Skyting stjerner2-18
「ユーリさん!お久しぶりです!!」は目を輝かせてユーリへと話しかけた。それに以前より伸びた、亜麻色の髪を肩から流した美女は口元を緩める。
「本当、久しぶりね。元気にしてた?ちゃん。」
「はい!」
は彼女の問いに喜々として頷いた。彼女、ユーリは解放軍時代の同僚であり、その美貌と懐の広さ、優しさで達使用人のアイドルだったのだ。ユーリものように笑みを浮かべていたが、ふと眉尻を下げる。「色々と話したいのだけれど、」ユーリは申し訳なさそうな表情で続けた。
「まだ買い出しの途中なの。ちゃんさえよければ後で話さない?」
「喜んで!ユーリさんはどちらで働いているんですか?」
「ミューズの西側の端にある、酒場で働いてるの。」
思いもよらぬ返答には眼を瞬かせた。西側の端にある酒場といえば、先程寄ったばかりである。
「・・・もしかして、レオナさんの?」
の問いに今度はユーリが目を瞬かせる。
「知ってるの?そう、じゃあもしかして・・・。」
「ビクトールさん達の傭兵の砦に居たんです、私達。」
それまでの自身の事を話すと、ユーリが一瞬周囲に視線をさ迷わせてから困惑した表情を見せた。は苦笑を浮かべる。今この場にユーリの知り得る人物達はいない。それに彼女も彼等程の人物が砦にいればレオナから聞いているだろう。彼等が居ない理由を今話してもいいのだが、彼女には用事がある。は苦笑を浮かべた。
「私達も酒場に戻るんです。だから、また後で話しましょう。」
の提案にユーリは頷くと、傍にいるリオウ達に小さく微笑みながら会釈をしてから、仕事へと戻っていった。
華奢な背が雑踏に紛れた所で、ナナミが首を傾げながら尋ねる。は自身のことではないが自慢するように胸を張った。
「うん、綺麗な人でしょ。」
ナナミは大いに頷く。の鼻も高々だ。自身のことではないが。
「本当!美人さんだったわよね。吃驚したわ!」
そうだろう。そうだろう。何しろユーリは使用人内ではアイドルだったのだから。そこでは先程から黙っている人物達に気付く。にやりと笑みを浮かべてから肘でつついた。
「惚れちゃった?」
リオウとジョウイがぎょっとし、は笑みを深くした。そこへナナミがにやつきながら言う。
「もう好きな人いるもんねー。」
「ば、ナナミ!!」
途端ジョウイの顔がりんごのように赤くなった。トトの村で聞いた黒髪の少女のことだろう。幼少の頃、キャロの町から離れた大きな別荘に暮らしていた黒髪の可愛らしいご令嬢は、ある時急に姿を見せなくなったという。大方何処かの貴族の束の間の滞在だったのだろう。もう何年前の事だ。それでも幼い頃から大人ぶっていた彼が塀から一目でも彼女を覗こうとしたのは今も昔もその時だけで、今でもジョウイはふとした時幼馴染みからからかわれる。
「そういえば、」
そこでリオウが思い出したように口を開いた。
「あの子、皇女様と似てたよね。」
思わぬ人物の名前に、は目を瞬かせた。ーーハイランドの皇女。以前キャロの町で処刑されそうになった時、馬車ですれ違った女性だ。確かに彼女は綺麗な黒髪をしていた、大層な美女だったが――
「違うよ。」
視線がジョウイに集まる。ジョウイは先ほどとは打って変って、どこか強い言葉でそう言ったからだ。突然集まった視線に、ジョウイは取り成すように肩を竦め笑みを浮かべた。
「それに、もう会うこともない。」
初恋の人と似ている皇女様なんかとは。そうジョウイは笑った。
その日の夜。町を見て回ったは、レオナの酒場に戻るといつもの面々であるリオウ達とではなく、約束通りユーリと夕食を共にした。ビクトール達はあれからまだ帰ってきていないらしく話はできないままだ。
使用人時代からの先輩であるユーリとはここまでの経緯を話すことになる。迷子になってしまった所をリオウに助けられ、そのまま傭兵の砦に世話になりここまで来た事を。そして今度はティル達の力を借りる事なく戦いたいと。言い切ったにユーリは悲しそうな顔をしたが、しかし否定することはなかった。ただ頑張って、と彼女は背中を押してくれた。
ユーリといえば、解放戦争を終えて都市同盟に移住したらしい。移り住んだミューズで生活を始めたユーリだったが偶然姿を眩ませていたフリック達に会い、彼等の伝手でミューズの酒場で働くことになったのだという。二人は互いに様々なことを話し、少し遅めの夕食終えたのだった。
