Skyting stjerner2-16

「どうやら、ここがそうみたいだな。」
遺跡に入り、既に数刻は経っていた。今度こそ、広い遺跡の最深部だろう。先へと進むアレックスが、期待を押し殺せない声で言うと足を止める。足を止めたアレックスの横から顔出し、ナナミが首を傾げた。
「ここが宝物のある所?」
「ああ、そうだ。」
頷いたアレックスは、部屋の手前にあったレリーフと、石板を指さす。
「ここにシンダル文様がある。『扉を開きし者よ、汝の望むもの、汝の願うもの、汝の大切なものはここに、されど心せよ・・・』」
読み上げている途中であるが、ナナミがその内容に眉を潜めた。
「大切なものってなんだろ。」
ナナミは指を折りながら数える。
「私はリオウとジョウイ、 。後は死んじゃったけどゲンカクおじいちゃん・・・かな。」
大切なもの。その言葉に連想されて、それぞれの脳裏に無意識のうちに当て嵌める人物が浮かんだ。ジョウイも思うところがあったのか、顔を真面目なものにすると答える。
「そうだな・・・大切なものってのは、そう多くはないよ・・・」
瞬時に浮かんだのは、どんな時でも共にいてくれる、リオウ達幼馴染み。次いで両親が浮かび、しかしそれは即座に自分で否定した。代わりに僅かな時間であっても、親のように愛を注いでくれたジョアンナやトーマス。けれど夫妻はピリカを遺して亡くなってしまった。
大切なものほど、失うのは早いのだろうか。いや、結局の所、時間は関係ないのだろう。大切なものの喪失を受け入れられないという気持ちが、一瞬の心地を抱かせる。楽しいときは、一瞬だ。ジョウイはだからこそ、遺されたピリカを必ず守らなければならないと感じていた。
いつか渡せずにいた夫妻へのプレゼントを、ピリカに渡しても、彼女が悲しむことのないように。ジョウイの願いは、ただそれだけだ。
二人に促され、リオウも考える。しかし考えるまもなく浮かんだのは、ナナミと同じであった。
「僕はみんなかな。」
「リオウもかい?そうだな、そいつが一番だよ・・・多分。」
は?」
今度はリオウがに尋ねた。は内心ギクリとする。大切なもの、といわれて真っ先に浮かんだのが、柔らかな笑みを浮かべた金色の目を持つ少年であったからだ。もう随分とティルにあっていない。もしレックナートの言う通り、これから大きな戦になれば、彼に会うことは更に出来なくなるだろう。ティルを巻き込むことは絶対にしたくないからだ。会えない寂しさは、自分が我慢すればいいだけだ。
だが、は不安があった。ーーいきなり消息のたった自身を、忘れてしまわないだろうか?もし、彼の過去の人にされてしまったら。彼がそんな人物でないことは分かっている、つもりだ。それでも、いない人物を思い続けてくれるだなんて確信も持てやしない。だからこそ、ここでお宝を見つけて少しでもティルに振り向いてもらおうと考えたのだ。
純粋なリオウ達には申し訳無いほど、私利私欲にまみれている。だからこそ後ろめたいは、純粋な彼らの前で口にするのは憚られた。しかしがそれについて誤魔化す必要なかった。アレックスがリオウ達の話に眉を潜めたからだ。
「おい、何を言ってるんだ?大切なもの、だぞ、お宝に決まってるじゃないか、そうだろ?」
えーと顔を歪めるナナミ達を余所に、アレックスは意気揚々と扉へと手をかける。アレックスの気持ちも痛いほど分かるは、抗議の声をあげる純粋なナナミ達からそっと目を反らした。薄汚いから彼女らが眩しい。
大切なものはある。十中八九、アレックスもだ。それでも年を重ねれば重ねるほど世知辛さを痛感し、ついつい金があれば大部分の出来ことを解決出来ると思ってしまう。薄汚い心で実に申し訳ない。非難を受けるアレックスは聞く耳なしで先へと進む。抗議の声を横にもしれっと後に続いた。

