Skyting stjerner1-22
が決して無理をしないことを条件に変えて、長老は彼女の要望を受け入れた。けれど今から作るにも、ゼロから作れるはずも無く、当然材料がなければ作れない。そしてドワーフの宝の一つ、焦魔鏡に対抗する物となるとそれなりに貴重な材料を揃える必要があった。
材料をドワーフの鉱山にて揃えるのに、最低でも6日は必要だと長老は述べた。さすがにこればかりは譲歩しようがない。鉱山での発掘作業は、彼らドワーフに任せるしかなかった。
その後、はその事をティル達に伝えるため、宿にいるティル達を連れて長老の元に行くのではなく、足の運動だと長老を彼らの元へと連れて行き――まるで孫にねだられ渋々ながらも嬉しそうに小遣いを渡すような 長老に、ヒューイは再び遠い目しつつ――焦魔鏡に対抗する物を作る、と伝えたのであった。
ティル達は自分達の元へ長老自ら訪れた事に加え、まだ何も成していないというのに作成してくれると言った長老に少なからず驚く。 しかしそんな彼らに、長老はそこで目を鋭くする。
作るには作るが、その間に金庫の中に設計図があるかどうか見てこいと。
お前そんなこと言わなかったじゃねぇかとに間髪入れず睨まれたが、少し位彼らに意地悪してもいいではないかと長老は拗ねたい気持ちであった。
何しろに大切だと、守りたいと思わせたい輩だ。当然祖父同然の長老としては、あまり面白くはない。更に長老は、彼女にそこまで言わせるのはその輩の中に彼女が好意を寄せる者がいるのだろうと思ったのだ。そうなればもっと面白くない。は長老にとって愛娘もとい愛孫なのだから。意地悪の一つや二つや三つさせて欲しいというものである。
そしてティル達といえば、もともと金庫からドワーフの宝の一つ、流水棍を盗み出すのを条件だったためそういうことであれば、とそれを了承した。 少なくても盗み出すよりは長老から金庫の開け方も教えてもらったので簡単である。
は勿論眉を寄せたのだが、あれほどティル達を毛嫌いしていたというのに長老がこう簡単にも了承したのは、一重にあの後一人残った彼女のお陰だろうと ルック省くティル達は彼女に礼をし、翌日の早朝、今回は同行する意味もなくまたモンスターも出るらしいので非戦闘員のは村に置き、ティル達は村の北東にあるドワーフの金庫へと向かったのだった。
長老はあんな人間共、5日ほどかからなければ帰ってこれまいと高を括っていたのだが――そんな彼の予想を大いに覆し、彼らが再び村へと帰ってきたのは彼らが出立し1日経過した次の日であった。
金庫の開け方は教えたが、嘘偽りを言われてはたまらないと長老はその証拠として流水棍を持ってくるように言っていたのだが、それを持ってティルが長老の前に差し出したとき、は唖然とする長老に笑いが隠せなかった。こうして今度こそは長老は、そんな彼らを認めざるを得なかったのである。
「。」
は背後から掛けられた声に振り返る。そしてそこにいた人物に目を瞬かせた。
「ティル。」
夜風に若草色のバンダナを靡かせて、暗闇に浮かび上がるのは赤い着衣と金色の目。そして黒い髪に白い肌をした端正な顔立ちのティルだ。 ティルはの傍まで来ると、の隣に腰を落とした。
「どうしてここに?」
宿で寝てたのでは、とはティルを見た。
その日帰ってきた彼らだが、明日には再び村を出立することとなった。もともと、目的はドワーフ達に焦魔鏡を阻止するか、若しくは破壊する道具を作ってもらうことである。
目的が達成された今、今度はキルキスの提案により再びエルフの村へ非難を促すため、そして出来れば助力を仰ぎに行くことになったのである。帝国五将軍の一人、クワンダ率いる帝国側に対抗するには、少しでも戦力は多い方が良い。
村を出ると決めた際、ティルはにどうするかと訪ねた。
ティル達は戦う術を知るからいいが――は普通の少女だ。もうマッシュが言っていたような、恐らく彼女がドワーフの村出身であるということを知っていたことによるの必要性はないだろう。
