Skyting stjerner2-2

は今、倒れそうだった。
服や武器は、こちらの世界にいたときと変わることなく着込んでいた。その為モンスターに遭遇しても倒すことが出来ている。なにしろもう一年以上鍛錬を積んでいるのだから、ティル達のように瞬殺という訳ではないが、少なくてもその辺りのモンスターであれば、なんとか倒すことが出来るようになっていた。以前とは違い、この世界で普通に生活する上で、問題はない。けれど問題はそこではないのだ。
にとっての最大の問題。それは今も変わらず、
「お腹、減った・・・。」
空腹であった。
こちらの世界に戻れたが、は現在置が分からなかった。一年以上旅をしていたものの、は食事担当であり、地理はティルやラズリルに任せていた所為だ。つまりティル達のところに戻りたくとも、彼らの居場所も分からない。自身の居場所も分からない、といった途方もない状態なのである。加えてである。携帯食料もなければお金もなかった。ビバ・ホームレス。
達が資金を稼いでいたのは、ほとんどが博打で、である。育て親の彼は賭け事で稼ぐことに嘆いてはいたが、生活のためだ。馬鹿みたいに博打に強い二名に頼っていたのである。
そうなると、以前マルコに鴨と称されたなど到底賭け事で稼げるわけがなかった。加えて、賭け事は賭場があって成立する。町にすらつけないは、稼ぐ方法云々よりも人がいる所へ辿りつかなければならなかったのである。くそ、少年、何もこんな所に落とさなくてもいいじゃないか。は星空と湖の空間から抜けて以来、全く反応のない手の甲の紋章に何度目かの愚痴を言う。が、実はそれほど遠くない場所に町があったのが、この世界の地理を理解していない彼女は知らなかった。絶賛、迷子2日目。それは絶賛断食中も意味していた。もう、泣きたいと足を前に進ませながら思う。方角は分からなくても、進むしか活路は開けない。前のめりになりつつ歩いていただったが、ふと、ある木が目に入った。思わず目を輝かせる。緑の茂る青々とした木には、赤い実がなっていた。りんごの木だ。
疲労感はどこへやら。急に身軽になったは、即座にその木へと走り寄り、木登りを開始した。素早く上り、近くにある実を興奮に胸を高鳴らせナイフで採る。感動しながら改めて掌の赤い実を見て、思わず放りなげた。折角見つけたりんごは葉で隠れていて気づかなかったが、なんと虫に食われまくっていたのだ。興奮は怒りに変わり、次の瞬間、は目に入った実を次々と採りにかかった。まるで猛獣のようである。だがそのどれもが虫食いの被害にあうか、腐っているかで食べれたものではない。
りんごを採っては投げ採っては投げを繰り返していると、そこでようやく、食べられそうな実を見つける事が出来た。少なくても葉に隠れてない部分は食べられそうだ。は震えそうになる手で、手を伸ばし、ナイフで採る。その時だった。
「そこで何してるの?」
突然聞こえた声に、反射的に体を震わせたかと思えば、支えていた手が木からずれてしまう。林檎の木はそれほど高い木ではなかった。その為落ちても大怪我をする部類ではないが、痛いものは痛い。
「ご、ごごごごごめん・・・!!」
人を敷いてしまえば、敷かれた人など尚更である。
木から落ちるとき、は歯を食いしばり衝撃を覚悟をしたのが、いくら待っても衝撃は来なかった。代わりに柔らかなものを敷き感触と、下から苦し気な呻き声。慌てて下を見れば、なんと少年がいるではないか。木の下から声をかけてきた少年を、は敷いてしまっていたのだ。は大慌てで敷いてしまった少年を起こす。その途中、ふと視線を向けては絶句した。色の染まり具合からそのフォルム。先ほどの食べられそうなりんごであった。それが少年の足元にあったのである。