もう先はない。扉の先には一際広い部屋があり、中央に聳える階段の先には、小さな祭壇があった。喜びにアレックスが拳をつき出す。
「やった!ついにやったぞ!お宝とご対面だ!!」
しかしその時。お宝に意識を向けることなく、変わらず周囲を見回していたジョウイが警戒も露に声を張り上げた。
「アレックスさん!待ってください!!リオウ!ナナミ! !気をつけるんだ!!何かいるぞ!!」
ジョウイの言葉が終わるより前に、地響きがおこった。何かが天井から落ちてきたのだ。辺りを揺らすほど、高い天井から落ちた巨体は砂埃に覆われている。やがて砂塵が晴れだし、現れたものに達は目を丸めた。巨大は頭部に紫の模様入った、若草色の蛇だった。それもとてつもなく巨体で、頭は高い天井にすら届く。更に、頭は二つに別れていた。濃紺の目が達を見据え、赤い舌がちろちろ達をあざ笑うかのように動いていた。
咄嗟に双剣を抜き、構えてはみたが、その大きさには戸惑う。
「でかい・・・。」
「気持ちわるぅ・・・。」
同じようにナナミも思っていたらしい。顔を引きつらせている。と、そこで蛇の目が突如として光る。次の瞬間、空気が唸る音に目を向ければ、何もなかった達の頭上に光の槍が生まれていた。目を見開きながら、咄嗟に一同は身を捻る。光の槍は降りそそぎ、間一髪、石畳を破壊するのみにとどまった。モンスターもまた、強ければ強いほど紋章が使えるのだ。
米神から冷や汗を流しながら、ジョウイが好戦的に巨大な蛇を睨み付ける。
「どうやら闘う気は満々、みたいだな。リオウ!」
「うん!」
リオウとジョウイは同時にモンスターへと向かった。前に躍り出たリオウを、直ぐ様蛇の鋭い牙が向かう。
リオウは迫り来る牙を、右へと避けた。すると間を開けることなく避けた先で尾が襲い掛かってくる。しかし慌てることなくリオウは床を蹴ると、上手く蛇の身体へと乗る。気付いた蛇が振り落とそうと身を捻るが、それよりも早く軽く跳ねると、蛇の側部へとトンファーで打撃を与えた。休む隙を与えることなく後ろに続いていたジョウイが尾を避け、リオウの攻撃で動きを止めた身体へと棍を振り下ろす。
だが、蛇は大きかった。二人の攻撃も当たり、負傷もしているだろうが、更に気を逆撫でただけだった。
二人に続くようにも迫りくる尾を双剣で斬り離したが、蛇は小さく悲鳴をあげるだけで、動きは代わらない。むしろ余計闘志を燃やし、闇雲に辺りを攻撃するようになった。こうなれば目を潰すか。がそう思った時、リオウが思い付いたように声を上げた。
「紋章!」
それに目を瞬かせる。がジョウイは得心がいったらしく、前線から離れる。
「なんの紋章かわからないけど、折角だから使ってみるよ。どういうのかわかるかもだしね。」
リオウが達に説明した。しかしは眉を潜める。確かに、確かめるのに今はいい機会だろう。ハイランドにばれると厄介であるという件も大丈夫なはずだ。ここはつい先ほど開いたばかりの遺跡の中であるし、事情を知らないアレックスはそれを言いふらすような人物ではなく、そもそも一般人である彼は戦闘に加わらず後方で退避してもらっている。彼は、リオウ達の紋章はただの紋章だと思っているはずだ。だが、問題は真の紋章の持つリスクである。不老である事はリオウ達も了承したと昨日言っていた。けれど呪いが、不老だけであるとは限らないのだ。真の紋章には特有の呪いが含まれるものもある、と彼らには口を酸っぱくして言ったはずなのだが。
渋る顔をするやナナミに、しかしリオウは使うと決めたらしい。いつもはめている手袋をはずと、手を掲げる。ジョウイもまた手を掲げた。
部屋一面を覆う程の閃光が迸った。紋章が発動されたのだ。
淡い光と強い光が部屋に満たされる中、鋭い何かが宙を切り、大蛇が劈くような悲鳴を上げた。
そして目も眩むほどの光が止むと、そこにいたはずの蛇は中から鋭い刃で貫かれたように裂かれており、既に息絶えていた。
「これが・・・」
ジョウイが唖然と言う。ジョウイの紋章、黒き刃の紋章はその通り、攻撃系の紋章であるらしい。注意深く見たところ、彼に異変は特に見られなかった事には僅かに安堵した。
「・・・僕のは?」
一方でリオウが首を傾げる。リオウの紋章の跡らしきものは見られない。だが確かに、発動はしていた。そこでは気づく。
「体が軽い?」
昨夜一晩休んだものの、広い遺跡を散々歩き回り、苦労した。その為筋肉も疲労していたのだが、それがなくなっていたのだ。
「あ、本当だ、軽い!」
「僕もだ。」
ナナミとジョウイが驚きの声をあげる。つまりリオウの紋章は回復系の紋章なのだろう。
しかしそれが不満であるらしく、リオウは眉を寄せる。
「僕も攻撃系がよかった・・・」
「文句を言うな、リオウ。」
「どんまい。」
は彼の気持ちがとてもよくわかった。自身の紋章が本当になんの役にも立たないと思った時はどれほどだったか。は同情の念を抱きながら、リオウの肩を叩くのだった。
「ところで今のは、宝物の番人か?」
ジョウイが話題を変えるべく崩れ落ちた蛇へと視線を向ける。それに答えたのは後方からこちらにやってくるアレックスだった。
「シンダル族の残した遺跡の一部、とでも言うのかな。」
「でもやっつけちゃったから、もー大丈夫、大丈夫。」
肩の力を抜いてナナミが笑う。達は再度蛇が息絶えた事を確認してから、祭壇へと向かうのだった。
階段を上り祭壇に着くと、アレックスは感極まったように拳を握る。
「これが・・・宝物の・・・・やっと・・・・」
「え、何?何?何?ねぇねぇ私にもちょっと見せてよー。」
「これで・・・これで・・・ヒルダに良い服も買ってやれるし・・・ピートにも上手いものを食わせてやれる・・・・」
ナナミの催促に、しかしアレックスは中々手を出さない。祭壇に置かれた木の箱を前に、ナナミが口を尖らせる。
「ねぇねぇねぇ早く開けようよー。」
「よし!開けるぞ。」
ナナミの言葉を受けて、深く息を吐いてから奮起するとアレックスは箱へと手を伸ばす。軋む音とともに、箱が開かれた。
現れたものに、アレックスは息を呑む。
「・・・これは、」
「え、何、何、何、見えないよー。」
呆然とするアレックスの横から顔を出し、達も中身を見た。そして唖然とする。中に入っていたのは、薬草1枚だったのである。アレックスが拳を怒りに震わす。
「何が大切なものだよ・・・勿体つけやがって!!ちきしょう・・・今度こそって思ったのに・・・。」
「アレックスさん・・・宝物は諦めて戻りましょう。多分・・・そんなものは最初からなかったんですよ。」
ジョウイが気遣わしげな目で言うとナナミが言った。
「そうだよ、元気だそうよ。ヒルダさんも帰りを待ちわびてるよ。」
アレックスはしばし無言だった。やがて肩を落とし、重々しいため息を吐く。
「そうだな・・・話のタネぐらいにはなるか・・・」
そうは言っても、アレックスへの衝撃は相当なものであったらしい。
帰り道もぶつぶつとそれについて文句を言っては慌てて達が励ますといった光景がよく見られたのだった。