部屋に戻るとナナミは既に寝ていた。基本的にナナミは寝るのが早い。しかしは今朝は随分とよく寝たことからまだすぐには寝れなかった。どうしようか。とりあえず酒場に行ってビクトール達が戻るのを待とうか。そう思い部屋を出ると、リオウと目が合う。リオウは丁度酒場への階段を降りるところだったのだ。無言で視線を交えて、どうしたのかと尋ねると彼はと同じように眠れないのだという。自身も同じだと笑ってが返せば、二人は成り行きで、夜の街を当てもなく歩くことになったのであった。
は月明かりに照らされた石畳の上を歩きながら、ちらりと横を歩くリオウを見る。――やはり、どこにでもいる普通の男の子だ。は気付かれないように溜息を吐いた。
天魁星。その重い宿命を彼はこれから背負わなければならない。どうして彼が。そう思うのはもう何度目か。悶々とやりきれない思いを抱き、は無意識の内に俯きがちにながら歩く。だから彼がそう言い出した時、反応が少し遅れた。
「不老、ってはどう思う?」
ややあって言葉を理解して、 は弾かれたように顔を上げた。その様子との心配げな彼女の表情に、しかしリオウは逆に慌てたように手を降る。
「あ、いや、別に僕自身が不老について何か思ってるわけじゃないんだ。ただ、はどう思うのかなって。」
は思わず唇を引き結んだ。
不老。それは彼が持つ真の紋章の呪いの一つであり―――彼には言っていないが もまた真の紋章の持ち主で、不老だった。だからこそ不老については特に思う事はないが、リオウはその沈黙を勘違いしたのか、眉尻を下げた。
「やっぱり、気持ち悪い?」
は勢いよく首を振る。そんなことはあり得なかった。だがリオウはそのまま続ける。
「もナナミも、時間が止まることない。いつだって進みつづける。僕達を覗いて。やっぱりそんなの――」
「不老じゃなくても、皆、別れはいつかくるよ。」
彼が何を思うのか、も理解できた。それは自身も一度経験したことがある思いだからだ。いつの日か、避けられない分かれ――それは不老の場合、死別が大い。だが例え袂分かつ原因が不老によるものでなくても、別れはいつだって唐突にくる。それをは何度も経験した。家族や知人を無くして彷徨う日々。そして今でも痛烈に思いだせる、大切な人を亡くした日。愕然としてただ受け入れることが出来なかった。だけれどそんなに、芭蕉色の髪をした彼は言った。目先に捕らわれ、今を無くしてどうするのだと。不器用な彼は、まっすぐな言葉をくれたのだ。は小さく笑うとリオウを見つめた。
「今を楽しもう、リオウ。他でもない、今を。」
いつかは―――そんな恐怖に駆られないで、今だけを見つめよう。そうしている内に未来はやってくる。いつだって未来は勝手に進むのだから。目を瞬かせていたリオウが顔を俯かせる。ややあってちらりとこちらを伺うように尋ねた。
「は、楽しい?」
今度はが目を見開く番だった。そんなに、リオウは顔を俯かせたまま続ける。
「だって君は迷子だし、いつの間にか、戦争にも・・・。本当は・・・」
「でも、楽しい。」
は彼の言葉を遮る。咄嗟に顔をあげたリオウに、は笑みを浮かべた。
「心配してくれてありがとう。」
彼は心配してくれたのだろう。こんな境遇だからそう思ってしまうのも仕方ない。けれどリオウ達といるからこそ、は確かに少し淋しく感じても、日々を楽しく感じていた。
微笑むに、リオウは思う。心配なのか、と。自身の胸の内に巣食うのは不安だった。自分達といて楽しくないのではと。そう自分の知り得ない、彼女の昔の友人と話す彼女を見て思ってしまったのだ。けれど彼女が本当に嬉しそうに笑うから、リオウの胸の内に掬っていた不安は不思議なほど薄れていく。
自身すら考えてなかった不安を指摘され、気が付けば解決されていた。叶わないなぁと思いながら呆気ないほどあっさりと消えた靄に、リオウもまた笑みを浮かべた。
「そういえばリオウ、夕飯の時ちょくちょくこっち見てたけど。本当にユーリさんに惚れた?」
だが次の瞬間、その言葉に笑みが固まる。
「えっ」
目の前のはにんまりとした笑みを浮かべている。それに慌てながらリオウは答えた。
