Skyting stjerner2-22
席に着いた頃には、丁度議場に都市同盟の代表の者が集まった時だった。どっしりと腰を据えた黒髪の男はティント市市長、グスタフだ。荒くれ者の集まる鉱山ギルドをまとめ上げ、市民からの熱い声から市長まで上りつめた男である。対反するように横に座るのは肩を縮めた気弱そうな猫背の男、トゥーリバー市全権大使マカイ。トゥーリバーは3つの種族が暮らす街だ。種族間の問題に日々苦労する彼は、集まった面々の中では若輩にも拘わらず随分と気弱そうな印象である。並び座る男は、腰に剣を帯刀したマチルダ騎士団の白騎士隊長、ゴルドーだった。つい先程、ナナミを突き飛ばしたいけすかない男である。ゴルドーはこの場でも尊大な様子で、しきりに机を指で叩いている。眉を顰め待たされている事に苛立っているようだ。対面に座るのは白髪交じりの男である。彼はゴルドーの急かすような態度にも気にもかけず、穏やかな表情を浮かべでいた。サウスウィンドゥ市市長、グランマイヤー。その隣にはこの場で一番年若い、金髪の女性が腰かけていた。グリンヒル市市長代行、テレーズである。最後に席に着いたのは、長身の男、ミューズ市市軍指揮官ハウザーだ。軍人でもある彼は褐色色の肌に均等の筋肉をつけ、隙のない様子である。議会の面々が集まると、主催市の市長であるアナベルが卓の上に腕をつき開始を宣言した。
「これよりジョウストンの盟約に従い、丘上会議を執り行います。」
彼女は早速、今回の議題へと入る。他でもないハイランド軍についてだ。
「ハイランド軍は既に国境に集結しています。王国軍の食料はほぼ二週間分、すぐにも攻め寄せて来ると思われます。」
アナベルの言葉に、しかし待ったをかける声があった。金髪の髪をした、優男のマカイだ。彼は眉尻を下げながら言う。
「お待ち下さい。ハイランドは今だ休戦協定を守っているのではないのですか?」
だがそれをアナベルは切って捨てる。
「ハイランド軍は既に我がミューズ東方に侵攻、多くの村を焼き討ちにしています。」
「それに関してはハイランドから山賊の仕業である、と回答を得ておるが?」
白髪に沢山の髭を蓄えた、ゴルドーだ。彼は椅子にふんぞり返り鼻で笑うように告げると、対面に座る温厚そうな顔立ちをしたグランマイヤーが首を振った。
「ビクトールの傭兵部隊が山賊ごときに潰されるとは思えんがな。」
「ハイランドが軍を集めているのは紛れもない事実であり、これは都市同盟にとって脅威である。」
グランマイヤーに続いて、黒い肌に短い黒髪をしたミューズ市軍の総司令官、ハウザーが厳しい口調で言う。そこへ精悍な顔立ちをしたグスタフが顎髭をさすりながら唸る。「以前からハイランド軍は国境に近づいても本格的に攻め入ってくることはなかった、今回も同じではないのか?」
意を唱えるのは、この場では珍しい、アナベルと同様女性のテレーズだ。彼女は眼を鋭くして険しい表情で言う。
「ハイランド軍の指揮官は皇王アガレス・ブライトからその息子ルカ・ブライトにかわっています。以前と同じように考えるわけには・・・」
それを鼻で笑う人物がいた。先程から一貫して尊大な態度を取るゴルドーだ。
「ほぉ、同盟の供出金を三年も払えないのに口だけは達者だな。」
「それは・・・」
言葉に詰まるテレーズをゴルドーは再び鼻で笑う。ゴルドーはそのまま、話にならないとばかりに続けた。
「グスタフ殿が言うとおり、一戦すれば奴らは逃げていくに決まっておる。我が騎士団が出るまでもあるまい。」
「我がトゥーリバーも長い戦いで市民達も疲れ果てていますし・・・」
