Skyting stjerner2-12

火炎槍の効果でハイランド兵は押されている。しかし砦の兵は大軍のハイランドに対して圧倒的に少数で、多くの兵が前線で火炎槍を使用する事で、抑えるのがやっとだった。
リオウやジョウイ、やナナミの後方に構える部隊は百にも満たない数十の兵力だ。脅威の力を持つ火炎槍で多くを足止め出来ても、多勢に無勢に変わりなく、前線を突破する兵も徐々に出始めた。
平野を見渡せる小丘から、ハイランドの兵が前線を逃れたのを見とめると、すぐに別個隊が弓矢を放つ。数名の兵はそれで抑え込めれたが、時間が経つとともに逃れる兵は増していった。いくら火炎槍が脅威であっても、相手も対応を学び始めてきたのだ。
それでも前線のビクトール達は今までの経験を活かし陣形をつど変えることでハイランド兵を押していた。状況が変わったのは、四刻程経過した頃だ。
少数である砦の傭兵達に対して最初は勢いのあったハイランド兵も、火炎球に恐れをなし徐々に後ずさりする兵が増えてきた。しかしここにきて、火炎槍に嵌め込まれた火炎球の勢いが下がってきたのだ。
やがて、火の勢いが弱まった隙に一個隊が前線を突破してしまった。数名であれば止められた矢での強襲も、数が多くては全てを抑えきれない。
「砦に入られたら駄目だ!ここで抑えよう!!」
「迎撃するぞ!!」
小隊を任されているリオウとジョウイが怯まず声を上げる。しかしすぐに続く者はいなかった。
火炎槍の力を見て、後方に控えていた砦の者も多くが怯んでいた。もともと、主戦力は前線に集中しており、後方にはやポール、ナナミといった寄せ集め者たちしかいない。驚異的な力を前に、ハイランド軍を抑え込められるかと期待していた兵たちも、突破されてしまうと腰が引かれ始めている。
――当たり前だ。リオウやジョウイのように、割り切れる者はなかなかいない。は怯んでいる兵達の様子に気付き、走らせようとした咄嗟に馬を止めた。
もまた、殺し殺される、そんな決意はまだ持てていなかった。だからこそ怯んでいる彼らの気持ちも痛い程わかるのだ。しかし奮い立ってもらわなければ、砦も突破され、境い目の砦なくなれば都市同盟とハイランドの戦争が本格的に始まってしまう。そもそも、先に行ったリオウ達も危ない。が加わったところで、数名ではハイランド兵を抑えきれないのだ。
数瞬、は焦った。兵達を鼓舞しなければならない。けれど、一体何を言えばいいのか。
マッシュのように言葉巧みに兵へ自信をつけせる?否、そんな作戦は到底思いつかない。
ビクトールやフリックのように、ただ前に進み道を切り開く?否、そんな武術は習得できていない。せいぜい、抑えるぐらいだ。
ティルのように、彼らを鼓舞し前線に立つ?―――到底、無理だ。
パーン、レパント、ルック、解放軍の面々を思い返す。それでも、どうすればいいのかわからない。
ナナミは火炎槍の衝撃的な光景を必死に堪えてはいるものの、まだ心が追いついていない。
―――一体、どうすればいいの?
パァンと、肌を叩く乾いた音が響いたのは、その時だった。
「・・・っうし!気合い入った!」
意気込んだ声は、静まっていた小丘によく響いた。や他の者たちの視線が健康的な肌の少年へと向かう。小麦色の頬は、僅かに赤く色づいている。相当強く叩いたのだろう。自分で自分の頬を叩いたポールは、力強く目尻を吊り上げる。
「先輩が後輩に負けていられるかってーの!」
腰に携えた鞘から剣を抜くと、ポールは勢いよくリオウ達に続いて馬を走らせた。
ポールの言動は、脅威の力を持つ火炎槍に、その火炎槍を潜りぬけたハイランド兵に怯んだ自分を奮い立たせるものだけだ。だが、それは怯んでいた他の砦の者達も我に返らせた。瞳に力が宿っていくのを見とめて、は胸を撫で下ろした。馬の腹を叩き、急ぎハイランド兵へと向かう。
間を待たずに、背後から馬の蹄が轟いた。小丘から砂埃があがる。
