Skyting stjerner2-25
ジョウイが、アナベルを刺した。市長の死に、追い撃ちをかけるように行われたハイランドの奇襲。固く閉ざされ、常に外を警戒している門を気付かれずに開けるなど外からは不可能だ。こちらもきっと――彼の手引きによるものなのだろう。信じられない事だった。今まで何度もハイランドに屈辱と絶望を味わされてきた。共にハイランドは許せないと、守れるだけの力が欲しいと組手も何度も行い、汗を流して笑いあったのはつい最近の事だ。けれど思い返してみれば、確かに納得がつく点もあるのだ。
ジョウイは思い悩んでいた。一人で考えたいと酒場から離れたとき、ナナミからのいつもの見送りの言葉にも悲し気な笑みを浮かべ、その時は気の所為だとは思った。しかし気の所為ではなかったのだ。彼はあの後に、ハイランドを手引きしたのだろう。
なぜ、とは思う。それはジョウイと幼馴染であるリオウもナナミもだ。ハイランドを許せないという気持ちが薄れた訳ではないのだろう。先の戦でも蒼い目は揺るがず、いつになく険しい表情でハイランドと相対していた。彼が大事に思っているピリカも、こちらにいる。
なのに、彼はリオウ達の元を離れた。ジョウイが考えている事が分からない。リオウもも、戸惑いが抜けず胸中は嵐が吹き荒れているようで、ジョウイを追いかけたくなる衝動を必死に抑える。リオウ同様に弟のように思っていたナナミは、今にも泣きそうな表情を顔を歪めて堪えていた。
静まり返っていた市街は一転して、突然のハイランドの夜襲に大混乱に陥っている。我先にと逃げ戸惑う市民達に、物々しさに泣き声を上げる赤子。人で溢れかえる道を縫い、酒場へと向かう。爪が食い入る程強く握られた拳からは、もう痛みを感じなくなっていた。
いつもは賑っているが、市民は既に避難を終えているようで酒場は静けさに包まれていた。残っている者は少ない。黒い髪を結いあげた女将のレオナ、亜麻色の髪をして前掛けをかけた給仕係のユーリに、ムクムク、ピリカの非戦闘員だ。勢いよく扉を開け放ち入ってきた達に彼女たちは一瞬警戒に体を強張らせたが、達の顔を見て肩の力を抜いた。レオナが安堵に表情を明るくする。「よかった。無事だったんだね。」
「ビクトールとフリックは少しでも時間を稼ぐ為に部隊を集めに行ったよ。みんな、サウスウィンドゥで落ち合うことになっている。あたしもすぐに逃げるから、あんたらも早く逃げるんだよ!」
既に荷物も集めてくれていたのだろう。レオナは達の荷物と、食料の入った麻袋を押し付けると捲し立てる。
「僕たちも・・・!」
レオナの勢いに押されそうになったところで、我に返りリオウが振り返った。レオナは秀麗な眉尻を下げ、首を振る。
「今行ったところで、途中でハイランド兵に見つかるのが落ちさ。
南へ逃げれば、コロネの街に出る。そこから船でサウスウィンドゥに行けるはずだよ。ほら、何してるんだよ!早く行くんだよ!!」
反論を許さぬようにレオナは達の背を押す。事態が飲み込めないのだろう、戸惑った様子のピリカをリオウに預け、レオナは次にムクムクをナナミに渡した。
レオナ達は非戦闘員だ。逃げるときは戦える者が共にいた方がいいに決まっている。は振り返り、レオナと彼女の隣に佇み不安そうな表情を浮かべたユーリへと声をかける。
「ユーリさん達も行きましょう!!」
だがユーリは、眉尻を下げながらも首を振った。
「私はもう少し、ここに残るわ」
「でも・・・!!!」
彼女達は戦う術を持たないのだ。今すぐ逃げた方がいいに決まっている。首を縦に振らないユーリに、納得しないが食い下がる。レオナはその様子を見て安心させるように声をかけた。