「確かに凄く綺麗な人だと思うけど・・・」
「綺麗なだけじゃないよ。優しいし頼りになるんだ!これが!」
は目を輝かせて言う。これではまるで彼女がユーリに恋しているようである。苦笑を浮かべれば、彼女は笑みを浮かべて続けた。「恋はいいよー。今が楽しくなるし。」
「リオウもしてみればわかるよ。」
そう言って、彼女がリオウの頭を撫でた。は何かと自身を年下に見る事がある。確かに実年齢は彼女より年下ではあるが。この時、リオウは無性に苛立ちが湧き、むっと眉を寄せると思わず返していた。
「僕だって恋ぐらいしてるよ!!」
しまった、と思った時には彼女の目は既に輝いている。やおらリオウの手を掴むなり興奮した様子で詰め寄ってきた。
「おお!誰、誰!?言わないから!教えて!!」
好奇心を押さえきれないキラキラとした表情である。トトの村ではいないと答えられたが、リオウとて年頃の少年だ。本音では好きな子もいたのだろう。にじり寄る彼女の顔は、リオウの手を握り近づいている為近い。その距離にらしくもなく思わず顔を赤くしながら、リオウは該当する人物を探した。
見ていてどきどきする人。
「ユ、ユーリさん?」
「何故に疑問形。」
笑みを浮かべたままが突っ込んだ。
「でも、そっかー。よし、このちゃんがリオウの恋が上手くいくよう、応援してあげよう!」
そうか、自身はユーリが好きなのか。内心驚きながらも彼女の程の美人だ、リオウは納得した。そこへが拳を握りそんな事を言い出したので、リオウは苦笑を浮かべる。
「変なことしないでよ。」
「しません!!」
そう言って笑うに、リオウは自然に笑みを浮かべていた。胸に掬っていた靄は、今や綺麗に消え去っていた。
***
翌朝、達が起きた頃には、ビクトール達は既に酒場をあとにした。確かに彼らは忙しいのだろうが、は悉く追及を交わされているようにしか思えない。釈然としないながらも、達はナナミの提案で今度は市庁舎を見て回ることになった。一人ジョウイはそれにいい顔をしなかったが、探索する気満々の彼女には誰も逆らえない。先頭ではりきるナナミに、三人は辺りを気にしながら市庁舎のありとあらゆる所を見て回るのだった。
「しかしこのサイズしか・・・。」
「何を言っている。これは少年兵の軍服だぞ。こんなものでは・・・。」
その途中、ある扉の前を通った時である。使われていない物置部屋だろう場所から細々とした声が聞こえたのだ。ここは市庁舎であるし、業務についてだろう。聞かないふりをして素通りをしようとしただったが、しかしナナミはこの時も止まらなかった。明らかにお取り込み中だろうが思いっきり音を立てて部屋の中にずかずかと入っていったのである。こればかりにはも、幼馴染のリオウ達ですら彼女を取り押さえる事なく固まってしまった。
「どうしたの???」
中にいたのは二人だった。それも運が良く、ジェスとその部下である。二人共唖然とした表情でこちらを見る。が、次の瞬間ジェスはナナミの後ろにいるリオウとジョウイ、に視線を移した。そして三人の背丈を見ると、顔を引き締める。
「リオウ、ジョウイ、。頼みがあるんだ、聞いてくれないか?」
思ってもみない言葉に目を瞬かせるとリオウ。ジョウイが眉を顰め尋ね返した。
「何ですか?」
「実はミューズとハイランドの国境の近くにルカ・ブライトの軍がキャンプを置いている。次はこのミューズを狙っているからな。そこで、そこにどれぐらいの食料があるのか調べたいのだが・・・忍び込むために用意した王国軍の軍服が少年兵のものだったんだ。それにリオウ、ジョウイ、君らはハイランドの少年兵だったのだろう?他に軍服が手に入る当てはないし、どうだろう?」
それはつまり。ジョウイが眉を顰めながら言う。
「僕らにハイランド軍のキャンプに忍び込んで食料がどれだけあるかを調べてきて欲しい・・・という事ですね。」
「えええ?そんなぁ、危ないんじゃないの???」
途端、ナナミが顔を歪めた。それにジェスが答える。
「多少はね。しかし食料がどれだけあるかわかれば、我がミューズにとっては大きなプラスだよ。王国軍が長期戦を考えているのかどうかわかるからね。」
淡々とジェスはそう告げる。確かに彼の言う通りではあった。
