Skyting stjerner2-15
結局、リオウとの組手は互いが力尽きて地面に倒れ込むまで続いた。烏の行水のように汗を水で流すと、そのままベッドへと飛び込み2人は夢も見ることなく、達はそれまで眠れなかったことが嘘のように泥のように眠りにつくのだった。
翌朝、はナナミに起こされ目が覚める。
「、もう朝よ!」
養父が亡くなり、屋敷を姉弟は協力しながら生活していたが、主に切り盛りしていたのは姉であるナナミだった。
目を擦りながら開けると、まだ窓の向こうの空は白ずみ始めたばかりだ。も解放軍時代は使用人として朝早くに起きて支度をする日々を送ったこともあり、寝起きが悪いわけではないが、夜遅くまでリオウと鍛錬した事からまだ数時間程しか眠れず、ナナミより遅い起床である。しかし、睡眠時間は短時間であったものの、鍛錬の効果か、すぐに深い眠りにつけたことから体調は頗る良い。精神的理由もあるのかもしれない。苦戦するだろうと思われた朝は、思ったよりも快適に目を覚ますことが出来た。
だが習慣として早く起きたからといって、特にする事もない。試しに2人して宿の手伝いを申し出たが、当然であるが客人だからと追い返されてしまった。そこでナナミの提案で、 達はリオウ達を起こしに向かうことになったのである。
「あーよく寝たぁ。」
ナナミが背筋を伸ばしながら言う。つい先程、と同じようにナナミに起こされたピリカは、眼を擦りながらその後に続く。
ナナミが数回、扉を叩いた。しかし扉の向こうは静かで返答はない。まだ眠っているのだろう。とピリカは引き返そうとしたが、ナナミは遠慮することなくドアノブを回すと、幼馴染と義弟の寝室へと乗り込んだ。
一瞬躊躇したものの、まあ、今更遠慮する仲でもない。もナナミの後に続けば、姿勢を正し毛布を蹴とばすことなく綺麗な寝相で眠るジョウイと、毛布を肌蹴させて眠るリオウが熟睡している。達が入ってきても、2人は起きる気配もなかった。
「しかたないなぁ!」
仁王立ちになったナナミはそうは言うものの、笑顔を浮かべている。いいことを考えたといわんばかりの朝からの輝かしい表情になにやら嫌な予感を覚えれば、それは当たってしまう。
一歩身を引こうとするも遅かった。ナナミが力の限りの背中を押したのだ。そのままバランスを崩し、はリオウのベッドへとダイブする。布団に当たった鼻頭の痛さに顔を歪めていれば、その衝撃でリオウが目を覚ました。
夢うつつな鳶色の目が開き、と目が合う。
「なんだ か・・・」
しかし彼は静かにそう言うと、沈黙する。大した反応を見せることなく、そのまま寝てしまったのである。
の頬が思わず引きつる。故意ではないが。決して故意ではないが。押し倒したような状況であるというのにそれは些か癪に障る反応である。は思わずリオウの頬を力の限りつねった。
「い、いたたたたた」
「朝だよ、リオウ。」
そう言って、さっさとその場から起き上がると、続いてリオウが上半身を起こした。頬をさすりながら、痛さに涙するリオウは無視だ。そこでナナミが溜息を吐いた。
「あ、ジョウイ、また寝ぼけてるなぁ。まったくぅ、中々起きないんだから。」
とリオウの出来事で、一時は上半身を起き上がらせたものの、気がつけばジョウイは再び布団へと戻っていた。
貴族の息子として寝相はとても良いものの、彼は寝起きが悪く低血圧であるらしい。ナナミは顎に手を当てると言う。
「リオウ、前みたいに水かけちゃおうか?」
それは些か、酷いのでは。思わず頬を引きつらせれば、そこでピリカが動いた。毛布を捲ると、ジョウイの布団の中へと潜っていったのだ。
ジョウイの眉がぴくりと動く。
「んん・・・?ふああああ・・・・あれ・・・朝??」
さすがにジョウイも目を覚ましたらしい。しばらくはぼんやりと微睡んでいたが、真横にいる存在に気付く。