「心配しなくても、ビクトール達が戻ったらあいつらを盾にしても、あたし達も逃げるよ」
彼女の意思は固いようだ。渋るの手を、唐突にリオウが掴む。手をひいた彼は声を荒げる。
「!!」
切羽詰まった表情には思わず息をのむ。そうしている間にも時間は過ぎる。差し迫った状況には唇を噛むと、ユーリ達に振り返った。
「必ず!!必ず来て下さいね!!!」
リオウに引き摺られながらも叫んだに、ユーリは優しく微笑んだ。
ミューズの町を出て、南へとひたすら走る。日が上り始める前に北方の空が微かに明るくなった。あの方角は後をしたばかりのミューズだ。 夜空は墨汁を垂らしたような暗闇で包まれ、煙も見えないが橙色に空をも染めあげるのは炎だ。ミューズからは大分離れたが、夜空すら染める燃え盛る町の様子に煙の匂いすら届きそうだ。嫌が応にも、今までの惨状が思い出される。足を止めかけた達は燃え盛るミューズを悲壮に顔を歪める。やがて降りきるように背を向けて、南へと進むのだった。
無我夢中で歩き続け、気が付けば今度こそ東側から日も登り始めた。白ずみ始めた空に誰ともなく歩調を緩めナナミが息を吐く。
「ふぅ、ここまでくれば大丈夫だね」
ふとナナミが顔を悲しげに歪める。
「こうやって逃げ出すのは何度目だろうね・・・」
その時、ピリカが元の道を戻ろうとした。慌ててナナミが止める。
「待って!ピリカちゃん!!戻っちゃ・・・駄目!!」
ピリカはジョウイが心配だったのだろう。けれど今戻らせるわけにはいかなかった。ナナミはピリカの肩を掴むと彼女に言い聞かせる。
「大丈夫・・・・大丈夫よ・・・・ピリカちゃん・・・・ジョウイは大丈夫だから・・・戻っちゃ、駄目よ・・・」
達は日が昇った後も歩き続けた。時折休憩を挟むも道中の会話はほぼなく、それぞれが複雑な胸中を抱いているのだろう。考えるのはこの場にいない、彼の事ばかりだ。
言葉も少なく夜通し歩いたが、コロネの街へ辿りつくより先に日が暮れ始めてくる。まだコロネへの道は長い。途中で背負ってはいたもののこれ以上は幼いピリカが持たないだろう。達は近くの森で身を隠しながら、野宿をすることにした。モンスター対策には枯れ木を集め、リオウは火を起こす。
が近くから枯れ木を持って戻ってくると、ナナミに抱えられていたピリカとその横に寄り添うムクムクが眠っていた。気付いたナナミが表情を和らげる。
「ピリカちゃんとムクムク、寝ちゃった」
道中、ピリカは何度もミューズへと戻ろうとした。彼女が誰よりも懐いていたのはジョウイだ。いつもいる彼がいない事に、声は出せないもののピリカは始終不安げな表情を浮かべていた。ピリカが泣かなかったのは、ナナミやリオウ達の様子で察したからかもしれない。ナナミ達もまた、見た事のないほど辛そうな表情を浮かべていたのだ。それでもようやく見れた安らかなピリカの表情とムクムクの寝顔に、自然と笑みが零れる。ごちゃごちゃに絡まりながらも張られていた糸が、解けていく心地がした。一息つき、今度は寝るのに丁度いい枯草をは集め始める。その時、火を起こすリオウの背にナナミが話しかけた。
「ねぇ・・・リオウ・・・やっぱりジョウイがアナベルさんのことを・・・・・そんなわけないよね」
その途中でナナミは首を振った。ナナミは顔をあげると、不安げな表情でリオウを見る。
「ねぇねぇねぇ、これからどうする?」
ナナミは相当疲労しているようだった。いつも元気な彼女の表情には影があって、は眉尻を下げる。ナナミは弱弱しい笑みを浮かべた。
「あのさぁ、あのさぁ、どこか遠いところへ行かない?こんな戦いばっかりのところは逃げ出してさぁ、どっかの山の中でさぁ、狩りとかして暮らすんだよ。畑もちょっと耕してさぁ、私達ぐらいならなんとかなるよ・・・」