「・・・どうする、リオウ、。」
振り返ったジョウイに、リオウは頷き返した。ビクトールにはこれ以上戦に関わることを拒絶されたが、少しでも役に立てるのなら。納得していなかったのはだけでなく、リオウ達も同様だ。
けれど、とリオウは眉を寄せる。
「けどは行く必要はないんじゃ・・・。」
だがそう言ったリオウに、ジェスは首を振る。
「彼女には重要な役割があるんだよ。」
は眉を寄せた。重要な役割?とてもじゃないが、彼からそんなものを任される程信頼されているとは思えないがーーそこまで考えて、はたと気付く。敬愛するアナベルの仕事を邪魔した際は睨まれたが、思い出してみればその後もジェスはリオウ達を睨み付けていなかっただろうか?物言いも刺々しく、常に邪険にするような姿勢だ。
彼は、元ハイランド人であるリオウ達を信頼していないのだ。
「わかりました。」
思いっきり眉を顰めて、彼が余計なことを口走る前には承諾を答えた。もともと、リオウ達が行くなら自身もどうやってもついて行く予定だった。
「物わかりが良くて助かる。」
大方解放軍時代、ビクトール達と共に戦ったと聞いただけの彼は、自身に元ハイランド人であり寝返る可能性のあるとリオウ達を見なし、見張らせようとしたのだろう。不愉快だ。不愉快すぎる。それをジェスは隠そうともせず、 は彼を睨みつける。ここで誤解を解かないのは、気づいていないリオウ達を少しでも傷付けない為であるが、もし彼等がいなければ今すぐジェスにそれが誤解であると懇懇と話をして聞かせたかもしれない。
「ええ!そ、そんなぁあぶないよ・・・!」
ナナミが非難の声を上げたが、達の意志は既に決まっていた。そこでジェスがいけしゃあしゃあと言う。
「ありがたい。君らはミューズの誇りだよ。」
白々しく言ってのける彼をは冷たい目で見た。彼は部下の持つ軍服を指さす。
「これが軍服だ。二人は着方はわかっているだろう。ハイランドとの国境はミューズを出て北東へ道に沿っていけばいい。国境の関所には知らせておく。頼んだよ。」
そう言って、彼は達にハイランドの軍服を渡すと早々に部下を連れてその場から去っていくのだった。
危険が少ないといわれても、兵量を調べるために敵のキャンプへ忍び込むのだ。闇夜に乗じるのも良いがそここは大国だ。国境近くに布陣したハイランドは夜にもなれば一層警戒するだろう。
かつ、情報を仕入れるならば早い方が良い。日が暮れるまでに行動した方が良いだろう。物資は前日に補充し終えていた達は、それからすぐに近くの国境へと向かうことにした。
だが町を出る直前で、奇しくもある出来事に巻き込まれる。
突然、行く先にふらりと現れたのは昨日会ったばかりの金髪の美女だ。昨日は急いでいるように見えたが、彼女はこちらと目が合うと目を弓なりに細める。そのまま素早い動きで目の前までやってきた彼女に、達が挨拶をしようとした時である。背後から低く唸るような声がした。
「見つけたぞ・・・エルザ。」
「クライブ・・・」
美女が達の背後へと視線を向ける。達の背後に立っていたのはクライブだった。急ぎ足で達の前まで来たエルザは図ったのだろう。間に立たされる形となってしまった達は何がなんだかわからず彼等を見る。
普段無愛想なクライブは珍しく眉を寄せ、険しい表情を浮かべた。
「やっと・・・・やっと追いついた・・・。ほえ猛る声の組合の執行人として、貴様に罪を償ってもらうぞ。」
しかしクライブの形相にも拘わらず、金髪の美女、エルザは涼しげに笑う。
「撃てるのかい、ガンナー?」
エルザの挑発を受けて、クライブは表情を更に険しくさせる。目に見えぬ速さで腰のホルダーから銃を取り出した彼は、直線上にいる達に吠えた。
「そこをどけ!!坊ず!!」
だがクライブと同じように素早く銃を取り出していたエルザは、達に銃を見せるようにして言う。
「動くんじゃないよ坊ず」
どうしろと!一同の心は一つになった。一種の均衡状態。それを破ったのはエルザだった。
「くそっ逃がすか!!」
怯んだクライブの隙をついて、素早く身を翻したエルザをすぐ様クライブが追いかけていく。すぐに見えなくなった彼等の背を、しばし呆然と達は見るのだった。
なんだかよくわからないが、嵐のような人物達であった。
