Skyting stjerner2-3
リオウと出会って、まだ1日も経ってはいない。それでもは、リオウに対し酷く親近感を抱いていた。そうでなければ悩みを聞いたりはしないだろう。リオウが命の恩人で、年も近く、どこの村にでもいそうな少年であるだけではない。人見知りのなく、例え初対面の人間に対しても親身なる彼には自然と力になりたいと思えた。彼から聞いた話はとても重く、きな臭いものだ。工の紋章に告げられた、いずれ起きるという戦にも関わるものなのかもしれない。兵団という事は地方に、敷いては国に従事しているものだ。その少年兵団が一晩で全滅にさせられてしまえば、地方の者達は愚か、国も黙っている訳にはいかない。一歩間違えれば戦にもなり得る。
しかし、ハイランドが何故、都市同盟を装って自国の兵を襲ったのか。戦を仕掛ける大義名分、なのだろうか。それにしても戦を行うというならば、自国の兵力を削ってまで行う理由が今一つ釈然としなかった。――言ってしまえば、少年兵といえども、将来力となる兵士でなく村人でもよかったのだ。ティルや、軍師のマッシュからすれば、理にかなっていない、と言いそうである。
少年兵団の団長が裏切ったのであれば、首謀者は団長と同じか、上の立場である可能性が高かった。加えて少年兵団を襲える兵力を持つならば上の人物である可能性の方がひどく高い。それでいて、例え自国の兵力が削れても良いなど、まるで誰でもよかったような―――。直情的で、感情的にさえ見える襲撃に、果たして戦を起こそうといった意図まであるのだろうか。
が傍で見ていたティルは思考を巡らせ、真相を見抜いた上で利用することが上手かった。だからこそ少年であっても、軍主として解放軍に立つことになったのだろうが、幾ら考えても、元一般兵であったには襲撃の意図は分かりはしなかった。それも使用人歴の方が長い。
いずれ起きてしまう戦をどうにか出来るのならば、阻止したい。しかしリオウからきな臭い話を聞いても、打開策も相手の意図すらもは分からなかった。そうなれば、出来る事といえば、簡単なことでしかない。変わらずティル達を探す事、そしてリオウを無事故郷まで見送る事だ。
突然巻き込まれ、故郷から離れた彼の故郷に帰りたいという気持ちを、は痛い程知っている。自身に重なり、だからこそ放っておくなど出来なかった。ならばリオウを故郷を見送りながら、情報を集め、ティル達を探せば良い。 元々、はティル達の居場所は愚か、自身の居場所も分からない。この世界では地図というものは希少だ。探せば近隣を記したものならばあるが、世界地図は存在しなく、各国の位置こそ大まかに知られているが、それも大雑把なものだ。少しでも細かく書かれたものは貴族や国の重鎮にしか手に渡っていない。解放軍が帝国相手に地理を活かした戦を行えたのは、地図職人が仲間にいたからである。
リオウやポールにも聞いたが、やはり近隣の地理しか知らないようだった。加えて戦う力こそ僅かに得ても、数年はいたもののやはりふとした時に常識に疎いは、やはり一人で動くにはまだ不安が残る。
ティル達を探しながら、気がかりなリオウも故郷に見送れる。リオウを見送った後はさすがにこの国の常識も得て一人で旅も出来るだろう。 今後の予定を立てながら、は一心不乱に床を磨く。気が付けば以前より比べ物にならないほど綺麗に磨かれ、自身の顔もぼんやりと木目に映るほどだ。
働かざる者食うべからず。は食事と寝床の対価として、リオウとともに床磨きを行っていた。なんでも、床に油がついてしまっていたらしい。
