Skyting stjerner1-25

それからしばらくして、泣きやむと同時に人前で泣いたという羞恥に見舞われたは、それまでのしんみりとした空気を一掃するかのように、声をあげた。
「グレミオさん!そんなわけで明日、私に任せてくれませんか!?」
唐突に体を離すや否や、そう言い出したに、グレミオは目を瞬かせる。
「ええと・・・・何がどういうわけで、明日の何を・・・・?」
の省略に省略を重ねまくった言葉に、何から何までわからなかったグレミオは、戸惑いながら尋ねる。 はそれにしまったと、ようやく省略しすぎてしまったことに気づき、苦笑いを浮かべた。
「ほら、私、真の工の紋章なんて役に立たないものを持ってるじゃないですか。でも、それでも、ちょっとした事なら出来て。たとえば料理とか。」
そこまで言えば、グレミオは彼女が言いたいことを察したらしい、ああ、と頷き彼女の続きを口にする。
「明日の宴のことですか?」
明日はクワンダ軍を打ち破ったということもあり、城内で戦勝の宴が開かれるのだ。本来ならば今日行いたいのだが、帰ってきたばかりの面々を考慮して明日行うことになっていた。はグレミオの言葉に頷く。
「私に宴の料理、任せてほしいんです。」
折角の戦勝の宴だ。彼らが喜ぶようなものを作ってあげたいとは思う。真の工の紋章を使ってしまえば、限られた材料でも、素材を最大限に生かしたものを作れる。
それは過去一度、ドワーフの村で使用したことがあるからこそ知っていた。あれは相当の美味であったと、は覚えている。その後ヒューイを初めとしたドワーフ達に、そんなくだらない事に使うなと怒られたが。としては、そこで使わずどこで使うのだこんな役に立たないもん、といった心境である。
「真の紋章を使えば、相当美味しい料理が作れるから。折角の勝利ですもん。私に明日の宴の料理、任せてほしいんです。」
紋章の宿る右手を掲示して、は言う。黒い手袋で見えないが、その下の手の甲には、工の紋章が刻まれている。 的に我ながらナイスアイディアなのだが、けれどグレミオの顔色は渋い。
「・・・それを使用して、ちゃんに負担とかは掛からないのですか?」
大きな力には、それ相応の代償がいる。だからこそのグレミオの言葉だったが、はそんなグレミオに笑みを浮かべて否定した。
「掛かりませんよ!だって、料理を作るだけですもん!」
しかし言い方がいけなかったようである。他人の心に機敏に反応し、些細なことでも見逃すことの無いことが長所であるグレミオは、珍しくも眉間に皺を寄せた。
「・・・・もしかして風火砲を作ったの、ちゃんですか?それでちゃん、倒れちゃったんじゃないですか??」
まさか見事に真実を言い当てられるとは思わず、は目を丸めると、僅かに息を詰まらせる。はすぐにまさか!と笑い飛ばそうとしたのだが、その前にその一瞬すら見逃さなかったグレミオが、険しい表情のまま息を吐いた。
「おかしいと思ったんですよ。旅の間、ちゃんは確かに疲れている様子でしたが、倒れるほどではなさそうでしたし。それに、ちゃんはドワーフの村、延いては大森林で暮らしていたんですから、疲れて見ず知らずの土地で、体調を崩すといったことも抗体があるでしょうに、ちゃんはドワーフの村で数日過ごしている間に、倒れてしまってましたし。
・・・ちゃんの部屋に入った時、見たちゃんは、凄く顔色悪かったんですよ。あの時は、本当に肝を冷やしましたよ。」
が弁解の口を挟むまもなく、グレミオは既に確信してしまったようである。そこまで言われてしまえば、さすがに言い逃れることも出来ない は険しい顔で、このまま説教へと突入しそうな彼に、慌てて口を開いた。
「え、と。・・・・その!すみませんでした。」
