Skyting stjerner2-4

リオウのお陰で互いに色々な事を話し、それまでの遠慮した様子とは異なり達は大分打ち解け始めた。だが何分、夜も遅い。増えた布団を敷き終え各々が毛布にくるまり、寝る体制へと入る。
途切れることのなかった会話が途切れ、もう寝るかという頃だ。ジョウイが唐突に言った。「そろそろいいかな。」
とリオウは目を瞬かせる。ジョウイは起き上がると、リオウに近づいた。
「リオウ、君が今もっているものを見せてくれないか?」
「なんで?」
首を傾げる勢いでリオウが問えば、ジョウイは呆れた表情を浮かべた。
「ここから、逃げ出すんだよ。掴まってすぐに逃げ出すとは思っていないだろうからね。えっと・・・。」
とリオウは全く考えていなかったことだ。確かに、言われてみれば良い機会に思える。おお、成程。呑気ともいえるほど似たような思考を抱き、ジョウイが枕元に置いていたリオウの布袋を開け、テキパキと中身を並べていく様を見る。
「火打ち石、油のついた布、ロープ・・・」
は思わずリオウを見た。数時間前までリオウと共に奮闘した、床を磨いた布は適当に片付けておいてくれとポールに言われたが、まさか持っているとは。呆れるに、捨て忘れていたリオウは苦笑いを浮かべる。
ジョウイはリオウの荷物を確認し終えた途端、顔を輝かせた。
「すごいぞ。これだけあれば十分だよ。さあ、まずはここを出よう。」
勢いよく立ち上がるジョウイを横目に、リオウは僅かに逡巡する。逃げる事に異論はない。故郷であるキャロには帰りたいからだ。けれど、とそこでリオウはを見た。
こちらを見ていたのだろう。目があったも頷きを返すと、その場から立ち上がり、荷物の整理を始める。もまた、知り合いがここに居るというのについて来てくれるのだろう。それに悪いと思いつつも、やはり嬉しく思うリオウだった。
荷物を整えながら、ジョウイがに声をかける。
「君はどうするんだい?」
「私も行くよ。」
放っておけないしね。そう言って笑ったはリオウを見た。は、何処か不安の残る鳶色の目に目を細め、徐に拳を前に突き出す。歯茎を見せて笑うに、リオウは目を瞬かせるが、その動作に気付くと小さく笑って、以前のようにそれに答えたのだった。
各々が僅かな荷物を整理し終えると、器用にもジョウイは夕食時に借りたスプーンを曲げ、牢の扉を開ける事に成功する。極力音を立てる事無く牢を出ると、階段の先にいた砦の兵には、油の染みた布に火打ち石で火をつけ投げることによって彼らの意識をそらし、その隙に二階まで上がる。ベランダに出てれば、あとは少しだ。余ったロープを垂らし、伝う事で達は外へと出たのであった。
もともと、稀薄な程警備がザラであった砦だ。達はあまりにあっさりと砦を抜け出すことが出来たのだった。