しかし気づいた時には既に遅かった。声をかける前に、潰れた音が響く。
声の出ない悲鳴を出すであった。
「え、あ・・・!」
音で気がついた少年が咄嗟に足元を見る。次にの絶句する表情を見ると、やってはいけない事をしてしまったと気づくのであった。
「ご、ごごめん・・・!!」
今度は少年が慌てて謝った。は首を振る。彼は悪くないのだ。たとえやっと食べられそうな断食二日目の貴重な食料であっても彼は悪くないのだ。
少年を起こすと共に、も立ちあがろうとする。瞬間、脳が一瞬真っ白になったかと思えば急な運動に体がふらついてしまった。少年が慌てて支える。
「だ、大丈夫・・・!?」
「大丈夫・・・・」
そうは言うものの、彼女の顔は酷く白い。どこか具合が悪いに違いない。怪我をしてしまったのでは・・・?少年は眉を潜めて、慌てていると丁度、連れの者達がやってきた。
「もー何も言わずどこかに行かないでくださいよー!」
「そうだぞ!ちゃんと言え!!」
僅かに憤った様子でこちらにやってくる連れの一人を見て、少年はぴんと来る。そういえば、連れの一人の少年は医師の卵であるのだ。

「ただの空腹ですね。」
恥ずかしいからやめてくれといっても聞かない少年の勧めで、後からやってきて診断を行った黒髪を後頭部でお団子にした少年が、そう判断した。それにはだから言ったのに・・・と言っても聞かなかった少年を恨めしく見る。言っても聞かなかった少年、赤い衣服を着て、短いこげ茶色の髪に金の輪をつけた少年は、頬を掻いた。
「本当だったんだ・・・。」
「本当ですよ、まったく・・・・。」
「お前、まるで俺達コボルトみたいだな!」
腹減らして倒れそうになるなんて!と言うのは犬のような容姿をした二足歩行のコボルトだ。クロミミとは違い、こげ茶色の毛をしたコボルトを睨みたくなったである。例え図星であってもだ。
「けど、空腹は体に良くありませんよ。彼女、大分衰弱してるみたいですし。」
そうだろう!とは声を大にして医者の卵だという少年の意見を押したかった。空腹はいけない。うん。ダメ絶対。
そこで赤い着衣の少年が眉を下げて尋ねる。
「でも、どうして?」
「どうしてって、お金もないし、携帯食料もないからだよ・・・。」
ここ二日ほど迷子だし。そう言ってのけたに、空気は僅かに重くなった。呆れではなく同情でである。
「あれ、ということは僕、せっかくの食料を無駄にしちゃった・・・?」
確かにその通りではあるが、あれは彼の所為ではなかった。敷いてしまったのはである。 首を振り、むしろ自分が謝る方だと言ったのだが、彼の表情は晴れない。しかし突然、何かを閃いたかのように少年の表情が明るくなった。
「そうだ!じゃあ僕の今日の夕飯上げるよ!」
はぎょっとした。
「いや、それは悪いし、それにちょっと・・・」
「・・・大丈夫でしょう。皆、いい人たちですし、彼女の分の食事もきっとくれます。」
「え、いや・・・」
「本当!?じゃあ一緒に行こう!」
「あのー・・・」
そこでようやく、少年がを見た。そして首を傾げる。
「何?あ、そういえばまだ名前聞いてなかったね。僕はリオウ。」
赤い着衣の少年、リオウはにこやかに笑う。続いて、医者の卵の少年が頭を下げた。
「僕はトウタと言います。」
「俺はゲンゲン!これからお前、ゲンゲン隊長って呼べよ!」
「・・・・・ です。」
勢いに押されながら名乗り返せば、彼らはにこやかに笑った。
それになんだか今更行かないなどと、言える雰囲気ではなくなってしまったと笑顔の裏に冷や汗をかく。しかし、道も分からず金もない。2日間口にしたのは川の水のみで、空腹でもあるにとってリオウの申し出は正直、有り難かった。悩みに悩み。だが結局は切々と訴えてくる腹の空腹に負け、恥を忍んでは彼らについて行くのだった。