本当に心配したような顔で見てくるグレミオを見れば途端、の口からは謝罪が出ていた。グレミオのその表情に、は弱い。自然とそんな顔をさせてしまった自分が悪いのだと思ってしまう。
心の底から反省したようなに、グレミオを普段よりも長い、息を吐いた。
「もう、済んだことですし、助かりましたから、いいんですけど・・・・。 ちゃん、助けてくださってありがとうございます。けど、もう二度とあんなことしないでくださいね?」
「でも・・・」
そうは言われても、はもう一度あんなことがあるならば、間違いなく使うだろう。彼らがを助けてくれたように、もまた、彼らを助けたいのだ。それに倒れても、命に別状はない。そこまで警戒する必要もないと彼女は思っていた。グレミオは首を振って、の言葉を遮る。
ちゃんは、そんな事はしなくていいんです。元気でいてくれれば、それが一番ですから。」
グレミオに真剣な表情でそんなことを言われてしまえば、 は眉を寄せつつも頷くしかなかった。グレミオはそんなほっと息を吐いたのだが、このままでは明日のことまで流されそうだと察したは慌てて口を開く。
「でも!明日!明日だけは私に任せてくれませんか!?」
すかさず、グレミオの鋭い視線が飛ぶ。は僅かに怯んだが、それでも彼が何かを口にする前に言う。
「料理とか、軽い事だったら、全然疲れませんし!本当ですよ!この服だって、紋章で作ったんですから!だから、やらせてください!」
は必死にそう口にした。グレミオといえば、いつもが着ている服が自作であったことに少々驚いていた。の服は、店に売っていてもおかしくないほど立派な作りであったのだ。と、そこに感心している場合ではなく。グレミオは再び険しい表情でを見るが、彼女も相当真剣な表情で、嘘もついていない様子であった。
数秒、互いに無言になる。互いに真剣な表情であったが、先に折れたのは、グレミオだった。ややあって、グレミオは溜息を吐き、沈黙を破る。
「・・・・わかりました。でも、無理だけはしないって、約束してくださいね?それと、その時は私もその場にいますからね。」
「はい!」
グレミオの監視つきではあるが、了承は貰えた。ここまで来たら駄目かと思っていたは、表情を明るくして、すぐさま頷く。
グレミオは本当に嬉しそうに顔を緩ませるに苦笑を浮かべた。けれどふと、それが曇る。
「・・・その紋章のこと、坊ちゃんには言っていないのですか?」
「ティルですか?」
思っても見ない内容に、は目を瞬かせる。がこの話をしたのは、グレミオだけだ。知っているというならば、元から知っているドワーフの村の面々と、暮らしているうちに自然とばれた彼もだが。なのでは首を振る。すると、グレミオは眉を寄せてどこか深刻そうな表情で「そうですか。」と頷く。
「坊ちゃん、 ちゃんのこと大切にしてますから。 ちゃんさえよければ、話してさしあげて欲しいんです。」
グレミオは笑みを浮かべていたが、それはどこか陰のあるものだった。は内心首を傾げるが、グレミオに話したのだ。ティルに話さない理由もない。彼もまた、受け入れてくれるはずだと、は思えた。
「・・・・はい。機会が、あったら。」
急にそんなことを言い出したグレミオに戸惑いながらも、は頷いたのだった。


***


「おおおおお!!!」
宴会場である食堂にて、軍主であるティルの音頭から始まり、まず初めに料理を口にしたビクトールは、大声をあげた。
「こ、これ旨ぇ!!なんだこれは!?」
「本当ですね・・・凄い。こちらも美味しいですよ、ビクトールさん。」
「いつもより、豪華だとは思ったが・・・こうも味が違うものなのか?」
ビクトールに続き、料理を口にしたキルキスが目を瞬かせ、食べた途端に固まっていたクレオもまた、呆然と呟いた。
