Skyting stjerner2-11
武器を持たないリューベの村人は一方的に蹂躙され、村から悲鳴が聞こえなくなるのは数刻もかからなかった。家屋には残さず火を放つと、ハイランド兵が撤退していく。木で出来た家屋が燃え盛るのは一瞬で、日が暮れ始めた頃には炎は鎮火していた。静まり返り、跡形もなくなった村をは眺める。村人達の悲鳴、ハイランド兵の怒声、ルカ・ブライドの笑い声。焼き付いた光景はまだ目蓋の裏から離れず、頭の中には阿鼻叫喚が響いている。助けられなかった。数人ならば、助けられたのかもしれない。だがあまりにも低い可能性に、は彼等を見捨てたのだ。直接殺めたわけではない。それでもには、掌が赤い血で染まっている心地がした。
今更だ。解放軍時代、決して誰も殺めなかったわけではない。生き残るために、振るった紋章は敵の武器や防具を破壊し、無防備になり降伏してくれれば何も問題はなかった。だが全員が全員、そうではない。武器がなくとも帝国を守る意思で、向かうことをやめない兵もいたのだ。そうした兵は、他の解放軍が斬り伏せた。一般兵は勿論、護衛をしてくれたビクトールやフリック、ラズリルやティル。大事なものを守る強い意思で、彼等は剣を止めなかった。確かに当時のは剣を握ったばかりで技量もなく、魔物で精一杯であった。人間では相手取ることは出来ず、回りが相手するのも必然なのだろう。だが、本当にそうだろうか?人を斬る覚悟はした。けれど、人を殺めずに済んで何処かでほっとしていなかっただろうか?
覚悟を決めた、はずだ。当時は何がなんでも守りたいと思たからこそ。だが二年の月日が流れ、はその覚悟を持てていなかったのではないかと、自身ですら疑問を思った。本当に、人を殺める覚悟を持てたのだろうか。
脳内に木霊する悲鳴、涙を流したまま悲痛な表情で息耐えた人々。戦う覚悟が曖昧なものでも、守りたいと思ったから逃げずに砦に残ったというのに、ただ見ているだけで結局、何も守れていないではないか。
「さん。」
呆然と立ち尽くしていると、後方でリオウ達を見ていたツァイから声がかかる。振り返れば、リオウとジョウイが半身を起き上がらせていた。ツァイが未だ意識が不確かな二人に言う。
「ハイランド軍はもう引き上げました。急ぎましょう。次はビクトールさんの砦が狙われてます。砦が落ちればこのあたりは全てハイランドのものになってしまいます。」
のろのろと体を起こしていた二人だったが、ツァイの言葉に気絶する前の出来事を思い出す。一気に覚醒した彼らは、急いであたりを見回し、愕然とした。
リューべの村があったはずの焼け野原にリオウが静かに拳を握る。気を失う前に聞こえたツァイの言葉がなくても、彼らもわかっていた。
あの時飛び出していても、リューベを救うことはできなかった。頭に血が上ったリオウ達より、冷静なツァイの判断が正しかったのだ。それでも込み上げる苛立ちは、自分自身へだ。
堪えるリオウを横に、ジョウイが焼け野原を見据えて言った。
「行こう、僕達は・・・闘わなきゃ・・・。」
その言葉は焼け落ちた大地に、空しく響く。戦いは、まだこれからだ。
ジョウイもまた、途方もない無気力さに襲われながらも、体を前へと動かす。それぞれが込み上げる感情を押し殺す中、リオウ、ジョウイ、の三人は強く思った。
ーーー力が、欲しい。
***
気落ちした三人はツァイを連れて砦へと戻った頃、日は落ち空には既に一番星が輝いていた。砦の入り口で、達を出迎えたのはピリカとナナミだった。ピリカは達を見ると、笑みを浮かべて手を振る。
「あ、戻ってきた!わーいジョウイお兄ちゃん、リオウ兄ちゃん、お姉ちゃん!」
出迎えた二人の笑顔に、詰めていた息が出る。帰ってきたのだ。リューベの村の凄惨な景色はまるでなかったかのように、砦はまだ平和だ。
「ピリカ・・・ぐはぁ!」
「うっ」
ピリカを見て、安堵したかのようにジョウイが呟いた、その次の瞬間である。ピリカの隣に居たはずのナナミが、リオウとジョウイへ素早く駆け出し、そのままタックルするように抱きついたのである。一瞬意識を飛ばしそうになった二人の胸倉をつかむと、ナナミは凄い形相で叫んだ。
「リオウ!ジョウイ!!なんで私に何も言わないで言ったの!?お姉ちゃん、お姉ちゃん・・・・・心配したんだからね・・・・!!!」