量が少なくもない、平均的な朝食を頂きリオウから話を聞いたあと。支払う賃金もないは砦の雑用を行なう事で恩を返していた。リオウは言わずもがな、一応捕虜であるため仕事が課せられている。しかし捕虜を牢から出し、リオウから聞いた今までの仕事も雑用ばかりで、どうにもお使いを頼んでいるような、非常に軽い扱いにしかみえないが。
我ながら畏怖を抱く使用人スキル。輝きすら放つ床に満足げなに、離れた場所で床を磨いていたリオウが声をかけてきた。
「油ってどうやったら落ちるの?幾ら拭いても、べたべたになるんだけど。」
困り果てた様子で尋ねたリオウには笑みを浮かべる。
「ふふん、それくらい出来ないの。ほら、見てて。」
そうして、リオウが拭いていた油に取り掛かる。実に簡単な方法だ。素早く魔法の粉――小麦粉、と言いたいところだが食料は貴重であるため、重曹で代用した――を油の上に塗す。
数分もたたない内だ。油が染み込んだ重曹を生地をこねるように丸めればもう油はほとんどない。あとは仕上げに、お米の研ぎ汁を含ませた布巾で磨くだけ。でんぷんで膜が作られ、無垢材にはワックスのような効果が出る。
「ほら出来た。触ってみなよ。」
あっという間の手際に、リオウは驚いたようだった。ベタベタすることもない床に触れて、鳶色の目を瞬かせる。
解放軍で覚った使用人スキルは伊達ではないのだ。得意げな顔になるを見て、リオウは内心、対抗意識を燃やした。
「僕だって。」
そう言うと、レオナの元へ重曹等を借りに走るリオウの背に、無意識の内に頬が緩んだ。
色々考えはしたが、まずは。袖をめくり意気込むと、もまたリオウに負けないよう作業を再開させるのだった。
「おお、ピカピカじゃねぇか。おまえさん達、才能あるぜ。」
「別に、それ程でもないよ。」
という傍ら、 はリオウが内心得意げになっている事に気づき小さく笑う。気付いたリオウがの肩を軽くつくが、それでも浮かべた笑みは中々消えない。
ポールは二人の気軽なやり取りに、こいつらいつの間に仲良くなったんだ?と内心首を傾げた。
「よし、今日の仕事は終わりだ。油をふきとったは・・・ああ、どっかにかたづけといてくれ。それじゃ晩飯にしようぜ。」
ポールの言葉に、思わず顔を見合わせた。昼食こそ途中で挟んだが、室内にいたためいつの間にか日が暮れていたことにも気づかなかったのだ。背筋を伸ばすと、腰に鈍痛が走る。言われて気付いた微かに漂う夕飯の香りに、より空腹を感じた。一日、しつこい油に対して頑張った甲斐があったというものである。
結局、その日はティル達を探しにいくことも、リオウを故郷に帰す具体的な手立ても思い浮かばなかった。しかし寝床や食を無職で提供してくれる砦に少しでも恩を返せたのならば、それで良しとしよう。
昨夜のぎこちない夕食とは違い、とリオウは色々な事を話した。リオウは義姉であるナナミの事、親友であジョウイの事、そして孤児であった自身を拾って育ててくれた義理の父ゲンカクのことだ。もまた、自身の事を話す。主に旅をしていた時の話や、旅の仲間達についてである。
「はその一緒に旅をしていた人達、大好きなんだね。」
は目を瞬かせた。まさかそう指摘されるとは思わなかったのだ。きょとんとするに、リオウは首を傾げる。
「気づかなかった?、その人達の事を話すとき、本当に楽しそうなんだよ。」
目を瞬かせていたは、やがて思わず苦笑を浮かべた。確かに彼らは大好きだ。しかし彼に話した大半は、ティルのことであった。
その名は彼の名前が今では帝国との解放戦争で活躍した、トランの英雄と知られている為伏せたが、ほとんどティルの事について話していたといえば、顔に出てしまう事に恥ずかしくなった。そこまで彼のことが好きなのだと、再度実感させられる。すると日中なるべく考えないようにしていたこともあり、ティルの事が次々に思い出され始めた。