「ヒルダ・・・今戻ったよ・・・。」
肩を落としたアレックスが、帰宅と共にそう言った。しかし幾ら経っても返事はない。いつでも帰って来る声がない事にアレックスは訝しがりながら家へと足を踏み込むと、廊下に倒れ込む人物がいた。
「ヒルダ!!」
ヒルダが倒れていたのだ。彼女の傍らで彼らの子供、ピートが泣きじゃくっている。
「お母さんがぁ・・・お母さんがぁ・・」
「ヒ、ヒルダ!おいヒルダ!!どうした!!!」
アレックスがヒルダを抱え起こすが、目を閉じたまま顔を土色にさせた彼女の反応はない。アレックスは背に冷たい氷を入れられたような心地がした。額からじわりと汗が滲み出る。
「ちょっと、どいて。」
事態を察したナナミが、慌てふためくアレックスを押しのける。膝を突くとヒルダの額に手を当てた。すぐにナナミは目を見張り、声を上げる。
「早くベットの用意をして!!!
アレックスさんはヒルダさんを運んで頂戴!!リオウは水を汲んできて!!ジョウイはお医者さんを呼びに行って!!」
「で、でも・・・」
「早く!!」
行動の遅い男達を、ナナミは睨みつけた。そこでアレックスが眉尻を下げて言う。
「医者は駄目だ。この近くに居ない。いつもならトトの村に行くんだが・・・。」
しかしトトの村はハイランド兵により焼き払われてしまった。つまり医者がいないという事だ。それに誰もが眉を寄せた。
「とりあえず、ヒルダさんを運ぼう。」
の言葉により、アレックスがヒルダを抱えてベットへと運んだ。