***

日が沈む中、平原を歩きながらは彼らの話を聞いた。なんでも、リオウ達は傭兵の砦という所から来たらしい。今回は小麦粉を買いにリューべの村まで来たのだという。トウタは前述の通り医者の卵で、ゲンゲンは見た目通りコボルトだと教えてもらった。
話の最中、耳を疑うような話があった。なんと、リオウは傭兵の砦の捕虜であるらしい。最初、は聞き間違えかと思ったが、それは事実であった。リオウは今いる地域、ジョウストン都市同盟と敵対しているハイランドの者なのだ。だがこうして買い物をしているのも、リオウの意思であり、彼らはとてもよくしてくれているのだという。確かに捕虜が、こうして外で買出しをしているのは通常ならばあり得ないことである。話に聞く今の彼の状況に、彼が捕虜だというのも本当なのだろう。しかし、そこで自身もお邪魔になっていいのか?という話なのだが、彼らは良い人だから平気だという。なんだか釈然としない気持ちを持ちながらもは納得し、何よりも空腹であるのは確かなので、申し訳なく思いながらも好意に甘えさせてもらうことにした。
互いに話題は欠かさず、平原であったことからモンスターと遭遇する事無く、ほどなくして達は傭兵の砦へと着いた。
目の前の砦には目を瞬かせる。
傭兵の砦はまるでログハウスを大きくさせたような、木で出来たアットホームな砦であった。更に印象的なのが、旗である。 正面から見た、一番高いところにある旗は、緑の地にとても特徴的な絵が描かれていた。実に絵心のある、その、なかなか真似できない独創的な絵だ。とりあえずは思わずあれは旗であるのか、と聞いてしまった程である。
黄色のとげとげの中心に茶色の熊が描かれたそれはライオンであるらしく、この傭兵隊の旗である、とトウタはどこか遠い目をしながら教えてくれた。彼もあまりそれを気に入ってはいないようである。

砦に入るとまず、入り口で黒髪の美しい女性が達を出迎えた。
「あら、お帰りなさい。」
黒く長い髪をサイドで結い、ゆったりとした白のスカーフを首に巻いた女性は、煙管を吹かす手を止める。 そこで女性と話をしていた少年がこちらを振り返った。
「お、お前ら帰ってきたのか!・・・て、そいつは誰だ?」
茶色の短髪に、額に緑のバンダナを巻いた小柄な少年が、を見て首を傾げた。彼の問いにトウタが答える。
さんって言うんです。レオナさん、彼女ここ二日ほど何も食べないで迷子になっていたそうで・・・何か、彼女に食べ物をお願いできないでしょうか。」
「二日もかい。若い子はちゃんと食べなきゃ駄目だよ。待っておいで、そこの子達と一緒に後で食事を持ってってやるから。」
簡単に話は進んだ。願ってもいないが、とんとんと進む話に若干戸惑うに、レオナと呼ばれた美女は微笑む。
「ここはそういった困り手が来るんだ。だからお前さんなんかも歓迎だよ。ただし居座るには、ちゃんと働いてもらわなきゃだけどね。ところで迷子って、どこから来たんだい?」
「あーと、迷子というよりは、連れとはぐれちゃいまして・・・。」
頬をかきながら、は言う。レオナは眉を下げた。
「そうかい。連れが見つかるまでここに居ていいからね。女の子が一人で野宿だなんて危ないよ。上の奴らには私から言っといてやるから。」
レオナは美しいだけでなく、面倒見もいい優しい女性であった。そんな彼女に以前同僚であった、亜麻色の髪をした同じく美女のユーリを思い出しながら、は彼女に深々と頭を下げるのだった。
「んじゃ、よろしくな!えーと・・・、」
です。」
「俺はポールだ。改めてよろしくな。」