いつも笑顔を浮かべて、偶に拗ねたり、怒ったり、かと思えば笑顔で怒ったり、そうと思えば優しく微笑んだり。
(会いたいなぁ・・・。)
食べ物に困り果てて、今はこうして砦にいるが、早く彼に会いたいと、ただひたすらそう思う。
それから、気が付けば楽しみにしていた食事を他所に、はティルの事を思い返すのだった。
***
「おい、誰かが忍び込んだらしいぞ!!」
その日の夜の事だ。突然辺りが騒がしくなった。が目を覚ましたとき、丁度声が飛び交っていた。同じ頃に起きたのだろう、リオウと顔を見合わせた時だ。慌ただしく地下牢へと誰かが降りてくる。「リオウ!いたら返事をしてくれリオウ!!」
聞こえた声に、リオウははっとした。起き上がるとすぐに牢の入り口まで駆け寄る。格子を掴み、リオウは声に応えた。
「ここだよジョウイ!」
地下へと降りて来たその人物は、慌てた様子で牢へと近寄る。すると牢に設置された燭台に照らされ、薄暗闇からその姿が露になった。青いシャツに、灰色がかった亜麻色の長い髪を、一つに結んだ少年だった。年の頃は、リオウと変わらないだろう。少年の鋭い蒼の目はリオウを見付けると柔らぎ、そのまま息を吐く。
「リオウ・・・よ、よかった・・・。今、助けるよ。」
少年は牢の前まで来ると、リオウが口を開く前に、手に持っていた棍で木製の牢の鍵を叩き割った。確かに、鍵は老朽化しており皹も入ったお粗末なものであったが、一瞬で粉々になる程とは。少年の威力が強かったのか、砦の警護が余程おざなりだったのか。両方だろうな。は思わず乾いた笑みを浮べた。
「大丈夫だったかい?」
牢の奥にいるに気付くことなく、叩き割り入ってきた少年、リオウの幼馴染であり親友であるジョウイは、リオウに尋ねた。それにリオウは苦笑を浮かべる。
「うん、まぁ。ジョウイこそ大丈夫だったの?」
リオウの全身を眺め、無事そうである事に再び息を吐くと、ジョウイはリオウの問いに答えた。
「僕もこの通りだよ。それより、兵達が集まってくる前に早く逃げ出そう。」
「え・・・・。」
思わぬ言葉に、思わずリオウは呟く。それにジョウイが眉を寄せた。
「どうしたんだい?早くしないと兵達が来ちゃうよ。」
「でも・・・、」
動こうとせず、リオウは言葉を濁す。それについ先日の奇襲の事を考え思い戸惑っているのだと考えたジョウイが、リオウに向き直ると早口で言った。
「確かに、ラウド隊長とあの男の話していたことを考えるとキャロの街に戻るのは危ないかもしれない。でも、どうしても一度戻って確かめたい。それにナナミも待ってる。あの街は僕らの育った街だ。そう簡単には捨てられないよ。」
ジョウイがここに戻るまで、何度も考え、出した結論であった。そしてそれはリオウの考えている事でもある。やや間を置いてから、リオウも頷く。
「そうだね。行こう。あ、でも・・・。」
そこで牢の奥で一言も声を出さず押し黙っていたに、リオウは振り返った。は突然の出来事に大分着いていけないでいたが、今朝のリオウの話の事もあり、今では大分状況を飲み込んでいた。苦笑を浮かべて尋ねる。
「私も、ついて行ってもいい?」
良い機会なのかもしれない。確かに、今のままここにいれば食にありつける。けれどそれではいつまで経ってもリオウは無事故郷に帰る事は出来ないし、ティル達にも出会えない。それならば捕虜ではないは、普通にここから出て行けばいい話であるが、やはりリオウの事が気がかりだ。ここで見放すわけにはいかなかった。
見知らぬに戸惑うジョウイは逆に、リオウはしかし快く頷いてくれた。
「うん、行こう。」
「で、でも・・・そもそも彼女は一体・・・?」