テーブルには北京ダックに、シュウマイ、スペアリブ、からあげといった肉料理を中心に、沢山の料理達が並べられていた。 炒飯、麻婆豆腐、エビチリといった中華が大めなのは作った が見る限り、この世界は西洋より中華の文化が濃いことを配慮してである。勿論技巧を凝らし飾られた刺身や、白魚のソテー、オードブルなどといった和や洋もある。
前回の宴よりも多い品々に、戦勝だから、と彼らは大して驚くこともなかったのだが、その味には心底驚いていた。ティル達のついているテーブルより離れた席に座るは、それを聞いて思わず頬を綻ばせる。工の紋章を使って、とずるい方法ではあるが、作ったものを美味しいといってもらえるのは嬉しいものだ。も炒飯を一口口にして、その味が美味であることにさすが工の紋章。こういうときに役に立つ、と紋章の疎ましさも忘れ、感動していた。
「これ全部、ちゃんが作ったんですよ。」
しかし、突然のグレミオの言葉に、それを聞いた者からは一気に視線を向けられる。ティル達も同僚達も、である。というか、食堂内に集まった者ほとんど全員といっても過言ではない。それほどまでに料理は美味しく、誰もが感動していたのだ。 といえば、突如向けられた注目の視線に、蓮華を口にしたまま目を瞬かせる。数瞬後、慌てて間抜けな様を晒していたことに気づき、蓮華をテーブルの上に置き、炒飯を急ぎ咀嚼し嚥下してから、唐突にそんなことを口にしたグレミオへと振り返った。
「グレミオさん!」
「事実でしょう?」
対するグレミオといえば、笑顔である。は頬を引きつらせた。
が力を使う上で、誰かに見られるのは得策ではなかった。何しろ、料理に使うといえど、世界に数多ある紋章の欠片ではなく、世界に27しかない真の紋章である。そんなものを、易々に人に知られてはならない。その為、料理担当の者たちには暇をだし、とグレミオだけが厨房に篭っていたのだが。
そのことでもし、誰かに追求されたらどうするかという話で、代々家に伝わる秘伝料理を知ると、グレミオの内緒のレシピの合わせ技で、昨夜から頑張って二人して作っていた、という話にすることにしようと決めていた。最初こそコック達を日雇いで連れて来た、という話にしようとしたのだが、それでもその姿を門番や他の者達に見られてないのはおかしいという事で、だったらもう、と半ば自棄糞気味にそんな理由にしたのである。しかしまさかこのタイミングで言われてしまうとは思わず、 は思わず唖然とした表情でグレミオを見る。
確かにそういう話にしようとはした。だが、こうにも注目を一身に浴びてしまうと、そんな視線に浴び慣れていないは、ちょっと待て、と言いたくなる。
言葉も出せずにいるに変わって、グレミオがにこやかに達が設定した話をする。
「昨夜から二人で、頑張ったんですよ。 ちゃんのお家に代々伝わる秘伝料理と、私が研究の末、編み出した内緒のレシピを合わせまして。あ、勿論、レシピは皆さんには内緒ですよ?なんて言ったって、秘伝料理と、私の内緒のレシピですから。」
ちゃっかりレシピの内容は聞くな、と注目をする一同に念を押すグレミオである。
がドワーフの村出身といえども、は人だ。人間の親がいて、家もあったのだろうと見当をつけ、がドワーフの村出身である者達も、誰もその辺りに突っ込むことはしなかった。
ちなみに昨夜などと述べてはいるが、実際いつもしている手袋を外し、ついでに右腕に付けている自作の腕輪二つも外し、 腕まくりをして全ての料理が完成されたのはたったの4時間であった。もはや人間業ではない。目にも見えない高速の包丁裁きや、切った途端入れても無いのに具材が勝手に鍋へと入っていく様には、さすがのグレミオとて唖然とし、もまた宿主ながら何度か見ていても、少々の驚きを抱いた。
真の紋章を使えばあれを作りたい、と思うだけで体が勝手に動いたり、多少ありえないだろ、といった事が起こるのである。原理不明などこでも水鏡もそうである。なのではまったく意識していないし、その様を見ているだけであった。さすが真の紋章だけある、といったさまだ。