ポールのお陰で、残った砦の兵達の士気は上がり、突撃する事が出来た。しかし一個隊とはいえ、相手は最新の武器や防具を身に付けた正規のハイランド兵だ。寄せ集めの達は苦戦を強いられ、負傷者も何名も出てしまう。だが最終的に恐れることなく相手取るリオウやジョウイのお陰で、なんとかハイランド兵を迎撃出来たのだった。

アップルの睨んだ通り、初戦は勝つ事が出来た。しかしそれもかなり苦戦したものであった。火炎槍があったものの数には勝てず、数少ない兵力の中、多くの兵が負傷者を出してしまったのだ。死傷者が出なかったのは奇跡的だったが、一部の兵は前戦を退き、しばらくの静養が必要だった。リオウ達に続いたポールも、肩に矢傷を負ってしまった。意識もあり、本人は大丈夫だと言うが、トウタの診断からしばらくの安静が必要である。
苦戦を強いられたといっても、しかし勝ちは勝ちである。あとは都市同盟からの援軍が来るまで、砦の守りに徹するだけだ。
だがここで、思いもよらぬことが起こった。
「王国軍です!!ハイランドの軍が攻めてきました!!」
達は知らせに目を見開いた。出鼻を挫くことに成功した為、帝国軍が攻めてくるのは恐らく明後日以降であろうと睨んでいた為だ。まさか負けたその日の内に、しかも遠征してきた軍を一戦させた後再び進軍させるなどと思いもよらぬ事であった。そして平野に表れた敵軍を相手に出馬した時だ。再び予想外の出来事が起きる。平野に気をとられている内に、背後から、大部隊が森を通って砦に攻めこんできたのだ。
「この砦はもうだめだ。みんな!!出来るだけバラバラに逃げるんだ!!」
馬を駆けさせながら、フリックが仲間に伝令して回る。迎え撃つために小丘にいた達は息を呑んだ。
「そうだピリカ、ピリカを助けに行かなきゃ・・・!!」
そこでジョウイの言葉で我に返る。
ピリカはまだ、砦にいた。

馬を砦へと走らせ、急ぎ達は戦場から退く。馬を手近な木に繋ぐ間もなかった。砦から、既に煙が上がっていたのだ。数名残していた門番に目を向ければ、既に全員、事切れている。
焦り壊された扉から中に入ると、そこには既にハイランド兵がいた。広間にいたハイランド兵はこちらに気付くなり刃を向けてくる。それをリオウや、ジョウイ、ナナミと共に倒すと、ピリカを探すべく名を叫ぶ。反応はなかった。
砦に放たれた火矢の所為で、煙で視界が霞んできた。必死に煙を吸い込まないように手で口元を抑え、そして二階へと上った時だ。ポールの悲鳴を聞いたのは。
「ポール!!」
リオウが目を見開き、悲鳴が上がった部屋へと向かう。そして開け放った先にあった光景に、は足が震えた。ポールが、目を見開いたまま動く事を止めていた。こちらを向いたまま、彼はもう二度と笑う事も、起きる事もなかった。
良いことも悪いことも。悲しいことも、人の感情はいずれ薄れてしまう。体中に巡る悲観の声を、はこの時思い出した。
ああ、そうだった。あの頃も、こうして剣を持つことを決意したんだ。激情にも似た叫びは、決して忘れてはならないものだった。解放戦争から2年間。平和なティル達との旅で消えかけてしまっていた。時の流れが、急激に巻き戻されていく。そうして引きずり落とされてから思うのだ。ああ、あの頃は良かった。誰かを失うこともなく、ティル達との旅は、あまりにも平和だったと。だからこそ、後悔をし、そして二度と忘れない事をは誓った。
胃の中からこみ上げる慟哭を、双剣を握り必死で抑え込む。怯んだに向かい、部屋にいたハイランド兵が剣を振り下ろした。
悩む暇はない。は振り返りざま、甲冑を着込んだ兵士の喉を剣で斬りつける。振り下ろそうとした形のまま、目から急速に光を失っていくハイランド兵は、そのまま床に崩れ落ちる。
―――誰かを亡くすのは、嫌だ。
人を殺めてはならない。それは当然の事だ。殺めた後に、酷く自責の念に駆られるだろう。何度も、何十回も、それこそ自分の命が尽きる、その時までずっと。
けれどこの時、の中の決意が一つ、決まった。