「話は後でするよ。今は時間がないんでしょ。」
確かにその通りであった。リオウとジョウイは砦の者達にとって、敵側の人間であるのだ。ジョウイはまだ僅かに戸惑いがあるようだったが、リオウの指摘も最もで、ややあって頷いた。そうして達は牢から抜け出したのだった。
しかしそれから間も無くして、達は見つかってしまう。牢を出たところで、砦の者達と鉢合わせしてしまったのだ。松明を片手に持つ彼らと向き合い、リオウ達は息を呑む。もまた息を呑んだ。彼らとは違う意味で、だが。
とても見覚えるのある顔が、2名ほど先頭に立っていた。
「なんでがここにいるんだ・・・!?」
燭台を片手に、口をあんぐりと大きく開けた熊のような大男。青いバンダナに、前髪だけ金色の、黒い髪をした青年。
1年前に、見知った二人である。互いを見て唖然とすると熊のような大男とは他所に、旧解放軍で副リーダーを勤めた青い青年がいち早く我に返った。彼――フリックは驚愕の色を浮かべ、叫ぶように言った。
「お、お前さん、なんでここに・・・!?」
見たことのある青い人物、フリックに続いて、ざんばらの髪の大男、ビクトールが驚きの声を上げる。
「ビクトールさん達こそ・・・」
彼らと同じように、もまた唖然とした表情のままだ。帝都での最後の戦いが終わって、ティル達と共に旅に出ただったが、旅に出てしばらくして、ティルから教えられたのだ。ビクトールとフリックは、城の敵を食い止める為に、崩れる城内に残ったと。その後、彼らは見つからなかった。は話を聞いたとき驚いたが、彼らのことだ、大丈夫だと、思い続けてきた。そうして今、彼らは無事でいた。
は頬が緩むのを抑え切れなかった。体が歓喜で震える。拳を握り、背の高い二人を睨み上げるように見ると、力の限り叫んだ。
「馬鹿ぁ!!なんで無事だって知らせてくれなかったんですか!」
「い、いやぁ、知らせようとは思ったんだが、そっちの方が男らしくて格好いいってビクトールが言って聞かなくてだな・・・。」
なんだその理由は!目を吊り上げたままはビクトールを睨みつけた。
「ビクトールさん!!!」
「あ、いや、その、悪かった・・・。」
泣きそうな顔で睨みつけるに、しどろもどろになりながら、ビクトールは自身の体が小さくなっていくような錯覚を覚えながら謝罪を述べる。眉を下げて、罰も悪くそう言うビクトールは、本気で反省しているようであった。それを見て、は息は荒いものの口を引き結び、責める言葉を思いとどまる。彼等には文句はまだまだある。だが本当の所、彼らがこうして無事でいてくれただけでよかったのだ。加えて、先程から何かが引っかかる。何かを、忘れているような。
「え、えーと・・・」
そこですっかり忘れ去られていたリオウが申し訳なさそうに声を上げた。ようやく、達は状況を思い出すのだった。頬を引き攣らせながら、背後を振り返る。
「リオウ、ごめん・・・。」
ここから逃げ出す予定だったのだ。今更思い出したの頬が、否応なく引きつった。完全に、相手の隙をついて脱出する機会を失ってしまっている。
リオウは責める事はせず、苦笑を浮かべるだけだったが、それがまたは申し訳なかった。ジョウイなど確かに、それがに対してか、彼らに対してかはわからないが目に剣呑な色を含ませている。しかし達三人に対して、向こうはビクトール、フリック以外にも兵はいて、不意をつこうにも既に揃ってしまった人数上、どうあってもこの状況を打破できそうにはない。結局達は大人しく抵抗をせず、ビクトール達について行ったのである。
「ええっと、とりあえず名前からだな。」
ビクトールに連れられて、二階の一室に入ると達は正面の大きな机に向き合った。ビクトールが切り出すと、それに侵入者であるジョウイが答えた。