悪戯のばれたことに笑みを浮かべるピリカと目が合い、数回目を瞬かせる。今度こそ、ジョウイは目を覚ますのだった。
「皆さん、よく眠れましたか?」
一階へと降りると、宿の女主人であるヒルダが声をかけてきた。ナナミは笑みを浮かべて頷く。
「ええ、晩御飯も美味しかったし、本当にお世話になりました!」
「またのお越しをお待ちしております。」
「はーい!」
元気よく返答したナナミに、ヒルダも嬉しそうだ。そこでふと、リオウがヒルダに尋ねた。
「あの、もしかしてミューズに入る通行証とか、持ってませんか?」
昨夜、聞こうとして聞けなかった事である。目を丸めたヒルダが口を開こうとした。だがその前に、口を挟むものがいた。
「ああ。今は通行証がないと中に入れてくれないからな。」
焦げ茶色の短い髪に日の焼けた肌をした、体格のいい男、アレックスだ。食堂に現れた彼は、ヒルダの夫であった。
ミューズの近くに住む彼らが、生活必需品を得るにはミューズからというのが一番濃い線だ。その考えはやはり当たっていた。ナナミが声を弾ませる。
「じゃあ、じゃあ、じゃあ、それを貸してもらえませんか?私達、ミューズに入りたいんだけど、門番がケチンボで・・・・」
アレックスは顎に手を当てると唸った。
「・・・そうだなぁ。」
無償で借りれるとは、達も思っては居なかった。お金か、店の手伝いか。しかしややあってから、彼は達が思いもよらぬ提案をした。掌に拳をあてると、彼は言う。
「ようし、じゃあこうしよう。君達が宝探しを手伝ってくれたら、通行証を貸してやろう。どうだい?」
まさか宝探しとは、誰も思わぬだろう。目を瞬かせる達に、白い歯を剥き出しにして、見るからに嬉しそうにアレックスは言う。
「実はな、お宝への入り口を見つけたんだよ。中はちっとばかし危ないだろうから人を集めようと思ってたんだ。おっとそうだ。勿論、お宝を見つけたら、分け前だってある。」
「アレックス。」
喜色ばむアレックスに対し、ヒルダが諫めるように名を呼び、眉を潜める。
しかし『宝探し』、それは意外ではあったが、通行証の為ならばお安い御用であった。加えて彼らが悪い人物ではないのは、一晩で多少なりともわかっている。騙されるなどという訳ではないだろう。本当に宝探しなのだ。一同を代表して、リオウが頷く。そこでナナミがもろ手を挙げた。
「やったー!宝探し!宝探し!」
喜ぶナナミとは異なり、ジョウイは呆れたような表情をしている。子供らしからぬ彼は、宝探しなど幼稚だと思っているのだろう。だが面々の中で一番の年長者であるはずのといえば、密かに胸を高鳴らせていた。
現代ではいざしらず、ここは異世界だ。未だ未知な文明も多く、ならば本当に埋蔵金もあり得る。脳内に金銀財宝を手土産に今は離れているティルとの再会が浮かぶ。感動するティル。惚れ直してもらえる可能性大の私。素晴らしい。マーベラス。ハラショー。
別に彼が金銭的目的で付き合ってくれているわけではないことは知っているが、むしろ旅の中、はティル達のように上手く路銀を稼ぐこともできず、常にお荷物である。だからこそ、下種と言われようとも一攫千金に胸が高鳴るというものだ。惚れ直してもらえゴホン、見直してもらえるチャンスである。ナナミのように声をあげることはしないものの、もにやつきそうになる頬を抑える。しかし必死に抑えるにやけ面は見る側から丸わかりであった。はジョウイから、はしゃぐナナミ諸共白々しい視線を向けられるのであった。
アレックスが意気揚々と言う。
「ようし、早速出発!!・・・・・・・の前に、」
アレックスはそこでピリカへと視線を向けた。ピリカはまだ、本来ならば外を出歩くのが危ない程幼い。
「この子は連れてけないな。」
ピリカを抱き上げると、アレックスはヒルダを見る。