けれどそれ以上にティルは、この後少なからず危険がある場所へと向かうというのに、彼女を連れて回す事が渋まれていた。ここまでは無事来れたが、一度湖でモンスターにが襲われたことを思い出すと ティルは今でも胸中に不安が差し、自身でもどうしてそこまで思うのかわからないが、指先の感覚がなくなる程恐ろしくなる。またそんなことになったらと、考えるだけでティルのいつもは揺ぎ無い瞳は不安に揺らぎそうになっていた。
ティルの問いには首を振り、この村に残ると告げた。村に残り、少しでも焦魔鏡に対抗する道具を作成する手助けをすると。それにティルはいつの間にか詰めていた息を吐き、ほっと胸を撫で下ろすのだった。
さて村に残ることになった自身はいいとして。明日に備えグレミオと自分が作った夕飯を食べ終われば彼らはもう寝てしまっているだろうとは思っていた。
驚いた表情で自分を見るに、ティルは呆れたようにため息を吐いた。
「それはこっちの台詞。宿にいないと思えば、こんな所にいるし。梯子を見つけた時、まさかとは思ったけど・・・危ないでしょ。」
ティルが眉間に皺を寄せてしまうのも、無理はない。
達が今いるのは、ドワーフの村の一角にある洞窟の上であった。それも大きなものなので、達がいる場所も必然的に高い位置にある。
は非難混じりの視線を向けてくるティルに苦笑を浮かべた。
「大丈夫。慣れてるから。私、この村で暮らしてた時は、この下の洞窟で暮らしててさ。それで偶々梯子見つけて。よくここに来てたんだ。」
はこの場所が好きだった。ドワーフの村は鉱山近くの盆地にあるので、平地より高い位置にある。 そしてその村内でも特に今がいる場所は他の建物より大きく、その上に乗ってしまえば村全体を見渡せるほどだ。
そこから見える村や森の風景を眺めるのもは好きだが、夜星空を見上げるのも好きだった。
どれもこれもの世界とは違う。その中でもはこの世界の星空が好きだ。空気が澄み切っているのだろう。見える星の数は多く、輝きも強いそれらは、夜空に散り撒かれた宝石といっても過言ではないとは思う。
それはがこの世界に来る前いた、あの湖と満点の星空のみで構成されていた、不思議な空間の夜空とも似ている。けれどは、この世界の星空を嫌いになることはなかった。 いや、あの空間も嫌いではないのだろう。それを証拠に、はあの空間を悪夢で見たことはなかった。 一種の畏怖すら感じ肌が粟立つ満点の星空は、本当に綺麗であったから。
あの空間だけでなく、この世界の星空も美しく――ティルには慣れているとは伝えたが、実は一度程うっかり落ちた事もあったが――は一番星が近く感じるこの場所が変わらずに好きだった。
は両手を伸ばすと、そのままその場に仰向けになる。洞窟の上部は、梯子で上ってしまえば急斜面はない。ティルは思わず全く聞く気のない様子や慣れていると言ったに眉を吊り上げたが、ややあってため息を吐く。 洞窟は大きく、上部もそれなりに広さはあるので端や梯子で登り降りするときに気をつければいいのだ。
「端には寄っちゃだめだからね。あと梯子から降りる時は気をつけること。」
「・・・ティル、私子供じゃないんだけど。」
は仰向けになったまま、彼をじと目で見た。
前々から思ってはいたが、本当にティルは過保護というか。そんなの視線も気にせずティルは言う。
「子供じゃないんなら、男の前でそんな無防備な格好しないよね。」
何を今更。過去幾度となくティルに腰を捕まれては担がれ、腰を捕まれては馬に二人乗りしてとしたことに比べれば、なんて事ないだろうとは思う。 散々人の腰掴んでおいてよくもまあ。と結構根に持っているであった。というかそれ以前に。相手はティルなのだ。なのでは思ったままを口にした。
「だって、ティルじゃない。」
「本当に襲うよ?」
何が気に食わなかったのだろうか。ティルは笑顔だが、その目は剣呑な光を宿らせた所詮笑ってない笑みを浮かべ、爽やかに言った。