***

傭兵の砦を出ると、達は近くにあるというリューべの街へと向かった。明け方に出た為、リューべの街に着く頃には既に日が昇っている。リューベの村は活気はあまりないものの、石で出来た塀と瓦屋根で出来た家屋が幾つも立ち並んでいた。
リオウの幼馴染であるジョウイは良いところの坊ちゃんであるらしく、軽くこの辺りの地理は把握しているらしい。リオウ達の故郷、キャロに向かうにはまず、峠を越えなければならない。道は開拓されており、それ程険しくはないが数日はかかる。道中に相談した結果、達は村で持ち物を売って、食料や装備を整える事にした。
しかし達が村に着くと、なにやら村の者達は慌しい様子であった。それを不思議に思いながら、質屋を探そうとした三人であったが、街の広場を通った所で、わっと歓声があがる。三人は思わず足を止めて、広場の中心へと視線を向けた。集まった村の人々の反応具合から、は旅芸人が芸を披露しているのだろうと憶測をつける。何度か旅先で見た事のある光景で、最初は物珍しく思ったものだ。
リオウやジョウイは珍しのか、興味深そうに集団の中心を覗いている。
「よし、そこのあんた!」
その時だ。人混みの中心、拓けた場所に立つ短い黒髪に軽装な服装の美少女と、村人の隙間から覗きこんだリオウの目がパチリとあった。
少女は目が合ったリオウに声を掛け、リオウが戸惑えば、黒曜石のような大きな目をした少女は、その華奢な容姿とは反して大きな声を張り上げた。
「よーし、背丈も丁度いいし、顔もよく見りゃかわいいじゃない。おいで、ほら早く!こっちこっち!」
少女は健康的に焼けた小麦色の腕を伸ばし素早く集まっていた人を掻き分けると、戸惑うリオウを他所に腕を掴み中心へと連れて行く。親友が連れ去られたことにジョウイが慌てた時、今度は野太い男の声が上がった。
「みなさーん!!ちゅうもーく、ちゅうもーく!」
頭部の前髪の部分だけ髪を残した巨漢の男である。男は中心に立ち、リオウを連れ去った少女を示す。
「えーここに現れましたーるナイフ投げの・・・名手!!」
「ちょっとちょっとぉ!教えたのと違うだろう!」
男の言葉に、少女は眉を吊り上げ非難の声を上げる。巨漢の男は慌てたように言い直した。
「あー!現れましたーるナイフ投げの名手にして、名だたる美少女のーアイリ嬢でーす! その素晴らしき腕前、美しき妙技をー特とご覧くださーい!」
その時、少女と似た美しい容姿をしながら、黒髪を腰まで伸ばし、ゆったりとした服装を着た女性がリオウに歩み寄り何かを囁いた。妖艶な微笑みを浮かべ何かを告げられたリオウの表情が、僅かに固まる。その表情に気をとられているうちに、リオウの頭には大きなスイカが置かれたのだった。
口を挟むことなく、あっという間に事は進んだ。硬直したリオウに向かって連れ去った少女、アイリがナイフを片手に宣言する。
「いくよ!」
リオウへと投げられるナイフに、の傍らにいたジョウイが小さく悲鳴を上げたが、ナイフは見事、リオウの頭の上に置いてあるスイカにだけに刺さる。思わずは拍手をして、ジョウイに睨まれるのだった。確かにリオウは危なかったかもしれないが、投げナイフの速さ、正確さに関心してしまうのも無理もないのではとは内心不服に思う。実際その場に集まった村の者達は彼女の業に拍手をしていた。
そこで巨漢の男が、今度はかぼちゃをリオウの頭の上に置いた。それも少女は正確に刺し、次にバナナ、りんごさえも刺して見せたのた。
今や広場は拍手の嵐に見舞われていた。先ほどに視線で注意したというのに、思わずジョウイも拍手をしているほどだ。巨漢の男は観客の様子に満足そうな顔で頷くと木で出来た籠を取り出した。
「はーい、御代はこちらにー!あ、君達も手伝って手伝ってー。」
「え、ぼ、ぼく?」
籠を手渡してきた巨漢の男に驚きながらも、押されるようにしてジョウイは渡された籠を手に辺りの人々の合間を歩き始める。きっと自身がなぜそうしているのか、わかっていないに違いない。そう思いつつもも流されるようにして手渡された籠を手に人々の合間を歩いていた。

「貴方達、手伝ってくれてありがとう。」
広場に沢山集まっていた人々が散り、閑散とし始めた頃、そこでアイリと似た容姿で腰まで黒い髪を伸ばした女性が頭を下げた。
「私達は旅の一段で、私がリィナ。」
「私はアイリ、私達は姉妹であっちがアネキだよ。」
女性に続いて先ほどのナイフ投げの少女、アイリが名乗る。続くように、巨漢の男が笑った。「ボルガンだぁ!」
「僕達はジョウイ。こっちは友達のリオウです。」
「私はと言います。」
そう言えばリィネは笑みを浮かべて、もう一度達に礼を述べるのだった。
「あんた達、見たところこの街の人間じゃなさそうだけど、この街は何しに来たんだい?」
リィナとは違いリオウ達を観察していたアイリは、それぞれが手に持っている荷袋を見とめて首を傾げた。ジョウイが頬を掻く。
「僕らは、ハイランドのキャロという街を目指している旅の途中で・・・、」
ジョウイの話もそここそに、リィナが目を輝かせた。
「あら、私達も同じですわ。この辺りの村はほとんど回りましたから、そろそろ次の土地を目指すことになるのですが、ただちょっと・・・。」
言葉を濁し、地面へと視線を落とすリィナに、アイリが鋭く投げかけた。
「だから大丈夫だって言ってるじゃない。噂の霧の怪物が出たって、私がいればなんとかなるよ。」
「霧の怪物?」
そこでリオウが目を瞬かせた。リィナは怪訝そうなリオウに笑みを向けると、霧の怪物を知らない様子の達に教えてくれた。
「ハイランドに入るには、この村から北に行ったところにある燕北の峠を越えなければなりません。
しかし、噂では凶悪な怪物が住み着いて、通れなくなっているようで、困っていたのです。」
凶悪な怪物。思わず達は顔を見合わせた。砦から村まであまり距離はなく、見晴らしの良い平原を歩いてきた。今のところ、モンスターと遭遇していない達は、一度もこのメンバーで戦闘を経験していなかった。つまり互いの強さを知らないのだ。はリオウとジョウイを見て、その何処でも居そうな少年の風貌に不安を感じるし、リオウ達もまた、華奢な体つきのが闘えると思えなかった。そうなると自身達で守らなければならないのだが、村人達で手が終えない怪物を相手に二人で、それも守りながらやりあえるだろうかといった不安が浮かぶ。達が互いの顔を見て、互いに不安に思っている中、そこへリィナが名案を思いついたかのように両手をつく。
「貴方達もハイランドに行くのでしたら、ご一緒するというのは如何かしら?」
まさに思ってもみない申し出だった。リィナは分からないが、そのナイフの正確さからアイリは相当の使い手であろうし、巨漢のボルガン等いうまでもない。
「そうですね、僕は構わないけどリオウはどうだい?」
リオウもそれに頷いてみせる。アイリが嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、しばらくよろしく、リオウ、ジョウイ、 。」
「よろしくぅ」
アイリに続いてボルガンがそう語尾を延ばし言う。こうして達はしばしば旅を共にする仲間を見つけたのだった。