小柄の少年、ポールが手を差し出し、も握り返す。互いに自己紹介を終えると、ポールはリオウへと視線を移した。
「ちゃんと買ってきたか?」
「うん。はい、これ。」
「よしよし偉いぞ。これで全部だな。」
リオウの差し出した布袋の中身を確認すると、ポールは満足げに笑みを浮かべた。そこでゲンゲンが短く吼えた。彼はもう帰るのだという。
「じゃあな、リオウ!!」
さっそうと尻尾を振りながら去っていくゲンゲンに続いて、トウタもはっとした表情を浮かべる。
「僕もそろそろ帰らないと!じゃあね、リオウさん! さん!楽しかったよ!!」
トウタは慌てた様子で、日が暮れつつある傭兵の砦を後にするのだった。
こうしてゲンゲンとトウタと別れると、丁度その場から離れていたレオナがいい臭いを漂わせて戻ってくる。
「あんたら、飯が出来たよ。」
「待ってました!」
溜まらず声をあげるポールに、も目を輝かす。それを見たリオウも笑みを浮かべたのだった。
そのまま、近くの食堂で三人食べるかと思われたが、そこで齟齬が生じる。
村に行ったりと砦を出入りをしているものの、捕虜であるリオウは牢屋で食べるのだという。それを聞いたが、食堂で食べれるはずがなかった。
「私もリオウと一緒に牢屋で食べる!」
「はぁ!?」
目を丸くするポールを、彼が悪いというわけでもないのに睨みつけは尋ねた。
「もしかして、夜もリオウは牢屋で寝る、ていう訳じゃないよね?」
「・・・・いや、それは、その・・・・。」
「でも僕は気にしてないし、あそこ結構居心地もいいんだよ。」
ポールが言葉を濁し、リオウも手を振ったが、彼らを睨みつけては続きを制す。確かに、リオウは捕虜である。しかしリオウ自身は何もしていないのだから、そういった対応はいくら敵対しているからといっても彼女は釈然としなかった。何よりも、はリオウのお陰で助かったのだ。ちょっぴり生命の危機すら感じ始めていたので、大恩である。
ふと気づいた事をポールに尋ねる。
「私はどこで寝ることになってるの?」
唐突に尋ねたに、戸惑いながらもポールは答えた。
「え、ああ、そりゃ、レオナさんが部屋を用意して・・・。」
「レオナさん!私、部屋、いりませんから!リオウと一緒に牢屋で寝ます!」
「「はあ!?」」
「また、あんたって子は大胆なことを・・・」
声を上げたかと思えばそう言いだしたに、常に余裕があるように見えるレオナも驚いたようだった。唖然と呟いてから、溜息を吐く。
「それはいいけど・・・・あんたはそれでいいのかい?」
「はい!」
「え、えええ。」
即座に返事を返したに、何故か同室になってしまったリオウだけが慌てるのだった。
「で、でも、女の子、でしょ?それはちょっと・・・」
僅かに頬に朱を走らすリオウに、この世界に来る前のであったら我に返るだろうが、しかしこの時のは冷静で、それでいてだからどうしたそんな事、といった心境であった。一時期どこかの誰かと同じ部屋に居続けた事から、その辺りの感覚がずれてしまったのだ。
「だったら、私の事は女と見なくていいよ!」
「えええええ」
「はい、あと他に不都合は?」
「え、えっと・・・・」
「ないね!はい決まり!!」
そう言って満足げな表情では頷き、リオウは戸惑いつつも彼女に押され、結局は頷いてしまうのだった。随分と、色々と逞しくなってしまったである。

***

牢屋は地下にあるものの、清掃が行き届いており想像していたよりも綺麗だった。少なくても、以前放りこまれたことのあるエルフの村の牢屋よりは快適そうだ。夜になると灯りは燭台のみのため薄暗いが、隅には毛布や敷き布団もある。