はその笑みを見て即座に上半身を起き上がらせて、その場に正座する。今の彼ならやりかねん。ちょっぴり彼から体を離す。すると
「冗談だよ。」
と今度こそいつもの笑みを浮かべてティルが言うのだから、はそれを見て脱力しながらため息を吐いた。
「ティルの冗談は心臓に悪い・・・。」
「あはは。そうかな?」
今度こそ、本当に爽やかに笑うティルには再び溜息を吐いた。
「で、どうしてこんなところに?何か用??」
明日は早く出立するだろうに。が首を傾げながら訪ねれば、ティルはを向くことなく、星空を見上げたまま口を開いた。
「3日前のこと、覚えてる?」
「3日?・・・・ああモンスターに襲われた日のこと?」
ここのところ強行軍やらなにやらと怒涛の日々を過ごしていたため、記憶を掘り起こし思い立ったことをは口にする。
口に出してから、はあの夜中の出来事からまだ3日しか経っていないのかと意外な気持ちであった。
それだけそれまでの平穏が嘘のように、濃い日々を送っているわけである。ドワーフの村で半年暮らしていた時もそういう日はあったが、それでもここ最近は解放軍に入ったりと 元の世界に比べることも無く濃い日常だなぁとは感慨深く思う。
「あの時はモンスターが出てきて有耶無耶になっちゃったけど・・・。が夜中に起きてきたこと。」
はティルの言葉に目を瞬かせる。ティルは見上げていた星空から彼女に振り向き、苦笑を浮かべた。
「言いたくないならいいんだ。けど・・・心配だから。何か悩んでることがあるなら、少しでも手伝うことが出来たらって、思って。」
ティルの思っても見ない言葉には目を見開いたまま聞き、彼が口を閉じるとはすぐに首を横に振った。
そんな彼女に少なからず、ティルは傷ついたような顔をする。けれどが顔を上げると、の顔には笑みが浮かんでいた。
「言ったでしょ?助けてくれてありがとうって。」
笑みを浮かべながら言うに、今度はティルが思っても見ないことを言われて目を瞬かせた。
「少しでもなんて、そんなことない。私はティルに助けてもらったんだよ。」
は苦笑を浮かべ困ったように頬をかく。これはあの時言うつもりだった事だが、モンスターが現れ言えずじまいであった。しかしそれでも改めて言うとなると、恥ずかしいものがある。
「本当は言いたくなかったんだけど・・・私ね、偶に夢を見るの。それが凄く怖くて。夢っていうか悪夢かな。
それでグレミオさんに睡眠薬とかもらってるんだけど、それでも見ることがあって。この前、3日前は丁度それで起きただけだよ。ただそれだけの事だし、だから心配しなくても大丈夫。」
「でも・・・」
笑って言うにティルは眉を潜める。悪夢といえども、それは人の心理階層を描くもの。睡眠薬を飲んでも見るというのなら、は自覚していなくても、心の底に相当の恐怖があるのだ。それを放って置くことなど出来るはずがなかった。
けれどは言い募ろうとしたティルの顔面の前にストップとでもいうように掌を出し、ティルの言葉を遮る。
「私もそこまでその夢を見る原因は何だがわかんないから、心配御無用。本人が自覚してなきゃ、悩みって言わないし。」
本当はわかる。それは突然この世界へと来てしまった事や、家族と友に会えなくなってしまった恐怖から生み出されたものだと。
けれどが言った言葉に嘘はなかった。その夢を何度も見てしまう程、自分は恐怖を抱いていないからだ。勿論まったくないというわけではない。けれどこの世界にも慣れ始め、 にはヒューイ達やティル達と沢山の知り合いが出来た。そのお陰でその恐怖も薄まってきているのだ。
夢を見てしまう理由ならわかる。けれどは、その夢を何度も見てしまう理由はわからなかった。
―――だがそれももう、心配はいらない。
眉を寄せて心配そうに自身を見るティルに、は笑みを浮かべたまま口を開いた。
「それに今はね、もう、あの夢を見ても怖くない。」