「・・・そんな事、できるわけないよ」
「そうだよね・・・」
故郷は遠く、共にいたジョウイもいない。失った者も数えきれず、リオウには今更、何もなかった事にする事は出来なかった。
アナベルは最期、リオウ達に生きる残る事を望んだ。自身の命は持たないからと、彼女は傷の治療よりも、リオウ達が逃げ延びることを優先したのだ。紡がれた命で、リオウ達は生きている。
追われては、逃げて、生き残り。だが、それだけでいいのだろうか。リオウは思う。どうしたいかと考えた時、最後まで市民を思い、無念に命を散らしたアナベルを目に、あの時、確かにーーー。
ナナミは寂しそうに笑った。
「無理・・・だよね。出来るわけないよね・・・ジョウイを置いて・・・ごめんね・・・」
夜はピリカを覗いて、ナナミが一番初めに眠った。心身疲労しているのだろう。無理もない。突然こんなことになって。は彼女の額を撫でる。そしてふと同じように起きていたリオウに声をかけた。
「リオウも、寝ていいよ」
だが彼は首を横に振る。焚火の炎に頬を照らされながら、微笑んだ。
「ううん、僕はまだ」
首を降ったリオウには眉を寄せる。彼もまた相当疲れていた。リオウはさすが同じ血が通っていなくても姉弟なのかナナミ同様、周囲を明るくさせるような気さくな笑みを浮かべる。けれどこの時ばかりはいつもと違い、何処か弱弱しかった。
は無言で彼に近づくように手を招く。疑問符を浮かべたリオウがに従い、隣に座った。はそんな彼の頭をわしづかむと、思いっきり倒す。
「え?」
の膝の上で、リオウが目を瞬かせる。そんな彼に苦笑する。グレミオのように、なんて上手くはいかないものだ。は彼の頭を撫でる。
「寝なさい」
「そんな無理やりな・・・」
「はい、早く。寝る寝る」
リオウの言葉を無視して、は彼の頭を撫でる。そうされている内に、事実疲れがたまっていたリオウは唐突に眠気が襲ってきた。悔しい。いつもいつもこんなに好き勝手にされて。リオウはそう思う。けれど気遣ってくれて嬉しい、とも思う。 そんな葛藤をしている内に、リオウは意識を失いかけ始めた。撫でられる手が温かく気持ち良くて、心身共に疲労したこの状況ではついまどろんでしまう。だけどこれだけは、と彼は寝入ってしまう前に口にした。
「・・・も、寝てね」
「心配しなくて結構」
の笑みを含んだ声を最後に、リオウの意識は暗転した。
目が覚めると、火を興していたナナミが気付き、声をかけてきた。
「おはようリオウ」
一晩眠り、気力も回復したようで明るい笑みだ。若干、いつもより翳ってはいるが昨日の思い詰めた表情よりは大分良い。姉の様子に安堵しながらリオウは視線を彷徨わせる。は既にいない。昨夜は情けなくも膝を借りて寝入ってしまったが、いつのまに離れたのだろう。
「レオナさん・・・確か南のコロネの街に行けって言ってたよね。あ、おはようピリカちゃん。顔を洗ったら出発よ」
二人のやり取りに目を覚ましたピリカをナナミは小川に即す。リオウはまだ辺りを見回していた。何かを探している様子のリオウに気付き、ナナミはにやりと笑みを浮かべる。
「ほらほら、リオウもあそこの小川で顔を洗ってきなさいよ。探してるもいるから」
「な!」
図星をつかれたリオウは途端顔を赤くする。同時に一気に眠気も吹き飛んだようだった。リオウはそれ以上ナナミにからかわれては溜まらないと急いで小川へと向かう。その背をナナミの小さな笑みが追いかけたが、リオウは知らぬ振りをした。朝から姿が見えない彼女が心配だったのなどと、口が裂けても言えなかった。
「コロネの船で対岸のクスクスの街に渡ればサウスウィンドゥに行けるはずだよ。ミューズにいた地図職人の少年に聞いたことがあるんだ」