ポールを斬り、剣から血を滴らせた男を睨みつける。
ルカ・ブライトだった。
「よくもポールを・・・!!」
リオウがルカへと向かった。 も双剣を構えて踏み込む。
正面から行ったリオウは弾かれてしまったが、その隙に背後を取ったの剣は当たると思われた。しかしルカは振り返る事無く、自身の剣で防いだ。それに目を見張った瞬間、は横から殴られる。激しい痛みと共に焦点が揺れ、床へと倒れこんだ。
!!」
迫る凶刃に、リオウが咄嗟に前へと立ち塞がる。
「なんだ貴様は。そこの虫を助けたつもりか?」
視界が揺れる。額を切ったのか、米神から流れた血に視界が僅かに滲んだ。まだ視界が合わない中、リオウはルカを睨みつけた。リオウの臆することのない強い目に、ルカは楽しそうに口の端を上げる。その時だった。
「うあああああああ」
ピリカだ。ポールの傍に居たピリカが、恐怖から泣き出したのだ。ルカの米神が動く。
「耳障りな・・・俺の楽しみを邪魔するな。」
ルカは武器を構えるリオウを気にすることなく背を向けると、ピリカへと足を向けた。
「うああああん!!こないで、こないでえええ」
ピリカが叫ぶ。ピリカの悲鳴に、ポールの死に衝撃を受けていたジョウイとナナミが動いた。ピリカに振り下ろされた剣を、二人掛かりで抑える。だがすぐに剣の向きを変えたルカにより、はじかれてしまった。
「フン、たかが虫けらどもが・・・。」
不快そうに顔を歪めたルカだったが、一変して楽しげに笑みを浮かべた。「いいことを教えてやる。」
「この世には、強い者と弱い者がいる。強い者は全てを奪い、弱い者は死ぬ。それがこの世のしくみだ。それをこれから見せてやろう。
強者が弱者を奪う瞬間だ!!!!!」
ルカが再び、ピリカへと足を向ける。膝まづくジョウイ達と入れ替わるようにリオウとがルカへと向かった。しかしリオウのトンファーが剣で弾かれると、立て直す間もなく殴られ、リオウが数メートル吹き飛ぶ。それに僅かに気をとられたもまた、双剣を交合わせる事無く、剣の柄を持つ手で殴られてしまった。再び視界が揺れ、倒れこんだところを激しい痛みが襲う。ルカがの頭を踏みつけたのだ。
ルカの意識が、蹲るピリカへと向かう。
「やめろ!!」
ジョウイが咄嗟に叫んだ。けれどルカがそれに応じる事はない。弓なりに笑みを浮かべたまま、恐怖に震えるピリカに視線を向ける。
「や、やめてくれ・・・!!!」
堪えきれずジョウイが叫ぶが、ルカは嘲笑った。
「黙ってみてろ虫けら!!
こんな餓鬼を助けてどうなるという?そんなことより命乞いの台詞でも考えておけ。次はお前らだ。」
ルカは片足での頭を踏み固定したまま、剣先をピリカへと向けた。
『これは慣れだけど』
その時、はティルの言葉が、霞む思考の中聞こえた。それはモンスターとの戦闘、鍛練する時でさえ、いつもどんな角度から攻撃を仕掛けても防いでしまう彼らに、後ろに目でもあるんじゃないの、と不満そうに零した時、面白そうにティルが放った言葉だった。
『視野が広くなるんだ。実際には限りがあるけど感覚的に見えない所も見えるようになる。それは経験を積めば積むほどね。』
『それってティル達には死角がないってこと?』
眉を寄せてそう尋ねたに、彼は優しく微笑んだ。
『感覚を研ぎ澄ませればね。』
そして言ったのだ。もその内出来るよ。と。その時はやっぱり彼等はとんだ化け物だ、と思ったものだ。そして自身にはそんな事は出来やしないとも。
ティルの声が聞こえる一方で、微かに愉快そうなルカの声が聞こえる。
「おい、餓鬼!どうした?声も出ないか!!!ふははははは!!!」
『想像して。一瞬でも記憶している地形。相手の立ち位置、そして動き。全てを予測するんだ。』
「安心しろ、俺は何百、何千と首をはねてきた。目をつぶっていても仕損じることはない。」
『だから忘れないで』
焦るな。は彼の言葉を一字一句覚えていた。ルカ・ブライトがなんだ。ティル達に比べれば、大したことはない!