よく分からないながらも、目の前の流血沙汰は避けられた。はクライブの知り合いではあるが、彼はが心配するような腕はしていない。ほえ猛る声の組合や執行人などと、物々しい彼の話に気になりはするが今は目先の戦が優先される。そもそも何故か達はエルザがクライブを撃つようには思えなかった。
確かに人質のような扱いも受けたが結局彼女は撃つことはなかったし、憎々しげなクライブの瞳と正反対に、エルザの眼には慈愛がこめられている、ような気がにはした。女の直感だろうか。悶々とがそう考えているうちに、都市同盟とハイランドの国境が近づいてくる。ミューズから国境は目と鼻の先にあり徒歩で半刻もかからない。
とにかく、今は目先の事だ。意識を切り替えて、達は国境にある大きな門の前へと向かうのだった。
門の前には複数の兵が駐屯していた。その中から近づく達に若い兵士が声を掛けてくる。
「ここから先はハイランドとの中立地です。許しのない者の立ち入りは禁止です。」
「ジェスさんの命令で来ました。知らせが届いているはずです。」
門番の兵は不審そうに顔を歪めると、ややあって思い当たることがあったのか踵を返す。「少々お待ちを・・・。」そう言って少し離れたところにいるもう一人の兵の元へと向かう。
兵が戻ってくるまでの間に、兵服もない事からジェスに頼まれてはいないが、リオウ達が心配だとここまでついて来てくれたナナミが頬を紅潮させる。
「なんか、結構どきどきしてきたね。リオウ、ジョウイ、。あれでしょ。スパイみたいな感じなんでしょ。」
思いもよらぬ前向きな言葉に一瞬の脳裏に飛行機にしがみつく諜報員やらカーチェストや爆破が繰り広げられる世界が浮かぶ。
確かに、ミッションなポッシブルではないが、これから行うのは諜報活動だ。横文字にすると途端不思議なロマンが感じられ、は衝動的に親指を立てて任せておけとばかりに答えて見せた。ノリノリな二人にリオウ達は若干引いてこちらを見ているが、ナナミは変わらず目を爛爛と輝かせているのでよしとしよう。そうこうしている内に若い兵が小走りで戻ってきた。「確認致しました。」
「王国軍のキャンプへは森の抜け道を通れば見つからずに近づけます。案内しますので連いてきてください。」
踵を返した兵士に達も後に続く。門を超え、右手へと曲がると鬱蒼と木が生い茂る森が見えてくる。森の入口の手前で、兵士は顔を引き締めた。
「この森を抜けると、王国軍のキャンプがあるはずです。お気をつけて。」
兵士は達に一度敬礼すると、元の持ち場へと戻っていく。その背が見えなくなると、ジョウイがふとナナミへと視線を向けた。
「じゃあここで・・・・」
しかし視線の合ったナナミは笑顔で言った。
「大丈夫よ、敵の目の前まで一緒に行ってあげるって、さぁ出発!出発!」
ついていく気のナナミにジョウイは小さくため息を吐く。幼馴染の彼女であればそう言うとは思ったが。小さく咳をすると改めてナナミに向き直る。
「ここからは、僕とリオウ、だけで行く。ナナミはここで待っていてくれ。」
「でも・・・」
眉を寄せるナナミは食い下がる気はないようだった。続いてが付け加える。
「ここから先はモンスターが出るかもしれないでしょ?ナナミ一人じゃいくらなんでも危ないよ。」
「ここなら門から近いしね。」
兵服は3枚しかない為、ナナミは忍び込めない。森の中に入ってもナナミとは直前で別れなければないし、その後来た道を彼女一人で返すのも心配であった。森の入り口であれば、モンスターが出る事はない。そう考えて言ったの言葉にリオウも頷く。だが未だ渋る表情を見せるナナミに、ジョウイが笑顔を浮かべた。
「大丈夫、戻ってくるから。」
そう言えば、彼女は渋々ながらも了承してくれたようだった。
否定の言葉を出ないのを確認すると、ジョウイは再び改めるように小さく咳をした。他に何かあっただろうか?内心首を傾げていればジョウイは何処か固い声を出す。
「じゃあ軍服に着替えるから・・・。あの・・・・アッチ向いててくれる?」
視線を泳がせて頬を上気させたジョウイはまるで乙女のようである。思わずリオウとは同時に噴出するのだった。
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