あの後から、はあの夢を見てももう魘されて起きるということはなくなった。きっともう二度とあの夢を見ても、起きるということはない。彼があの時、モンスターから助けてくれた時に、思い出させてくれたのだ。
そして同時に、を悪夢から助けてくれた。
「ティルが側にいてくれるって言ってくれたの、思い出したから。」
目を驚きに見張らせるティルを見つめながら、は左手を伸ばし、彼の右手を掴む。あの時のように抱きしめることはさすがに出来ないが、それでもは彼に感謝の気持ちを伝えたかった。
「だから、もう怖くないんだ。―――改めて。ありがとう、ティル。」
彼が自身の手を掴んでくれたから、思い出せたことだった。
誰も掴むはずがないと思っていた手を、彼が掴んでくれた。 グレミオの手がに安心感を与えてくれるのなら、彼の手もまたに救いをくれたのだ。
ティルの掌は同様、手袋に覆われているけれど。は彼の手を握り締めて礼を述べた。
(――やばい、どうしよう。)
ティルは熱くなっていく頬を抑えられなかった。顔を上げたいが上げれない。上げたらがいつかのように柔らかく微笑んでいるのだ。
それを考えるだけで――少しでも見てしまっただけで、ティルは情けないほどにも顔が赤くなるのがわかった。
(―――反則、だ。)
そもそもあんな嬉しくなるようなことを、が言うからいけないのだ。言葉でさえも聞いただけで鼓動が早くなったというのに、それに加えてのあの笑みはないだろう、とティルは思う。
どうして、彼女にそこまで動揺するのかはわからない。ティルはその容姿と家柄もあってか、それこそ魅惑的な女性に誘惑されることもあったが、動揺することのなく対応出来る少年だった。
それなのに――ただ礼を述べられ、微笑まれただけで。
ティルは目をつぶり、必死に早まった鼓動を平静に取り戻そうとしていた。きっと耳まで赤くなっている。周りが暗く、に握られている通常より温度が高まっているだろう手も、皮手袋をしていてよかったとティルは心底思った。
それから数分。うんともすんとも言わずにティルが顔を俯かせていることもあり、はいい加減自身の言動に恥ずかしさが沸いてきた。
「て、私の話ばっかしたけど!そういうティルはどうなのよ!」
「え、俺!?」
恥ずかしさを撒き散らすように、は握っていた手を離し、声を荒げた。
ティルといえば唐突にそう切り出され、思わず声に動揺が走る。今の今まで情けない様を見られないよう顔を俯かせ、必死に平静を取り戻そうとしていたのだ。大分落ち着いてきてはいたが今だ頬に少し赤みが差してしまっているだろうことは見逃して欲しい。
そして幸いなことに、はそんな彼の様子に気づくことがなかった。辺りが暗いことと、自身が恥ずかしさに動揺していることもあるだろう。
は羞恥を飛ばすかのように呼吸を数回繰り返してから、真剣な表情でティルを見る。
「私ばかりティルに助けてもらってる。私も、ティルが心配なのに。」
「・・・大丈夫だよ。」
の視線を受けて、ティルは頬緩めて笑う。そして夜空を見上げた。――こうした高いところで、夜空を見上げるのは久しぶりだった。
夜空に浮かぶ星の瞬きを見ながら、ティルは口を開く。
「俺、こうして夜空を見上げるのって好きじゃなかったんだ。・・・・好きじゃなくなった、かな。親友と、よくこうして見上げてたから。」
正式に言えば、ティルの親友が夜空を見上げるのが好きで、ティルがそれに付き合っていただけなのだが。 それでも親友としょうもないことを喋り笑いながら見上げた夜空は好きだった。――けれどそれも、もう過去のことで。
ティルの側にその親友はいない。彼を信じてはいる。だが――生きているかも判らない。
そんな彼との思い出がある夜空は、どうしても自然と敬遠されていた。けれど
「でも今は――確かに寂しいけど、そんなことはない。嫌いじゃない。・・・なんでだろう。がいるからかな?」
不思議と、ティルの心は穏やかだった。親友がいない悲しみは確かにある。けれど空虚だったはずのそこに、暖かい何かが生まれているのだ。