だからこそ神経を研ぎ澄ませ、その時を待つ。
『どんな時でも活路はあるんだよ』
彼の言葉に偽りはない。
愉快そうに笑っていたルカは剣を振りかぶろうとした、その隙をは逃がさなかった。閉じていた目を開け、懐から暗器を取り出し、それをルカの鎧がない部分、膝下に刺したのだ。
「ぐあ・・・!!」
さすがのルカも、不意打ちの攻撃に小さく声を上げる。
すかさずは双剣を持ち、斬りかかろうとしたのだが、しかし予想に反してそれは防がれてしまった。
「ふははは貴様、中々やるな。」
ルカは膝下を刺されたというのに、笑みを浮かべていた。目を見開くの剣が、弾かれてしまう。ルカの刃がへと向かった。その時だった。突然、砦が大きく揺れた。
「こっちだ!!早くこい!!」
腕を引っ張られたと思えば、黒いざんばら髪が前を横切る。筋肉隆々な男、ビクトールだった。ビクトールは振り返ることなく言う。
「火炎槍を全部地下のボイラーに投げ込んでやった。すぐに爆発が始まるぞ!」
「ほら、次はしっかり守れ!」
共にやって来たフリックが、小脇に抱えたピリカをジョウイに渡した。ビクトール達がルカとの間に立ち塞がりながら叫んだ。
「急げ!走るんだ!!逃げ延びたらミューズを目指せ、そこで落ち合おう。」
「でもビクトールさん・・・!!」
は思わず声を上げた。振り返ったビクトールは笑みを浮かべると、の頭の上に手を置く。
「行け。死ぬなよ。」
「ビクトールさん!!」
ビクトール達は振り返らない。渋るを、リオウが腕を引いた。
腕を引かれ、火の勢いが強くなった砦を後にする中、背後から激しい剣劇の音と、ルカ・ブライトの楽しげな笑い声が響いていた。

ビクトール達ならば、大丈夫だ。
あの崩れ落ちる帝国の城からも、無事脱出出来たのだから。ルカ・ブライトが相手でも、常に前線で戦うあの二人ならば。後を引く気持ちにそう折り合いをつけ、達は森の中を走る。砦を後に、休むことなく走り続け四半刻した頃だ。初めは遭遇していたハイランド兵も、もう随分と見当たらなくなってきた。誰ともなく徐々に駆ける早さを落としていく。荒い息を整えながら、ようやく辺りを見回せるようになると、眉尻を下げたリオウが言う。
「・・・大丈夫、 ?」
「あー・・・」
右の瞼の上が腫れぼったい。散々殴られ蹴られした為、相当酷い顔をしているだろう。は苦笑いする。
「ま、大丈夫でしょ。それよりリオウは??」
「大丈夫なわけないでしょう!!」
リオウも殴られ右頬が腫れている。中々に酷い有様に尋ねようとすれば、真横から言葉を遮られた。
は驚いて、声を上げた者、ナナミを見る。ナナミは眉を寄せると言った。
「女の子なのに・・・こんな・・・。」
そんな酷い顔をしているのか。は思わず内心焦った。しかしナナミが泣きそうである事に更に焦る。
「ナ、ナナミ・・・!!」
「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!!」
「え、えええ」
しかも謝りだしたので、は大慌てである。義弟であるリオウに助けを求めようと彼を見れば、彼も何のことだかわからない様子であった。
「私・・・!私・・・・!!今まで勘違いしてた。貴方が、てっきり・・・リオウを・・・」
しかしその先をナナミは言わなかった。は首を傾げる。
ナナミは今まで、義弟であるリオウを、行き成り現れたに取られたような錯覚を覚えていたのだ。義弟を大切に思っているからこそ、それは酷く、ナナミの内心を荒ませた。けれど彼女はこんなにまで怪我をしても、リオウを気遣ってくれようとしたのだ。さぞ痛いだろうに。それだけで、ナナミは彼女を勘違いしていたと気づくのだった。彼女はリオウを誑かしている訳ではなかったのだ。ナナミは顔を上げると言った。
「ごめんね、今まで勘違いしててごめんね!!リオウを宜しくね!!」
彼女の中で一体どういう結論が出されたのだろう。とりあえず理解はおいておき、は笑って返すことにした。ややあってリオウを見てみたのだが、彼も苦笑を浮かべ、またわからないようである。使えない義弟である。
しかし今までナナミとの関係がぎこちなかった為、それが改善されそうであればは嬉しく感じた。
やがても、顔が腫れている為上手く笑えないが、下手な笑みを浮かべるのだった。

続くように、ジョウイが足を止めた。そして振り返ると、最初は抱えていたが、途中から手で引いていたピリカに向き直る。
「大丈夫かピリカ?」
しかしピリカは俯いて、何も言わない。それにジョウイが慌てた。
「どうした、ピリカ?おい、ピリカ??」
「ヒッ・・・ウ・・・ウウッ」
「ピリカ?ピリカ?まさか・・・」
そこで異変に気づいた達も振り返った。
ピリカは俯きながらも、必死に声を出そうとしている。
「ア・・・ウゥ・・・・ヒッ・・・・。」
「返事をしてくれ・・・ピリカ・・・お願いだよ・・・ピリカ・・・『お兄ちゃん』って呼んでくれよ・・・・。」
「ジョウイ・・・」
がジョウイの肩に手を置く。ジョウイは無言でピリカを見ると、もう一度願うように言った。
「また笑ってくれる、よな・・・・。」
ピリカはそれに、悲しげな瞳を向けるだけだった。


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