鉄格子はあり、達が入ると南京錠もかけられたが、見張りはいない。随分と破格の待遇ではある。だが、やはり恩人を地下の牢屋で寝かしておいて、自身は部屋でぬくぬくと寝ることなどできない。
未だ戻るように進めるリオウに梃子として譲らず、達はそのまま牢の中で食事を終え、就寝へと移るのだった。
って変って言われない?」
「そういうリオウは、馬鹿みたいに良い人って言われるでしょ。」
布団を敷き終わり、率先して用意された自身の毛布にくるまったに呆れ、最早妥協するしかなかったリオウも布団の中へと入った。暗闇の中、の返しに無言になったリオウに、小さく笑う。
その沈黙を最後に、二人はまどろみの中に落ちていった。

ふと、の揺蕩んでいた意識は浮上する。僅かだが、荒い呼気の音が聞こえたのだ。
ティル達のように、気配で起きるといった芸当等は出来ないが、こうした些細な音で起きるようになっていた。身動きをしないで、寝たふりを続けて辺りを探る。そうして音元がどこだか分かると、は毛布から起き上がった。
「リオウ?」
闇に慣れた目で彼を見ると、リオウは眉を寄せて苦しそうにしていた。思わず傍によると、物音で目を覚ましたようだ。
・・・?」
心配そうな表情で見るに気づくと、うっすらと目を開いたリオウは訝しげに呟く。はベルト兼ポーチから、まだ使っていない小さな布切れを取り出し、リオウの額から流れる汗を拭いた。
「魘されてたよ。」
「あー・・・。」
リオウは何かを仕出かしてしまったように僅かに顔をしかめる。汗を吹くに礼を言うと、彼も上半身を起こした。
「ごめん、起こしちゃった?」
苦笑と共にリオウは尋ねる。実際はそうであったが、は首を横に降った。
「どうしたの?」
「んー・・・嫌な夢を、見ちゃってね。」
そう言ってはいるが、笑みを浮かべるリオウには眉を潜めた。どこかの誰かが、よく誤魔化そうとして無理して笑う癖があったのを思い出したからだ。は思わず、両手で彼の頬を叩くように挟んだ。突然の事にリオウは鳶色の目を白黒させるリオウに構わず、言いきかせた。
「無理に笑おうとしない。無理して笑う必要なんかないよ。」
魘される程恐怖を感じる夢を見たのだ。それで平気なはずがなかった。も経験があるから知っていた。睨むに、リオウは驚き、ややあってから困ったように笑う。
って変って言われない?」
「そういうリオウは、馬鹿みたいに良い人って言われるでしょ。」
互いに、つい先程行ったばかりのやりとりする。僅かに笑ったリオウに連動して、も頬を緩ませた。そこでようやく、リオウの頬を掴んでいた手を離す。「よし!」唐突には声を上げると、リオウの首に手を回した。
「く、くるし・・・!」
苦しむリオウを他所に、そのまま倒れこむ。
「寝るぞー!」
「えええええ」
リオウが思わず夜中だという事も忘れて声を上げてしまうのも無理はなかった。しかしはやはり気にせず、リオウの首に回した手を頭部に置くと、何度か叩く。
「人の温もりは安心するんだよ。だからこうして寝るの。」
自身が身をもって知っている感覚であった。しかしグレミオにしてもらっていたように膝枕を行うのは自身も眠い為、いずれリオウの眠りを妨げてしまうだろう。だからこうして共に寝る事にしたのだが、当たり前だがリオウは抵抗する。それに対しては更にリオウの頭を自身の方へと抱え込んだ。
「ちょっと!僕、男!」
「だから女ってみなくていいって言ったでしょ!さっさと寝る!じゃないと首絞めるよ!?」
「なにそれ!」