ゴルドーにマカイが同意を示す。保守的な意見のマカイと、強硬派であるゴルドーが結託してしまい、テレーズ、グランマイヤーと強く出れない面々は押し黙ってしまう。中立の立ち位置であるグスタフに、ハウザーもまた相手の出方を見る考えのようで押し黙っている。唯一、アナベルは刻一刻と迫る都市同盟の危機を前に、自由な事を言い始める彼等に眉をよせた。
「ルカ・ブライトは鬼神のような男、このミューズの守りを破られれば都市同盟はバラバラになってしまいます。都市同盟の盟主として盟約に従い、同盟軍全軍の集結を命じます。」
だがそれにグスタフは肩を竦めた。
「そんなに怯えることはあるまい。ミューズを守って、我がティントの市民が飢えては意味がない。」
「盟約に従った命令であるぞ。口は控えるべきであろグスタフ殿。」
こればかりは、と眉を顰めたグランマイヤーが諫める。
挙句、自身の市しか考えていない口ぶりのグスタフに、アナベルは頭痛がする思いがした。議場の扉が大きな音を立てて開いたのは、その時である。会議は中断され、視線は入ってきた兵士へと集中する。息を切らした兵士はその場に膝をつき申告する。
「失礼します。皆さんにお知らせします。ハイランド軍が前進を始めました!既に国境の部隊は全滅。このミューズ市を目指していると思われます。」
その場にざわめきが落ちた。食糧が2週間分とはいえ、想定よりあまりにも早い進軍だ。
「なんと!!」
「どうせ本気ではあるまい。」
目を見張り席を立ったグランマイヤーの対面で、ゴルドーは座したまま眉を顰める。アナベルは鋭い視線で全体を見渡すと声を響かせた。
「皆にも聞こえたでしょう。すぐさま全軍の集結を命じます。」
あまりの纏まりのなさに一時はどうなるかと思ったものの、議会は全軍の集結で幕を閉じた。ざわめきの戻った場で、席に座り一連を見ていたビクトールが言う。
「どうだい?結構面白かっただろう?」
だがナナミは眉を顰めて首を傾げる。
「そうかなぁ??おっさん同士がもめてただけじゃない。」
「はっはっはそりゃそうだ。」
まさに正論をついたナナミにビクトールは声を上げて笑った。しかしその傍ら、リオウ、ジョウイ、は押し黙ったままだった。脳裏に浮かぶのは、リューベの村で多くの躯を足蹴に笑い声を上げていた―――ルカ・ブライト。
とうとうハイランドが攻めてきた。トトの村に、リューベ。焼け落ちた砦。あの脅威がすぐ近くまで迫ってきている。
沈痛な面持ちのリオウ達だったが、ビクトールは立ち上がると大きく背伸びする。同じように前戦に立ち、ルカ・ブライトをも直接相手にした彼だが気遅れた様子はなく、険しい表情のリオウ達に振り返り陽気な様子だった。さすが場数が違うのだろう。彼は億尾も臆した様子なく明るくリオウの肩を叩いた。
「さあて、座っているだけってのは疲れた。レオナの所に戻ろうぜ。」
促されて、ようやく達も席を立つ。だが浮かべる表情はどうしても固い。
一同はハイランドが攻めてきたという危機感を抱きながらも、一時レオナの酒場へと向かうのだった。
丘上会議には多くの見物人が集まっており、レオナの酒場へ戻るにも随分と時間がかかってしまった。ようやく人も疎らになりレオナの酒場に辿り着けば、そこには思ってもみない先客がいた。焦げ茶色の髪をした彼女は、こちらに気付くとレオナとしていた談笑を止めて席から立つ。先程まで会議の中心にいたアナベルだ。ビクトールが口の端を上げる。
「よお、来てたのかい?会議のほう見てたぜ。いつもながらごくろうなこった。」
市長に対して随分と気安い態度だが、アナベルは気にした様子もない。労りの言葉にアナベルは肩を竦めた。