朝、小川で水を酌んでいたら何故か理不尽にもリオウに馬鹿と詰られはしたが、は朝の準備を終えた。
レオナが用意してくれていた食料で朝食を終えるなり放ったナナミの言葉に、は思わず目を瞬かせた。地図職人の少年。・・・まさかな、とは半笑いする。なんだか解放軍時代にもそんな子がいたような気がするが、きっと似た少年のことだろう。
準備をすぐに終わらせると、一行は更に南へ下る。コロネへはどこまでも広がる平原を南に行き、四刻ほどで着いた。ミューズより小さな町だ。しかし、コロネには既にハイランド兵が多く滞在していた。内心眉を寄せながらも達は早速、目的の船に乗ろうとする。けれど港へとつくとそんな面々に声がかかった。
「ちょっと待ったぁ!お前ら、どこに行くつもりだ!!」
ハイランド兵だった。兵の登場に肝を冷やしながらもが口を開く。
「あの、渡し舟に乗せてもらおうと思いまして」
だが兵士は眉を寄せる。
「それはならん。ルカ・ブライト様の命によって船を出すことはまかりならん。さぁ帰れ帰れ!!」
そうして達は港から追い出されてしまった。ナナミが肩を落とす。
「ううううでも船に乗らないとクスクスには行けないし・・・」
達は顔を見合わせ、溜息を吐いた。とりあえず情報を集めなければならない。ならば情報が集まりやすい、人の多い場所がうってつけだろう。達は情報集するべく酒場へと向かうことにする。その前に宿はとっておいた方が良いだろう。満室になってしまえば今夜も野宿だ。さすがに2日連続で枯れ草の上ではしっかりと休めない。達は足早に宿屋へと向かうのだった。
そして受付に話しかけようとした時だ。
「どいつもいくじなしだね。なにが王国軍だよ。一人ぐらい男意気のある奴はいないのかい?」
「おやめなさいアイリ。無駄ですよ。はぁそれにしても力を貸してくれる素敵な男性はいないものかしらねぇ」
「アネキこそ、そんな事いっても無駄だよ」
聞きなれた声が、と思えば前方の曲がり角から見知った彼女達が現れる。とリオウは目を丸める。黒髪の活発そうな女性と、清楚な女性の正反対の美人姉妹。
「リオウ!どうしたんだいこんなところで?故郷に戻ったんじゃないのかい?」
旅芸人のアイリとリィナ、そしてボルガンだった。達と同じように驚きに目を丸めるめていた彼女らだったが、アイリが突然、前に居たナナミを突き飛ばしリオウへと抱きついた。ナナミがそれに頬を引きつらせる。
「ど、ど、どちらさん??」
「あんたこそ誰だい?私はアイリ、そうだね、リオウとの命の恩人ってとこかな」
あれ、私忘れられてない?と一人疎外感を受けていると、そこでは肩を叩かれる。振り返ればぬばたまのような黒髪に美しい美女、リィナだ。
「お久しぶり、」
美しい微笑みを浮かべた彼女に、も笑顔を浮かべる。そうしていると、ナナミと睨みあっていたアイリが切り上げてこちらを向く。
「本当だね。まぁ、こっちにおいでよ。積もる話もあるだろう?」
リィナはリオウの腕を掴むと、地下にある酒場へと向かった。その背を顔を顰めたナナミが追い、とリィナは顔を見合わせ、居心地がいいのか、肩にひっついたムクムクとピリカを乗せたボルガンがついて行くのだった。
席につき落ち着くと、リィナが微笑む。
「改めて。お久しぶりですねリオウ、」
「元気だったか?」
アイリが明るく尋ねると、達は微笑んで見せた。そこでリィナが首を傾げる。
「おや、今度はガールフレンドと一緒ですか?」
「違う違う。私はリオウのお姉さんよ」
思いもしない指摘にナナミは目を瞬かせた後笑う。リィナが頬に手を当てて微笑んだ。
「そう・・・よかったわねアイリ」
「そりゃどういう意味だいアネキ!」