それがティルの心を穏やかにする。それは――彼女が隣にいるからなのだろうか。
その何かはまだわからない。けれどティルは、が関係しているような気がした。
「うん。のお陰だ。」
突然小さく笑うティルには訝しげに眉を寄せて彼を見る。というか。
「私はティルの悩みを聞きたかったんだけど・・・・。」
その親友は生きてるのか最悪死んでしまっているのか――それはにはわからない。けれどはその事を彼に聞いてはいけないような気がして、何も聞くことはしなかった。それを尋ねて、過去を思い出した彼が傷ついてしまいそうだと思ったからかもしれない。
だが彼がの手助けをしたいと言ってくれたように、もまた彼の手助けをしたいのだ。そう言って貰えも嬉しいが、は上手く彼の話に流されそうになっている気がした。
けれど眉を寄せ見てくるにティルは微笑んだ。
「がいれば大丈夫ってこと。」
なにがあっても。どんな辛いことがあっても。ティルは彼女が傍にいてくれれば、やっていけるような気がした。今こうして夜空を見上げる事と同じように。それは理屈ではない感覚的なものだった。
はそう言い微笑むティルに脱力したように正座を止め、抱えていた膝へと顔を沈めた。
髪の隙間から除く耳は赤く、は今が夜でかよかったと思いながらそんなことを平気で言ってのけてしまうティルにどうしてくれようこのタラシと心底恨めしく思った。
***
翌日、は村の入り口で、旅の準備を整えた彼らと向き直っていた。
――恐らく彼らと再会するのはこの戦が終わってからだろう。
さすがにもその事をわかっており、そう思うと彼らを見送ろうとする笑みはどうしてもどこか陰りを帯びたのたものとなってしまった。
誰もがその事をわかっていて、それでも彼女を安心させようと浮かべた笑みは自然とどこか硬いものとなってしまう。
けれどそんな中、ティルだけは違った。 いつもと変わりない笑みを浮かべて、――その目は寂しさこそあれど、戦へと向かうといった事への不安は微塵も感じさせない表情でへと口を開いたのだ。
「必ず、迎えに行くから。」
そんな表情を浮かべる彼だからだろうか。は、彼ならば絶対に、この戦を終わらせて迎えに来てくれるだろうと思えた。は自然と頬緩ませ、頷いていた。
先程までの表情とは打って変わって、はいつもと同じ笑み浮かべて、これから戦に向かうだろう彼等に口を開く。
「皆!絶対無事で帰って来てね!!」
誰一人欠けることなく、何一つ失うことなく。は再び皆に会いたいと思った。
いつもは凛とした表情を緩ませるクレオ。顔つきは怖いけれど、慣れればそれが緩んでいると判るパーン。誰に対しても明るく振舞い、歯を出し屈託無く笑うビクトール。種族という壁さえ越え、微笑んでくれるキルキス。知り会って短い間だけれど 同じく大森林を守るため立ち上がり、強固な意志を持つ目で頷いてみせた元敵兵バレリア。いつもに親身になって見守り、今もこうして、優しく微笑んでくれる大好きなグレミオ。柔らかな笑みを携え、出会ってからずっと、支えてきてくれた心優しい少年ティル。
そこでは一人輪から外れ少し遠い木に背をもたれさせ、自分には関係ないといった様子の少年にも声をかける。
「ルック!君もだよ!」
「・・・僕を誰だと思ってるの?」
途端嫌そうに顔歪めて、を見ていつものように鼻で笑う彼に、は小さく笑った。優しいのに、それを皮肉で覆い隠してしまう卑屈な少年ルックも。
誰一人欠けることなく、は再び会うことを願う。それはきっと今も明日も明後日も。この思いは途切れることなく生き続け、願い続ける。
その為にもこの時、出来ることをしようと思った。
「坊ちゃん、そろそろ行きましょう。ちゃん、行って来ますね。」
やがてグレミオが名残惜しげなその場を離れるように即す。それに無意識のうちに寂しげな表情を浮かべたを振り返りグレミオは微笑んだ。
「グレミオさん・・・。」
彼の柔らかく、優しい微笑みを見て、は思わずグレミオへと駆け出し抱きついた。