「ジョウイ・・・ジョウイ=アトレイド・・・です。」
「ジョウイだな。俺はビクトール。こっちはフリックだ。リオウを助けに来たっていう事は、お前もハイランドの人間か?」
ジョウイは僅かに息を呑んだ。僅かな逡巡後、答える。
「そうです。」
「そうか・・・あの時見失ったもう一人がお前だな。」
フリックが納得したように頷く。リオウを助けるとき、ビクトール達はリオウの他に、もう一人も助けようとしたのだ。だが見失ってしまい、助けることが出来なかった。申し訳なさそうにそう告げたフリックに、ジョウイは戸惑う。彼らは敵であるはずだったからだ。目を瞬かせるジョウイを他所に、ビクトールは尋ねた。
「そういえば、お前達がなんであんな目にあっていたのか、聞いてなかったな。」
「それは・・・、」
ジョウイが言葉を詰まらせる。そこでリオウが代わりに口を開き、起きた出来事を言うのだった。
「ふーん、こいつはキナくさいな。ルカ=ブライト・・・名前は聞いているが。」
話を聞いた後、ビクトールが唸る。少年兵団の団長、ラウドと話していたというルカ=ブライト。異世界人であるは名前だけではピンと来なかったが、彼らの話から、男はハイランドの皇子なのだという。ラウドより上の者だろうという推測は外れていなかった。しかし、皇子というならば、一層キナ臭さは増す。仮にも王族が、何故少年兵団を襲ったのか。皇子の単独か、それとも背後に誰かがいるのか。
顔を上げたビクトールが尋ねる。
「それで、お前はリオウを助け出した後どうするつもりだったんだ?」
「リオウを助けて、二人でキャロの街に戻るつもりです。」
「つまり、まだ逃げ出すつもりということかい?」
滞りなく答えたジョウイに、フリックが投げかける。鋭い指摘にジョウイは怯む事無く頷いた。睨むように見るジョウイを、フリックは冷静に見下ろす。僅かに緊迫した空気の流れたその場たっだが、ビクトールが頭を掻く。「うーん、まいったな。」
「まぁ、少しゆっくりしていってくれ。わりぃが丁度今日、部屋は満室になっちまってな。牢しかないが、食事と寝場所は用意させておくからな。」
ビクトールはそう告げると、今度はに振り向くのだった。
「で、次はお前さんだ。なんであんな所にいたんだ?」
「なんでって・・・」
その問いにはなんとも言えない表情をした。煮え切らない様子のに、フリックが片眉を上げる。
「もしかしなくても、空腹で倒れそうな奴を砦で保護した変わり者ってお前か?」
「変わり者・・・」
「リオウと一緒に牢で生活するとか言って聞かなかったんだろ。」
不服そうに言うに、フリックがじと目で言う。確かにその通りであり、は何も言い返すことができなかった。押し黙るに、ビクトールが突然、目を見開く。
「な、お前さん、牢にいたのか!?」
ビクトールの驚愕の声に咄嗟に耳を塞ぎ、迷惑そうに見たフリックもまた何かに気付いたのか次の瞬間、目を見開いた。二人の大仰な様子には僅かに体を後方に引かせる。それが一体、どうしたというのだ。
「しまった・・・!おい、!そこから出ろ!部屋は用意するから!!」
「・・・部屋、ないんじゃなかったんですか。」
「「俺の部屋を貸す!」」
思わず頬を引きつらせた。
「なんでビクトールさん達のを借りなきゃいけないんですか・・・別にいいです。居心地もそれ程悪くないですし。」
「お前が良くても俺達が・・・!!」
「あいつらにばれたら・・!!!」