「ヒルダ、ちょっとこの子を預かっておいてくれよ。ピートの遊び相手によいだろ?」
「え・・・それは構わないけど、あなた、やっぱり行くのはやめた方が・・・」
「心配するなって、大丈夫だよ。」
笑うアレックスは、聞いているようで聞く様子はない。ヒルダは幼い少年のように笑みを浮かべるアレックスに、諦めるように溜息を吐いた。「気をつけてくださいね。」しかしため息は吐いたものの、ヒルダの表情は柔らかかった。
ジョウイがピリカに視線を向ける。
「ピリカ、良い子にしてるんだぞ。僕とリオウ達はすぐに戻ってくるからね。」
すぐに笑顔で口を開いたピリカだったが、発せられる声は、やはりなかった。ピリカはその事に気付くと、笑顔を曇らせ、首を縦に振る。
ジョウイは一瞬悲しげな目をすると、取り直すように笑みを浮かべる。そして悲しそうな表情を浮かべるピリカの頭に、優しく手を置いたのだった。
「ようし、今度こそ出発だ。遺跡はこの宿の裏手なんだ。まずはそこへ行こう。」
「あなた・・・本当に気をつけてね。」
意気揚揚とするアレックスに、ヒルダが後押しするようにもう一度そう言った。
***
白鹿亭を出て、裏へと回る。裏庭を通り、達は青々と茂る森へと踏み入った。獣道すらない草木をかき分けながら進む中、アレックスは頻繁にコンパスと木々の位置を確認している。達にはどれも同じように見える大木も、アレックスには違いがあるように見えるのだろう。迷いなく進み、汗だくになりながら進み数刻した程だ。鬱蒼と茂る木々に囲まれるようにして、石で出来た古い遺跡があった。まさかこんな所に、といった様子だ。額から流れる汗を拭いながら、アレックスが自慢げに言う。
「ここが、そうさ。見てみろよ、このレリーフを。」
感心する達を他所にジョウイが遺跡に近づき、アレックスの指さしたレリーフを覗きみて、眉を寄せた。
「これは・・・シンダル族の文様?」
「そうさ、ここは失われた民、シンダル族の残した遺跡なんだ。」
「わぁお!ジョウイすごい!すごい!!よく知ってたね。」
ナナミが両手を叩く。ジョウイは照れた笑みを浮かべながら首を振った。
「いや・・・父の部屋で、本を覗き見しただけだよ。」
それでも博識である事には変わりないだろう。ナナミだけでなくとリオウもまた尊敬の眼差しで見るのだから、ジョウイは気恥ずかしくなった。
「前からここを調べていたんだが、昨日やっと、この遺跡の秘密を見つけたんだ。」
アレックスは遺跡に歩み寄ると、所々欠け、苔だらけで文字もあまり読めない大きな石――石版だと思われるそれを辿るように触れた。次に左へ進み、少し前を進んだところで床を足で踏む。すると大きな音ともに、石版が真ん中で二つに割れた。空いた先には人が一人通れるほどの隙間があり、先は暗く見えない。辛うじて、暗闇の先から冷たさを帯びた風が流れ先があるのが分かる程度だ。
そこは入り口だった。
「この通りさ。やっぱりここはただの遺跡じゃなかったんだ。」
達は唖然としながら現れた入り口を見る。何しろただの石版としか見えなかったのだ。まさかあんな大掛かりな仕掛けがあるとは思っても見ない。
「さぁ、ここから先は怪物が出るかもしれないから、慎重に行くぞ。」
真剣な顔で注意を促すアレックスに、達も頷くのだった。
中は想像よりも広く、湿った空気が流れていた。入り口は狭かったものの、天井の高さは18尺以上あるだろう。更に遺跡の古さは、均等に置かれた円柱が物語っている。柱は崩れてはいないものの、いつ崩れるかとは内心ひやひやする程蔦に覆われていた。それ程シンダルの遺跡は古く、石畳は苔と埃まみれで、進むたびに埃が舞い達は滑らないように慎重に進むしかなかった。
程なくして一行の足は止まる。
「アレックスさん、これ・・・。」
リオウの声が遺跡内に響く。アレックスが顔を覗かせて、リオウが示したレリーフを見た。