グレミオはそんなに一瞬驚いたような表情をしたが、引き剥がすことなく、そっとの体へと腕を回す。そして安心させるかのようにの頭上から優しい声を落とした。
「大丈夫ですよ。必ず戻ってきますから。」
そう言っての頭を撫でる。その手は分厚く固く、お世辞にも心地よくはないのだけれど、それでもはそんなグレミオの暖かい手が大好きだった。
休憩時間に眠るとき、魘されていると必ず撫でてくれる彼の手は、いつもからその悪夢を消し去ってくれていた。今はもう魘されることはないと思うが、それでもは彼の暖かい手――その手を持つグレミオ自身が大好きだ。母のように、父のように彼はを見守ってくれる。半年間会えていない両親の温もりを、彼は思い出させてくれた。
「怪我、しないでくださいね。無理、しないでくださいね。」
はグレミオの腰を一層強く抱きしめそう口にする。彼の優しい温もりには目を閉じ、ただそれを感じていた。グレミオはの頭を撫でる手をそのままに優しく頷く。
「はい。」
――誰一人欠けることなく、何一つ失うことなく。明日も明後日も、何年も何十年も。
その時はただ、はその愛しいと思える空間が途切れる事がない事を祈った。
感傷に浸りだしたを現実に引き戻すようにその場に声がかかる。
「そうだね。グレミオも結構歳だしね。」
「ぼ、坊ちゃん・・・。」
グレミオはティルの言いようにショックを受けたような顔をする。そんな彼等のやり取りには笑い、ティルへと向き直った。
「ティルも無茶しないこと!君は自分のことも考えないで、結構つっ走ることがあるからね。」
人の事を抱えたり、馬で二人乗りしたりと。同年でもあり細身である彼は大変だったろうに、なのに苦言を漏らすことなく笑みすら崩さない。
むしろ彼は人の事を心配しすぎてる気がある。はその分、きちんと自身へと向いているのか不安だったのだ。
「無理そうだったら止めてよ。私はティルに帰って来てほしいんだから。」
軍主としてではなく、同じ年の友人としての言葉だった。軍主に対して言うことではない。それでもは彼へと本心を告げた。それは無事に帰ってきて欲しいと思ったからだ。
ティルが無事に帰ってきてくれれば、それでいいと思ってしまう。たとえ卑怯者と言われても、後ろ指を指される事になろうとも、それでもは彼が無事である事の方が何倍も大事だった。言ってはならないことだとは思うけれど、それでもそう願ってしまうから、そう言ってしまった。
言った直後、は何を馬鹿な事をといった事や、お前に何がわかるといったように怒られるかと思った。けれどティルは怒る様子などなく、むしろ目を瞬かせている。
これはどういった反応だろう、とは内心ビクビクしていたが、ティルが次いで浮かべた表情に今度は彼女が目を瞬かせてしまった。
「ありがとう。」
ティルは微笑んでいた。それは常に浮かべるものとは違う、優しく慈愛すら感じてしまいそうなほど穏やかに。その頬は少し赤みを差していて――彼の感情がその表情だけでわかる。
もそんな彼に笑みを浮かべたのだった。
そして村の入り口にて、ティル達を見送る所を、物陰から一部始終見ていた者達がいた。
「・・・あれか。」
「あれだな。」
長老と呟きヒューイが頷く。その背後にはドワーフ数人がまた頷いていた。
「あれがの大切な者か・・・。」
「そうだろうな。あんなにが名残惜しそうにしているのだから。」
「しかも抱きついてるじゃないか。あのが!」
「あいつか。」
「あの金髪の・・・。」
「ちょっとひょろっちすぎやしねぇか?」
「ううむ。確かに。ぼさぼさの黒髪の男とか、胸当て当てた男の方がまだ頼り甲斐があるな。やっぱ男はどしんとしてねぇと。」
「しかしが選んだやつだべ?」
「将来の旦那・・・。」
「将来の・・・。」
「あれが・・・・。」
皆渋顔で頷いていたが、滅茶苦茶誤解であった。
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