ここは一般的に、幼馴染を心配した彼女が泣き出すところだろうが、ナナミは違った。眼光は鋭く光り、歯は威嚇するように剥き出しにされている。最後の方の声にはドスすら効いていた。怒り心頭な彼女に、弟であるリオウが胸倉を掴まれながら、必死に宥めるように言う。
「い、急いでたし・・・。」
「言ったらナナミ、ついて来ようとしただろ?」
しかしジョウイは意外にも平然としていた。肩を竦めたジョウイをナナミが睨みつける。
「なにそれ!」
と、その時、彼らを眺めていたとナナミの目があった。どう反応すべきか困ったを、しかし何故かナナミは睨みつける。
「は良くて、私は駄目なの!?」
火の粉がこっちまで飛んできた。慌てるだったが、確かに彼らと一緒に行ったのは事実であるから何も言えない。無言になるにナナミは更に苛立ちが煽られたようだ。
「なにそれ!なにそれ!!」
怒りに叫ぶようなそれに、リオウが宥めるように言った。
「誤解だよ。は僕たちより前からこの仕事を任されてて・・・て、そうだよ!!、力を貸すって・・・戦にも参加するってこと!?」
更に火の粉が良からぬ所にかかった。は今度こそ頬を引きつらせた。そしてさり気無く視線を彷徨わせピリカに目が行く。
「あはーピリカちゃん。何か用かな?」
すると彼女も何か困った様に視線を彷徨わせていたことから、話題を展開させることも意図に膝をつき彼女に話しかける。「ちょっと!?」横から名を呼ぶ声は無視だ。無視ったら無視!幼子が困っているのだ!
ピリカは視線を、腹を立てるナナミ、ナナミを宥めるジョウイ、に詰め寄るリオウに向けてから、やたらと笑顔のへと向ける。一瞬の逡巡の後、笑顔に促されるように口を開いた。
「あのね、熊みたいな人がお兄ちゃん達の事心配してたよ。」
熊みたいな人、脳裏にボサボサな茶色の髪に快活に笑う大男、ビクトールが浮かぶ。そうだ、彼にツァイのことを報告に行かねばならない。
この一連でツァイは一人隅で空気のように立っていたが、彼も困っているだろう。ついでに私も追及されては困る。・・・優しい彼の事だから、自身も今回の戦に参加すると言い出しかねないからだ。は思い出させてくれたピリカに礼を言うと、ツァイを連れて逃げるようにその場からビクトールの元へと向かうのだった。勿論、後ろからの声は無視した。
ビクトール達がいるであろう部屋に入ると早速、歓喜の声を聞いた。
「無事に戻ったか!!」
満面の笑みを浮かべたビクトールだった。フリックが溜息を吐きながら言う。
「リューべの村が襲われたと聞いたから、心配してたんだぜ。」
溜息を吐いたフリックの頬も、僅かに緩んでいる。そこでフリック達の視線が達の後ろに佇む、見知らぬ男に向いた。ビクトールが値踏みするように足のつま先から一通り見ながら尋ねる。
「で、そっちがツァイさんかい?」
「ツァイと申します。お見知りおきを。」
掌を合わせると、ツァイが礼を取る。ビクトール達も倣うと、礼を終えたツァイが言った。
「火炎槍の修理、請け負わせてもらいましょう。時間がないようですので、さっそく。」
「ありがたい、頼む。」
もう一度、今度は頭を下げてビクトールが礼をすると、ツァイは部屋から退出した。 扉が閉まると、ビクトールは今度は達に振り返る。
「、リオウ、ジョウイ。ごくろうさん。」
そういった彼に、達も頬を緩めた。長い一日であったが、無事ツァイを送り届けることが出来た。リューベでの出来事は達の心に影を落とすが、無事こうしてナナミやピリカ、途中で声を掛けてくれたレオナにポール等、砦の変わらぬ様子に肩の力を下ろす。だがそんな達とは正反対に、ビクトールは顔を引き締めた。腕を組んだビクトールは、鋭い目で告げる。
「リオウ、ジョウイ。お前達はここまででいい・・・。すぐに支度をして逃げるんだ。ミューズ市に行くといい。」
ビクトールの言葉は意外であったらしく、リオウとジョウイが目を見開いた。驚いた様子の彼等にビクトールは笑ってみせる。
「これはお前達には関係ない戦いだからな。ツァイのことだけで十分さ。」
「僕も一緒に闘う。」
達はリオウの言葉に目を見張った。しかし彼の目は真剣で、冗談という様子ではない。
「僕も戦います。」