ナナミの指示に従い、応急処置をしたが、ナナミの顔は暗い。ナナミはあまり、風邪を引くことがなかった。しかしリオウはそうではなく、養夫の亡くなった後、看病していたのは彼女である。病人の手当は初めてではない。しかしそれでもだ。
「酷い熱。こんなの始めてみたわ。疲れの溜まりすぎよ。」
「そ、それで・・・?」
アレックスが恐る恐る尋ねるが、ナナミは眉を寄せたままだ。
「熱が下がらないと・・・。」
「お母さん・・・。」
眉を寄せて、荒く息をするヒルダを見つめ、息子のピートが呟く。アレックスが拳を握り締めた。
「ちきしょう・・・なんで・・・一体どうしたら・・・。」
医者もいない今、打つ手は何もなかった。ただヒルダが回復するのを、祈るしか達には手がない。元気で笑顔を振りまいていたヒルダは面影もなく、ただ苦しんでいる。それに最悪の事態が自然と連想された。熱が下がる様子は、未だない。
そこでリオウが唐突に俯かせていた顔を上げた。
「そうだ、あの薬草!」
リオウは慌てたように、ポケットからなにやら取り出す。リオウが取り出したものにナナミが顔を輝かせた。
「そうかぁ!あの時の薬草ね!!」
アレックスが必要ないもの、と捨て置いた薬草だったが、リオウは気にかかり、それを遺跡から持ち帰っていたのだ。アレックスが怪訝そうに言う。
「薬草?あの時って・・・まさか遺跡の薬草か?そんなものが効くのか?」
「わからない・・・でも、効くかもしれない・・・なんたって、シンダル族のお宝なんですから。」
ナナミの言葉に、藁にもすがる気持ちでそれを煎じる事になった。そうして数分後だ。出来た粉末状の薬草を急いで白湯と混ぜると、ヒルダに飲ます。
「ヒルダ・・・薬だよ・・・これを飲んで・・・元気になってくれよ・・・お願いだよ・・・ヒルダ・・・」
「お、おかあさん・・・」
息を呑み、ヒルダの様子を待つ。それから幾分もしない内だった。
「んん・・・」
ヒルダが目を覚ましたのだ。思わずアレックスが身を乗り出す。
「ヒ、ヒルダ・・・」
「ん・・・?あなた・・・」
「ヒルダ!ヒルダ!!」
目を覚ましたヒルダに、アレックスは顔を綻ばせ、その場は歓喜に包まれた。しかしそれが一体どうした事か、事情を知らないヒルダはアレックスを見て言う。
「あら・・・お帰りなさい。アレックス。無事にもどったのね・・・良かった・・・。」
「おかあああさあああん」
顔色の戻ったヒルダにピートが声を上げて泣く。ピートを抱きとめ、ヒルダは首を傾げた。それにナナミが説明する。「ヒルダさん、すごい熱だったんです。だけど・・・」
手を伸ばし、ヒルダの額に手を置くと、ナナミは笑みを浮かべた。
「もう大丈夫!すっかり熱は引いてます。」
「そうだったの・・・。」
顔を安堵に綻ばす面々を見渡し、ヒルダはすまなさそうにそう言った。そこでアレックスがヒルダの手を掴んだ。
「ヒルダ・・・ごめんよ・・お宝はやっぱりなかったよ・・・。」
「そう・・・・。」
ヒルダはそう呟いただけだった。アレックスの顔色は酷く悪く、眉も苦々しげに潜められている。何年も宝探しに明け暮れ、家族を顧みることはなかった。息子のピートの世話も、宿の経営もほとんど妻であるヒルダに任せっきりだ。 お宝さえ見つかれば、家族に楽な暮らしをさせられると思っていたが結局見つかることはなく、この様だ。俺がこんなのだから、ヒルダも倒れてしまった。 原因は全て自分にある。アレックスは後悔の念で押しつぶれそうだった。自責の念で大きな背を丸めるアレックスを見て、ヒルダは小さくため息を吐いた。 それにびくりと体を震わせたアレックスに構わず、ヒルダはそっと手を伸ばす。掌を重ねて、ようやくアレックスが顔を上げた。
「でも、また探せば良いじゃない。」
「・・・でも、」
「あら・・・・残念ね・・・。いつかは、貴方が両手一杯に宝物を持って帰ってくるのを夢見てたのよ。ここで貴方が無事に帰ってくるのを待っているのも、そんなに悪くないもの。」
そう言って、ヒルダは綺麗に微笑んだ。けれどふと彼女の表情が曇る。
「だけど・・・・危ないことだけはしないでくださいね。」
「ヒルダ・・・」
ヒルダの言葉に、アレックスは鼻をすすった。それにヒルダは笑う。「ほら、ほら、泣かないの。中年男の涙は見苦しいわよ。」
ヒルダは苦笑を浮かべながら、アレックスの目尻に浮かんだ涙を拭ってやるのだった。

