忘れていたのだ。間一髪で避けたその一瞬が、手遅れとなってしまった。
顔面へと迫った拳に、だから女の子に手をあげる、しかも顔面だなんて親父にも殴られたことないのに!とは内心動転し叫びながらも覚悟をする。
けれどそれは、予想外にあたることはなかった。振りかぶられた拳は、横から出された誰かの手の中に納まっていたのだ。
「――女の子に手を上げるなんて、感心しねぇなぁ。」
色気を含んだテノールの声が、横から入ってくる。 は力強く振りかぶられたはずの拳を、自身の顔面手前で押しとどめたその人物を見た。
一見金髪かと思える明るい茶色の髪を短く切り、凛々しく釣り上がった涼しげな目、ゆったりとした衣服の襟元からは鎖骨を覗かせた長身の美青年が、男達を睨みつけていた。
「なんだ、てめぇは!!」
拳を止められた男がいきり立てば、美少女へと迫っていた男――既に彼女の手により3人ほど地面に付しているため、残りの一人が新たな参入者へと目を向ける。
男はそんな彼らに口の端を上げた。「・・・俺か?」
「俺は、シーナ様さ!」
彼はそう言い放ち、美少女へと向かっていた男とを殴ろうとした男が、自身へと向かってくる前に、の腕を掴みその背へと庇う。そして近場にいた男には顔面へと拳を叩き込むと、次いで襲い掛かってきた男にも、その拳を往なして腹へと蹴りを打ち込むのみで見事男達を撃沈させたのである。
「大丈夫かい?お嬢さん達。」
男は背後に庇ったと美少女を見た。

――決まった。
男ことシーナは内心そう思っていた。
実は彼、美少女が男たちに迫られていたところから見ていたのである。しかしすぐに助けることはせず、気丈な少女が怯えた様子を見せるなりして、折を見計らい少女を庇いに入る算段をしていたのだ。そして男たちを倒したところで、美少女へと声を掛ける。――そう彼はナンパ野朗だった。
しかし、そうした上手くやって美少女といい雰囲気になろうという算段は、思わぬところで崩れる。 突然誰も助けないだろうと思われたその場に、少女が入ってきたからだ。彼女は美少女を庇うように立つ。
シーナはここで、自身の目論見が失敗してしまったのだと落ち込んだ。少女は一見、どこにでもいる街娘に見えるが、帝国兵と渡り合おうというのだ、きっと相当な腕が立つのだろう。 彼の母は大層な美人であり、また一児の母とは思えないほど華奢な体だというのに、とんでもない紋章師である。女は見かけによらないのだ。シーナは、間を見計らってないでさっさと助けに入っていればよかったと心底後悔した。折角の上玉が。けれど、ここで更にシーナに予想外なことが起きる。庇いに入った少女は怯えまくり、男たちと和解しようとした挙句、襲い掛かってきた男に反撃することなく避けたのだ。つまりは本当に普通の街娘であったらしい。
しかも当初迫られていた美少女といえば、逆に簡単に大の男をのしてしまっていた。その動きは相当な手練である。
目論見が外れたのか外れていないのか。美少女はピンチではないが庇いに入ったはずの少女はピンチである。なんともいえない気持ちになりつつも、とりあえずは少女たちが男たちに襲われているのは確かなので、それを放って置くことなど女性を大切にがモットーなシーナには出来るはずがない。そうして今にもやられそうだった少女から拳を庇い、当初通りその経緯は外れてしまったが男達を倒したシーナは、彼の経験から思った。これでこっちのものだと。
それなりに彼も、自身の母親譲りの顔が女性受けしているのを理解しているのである。だから、そんな自分がピンチに颯爽として現れ助ければ、女性は胸をときめかせてくれる。そこが付け入るチャンスだ。しかし、そうした彼の目論見はまたもや崩されてしまうのだった。
「あんた、大丈夫かい?」
美少女はシーナに目をくれることなく、シーナの背後へと庇われていたへと声を掛けていた。声を掛けられたといえば、間近で見ても美少女な彼女に声を掛けられた事に、どきまきしながら返事を返す。
「え、はい。大丈夫です。すみません、何の役にも立てず・・・・。」
声を掛けられて高揚した気持ちも、徐々にそれまでの情けない自分を思い出し萎んでいく。本当に情けない。何しに入ったんだ、じぶん。美少女は自身の力で男達を倒してしまったし、はただ逃げるのみであった。情けなさで背が縮まる思いでいるに、しかし美少女は男達に浮かべていたような険しい表情を消し、笑みを浮かべた。
「そんなことないさ。ボクは君が助けに入ってくれて、心強かったよ。ありがとう。そこの男の人、あんたも彼女を助けてくれてありがとね。」
思わず美少女の笑みに見惚れた上で、彼女の言葉に感動するの一方。自身の存在をスルーされ、ついでのように言われたシーナはちょっぴり寂しい気持ちを抱きながらも笑みを浮かべた。
「いや、男として女性を助けることは当然のことだろう?」
「そう、そうだよね。ったくあいつったらなんでこんな時に・・・・。」