「ほー、お前さんが作ったのか!前から思ってはいたが、すごいな!」
「え、いえ、その、グレミオさんが、ほとんど手伝ってくれましたし、私はあまり・・・・。」
なぜか静まってしまった食堂内で、テーブルが離れてるということもあり、ビクトールが大声で褒めてくるので、は耐え切れず席を立ち、彼の元へと向かってから否定する。ビクトールの周囲の目を気にせず声を上げるなんてこと、には出来なかった。はお願いだからおしゃべりを再開してほしい、と未だ注目の視線を向けてくる者達に願った。
「謙遜しなくてもいいんですよ。私の方が、ちょっとしかお手伝い出来ませんでしたし。」
グレミオさーん! は思わず心の中で悲鳴をあげた。確かに、確かに が紋章を使って作ったので、その通りではあるが。
「すごいな、。お前こんなに旨い飯が作れるのか。」
「私もびっくりしましたよ。エルフの村でさえ、こんな美味しい料理、食べたことありません。」
「シルビナもないよ!」
「あ、おれもおれも!」
バレリアに続いて、を褒めてきたのはエルフ組である。今回の戦の後、キルキスが解放軍入りしたのだが、その時にエルフの村を間一髪で脱出していたシルビナとスタリオンまでもが、彼に連いて入ってきたそうだ。城へと帰ってきたのは昨日であるが、よく三人でいるのをも見かけていた。とりあえずスタリオンはキルキスとシルビナの邪魔ではないのかと、は思ったり思わなかったり。
「さすが、旨い!飯!! !!」
と、いつかのように飯から連想して名前を挙げたのは、コボルトのクロミミである。彼は無事『びょうき』であった仲間のコボルト達を正気に戻したのだが、この国はまだなおっていない、との事で解放軍入りをしたのだという。それは恐らく、今回の戦いで仲間のコボルト達を正気に戻すのを手伝ってくれたという、恩も感じてのことだろうとは思う。
「グレミオさんが、料理が得意なのは知っていましたが、 さんもお上手なんですね。」
そう言ったのは戦から一足先に帰り、大森林から帰ってきた達を出迎え、特にへと深深と礼を述べた軍師のマッシュだ。彼が纏う雰囲気は柔らかく、いつかこの食堂でに大森林行きを頼んだ時のような、厳格な雰囲気は薄まっている。
彼は微笑みながら、を見ていた。それになんともは心中複雑になる。は自身が作ったとは思っていない。なにせ自身の力でなく、真の紋章に作ってもらったのだから。なのでべた褒めされても困るというものである。しかし、そうとは知らない面々は、グレミオの言葉を受けて更にへと称賛を述べてくるのである。クレオがいつもは吊り上がった涼しげな目を和らげ、整った表情ということもあり、綺麗な笑みを浮かべた。
、美味しいよこの料理。ほら、パーン!お前もがっついてないで、感想ぐらい言え!」
「む・・・・。旨い。 は凄いな。ルックはどうだ?」
勇者!と思ったのは、だけではないだろう。ここでルックに話を振るか、と思うものである。何しろ、彼は人嫌いでこの宴にも、本当に渋々に参加しているのだから。
注目の視線を浴びたルックといえば、眉間に皺を寄せながら口を開いた。
「別に。変わらないよ。」
ルックなら、そういうと思ったよ。いや、まだ卑下されないだけマシかもしれない。 は自身が作ったわけではないと思ってはいても、張り切って紋章を使った為、思わず引きつり笑いを浮かべた。別に気落ちなんかしてない。してないったらしてないんだ。
、美味しいよ。でもルックの言う通り、が作ってくれる料理は、いつも美味しいから。」
そんなやや凹んだに優しい言葉を掛けてくれたのは、やはりティルであった。なんとも嬉しいことをいってくれる。彼の言い方では、変わらないと述べたルックの言葉さえも、良い意味に思えてくる。その言葉を聴いて、視界の隅で顔を歪めさせたルックは、見なかったことにしようとは思う。何事もネガティブな考えより、ポジティブな方がいい。