「本当にありがとうございました。」
元気になったヒルダに、ナナミが笑みを浮かべた。
「ヒルダさん、すっかり元気みたいですね。」
「ええ、もうすっかり。」
一時はどうなることかと思ったヒルダの様態だったが、薬草のお陰で、みるみる元気になっていった。今ではこうして立ち、達を笑顔で見送れる程だ。ほんの数刻前まで倒れていた人物だとは思えない。それ程までにあの薬草の効果はすごかった。やはりあれはお宝であったのだ。
「これが通行証だ。返すのはいつでもいいよ。」
アレックスが穏やかな表情で通行証を達に渡す。名残惜しいが、そろそろ達も先に進まなければならない。ジョウイが頬をかくと、切り出した。
「じゃあ僕達はこれで失礼します。」
「いつでも、泊まりに来てくださいね。貴方達なら、いつ来てもお金はいりませんから。」
「ありがとー!!」
ナナミが笑顔でそういい、達は白鹿亭を後にしたのだった。

しかし白鹿亭を出たところで、ジョウイが足を止める。
「でも、大丈夫かい?それ・・・アレックスさんのだろ?」
先へ進もうとしていた達の足も止まった。 とリオウは思わず頬を引きつらす。確かにその通りであったからだ。しかしナナミの笑顔は変わらない。
「大丈夫大丈夫。しゅっぱーつ!!」
そうして、心配するとリオウの腕を引き、ミューズへと向かうのだった。