顔を赤くしたアイリが眉を寄せて勢いよくリィナに振り返った。それを見てほほう、とは思う。どうやらリオウも隅におけないようだとちらりと彼を見てみれば、リオウは微塵も気づいていないらしく、ボルガンを蹴るピリカを微笑ましく見ていた。
「ふふ、ところでリオウはどうしてここに?」
その言葉で達は無言で視線をあわせる。何処まで話したものか。リィナ達から別れてあまり経っていないが、起きた出来事は多い。一先ず、今は周知されていなくてもこの先広まるであろうハイランドの動きと、それに合わせたの話を軽く話す。ジョウイの事は、言えなかった。しかし何かあったのか察してくれたのか、リィナ達はこの場にいない彼の指摘をする事はなかった。
話を終えると、アイリが頭の後ろに手を当てる。
「ふーん、あんた達も色々あったんだね。こっちも似たようなもんだけどね。ハイランドじゃあ商売も上手くいかなくってね。仕方ないから、場所を変えようと思ってここまできたんだけど・・・」
「え?え?もしかして??じゃあ貴方達もサウスウィンドゥに?」
「ええ」
「じゃあ、じゃあ・・・」
頷いたリィナに目を輝かせてナナミが詰め寄る。だがアイリは首を振った。
「それが・・・王国軍が船を出したら処罰するってふれて回って、ここの奴ら、皆びびって船を出してくれないのさ」
それを聞いて、達は肩を落とす。本格的にどうしようもない。
「そうかぁ・・・どうしよう?リオウ、」
眉尻を下げたナナミに、達は何も答える事が出来なかった。
予想外にも再会を果たしたリィナ達から情報を得ることは出来た。コロネでは誰も舟を出したがらないというが、それではビクトール達とも合流できずにこのままだ。達は当初の予定であった酒場だけでなく、町の隅々まで回る事にする。もしかしたら、誰か舟を出してくれる人いるかもしれない。だが尋ねたところやはり誰もが首を縦に振ることはなかった。町中を隈なく回った結果、結局三人は肩を落としながら歩く。
少し日が空いてしまうが、何日か経てば状況も変わるかもしれない。その間に達の顔を知るハイランド兵に追いつかれてしまえば終わりだが現状は打つ手がなかった。困り果てながらも宿へと戻る道すがらだ。は道の脇で、聞き覚えのある舌打ちを聞いた。
「タイ・ホーのやつ!!昔のよしみで船を出してくれりゃいいのに、なにが『風の向くまま気の向くままサイの目のまま』だよ!!」
途端の胸が鳴る。この声、この言い方、そして内容。解放軍でお世話になった彼がこの街にいるのだ。彼ならば『勝てば』舟を出してくれるかもしれない。それにこの声の主は。
「シーナ!!」
は前を見ると駆けだした。声に顔を上げて目を丸めた青年は昔の風貌とは少し変わったものの、鎖骨を出した衣服を身にまとい、すらりとした手足に薄茶色の短い髪。きめ細やかな肌は白く、通った鼻筋に切れ長の瞳と整った顔立ちだ。驚いた様子の青年に向かって、は思いっきりタックルをくらわしたのだった。
「うっわー!久し振りー!!!」
は喜色に顔を綻ばせて彼を見上げた。すると気づく。元からあった身長差だが、以前より更に出てしまっており地味に凹んだ。突如タックルされたシーナは未だ呆然とを見ていた。切れ長の目を数回瞬かせ、笑みを浮かべる。
「!?うわ、久しぶりだなお前ー!!!」
「シーナこそー!!!」
うりうりと互いの頭を手で押す。そしてその感覚にシーナははたとに顔を近づけた。
「お前、背縮んだ?」
「シーナが伸びたんだよ馬鹿野郎」
笑顔で頬を引きつらせては言う。しかし懐かしい面々とこうも立て続けに合うものだ。アイリ、リィナ。そしてもしかしたら彼に、振り返って見ればクライブやビクトール達とも会ったのだ。旅をしていた時は同じように放浪の旅をしていたシーナぐらいしか会わなかった為その面々に会えては嬉しかった。頬を緩ませるに、しかし唐突にシーナは眉を寄せた。そして視線を彷徨わせると頭をかく。