リオウの抵抗は中々止まらない。しかし無視して更に抱き込もうとするにようやく、リオウの抵抗が止んだ。止んだ抵抗に満足げに頬を緩ますと、リオウの頭を睡魔を誘うよう、ゆっくりと撫でる。それもまた、グレミオにしてもらったようにだ。こうされると、は酷く安心する。グレミオの手は、一種の安定剤に近かった。リオウもそうだったのだろう。最初は硬直していた体も、徐々に緩まっていく。それに気づくと、も抱く手を緩めて自身も寝る体制に入る。ただ頭を撫でる手は、リオウが穏やかな寝息を立てるまで撫で続けた。
何時しか、二人はそのまま深い眠りへとつくのだった。

翌朝あの体勢のまま寝てしまったのだと知ったリオウは、溜息をはいた。
まさかあのまま寝てしまうとは思わなかった。しかし確かに、あの夢を見る事なくリオウは眠れたのだが。張本人といば、まるで気にした様子なく朝食をとっていた。それも僅かに頬を緩まし、嬉しそうだ。
彼女の表情を見ている内に、リオウは自身の悩みがどうってことのないように思えてきた。やがてぽつり、ぽつりと、ここ最近見てしまう夢の事をに話し始めたのだった。
リオウは砦に来る前、お金を稼ぐ為に入隊したハイランド王国軍、ユニコーン少年兵部隊の軍期を終え、リオウの故郷、キャロの街に帰る予定であった。けれどそこに敵、都市同盟の輩が奇襲してきたのだ。何事もなく軍期を終えるはずだったが、予想だにしない都市同盟からの奇襲で、ここまで逃げ落ちたのだという。共に志願した、親友のジョウイも軍にはいた。だが、その彼ともその時に生き別れてしまった。
奇襲は、悲惨なものだった。火を放たれ、弓を射られ、友だった者達が皆殺されていた。しかもそれだけでなく、逃げ延びた先で隊の隊長だったはずの男と、ルカという男が不審な会話をしていたのだ。森へ逃げ延びるよう誘導した隊長、ラウドはルカに、伏兵の餌食になってるはずだ、と報告していたのである。
彼らは、都市同盟などではなく、味方であるはずのハイランド王国の者だった。その者達に見つかり、崖まで追いやられ、滝に飛び込むことによってリオウと彼の親友、ジョウイは生き延びたのだが。けれどジョウイとは、再会出来ずにいる。
疑いようのない光景を目の当たりにしたリオウは、裏切りという事実と、生きているか分からない、親友との別れ、そして軍の友人達の死の光景に魘されていたのだ。
リオウから事情を聞いたは胃に重いものが落ちてきた。そして今までその重い出来事をポールやレオナにも言わず背負ってきたという彼に、馬鹿だといいたい衝動にかられ、と同時によく頑張ったと言いたい気持ちにもなる。頭に手を伸ばすと数回、優しく叩く。リオウは擽ったそうな顔をしたが、嫌がる事はなかった。
「もう大丈夫だから。」
そこでは言った。僅かに驚き顔を上げたリオウに笑う。
「もう大丈夫。絶対絶対大丈夫。私も手を貸すよ。だから背負わないでよ。」
半分こにしよう。は言う。辛いことも分け合えば大丈夫だと。支えがあれば人は立てる。そう言ったに、リオウはやはり、驚いていた。
まさかそう言われるとは思っても見なかったのだ。手を貸すなどと、この状況を話せば、誰であろうと頑張って、と自身が巻き込まれないために言うはずである。それを非難するつもりなどリオウにはない。むしろ、巻き込みたくなかったから今まで誰にいう事もしなかったのだ。 しかし一時の感情に流され、こうして彼女に話してしまった。だが、彼女は手を貸すという。それに驚かないはずがない。
申し訳ないとも思う。誰も巻き込みたくないと思うからだ。けれど手を差し伸べてくれた彼女に、リオウはどうしても、喜びが抑えられなかった。眉を下げて笑うリオウに、も笑みを浮かべて握り拳を突き出す。
リオウは最初、目を瞬かせた。だが笑うに戸惑いながらも、ややあって、遠慮がちではあるが自身の拳を当てるのだった。


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