***


ミューズの門の前まで来ると、そこでようやくとリオウの腕をナナミが放した。ナナミは一同の前に立つと言う。
「はーい、ストップ。皆、アレックスさんに借りたこの通行証で中に入るわよ。」
「本当に大丈夫かな・・・。」
「もー!やってみないとわかんないでしょ。」
未だ不安そうなジョウイに、ナナミは頬を膨らませた。ナナミは一つ堰をすると、の肩を抱く。
「はーい、えーと。がヒルダ、リオウがアレックスで、ジョウイがピートね。あとは皆同行人よ。間違えないでね。」
「ちょっと待ってくれ、ナナミ。」
すぐさまジョウイが片手を上げ、異論を唱えた。ナナミがジョウイを見る。
「ピートってのはアレックスとヒルダの息子だろ。どうして僕が・・・ピリカの方が良いんじゃないか?」
しかしナナミは呆れたように言った。
「ピリカちゃんは女の子でしょ。無理があるわよ。」
それにジョウイが頬を引きつらせる。
「僕がリオウとの息子って方がよっぽど無理があると思うけど。」
取り付く島もなかった。ナナミはの肩を抱き、なにやら演技指導を始めてしまったからである。
それに押されたもまた、やはり無理では・・・とはいう事は出来ず、こうして茶番劇が開かれるのだった。

「なんだお前らは?今は通行証のないやつは中に入れないぞ。」
門番が鋭い目で達を見た。それにリオウの黄色のスカーフを頭に被ったが、前に歩み出る。
「おほほほほ通行証ですわね。これをご覧あそばせ。」
必死に羞恥に耐えながら、ナナミに言われたとおりの演技を通す。門番が怪訝そうに言った。
「・・・・どれ、見せてみろ。」
言われた通り、通行証渡す。通行証に目を通した後、顔を上げると兵士は言う。
「アレックスというのはどいつだ?」
「うおっほん、私である。」
リオウが胸を張ってそう言った。これはひどい、とは頭を抑えたくなった。しかしそこで門番が言う。
「じゃあ、ヒルダというのは?」
「ほほほほほ私がヒルダですわ。」
すかさずは口元に手を当てると、裏声でそう言った。門番の視線がを向いてから、次に彼は言う。
「ではピートというのは?」
「え、ええっと・・・・」
言いよどむジョウイに、すかさず見守っていたナナミの肘鉄が入る。背後でうめき声がして、逆らわなくてよかった、とは思うのだった。
「ぼ、僕がピートです。」
それに途端、門番が顔を歪ませた。
「お前がぁぁぁぁぁ?」
そして達を指差す。
「怪しい奴らめ!!!」
否定出来なかった。
「ひっとらえよ!!」
門番の声に、門の向こうから兵達が現れる。そうして達をあっという間に囲んでしまった。ナナミが呆然と言う。
「え・・・なんでぇ・・・。」
むしろ怪しまれないほうがおかしい、とは思ってしまった。当然の結果と言えよう。その時達を囲む兵の一人が、ナナミを指差した。
「あ!あん時の鼻ぺチャチビスケおかっぱ頭のちぢれマイマイ!!」
「なんですってええええええ」
途端ナナミの顔が般若になり、その手には三節棍が握られた。


「全くとんでもない奴らだ。そこで一晩頭を冷やせ!!」
結局、達は牢に入れられる事になった。ナナミによりボコボコにされた兵士の事もあり、大分扱いは荒い。そこで兵を伸して苛立ちを解消したナナミが、すっきりとした顔で首を傾げる。
「おっかしいなぁ、完璧だと思ったんだけどなぁ。」
「どこが、完璧なんだよ。」
溜息を吐いたジョウイに、ナナミが眉を寄せた。
「なによぉ。ジョウイがもうちょっと上手ければ騙せたのに。」
「自分こそ、に酷い芝居させたくせに」
「うそうそうそぉ、私は28才大人の女性を教えたし、はそれを演じきったわよ。」
褒められているのか、貶されているのか、微妙な心境なであった。ジョウイが呆れたように言う。
「どこがだよ・・・」
「全部!」
「よおし、リオウに聞いてみよう。僕とナナミの教えたの演技、どっちが真に迫っていたか!」
「いいわよ。ね、どっちが上手だった!?」
だがそれに対するリオウの答えを聞くことは出来なかった。
「うるさいぞお前ら!!とっとと寝ろ!!!!」
牢の向こうから怒鳴られたのである。達はしぶしぶ寝る体制に入るのだった。



BACK / TOP / NEXT