「・・・あー、あいつら、探してたぞ」
は思わず固まる。シーナは眉尻を下げて尋ねた。
「どうしたんだ?」
「・・・ちょっと、ね」
それには苦笑を浮かべた。少なくても今はまだ会えない。探してくれるのは嬉しいし、申し訳ないと思う。けれどはどうしても彼等を、特に元天魅星として人々を導いた彼を戦に巻き込みたくなかった。複雑そうな笑みを浮かべるに、シーナは顔を歪める。ややあって溜息を吐くと頭を乱暴に撫でた。はぐしゃぐしゃになった髪でシーナを見上げる。シーナは口の端を上げていた。
「聞かないでやるよ。だけどなぁ?俺だってお前が居なくなったって聞いて心配したんだからな?」
この馬鹿!とそう言うと彼は一度の頭を軽く叩いた。叩かれたが、の頬はどうしても緩んでいた。そんな彼女に苦笑を浮かべ、シーナはそこでようやく周りを見る。
「で、こいつらは誰だ?」
と共にいるリオウ達の事だ。シーナは例のごとく放浪の旅をしていただけだろう。ハイランドとは関係がない。しかし今更隠すような仲でもなかった。戦が起きるなら、旅をする上では知った方が良いだろう。はリオウ達と共にいる経緯と、リィナ達に話したように軽く今の現状を彼に教えるのだった。
一通り話し終えると何故かは彼に思いっきり溜息を吐かれ、ついでに再び頭を叩かれる。それにむっと顔をしかめれば、シーナが彼の場所まで案内してくれるという。そう、解放軍時代の船頭であったタイ・ホーの元にである。町のはずれの、小さな古びた家だった。扉をノックなしシーナが開けると、すぐに低い声が返ってくる。
「シーナ、船はださねぇぞ。いい加減、諦めて帰りな」
「俺じゃない俺じゃない!」
否定するシーナの後に続き、達も古びた家屋へと入る。ぞろぞろと引き連れてきた人物達の中、を見るとタイ・ホーを目を丸め、口に銜えていた煙管を落としそうになった。
「じゃねぇか!!久し振りだなぁ!」
目を細めると、タイ・ホーは遠くを見るように呟く。
「お前さん等には色々無茶を言われたもんだぁ・・・」
も無茶を言った記憶はある。昔を懐かしむようだったタイ・ホーだが、ふと顔を真面目なものにする。
「だが幾らお前さんでも、俺の道は曲げれねぇぜ」
「なら勝負です」
「お前さん、弱かったんじゃねぇのか?」
どこでそれを、とは頬を引き攣らせる。だがはそこで、一連を見ていたリオウの肩を両手で掴むと前に突き出した。少年を前に突き出されたタイ・ホーは顔を顰める。
「なんでぇおまえらは?」
行き成り前に出されて驚いていたリオウだったが、彼の話はシーナから聞いていた為すぐに顔を引き締めた。
「どうしても、湖を渡りたいんです」
真剣な表情を浮かべたリオウをタイ・ホーはしげしげと眺める。一通り観察を終えると、彼は口の端を上げ座敷を叩いた。「おめぇ、ちょっとこっちに来な」大人しくリオウはタイ・ホ―の前に座る。
「ふーん、わけありって顔だな・・・」
表情一つ変えないリオウに、タイ・ホーは太ももを叩くと笑みを浮かべた。
「よおし、じゃあこうしよう。ここでサイコロ勝負だ。俺に勝ったら、船は出してやるが、負けたら金を置いてとっとと帰りな」
から事前に聞かされてはいたが、案の定タイ・ホーからの条件はまさかの博打である。リオウは頷く。
「わかりました」
「よおし、勝負だ」
タイ・ホーは笑みを深くして満足げに頷いた。
そしてその結果はの予想以上の結果となり、達を唖然とさせた。天魁星となる彼はもしかしたらティルと同じようにズバ抜けて運が良いかもしれない。そうが睨んだと通り、リオウの運はよかった。良すぎだ。タイ・ホーが呆然と言う。