続いてジョウイもまたそう告げる。真摯な目な彼らに、しかしビクトールは眉を寄せた。
「気持ちはありがたいが・・・・。」
「俺が試してやろう。」
そこで壁に背を預けて、様子を見ていたフリックが前に出た。立てかけてあった木刀の一本をとると、リオウに投げて寄こす。
「足手まといはいらないからな。」
鼻で笑うフリックをリオウが睨みつける。はそれを見ながらいつか見た光景である事にビクトールへと視線を向けた。ビクトールはからの視線に苦笑いしながら肩を竦ませる。ビクトールをおせっかいだと言ったが、彼もまたおせっかいなのである。誰の為にそう言ったのかは、以前フリックに試されたことのあるだからこそ知っている。背後で交わされた二人の些細なやり取りに気づかないまま、フリックが言う。
「リオウ、お前が俺に手傷でも負わせられたら、腕前を認めてやる。それでどうだ?」
「わかりました。」
リオウは頷く。そこへビクトールが溜息を吐きながら言った。
「んじゃ、俺はジョウイとやってみるかな。おいお前ら、外に行くぜ。」
五人は外へと出ると、ビクトールとジョウイが向き合い、フリックとリオウが向き直った。物珍しさから、その場で鍛錬していた者達も集まってきた。ざわついていた辺りが静まり返ると、それぞれが武器を構え『腕試し』が始まる。
ビクトールとフリックが手加減をしているのは当たり前だが、それにしても二人の動きは早い。力も少年にしては中々あり、対する二人は驚いた。やがて二人の口角が僅かに上がり、明らかに楽しんでいる表情を浮かべる。それに傍観していたは眉を寄せた。楽しそうなビクトール達も、徐々に本気を出し始める。一振り一振りが重く、それでいて休む間もない追撃に、今度はリオウ達が押され始めていった。しかしリオウ達もまた僅かに口角を上げている事から、は今度こそそんな彼らに苛立った。
襲い掛かる剣戟を弾き、時に反撃を返す二人だったが、数分ほど剣を交えた後、額に浮かんだ汗を拭いながらフリックが言う。
「ふーん、やるじゃないか。おいビクトール、こいつの腕は俺が保証するぜ。」
「こっちもだ。中々やるじゃねぇか。」
笑みを浮かべた二人に、リオウ達も木刀を下げ、安堵したように笑みを浮かべた。穏やかな空気が流れる場で、だが一人だけそうはいかない者がいた。眉を寄せたである。は拳を握り、そのまましゃがみこむと欠点を教え始めたビクトールとフリックに近寄る。
「・・・どういうつもりですか。」
は彼らを見下ろす。見下ろされた彼等は、少女の今までに見ない冷たい声に思わず肩を震わせた。声を荒げては言う。
「リオウとジョウイを戦に出すだなんて!!二人はまだ・・・!!」
「まだ子供、か?」
今度はが思わず肩を震わせる番だった。苦笑を浮かべたビクトールが、宥めるように言う。
「悲しいが、戦に子供も大人も関係ない。――それにお前も、子供だったろうが。」
今もな。と彼は言う。は唇を噛んだ。確かに彼らの言う通りであった。は子供だ。子供故に――友人であり守りたいと思う彼らが同じように戦に出ることを許せなかった。傷ついて欲しくなかったからだ。例え頭では戦力になるとわかっていても心がついていかない。眉を寄せ、拳を握る。そんなの拳を、誰かが柔らかく包んだ。
「だけ戦うだなんて、ずるいよ。」
笑みを浮かべたリオウだった。リオウはのきつく握られた拳を優しく包みながら言う。
「僕だって守りたいんだ。ビクトールさんもフリックさんも、ここの砦にいる皆―――君も。」
それでもの表情は緩まない。そんなに苦笑すると、リオウは拳を突き付けた。
目を丸めるに、リオウは柔らかく微笑みながら言った。
「僕らは同じだ。そうでしょ?」
はリオウの言葉にこれ以上無いほど眉を寄せた。
――ここで、それを言うか。
心はまだ彼らが戦に出る事を許せないでいる。けれど、そう言われてしまったら。は眉を寄せたまま、リオウの拳に自身のそれを突き付けた。―――思いっきり力を込めて。
八つ当たり宜しく突き出した本人ですら痛く、互いに拳を抱え痛みに悶える。ふとリオウと視線があった。どちらともなく、笑みを零すと直後二人は笑い始めた。緊迫した空気は既にない。少女らの微笑ましい光景を見ながら、フリックが関心したように呟いた。
「あいつら、仲が良いなぁ。」
「・・・だなぁ。」