「まぁね、これも仕事のうちさ。完全に協力しているとは言えないが、どこもハイランドに滅ぼされるのは望んでいない。」
そこでビクトールが目を鋭くさせて彼女を見る。
「で、用件はなんだい?あんたが油を売りに来るとは思えないぜ。」
アナベルは真剣な表情でビクトールを見た。
「ビクトール、あんたらに王国軍の足止めを頼みたい。都市同盟の全軍が集まるのに7日は掛かる。それに対し王国軍は五日もあればこのミューズにたどり着く。二日でいい。やつらの足を止めて欲しい。」
「二日・・・・ミューズ市外で一戦し、出鼻を挫ければそれぐらいの時間ならかせげますね。」
酒場にいたのは先の傭兵の砦での戦で参謀役であったアップルだ。アナベルが酒場に姿を現した頃から薄々想定していたのだろう。ビクトールは重い溜息を吐いた。
「あんたはいつもそうだ。無茶なことを平気で頼みやがる。あのルカ・ブライトを俺達だけで止めるのはちょいと骨が折れるぜ。」
「あんたを頼りにしてるんだよビクトール。それにマチルダ騎士団が一足早く援軍にかけつけるはずだ。」
随分と無茶を言う。先の戦での敗戦は周知だろうに。ビクトールはもう一度溜息を吐いた。そしてざんばらな髪をかくと、面倒臭そうに言う。
「足止めでいいなら、なんとかなるだろう。」
「頼むよ色男。」
「まぁ、しゃあねぇな・・・・それがこっちの商売だし、あんたの頼みなら断れないさ。」
そう言った彼女に、ビクトールは頬を緩ませる。すかさずが声をあげた。
「ビクトールさん、私も戦わせて下さい。」
「僕らも。」
何故かリオウも続いては眼を見張る。しかしリオウはの視線をもろともせず、アナベルを見る。アナベルは眉尻を下げていた。「、リオウ、ジョウイ、ナナミ。危ない目にあわせてすまなかった。許しておくれ。これ以上貴方達が闘う必要はないよ。ここから先は大人たちの問題だ。」
それをが首を振り、言おうとした言葉をしかしジョウイが言った。
「いえ・・・僕らも戦いたいんです。王国軍を止める手伝いがしたいんです。」
「そうよ、このまま黙っていられないもの!!」
息巻くのはナナミだった。四人とも、瞳は既にもう決まっている。あの恐怖は体に染みつき、忘れられようもない。だがだからといって、今更だ。安全な場所で縮こまった所で、目の前の光景を忘れられやしないのだ。例えビクトール達が反対しようとも、こうなったら徹底抗戦の構えである。徹夜は覚悟しろ。寝れると思うなよとはビクトール達と対する。
四人の力強い目に、アナベルは眉を潜めたままだ。やはり受け入れられないのだろう。そこでフリックが深々とため息を吐いた。
「・・・こいつらに何言っても、無駄だぜ。」
思いもしない言葉に達は目を丸めた。フリック達は達の保護をミューズに申し出ていた。納得できないが夜な夜な、不在と言い続ける彼らの部屋の前で抗議を続けていたが、今まで知らぬ顔をして話を聞こうとすらしなかったのだ。目を瞬かせていれば、うっすらと目の下に隈を拵えたビクトールが乱暴に頭を掻く。
「しゃーねぇ。不敬罪で捕まえられでもしたら、それこそあいつらに合わす顔がないしな。」
「ちょっと、それどう意味ですかビクトールさん!」
思わず頬を引き攣らせて上げた抗議に、ビクトールは笑っての頭を押さえてくる。ビクトールだけには言われたくはなかった。さすがにとて、市長の部屋の前で抗議はしない。・・・深夜には。昼間に市庁舎の前で抗議ぐらいなら、デモということで目を瞑っていただきたい。
彼らの様子に、アナベルは小さくため息を吐いた。悲痛そうな顔を浮かべると念を押してくる。