間も無くして、 達は街を出た。質屋に売って得るはずだった金銭の問題だが、リィネが先ほどの芸を手伝ったお礼として食料や装備を整えられるだけの金額をくれたのだ。そのお陰で誰も何も売る事無く、こうして早々に街を出る事が出来たのだった。
この時もモンスターに出会う事無く、峠の境目までたどり着く事が出来た。しかし峠の麓で、思わぬ足止めを食う。軽く装備を身に付けた、同盟都市兵士だ。槍を片手に、兵は達の前を遮るように立つ。
「この先はハイランドとの国境になっています。また、霧の怪物が出るという噂もありますので、ミューズ市長アナベル様の命によって通行禁止となっております。どうかお引取り下さい。」
確かに国境の境目となれば、通行許可がなければ通れないであろう。しかし達がそんなものを持っているはずがなく、ジョウイは眉を寄せると兵士に詰め寄る。
「僕達はどうしてもハイランドへ戻ら・・・行かなきゃいけないんです。」
「しかし、命令ですから。」
ジョウイの懇願にも、兵士は首を縦に振らない。こうなってしまえば峠に向かう手立ては何もない。口を引き結んだ達とは別に、そこでアイリが兵士に詰め寄った。
「そこをなんとかさぁ、お願いだよ。」
「そういわれても・・・。」
「お願いだよぉ。」
眉尻を下げて、黒曜石のような目を潤ませる美少女のアイリに詰め寄られ、兵士の表情が一瞬緩んだが、しかし畳み掛けるようにボルガンがそう言うと、その緩んだ表情も元に戻ってしまった。は思わず額を押さえた。そこで、後方にいたリィナが前に出る。リィナは伏し目がちな目で兵士を見つめると、耳元で話し掛けた。
「あの、隊長さん。少しお話が・・・すこし・・・こちらへ・・・。」
実に蠱惑的な色気の溢れた声が、ぽってりとした赤い唇から囁かれる。辺りには彼女の香りなのだろう、花のような甘い香りすらした。
リィナの妖艶な仕草に、隊長と思われる人物は目を離せなくなった。頬を上気させた兵はリィナに誘われるまま、達の視界に入らない場所へと向かいやがて二人の姿が見えなくなる。
数分もなかっただろう。ややあって、リィナが戻ってきた。彼女について、隊長も戻りながら言う。
「あ・・・えっと・・・黙っていてくださいね。約束ですよね。」
「ええ、勿論ですわ、フフ。」
「・・・アネキ・・・また・・・。」
怪しげな笑みで言うリィナに、アイリは呆れた表情だ。「優しい兵隊さんが通してくださるとおっしゃってますので、お言葉に甘えましょう。」
そうして何故か、達はそこを通ることが出来たのだった。それを不審に思わないはずがなく、兵士達が見えなくなる所まで来ると、ジョウイがリィナに尋ねる。
「リィナさん、一体何をしたんですか?」
「ふふふ・・・大人の話をしてきただけよ。」
うろんげな目をしては尋ねた。
「大人って・・・リィナさん、幾つですか。」
「18よ。」
「18・・・。」
思わず自身の胸へと視線を向けてしまうであった。ち、ちいさくない、普通。これが普通。と必死に自身に言い聞かせる。リィナの胸がご立派すぎるだけなのだ。少し落ち込んだ様子のに、そこでリオウが首を傾げる。
「そういえばって幾つなの?」
「19だよ。」
途端上がる驚きの声。まさかと頬を引きつらすに、リオウが気まずそうな顔をして白状した。
「てっきり・・・僕と同じ年かと・・・。」
「・・・リオウは幾つなの?」
「16だよ。」
思わず遠い目をしたくなるであった。慌ててリオウが謝罪を述べたが、それからしばらく、 の機嫌は直る事はなかった。不老で成長しない容姿云々よりも、こういう所が歳相応に見られない理由であったが、がそれに気づく事はない。
の機嫌が直ったのは、メンバーでの始めての戦闘の時だった。不慣れな仲間との距離をとりつつも、は双剣を構えるとモンスターに切りかかる。剣筋の速さに、リオウ達は再び驚いた。そして意外にも強かったに驚きつつも、己の武器であるトンフォーを負けじと構え、リオウは敵に向かったのだった。
想定していた時間よりも早く戦闘を終えると、驚きも露にへと話しかける。
「すごいね、。強かったんだ。」
「リオウ達もじゃない。吃驚したよ。そこらにいる普通の男の子みたいだったから。」
しかし改めて考えてみれば、少年隊であろうとも、軍に志願したのだ、それなりに強いのは当たり前であろう。己の考えの至らなさに思わず恥じていると、リオウは頬をかく。
「まぁ、僕は家が道場だからね。ジョウイはいいとこのお坊ちゃんだし。」
「へぇ。」
「そういえば、の知り合いもお坊ちゃんなんだっけ。」
今度はが苦笑を浮かべた。
「まぁね。けど、私なんかよりも、もっともっと強いよ。」
今や彼の強さは、の師匠で鬼のように強いラズリルに匹敵していた。そういえば、お坊ちゃんであるジョウイはにとっては懐かしい棍を武器としていた。名家というのはそういうものを武器にするのだろうか、そんな事を思いながら、はお坊ちゃんであった、ティルの姿を思い出す。出立する前にリューべの街で聞いたところ、ティルのような人物は見かけなかったという。この霧の先に彼は見つかるのだろうか、そんな事を霧に包まれた道を歩きながらは思う。
ー!早くー!!」
リオウだ。この深い霧の中、少しでも離れてしまえば互いを見失ってしまうだろう。だからリオウは僅かに遅れたに声を掛けたのだが、は僅かに頬を緩ませると、霧の中、違う赤を追いかけるのだった。