途端、華やかな笑みを浮べていた美少女は、顔を険しくさせる。俯きがちにぶつくさと呟かれたそれが、どういうことか尋ねる前に、美少女はそれまでの険しい表情を消し顔を上げる。
「ボクはテンガ。テンガアールだよ。君は?」
は目を瞬かせて自身を見てそう尋ねる美少女ことテンガアールを見る。そして確認するように自身を指さしてみれば、彼女は「他に誰がいるの?」と笑いながら頷いた。
シーナ、完全に眼中なし。それは男達と戦ってる最中、彼が既に名乗ったからではあるが、わかっていてもやはり寂しいものがあり、シーナは浮かべた笑みが引きつりそうになった。
「私は 。ええと、テンガ。ごめんね本当に。助けてあげることが出来なくて・・・・。」
「いいって言っただろ?ボクは戦士の村の子だからね、強いんだ。それより、が無事でよかったよ。」
「テンガ・・・・。」
なんとも可愛らしく格好いいテンガアールに、は感動の念を覚えずにはいられない。自分が男だったら絶対惚れてるな、と思いつつ、一方男であるシーナは彼女はちょっと、彼女にするには向いていないかも・・・・と思い始めていた。美少女で気丈な彼女はシーナの好みだが、下手をしたら自分より彼女は強いかもしれないのだ。それは男として不甲斐ないし、気が強すぎて彼女に尻に敷かれるのも遠慮したい。見たところ彼女は、その腕前と同じぐらい気性も強そうだ。けれど彼女はとびきりの美少女である。是非ともお近づきなりたいという気持ちは拭えない。そうだ、気性の強い彼女を自身に惚れさせ弱弱しくさせるのもいいかもしれない。そうだそうしようそれがいい。
しかしシーナが本格的に彼女を落とそうと、思ったと時だった。
「テンガ!」
「っヒックス!」
その場に新たな声、それも男のものがしたかと思えば、テンガアールは誰よりも早くそれに反応して、声をあげて彼を振り返る。
両手に紙袋を抱え、灰色とも言える薄い黒髪に緑のはちまきを揺らした少年が慌てて駆け寄ってくると、テンガアールは険しい表情を浮べた。
「こ、これは・・・・」
その場のあちこちに倒れる帝国兵に、動揺も露に理由を尋ねようとした少年、ヒックスだったがそれをテンガアールの怒声が遮る。
「どこいってたんだいヒックス!」
「ど、どこって・・・・村の用事で買い忘れたものと、旅で減ってしまった食料を買いに・・・・。」
「遅い!遅すぎるよ!なんでそんなに時間が掛かるんだい!?」
「ご、ごめんよテンガ・・・。」
いきり立つテンガアールに、彼女の知り合いらしいヒックスはたじたじである。
は美少女に睨みつけられ怒られる彼に、少し同情の念を抱いた。どんな顔でもさまになる美人は、怒りの顔も相当迫力があるのだ、と既に某軍主で経験しているは今現在美少女に怒られる不憫な彼を見る。テンガアールは腰に手をあて、最初ほどではないが、それでも声を荒げる。
「もう!君を待ってる間こんな輩に絡まれるし!さっさとこんな街出るよヒックス!!」
「う、うん・・・・テンガ。」
「何だい!?」
テンガアールは眉間にしわ寄せたまま彼を見たが、彼女の勢いにヒックスは一瞬怯えたものの、テンガアールの鋭い眼光に負けず、意を決したように口を開いた。
「無事で・・・・よかった。ごめんね、君のピンチに駆けつけられなくて・・・・。」
ヒックスは彼女が無事なことに、安堵したかのように息を吐く。その顔は既に脱したものの、彼女の危機に駆けつけることの出来なかったことに対する後悔がにじみ出ており、テンガアールはそんなヒックスに、それまでの勢いを嘘のように消して彼を見た。
「ヒックス・・・・・。」
若干目を潤ませ、頬を高潮させてヒックスを見るテンガアール。そんな彼女に後悔の色は消えないものの、彼女が無事なことに喜び、優しく愛しそうに見つめるヒックス。
あれ、なんかいい雰囲気?私邪魔?そう思ったのは何もだけではない。 よりも断然恋愛経験の多いナンパ師、シーナもまたそう思った。シーナは溜息をつきそうになるのをぐっとこらえる。どうみたって相思相愛。落とそうとした美少女ことテンガアールは彼氏持ちであったのだ。意気込んでいたため残念に思わないはずがない。
(なんだよ、彼氏持ちかよ・・・・いや、待てよ。)
自身の労力は無駄であったと思い始めて、シーナは考えを改める。この場にいるのは何もテンガアールとヒックス、自分だけではない。もう一人いるのだ。
「テンガ、帰ろう。」
シーナの思考を遮るように、ヒックスが両手に持ち抱えた荷物を右手へと持ち替え、テンガアールへと手を差し伸べる。テンガアールは差し出された手に頬を高潮させながら、躊躇わず自身の手を重ねた。その表情はとても嬉しそうで、彼女が彼に好意を持っていることが傍からでも伺える。そして歩き出そうとした二人だが、ふとテンガアールが足を止めて、ヒックスが現れてから外野となりその場に佇んでいた、達に振り返った。