微笑みながらそう告げたティルだが、ふとそこで眉尻を下げる。
「でもね。嬉しいけど、こんなに頑張らなくていいよ。また倒れたりしたら、どうするの?」
「そうですよ。 ちゃん。」
ティルに続いてグレミオが口を開く。ティルのような心配そうな表情ではなく、微笑みながらを見るグレミオだが、は何故か彼から妙な圧迫感があるような気がした。
「もう無理はしないでくださいね?わかりましたか?」
は思わず頬を引きつらせた。まさか、とは思うが。この面々の前でその約束を取り付ける為に、あのタイミングで調理したのがとグレミオだと言ったのでは。
そうつい、が勘ぐってしまうのも仕方がないほど、その場はに頷かせる雰囲気を出していた。というか、ここで頷く以外をどうして出来ようか。加えて、この場にはティルがいる。ここで頷かなければ、は後々追求されまくり、絶対に頷かされる事になると、なんとなくではあるが確信していた。結果、は解放軍の面々の前で、頷くしかなかったのである。


***


そしてその後、 は自身の席へと戻り、徐々に向けられていた注目の視線も薄れた頃、それぞれが会話に花を咲かせ、今では元通りの宴会会場へと戻ったのだが
ー!ティル様とはどうなのよお!」
宴も竹縄。グレミオが言ったというのに、しつこくへと調理法を尋ねてくる者もいたが、もう諦めたのか誰も尋ねてこなくなるとへと絡んでくる酔っ払いが一人。
と同じ家事手伝いで、同年代であることもあってか、今では同僚内で一番仲の良い、シェリンダだ。彼女はテーブルの上へと身を乗り出すと、を酒で潤んだ瞳で見上げ、そう尋ねてきた。はいい加減聞き飽きたその話題に、頬を引き攣らせる。
「だから何もないんだって・・・。」
うんざりとした表情でそう答えれば、シェリンダの目が怪しく光る。そして次の瞬間、彼女はとんでもないことを口走ったのである。
「なら、私がティル様押し倒しちゃうわよー!いいのー!?」
「お、押し!?」
は唐突にそんなことを言った彼女に、狼狽る。しかし、シェリンダは酒で目が潤んでいることも手伝い、口の端をあげ妖しく微笑むのだから、冗談ではなく本当にティルを押し倒してしまいそうで、思わず頬を引きつらせた。
「ふふふ、シェリンダったら。そんなこと、言わないの。」
そこへシェリンダとは反対側の、 の隣に座るユーリが微笑みながら口を挟んだ。彼女は人気者で、どこもかしこで引っ張りだこなのだが、いつかのようにいつの間にか戻ってきていた事には驚く。するとシェリンダは、今度はユーリへと向き直る。
「でもぉ、あ!ユーリさんってグレッグミンスター出身ですよね!?なら、ティル様ってどーなんですか!?」
「そうなんですか?」
は彼女が言う後半はよくわからなかったが、ユーリがグレッグミンスター出身であるということを始めて聞いた為、少々驚いていた。この世界の地理に疎いだが、グレミオが解放軍入りする前、そこにいたと言っていたので、その地の名前は覚えていたのである。ユーリは目を瞬かせるに微笑みながら頷くことで答え、そして今度はシェリンダの問いに答えた。
「私みたいな街娘に、ティル様の情報だなんて、あまり入らなかったけど・・・・そうね。」
どうやらシェリンダは、ティルの噂を知りたかったらしい。よくよく考えなくても、グレミオが以前住んでいたとなれば、彼の主であるティルもまた、グレッグミンスターに住んでいたはずである。どの動作も優雅なのに加え、グレミオや、パーン、クレオを従者としているくらいなのだから、きっと相当のお家なのだろう。 はユーリがそう言うのもなんとなく頷けた。