「・・・ほお、こいつは驚いたぜ。お前さん、よくよくツイてるんだな」
賭け事は初めてらしいリオウが苦笑を浮かべた。そんな彼を呆然とは見る。あり得ない。私は初めてチンチロチンをした時は年下にカモられたというのに。全勝されたというのに清々しい笑みを浮かべるタイ・ホーに、彼の弟分、ヤム・クーが恐る恐る尋ねた。
「アニキ・・・まさか本当に船を出すわけじゃあないでしょうね。王国軍のやつらが煩いですよ」
だがタイ・ホーはそれに片手を振る。
「ヤム・クー、船の用意をしな。サイコロの目は嘘をつかねぇ。こいつを湖の向こうまで送ってやれっておてんとうさんが言ってるのさ」
その言葉にナナミが目を輝かせた。
「本当に?本当に?船を出してくれるの?じゃあ、じゃあ、ちょっと待ってて」
ナナミは達に近寄ると、声をひそめる。
「ねぇ、リオウ、。あの人達も一緒に行ってもらおうよぉ、私達だけじゃ不安だよ。だって・・・この人たち・・・・ちょっと怖いし・・・」
「お嬢ちゃん、なんか言ったかい?」
向けられた鋭い視線は本人にとっては普通なのだが生憎彼は人相が悪かった。ナナミが肩を震わせる。
「い、いえなんでもありません!あの、あの、ちょっと待っててくださいね。一緒に連れていって欲しい人がいるんです。行こうリオウ、」
ナナミはとリオウの手をひっぱると、小屋を出てリィナ達のいる宿屋の酒場へと向かうのだった。
「まぁ、私達もいいの?」
事情を説明すると、リィナは喜びを露にした。そうしてリィナ達とサウスウィンドゥへと向かうことになったのだが、ふとリィナの視線がの横へと向く。
「ところで、そちらの方は?」
待ってましたと云わんばかりに、すかさず美女の手を取ると彼は恭しく話しかける。
「シーナといいます。以後お見知り置きを、御美しい方」
「まぁ・・・。」
「お見知り置きをって・・・」
口に手を当てるリィナとは違い、は呆れたように笑う。何しろここで彼とは別れるのだ。ところが彼はその言葉に目を瞬かせた。
「何言ってんだ?俺もついて行くんだぜ?」
「「はぁ!?」」
唖然とした声は、何故かリオウと重なった。だがシーナといえば平然とした様子で言う。
「お前を一人にしておけるかっつーの。お前に何かあって、あいつらにどやされるのは嫌だかんな」
「いや、別に、大丈夫だから・・・」
は頬を引き攣らせて言う。そんな理由で彼を付き合わせるわけにはいかない。この先、何が起こるかわからないからだ。眉尻を下げてそう言うに、しかしシーナは溜息を吐いた。そしての頭にその大きな手を置くと、彼は言う。
「ダチを心配して悪いか?」
それには息を詰める。見上げれば、シーナはいつものようにニヒルに口の端を上げているものの、らしくもなく柔らかく目を細めていた。は顔を俯かせて小さく呟くように言う。
「・・・ありがとう」
「いーえ」
シーナは軽く笑い、いつものようにの髪を掻き交ぜた。こうして一同にはリィナ達の他に、シーナも加わるのだった。途端シーナが笑みを変えてリィナに詰め寄る。
「それにこんな美人さん、ほっとけないからな」
そう言って手を取り手の甲に口づけする。変わらない様子の彼に苦笑して、はナナミに声をかけられ振り返った。だからその後のやり取りを聞いていなかった。
「あら、そんなことを言っているから、本命に気付かれないのよ?」
「・・・ははは」
やべぇ、この美人さん怖ェ。綺麗に微笑むリィナに、思わずシーナは笑みを引き攣らせるのだった。
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