「どれどれ・・・」
アレックスは腕を組み、レリーフのある石板を眺める。遺跡の中の石板は入り口のものよりは劣化が少なかった。苔むしているものの、欠けている部分も比較的少ない。しかし書かれている文字は一文のみで、あとはレリーフがあるだけだ。なぞなぞのような仕掛けに眉を寄せながら眺めていたアレックスだったが、しばらくするとレリーフへと触れた。レリーフの真上を指を押したかと思えば、再び閉じられていた行き先は開かれた。割れる石板の先には、更に道が続いている。
本当に遺跡だ。お宝だ。そんな言葉が脳内に流れ、は思わず高鳴る鼓動と共に息を呑む。慎重に中へと入り、そして違った意味で達は息を呑むこととなる。
中は別世界であった。遺跡内だというのに、大木が生え、窪みには水が流れている。確かに、天井は高かったが。まさかここまでとは思いもしなかった。唖然としたのはだけではなく、その場にいる全員だ。アレックスが恐る恐る足を踏み出すと、達も我に返る。
辺りを見回せば中は広く、部屋の先も見えそうにない。そもそも木や水が流れるこの空間は部屋とも言いがたかった。ダンジョン、いや、幻想的な内装は、まるで神域のようだ。
最初は遺跡内に気をとられていた達だったが、それも数分のことだった。それから達はひたすら歩くことになる。なにしろ、中は広かった。歩いても先が見えそうにないのだ。それも遺跡の中だというのに、流れる川を石橋で渡った所で止まる。レリーフと、新たな門があったのだ。再びアレックスが調べにかかる。
「どれどれ・・・このくぼんだ所に、何かを嵌めこむしかけになっているみたいだな。」
ということはだ。呆然とするリオウと顔を見合わせたは苦笑いを浮かべた。
再び歩き出した達は広い遺跡内を闊歩し、新たな門へと突き当たる。しかしそれまでのようにレリーフは置いてなかった。達は顔を見合わせると、その間に門が開いた。驚いてみれば、ナナミが満面の笑みでこちらを見ている。
「なんか動かしたら、開いちゃった。」
えへへと笑う彼女に、引きつり笑いを浮かべる。何が起きるかわからない遺跡だというのに、警戒心が少ないということもあるが。確かに達は助かったのだ。真面目なジョウイも今回ばかりは苦言を零すことはなかった。
中へと入ると、円柱に囲まれた祭壇があった。中心には小さな石版が置かれている。石板は取り外せるような小さなもので、達はそのままそれを持って件の場所に戻り、はめ込んでみた。すると、同時に扉が開かれた。
中はまだまだ広かった。ただそれまでと違い、部屋に入ると入り口付近に一つの像が置かれている。頭が二つある蛇の像だ。それを目に留めながら、は先へと進む。
階段をひたすら上ると、レバーがあった。顔を見合わせ全員が頷くと、代表してリオウがレバーを引く。途端、流れていた水が止まり始めた。アレックスが感心したように呟く。
「随分大掛かりな仕掛けだな。水がみるみる引いていくぜ。これで通れる場所が増えたんじゃないかな。」
また増えたのか、その事実に一同の胸にはうんざりとしたものが生まれた。一同は更に歩きに歩き、探索し続ける事になった。
随分と遺跡の奥まで来ただろう。奥まった部屋へと入ると再び頭が二つある蛇の像が置かれていた。それを見たが思わず言う。
「なんか、いかにも、て感じだね。」
ダンジョンでいうボスフラグである。この場合本当にモンスターが出そうで、は笑えなかった。
しかしリオウは違ったように捉えたらしい。
「これって入り口にもあったよね。なんだろ。シンダル族が祭る神様とか?」
「ううん・・・」
こんな神様は嫌だと思いながらは唸る。
「おい!行くぞ!」
「「はーい!」」
慌てて先へと進むアレックスに返事を返すと、達は後を追うのだった。
BACK / TOP / NEXT