ユーリは考えるように顎に手を添えていたのだが、何か思い当たったのか、それを外して達に微笑みながら口を開く。
「床上手だとか、噂はあるわよ。」
「ユ、ユーリさぁん!??」
思わずは口元へ運ぼうとしていた水入りのワイングラスを止め、声を上げていた。危ない、ここで飲んでいたら絶対噴出していた。
ワイングラスとテーブルの上へと勢いよく置き、 は頬を引きつらせながら言う。
「あ、あなた・・・何を・・・!と、というかティルはまだ、私と同じ年で・・・!!」
「あら、帝国は15で成人だとお話したでしょう?珍しくなんか無いわ。男性はないけれど、12歳で結婚する女性もいるのよ。」
動揺も露に言えばユーリは逆に目を丸め、更にを驚かせるようなことを述べた。じゅ、12歳・・・・女性というよりも、子供ではないか。ここは江戸以前か。いくら15で成人であろうが、速すぎる。 にしては、到底想像も出来ないし、信じられないことだ。
なんというかもう、自分は宴になる毎に、こういうネタで驚かなければならないのだろうか。以前はそれまで抱いていた清純なイメージのユーリさん像を、叩き壊されたというのに。は精神的にそろそろ部屋へと戻りたい気持ちになってきていた。もう付き合ってられないこれ以上ダメージを与えられたくはない。
しかしそんなの内心など知りもしないシェリンダは、尚もに絡んでくる。
「そうなんですか!?そうじゃないかな、って思っていたんですけど。よかったわね! !」
「別に、だから関係ないって・・・・。」
ティルが、うんたらかんたらが上手だとか下手など自分には関係がない。というか、としては知りたくなかった考えたくない。力なくそう答えればシェリンダは気分を害したのか、むっとしたように顔を歪める。
「もう!そんなこと言ってたら、ティル様、他の女に押し倒されちゃうわよ!」
「いやだいだぁ!?」
の言葉は途中で悲鳴へと変わった。シェリンダがの顔を両手で挟み、掴んだかと思うと思いっきり横へと向けたからである。これは痛い。突然であるから余計。は思わず涙ぐみそうになり、突然そんな行動をしたシェリンダに、文句を言うとしたのだが、その思考はぴたりと止まる。
シェリンダへと向けられた視線の先は、中央の軍主がつくテーブルだった。そこには軍主であるティルが座っている。
ティルはにこやかに微笑んでいて、その相手といえば、ティルの隣にいるグレミオではなく、クレオやパーン、ビクトールなどでもなかった。見た事はある。綺麗なお姉さんだなと、その時は思ったのだ。美人の女性が2名ほど、座るティルを囲んでいたのである。
色艶に微笑む彼女達は、本当に綺麗で、さえもその微笑を向けられれば、どきりとしてしまうだろう。そしてティルは、彼女らに微笑んでいて。途端、は胃にむかむかとしたものが沸いてくるような気がした。それには驚く。大森林で会った美少女、ビッキーと出会った時もそんな感情を抱いたのだ。
まさか、あのお姉さんにも自分は嫉妬しているのだろうか。確かに自分にはない豊満な胸に、くびれとナイススタイルで、微笑む笑顔も美しい。けれど自分は確かに、以前彼女たちを見かけた時は、綺麗なお姉さんだ、と眼福に洒落込んでいたのだ。なのに、なぜ。
(疲れてるのかもしれない。)
今日は真の紋章を使ったのだ。きっと、疲れが来たのだろうとは結論を出した。
「すみません、疲れているみたいなので、先に失礼しますね。」
はシェリンダの手を自分の頬から離し、頭を下げるなり席を立つ。
未だ宴が続き、戦勝ということもあってか、以前行った静かな宴より煩く、笑い声の絶えぬ喧騒の中、出口へと向かうの耳に、シェリンダの声が聞こえてきた。
「・・・あれ?逆効果だった?」
その意味は、わからなかったが。

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