!君がボクの住む戦士の村に来た時は、歓迎するよ!いつか、遊びに来てよ!」
ここでまたもやシーナは除外されていたが、それはしかたないと思ってもらいたい。互いにピンチを切り抜けた同年代同姓同士、何か築かれるものがあったのだ。
特には戦う術を持たずに、テンガアールを庇おうとしたのである。誰も助けに来ようとしないというのに飛び出してきただけでも、彼女に好印象を与えたというのに、その力もなく怯えながらも庇おうとしたのことをテンガアールは好ましく思っていた。
といえばテンガアールにそう言われて、嬉しくないわけがない。笑みを浮かべて声を上げた。
「うん!いつか行くから!テンガも元気でね!!」
ヒックスは状況がわからなく、何か聞きたそうであったが、彼女たちの雰囲気に水を差すわけにも行かずテンガアールに即されるがまま、二人はその場から去っていったのであった。
そんな彼女たちを見送りながらシーナといえば。背が見えなくなるまで彼女たちを見送るを、横目で値踏みするような見ていた。
シーナが助けたうちもう一人の少女。正確にいえば、彼が助けたのは彼女だけであるが。テンガアールが駄目になってしまった今、シーナの口説き対象はへと向けられつつあった。
足のつま先から頭の全身をくまなく見て、
(まぁ・・・普通、だな。)
と、本人が聞いたら分かっていても失礼な評価を下したシーナである。
「しかし、お嬢ちゃん・・・ ちゃんだっけか?君が無事でよかったよ。」
笑顔を浮かべて、シーナはへと話しかけた。テンガアールは彼氏持ちで失敗してしまったが。ここまでして、誰も口説けずにいるなどシーナのナンパ師としての沽券に関わるといった実に馬鹿馬鹿しい考えを抱きながら、シーナはを口説くため全力で向かうことにした。
「はい。シーナさん、でしたよね?助けてくださって、ありがとうございました。」
「いいや、男として女性のピンチは捨てて置けないだろ?」
そう言ってシーナはにウィンクをかましたのだが、しかし残念ながらシーナが関わってきた大抵の女性のように顔を赤らめるといったことはなく、 は変わらぬ笑みを浮かべていた。
以前のならば、例に漏れず顔を赤らめていただろう。しかしこの世界に来てからというものの、最初こそドワーフのおっさんに囲まれて、というものであったが、今考えればやたらと美形に会うことが多い。それも最近では天然だと思いたいタラシ男とよく共にいる為ついてしまった耐性で、はシーナの言動だけでは動じなくなっていたのだ。
今は離れているが某抱きつき魔や某天然かっこはてなかっこと閉じなタラシに比べれば、可愛いものである。彼は美青年のため格好いいとは思いつつも、抱きつくこともなくさらりと恥ずかしい言葉も言わない。これが普通の対応なんだよなぁと はいつのまにか自身の認識が少し変わっていることに若干遠い目をしそうになった。
「あ、」
そこでは思い出す。彼女の様子に、これは意外にも落としがいがありそうだと思っていたシーナは優しく尋ねた。
「どうしたんだい?」
声を掛けられたがは、それどころではなかった。荷物がない。買い出しで買った荷物達が。それはそうだ、テンガアールの元へ行こうとした時は何も考えていなく、荷物を一緒に持ってくる事など頭になかった。ということは、だ。
「す、すみません!これで失礼します!本当に、助けてくださってありがとうございました!!」
荷物はベンチに置きっぱなし。加えて駄目押しとばかりにグレミオに帝国兵と関わるなと言われたというのに、関わってしまった。彼がまだ帰ってきていないのならばれる事はないだろう。
幸いなことに、路地から見る限りベンチに置いてある荷物は取られた様子はない。グレミオもまだ帰ってきていないようだ。
は頭を下げて、それだけ言うと素早く身を翻し、急いでベンチへと戻ったのだった。
「・・・・なんだぁ?」
突然ベンチへと向かってしまったにシーナは首を傾げたが、そこに沢山の荷物があることに、荷物番を頼まれていたのだろうと検討がついた。 ならば彼女についていき、ナンパを続行しようと思い足をそちらへと向けたのだが。
シーナがその場にたどり着く前に、ベンチに座っていた彼女が突然ある方向を見て、安堵したかのように笑みを浮かべた。彼女の視線を追ってそちらを見てみれば、人ごみを掻き分け少々速い歩みでの座るベンチへと向かう男性が一人。
シーナは嫌な予感がした。その男性はへと柔らかい笑みを向けて、やはりの元で歩みを止め、もそんな彼に大好きだといった感情が傍から見ても伝わってくる程、シーナに向けていたそれとは違う、柔らかな笑みを浮かべたのである。
彼女らの様子にシーナは頬を引きつらせる。
(彼氏もちかよ・・・・!)
こうしてこの日のシーナは珍しく、2連続でナンパに失敗したのであった。



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