道を大分進んだところで、達は燕北の峠にいるという霧の怪物と出くわした。それは霧で形を変える魔物で、達は魔物相手に四苦八苦したがなんとか倒す事が出来た。
倒れ込み動かなくなった魔物に、アイリが息を吐く。
「結構、厳しかったね。アネキの言うとおり、リオウ達と一緒でよかったよ・・・。」
それにジョウイが頷いた。
「確かに・・・僕とリオウ、 だけじゃ危なかったかもしれません。」
「だね、リ、」
そこではリオウに同意を求めようとして、思わず言葉をとめた。霧の中、彼の背後に鋭い刃が煌いたのを見たからだ。
「リオウ!」
彼の名を叫ぶ。リオウが振り返るが、それでは間に合わない。考える間もなく、はリオウの体を押していた。
!!」
「いたた・・・大丈夫。腰を打っただけだから。」
すかさずアイリがナイフを投げてし止める。倒れたそれは兎の形をした鎌をもった魔物、カットバニーであった。
誰も怪我をする事なく、無事に終えたはずであったがしかしアイリの表情は固い。それはリィナもだった。彼女たちの様子に内心首を傾げながら、はやけに軽くなった頭を特に気にする事なく触れようとした。そこで気づくのだった。
「あちゃー・・・切れちゃったか・・・。」
避けたと思った攻撃だったが、完全には避けられず、尾を引いたの髪は切られてしまったのだ。霧の中目を凝らしてみれば、ばっさりと切れた髪の束が地面に落ちている。
「ごめん・・・僕・・・。」
「髪ぐらい、平気だよ。」
眉を下げるリオウに、は笑みを浮かべて気にするな片手を降る。だが尚もリオウは視線をの切れた髪へと向けていた。
「それより、先を急ごう。」
はそう言ってリオウの背を押し、無理やり話を終了させた。
その為全員が背を向けたところで、がさり気なく、地面に落ちた自身の髪を拾い上げた事に、誰も気づくことはなかった。

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