「四人とも・・・・・死ぬんじゃないよ。」
それに達も顔を引き締め、頷いた。
「ほらほらリオウもジョウイも起きて!みんな集まってるよ!!」
いつものような朝。けれどこの日は違った。いつもは未だまどろんでいるはずのジョウイが、軽くベッドの上から身を起こして言う。
「僕はもう起きているよナナミ。いや、眠れなかったと言うべきかな・・・」
そう戦いが、待っているのだ。
早朝から空気を緊張に張らし、達はいつもの酒場に集まった。酒場には既に溢れんばかりの傭兵達が集まっている。やがて彼らの流れに沿って、広場へと向かう。広間の中心にビクトールが立っていた。隣には長身痩躯の男、黒い肌に、黒い髪をした、ミューズ市軍総司令官のハウザーが立っている。広場に全員が集まったのを確認すると、ハウザーが口を開く。
「ハイランド軍の先行部隊はすぐそこまで来ています。これを討てれば足止めになるはずです。」
「俺達の役目は王国軍を打ち破ることじゃない。二日だけ足止めが出来ればいい。だが守りきれずにこのミューズが落とされたら、おしまいってわけだ。気合入れていけよ!」
ビクトールは快活に笑った。歯をむき出した、気負う様子のないいつもと変わりない笑みだ。ビクトールの激励に固くなっていた体からいい具合に力が抜ける。彼の陽気さは、いかなる時も良い中和剤となってくれる。それが発揮された瞬間だった。
激励が終われば、後は備えるだけだ。各々は支度を終えるなり、戦いの前の最後の雑談を楽しんだ。リオウ達と話していたは、ふと視界にユーリが入る。彼女は戦わない。非戦闘員だからだ。彼女はこの場で、眉尻をさげいつになく不安そうな面持ちで胸の前で手を握るとフリックへと話しかけていた。
その時、広場へと駆け込む兵士が居た。兵士は息を切らしながらも叫ぶ。
「ハイランド兵が国境付近に現れました!!!」
ビクトールは息を吸うと、次の瞬間静まり返った広場に声を張り上げる。
「野郎ども!出陣だ!!」
高々と上げられた号令。一瞬落ちた静寂の後、市街を揺るがす勢いで傭兵達は返事を返した。
攻防戦は前もって細かな罠は仕掛けたが、特に大きな策もなく、防戦一手の戦だった。ハイランドの進行を妨害する為、ひたすら力ある限り二日間戦い続ける。時に簡易に作られた掘っ建てで休息を挟むものの、それはにとって初めての経験で、相当な疲労を与えた。常に緊張感に包まれているからだろう。例え休息時でも気が安らぐ時はない。けれど生き残る為、は汗と泥まみれになっても自身を奮い立たす怒号をあげ、戦い続けた。それはリオウ達も同じで、誰もが疲労感に体を苛まれながらも、目をぎらつかせ戦っていた。
常に血臭に苛まれ、既に鼻の感覚すら麻痺している。顎から汗が伝った。先程まで死闘を繰り広げていた兵の亡骸を傍に、荒い息を繰り返す。その時だった。の視界の隅を鋭い銀の軌跡が走る。
「!!」
だが斬撃は、掛けられた声と共に防がれた。同じく疲労しているのだろう、動きにはいつもの切れがないが彼はトンファーを振りかぶり一撃で敵を昏倒させた。彼が息を切らす傍、再び敵が迫ってくるの見たは変わりに向かってきた兵士と斬り結び、はじき返すと素早く一刀に伏す。そのまま、達は背を合わせる。
「ありがとう、リオウ。」
それにリオウが小さく笑みを浮かべる。互いに一呼吸置くと、預けた背を離れ達はまた戦場を駆け抜ける。だが、それ以前に感じていた極度の緊張による体のだるさはなくなっていた。戦場で、ただ友と背を預けた時だけが心を安らげさせていた。
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