しかしビクトールとフリックが顔を青ざめんばかりに悲鳴のような声を上げていた。あいつら?とは首を傾げそうになり、ややあってそれが過保護な者達の事だと気づく。確かにフリックとビクトールが指揮する傭兵の砦で、牢にいたなどと彼らに知られたら、彼らは相当煩いであろう。もその事に気がつくと若干顔を青ざめさせた。もまた、責められる違いがなかったからだ。しかしここで、頷くわけにはいかなかった。何しろ空腹のところ助けてくれたリオウは牢にいるのだし、ビクトール達の部屋を借りるのも申し訳なかったからだ。は首を振る。
「いいです。」
「よくない!俺達がよくない!!」
「お願いだ・・・!」
本気で懇願するフリックには悪いが、こればかりは無理であった。駄目なものは駄目です。そう言うと、は尚も懇願する彼らの言葉を無視し、戸惑うリオウ達を連れると部屋を出たのであった。
牢へと戻ると、リオウがに尋ねてきた。
「よかったの・・・・?」
「いいの。」
は真っすぐに自身の寝床に向かい、座りこむ。リオウは未だ何かを言いたげであったが、がそういった調子なので、もう何も言う事はしなかった。
「君はいったい・・・?」
そこへ共に牢に入ったジョウイが、戸惑いも露に尋ねた。確かに、砦の幹部と知り合いであるらしい見知らぬ女が、自身達と同じように牢に入っているのだ。不思議で仕方がないだろう。リオウが答える。
「友達だよ。って言うんだ、ジョウイ。」
「どこで知り合ったんだ・・・?」
「あー色々とあって・・・、でも、きっとジョウイも仲良くなれるよ。ね、。」
なんという説明と根拠のなさだ。は苦笑を浮かべながら、リオウの同意に頷いた。
「リオウの親友なんでしょ。話は聞いているよ。よろしくね、ジョウイ。」
「あ、ああ、よろしく・・・。」
ジョウイは仕切りに瞬きをして、戸惑っているようだった。しかし、リオウの様子から悪い人物ではないのだろう。そう理解すると、ジョウイもようやく僅かに笑みを浮かべたのだった。
互いに紹介を終えると、ジョウイの寝床の分のスペースを確保するため、とリオウは荷物の整理をし始めた。そこへジョウイが眉を下げて口を開く。
「すまない、リオウ・・・。結局、君を助けられなかった・・・。」
荷物の整理をしていた手を止め、リオウは苦笑を浮かべた。
「別に、気にしてないよ。むしろこうして来てくれて、本当にありがとう、ジョウイ。」
「でも・・・。」
尚もそういい募るジョウイにリオウは頬をかいた。ジョウイは一度落ち込むと、例えそれを本当にこちら側が気にしていなくても、中々浮上しないのだ。長所でもあるが、短所である。実直な性格である事には変わりないのだが。リオウは彼の思考を変えさせるため、態と違う話題を彼に振った。
「ジョウイは今まで、どうしてたの?あの後どうなったの?」
「え、ああ・・・。」
急な話題の方向転換にジョウイは驚いてから、ぽつりぽつりと答え始めた。
「あの後、僕が目を覚ましたのはトトという名前の村だった。
気を失って、川岸にうちあげられている僕を見つけてくれた女の子の家で傷の手当を受けて、数日が経ったころ傭兵部隊が少年を一人捕虜にしたっていう噂を聞いたんだ。君の事だと思って助けにきたんだが、考えが甘すぎたよ・・・すまない。」
しかし結局は話が元に戻ってしまった。リオウは頭を抱えたくなるのをなんとか押さえ、沈むジョウイに明るく声をかける。
「本当に気にしてないから!来てくれてありがとう、って言ったでしょ?そうだ、聞いてよ、ジョウイ。 ったらね、」
「え、そこで私の話題を出すの!?」
「実はジョウイと同じで・・・」
「あ、あー!!」
唐突に騒がしくなる二人にジョウイは目を瞬かせる。しかし二人は騒ぎながらも、本当に楽しそうで、やがてジョウイも釣られるように笑みを浮かべていた。
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