「ん?どうしたビクトール?」
釈然としない物言いに、フリックが彼を振り返る。彼は口を引き結び所謂変な顔で唸っていた。思わず眉を寄せたフリックに、ビクトールは呟く。
「いやぁもしかすると、なぁ。」
胸に去来するのは少女達の微笑ましい関係にか、それとも。今はない厄介な人物達を思った不安か。
意味のわからない言葉、そして微妙な表情のビクトールに、フリックは一人首を傾げるのだった。
ビクトールとフリックに認められたリオウとジョウイは、数名の兵を率いた隊を任されることになった。その隊にはも入っている。達の隊は戦前に何度か作戦を立てては鍛錬を繰り返した。そうして作戦を立てる前の、初めての顔合わせの時である。は目の前で仁王立ちした人物に目を丸めた。周りもそんな彼女らに目を瞬かせる。だが本人は回りの視線を一向に気にせず、に指を突き付けると言った。
「負けないんだから!」
突然の宣言に呆然とするを余所に彼女は踵を返すのだった。
リオウが戦に参加すると聞いて、ナナミもまた隊へと入隊した。曰くリオウ達と同じように腕試しを受けた際噂の奥義花鳥風月百花繚乱竜虎万歳拳をぶちかましたらしい。そうして彼女はリオウ達と同じ隊になったのである。・・・のはいいが、彼女は何かとを目の敵にしていた。最近視線を感じる、と思えば基本的に彼女がをガン見していることが多い。恨めしそうで、一歩間違えれば親の敵を見るような視線である。
そのやたらと熱い視線を受けながらも、初めての鍛練の時だ。ナナミは再びの前にやってくると、腰に手を当てて言った。
「今日の鍛練!私と組みなさい!」
「あ、でもリオウと組むことになってて・・・、」
の返答にナナミは目を見開く。体を戦慄かせながら彼女は言う。
「なんですって!駄目!駄目駄目そんなの駄目!!」
力説するナナミに、目を瞬かせるとリオウ。そこへジョウイが溜息を吐いた。そしてナナミの手を掴むと引きずるようにその場から移動する。
「はいはい、ナナミは俺とな。」
「ジョウイ!離しなさい!ジョウイ!!」
「もう決まったんだから、駄々こねない。」
「な、駄々なんてこねてないわよ!こら、ジョウイ!!」
そうして離れていく二人の背を見送り、とリオウは首を傾げるのだった。
即席の小隊も、動きがなんとかまとまるようになった二日後のことである。準備もそれなりに整ったその日、傭兵の砦にポールの声が木霊した。
「王国軍の奴らが現れたぞ!!みんな、広場に集まれ!!!!」
砦の前の広場に、傭兵達全員が集まる。上座に立ったとビクトールが声を張り上げた。
「おまえらぁ!よく聞けぇ!!!見張りから入った報告じゃあ、王国軍がこの砦に向かっているらしい。数刻もせずにやつら襲ってくるぞ。」
アップルが眼鏡のブリッジを抑えながら続ける。
「敵の道筋にいくつか罠をしかけました。これで多少の被害は与えられるはずです。」
「火炎槍もなんとか間に合いました。徹夜で手伝ってくれた皆に礼を言います。」
ツァイがそう言うと、頭を下げた。ビクトールが顔を引き締めて言う。
「この砦が落ちれば、この辺りは全てハイランドのものになる。皆もトトの村、リューべの村がどうなったか知っているだろう。負けられないぞ!この戦い!!」
それに傭兵達は声を上げて答えた。
アップルによる作戦はこうだ。フリックによるとジョウストン都市同盟の一つであるミューズからの援軍は10日ほどでやってくるのだという。それまで持ちこたえるのは苦難ではあるが、それさえ耐えられれば勝ち目はある。主体は守りであるが、最初は討って出る。これによって相手の出鼻をくじき、攻撃の手を緩めさせるのだ。後はただ砦を固く守り、援軍を待つというものだった。アップルの作戦を話を終えた後、ビクトールが声を大にして言う。
「いいか!あの『獅子の旗』にかけてもこの砦を守り抜くぞ!」
勢いづいていた皆だったが、ビクトールの言葉で誰もが首を傾げた。ビクトールの示しているのは、例の緑の地に、黄色のとげとげが塗られ、その上に熊が描かれた旗である。
「あれって・・・・ライオンなの?」
アップルの問いかけは、皆の代弁であった。
数刻もせず、ハイランド兵は平野に現れた。そのすぐの事だ。砦の前の平野は、火の海に飲まれていた。先鋭隊であるビクトール達の切り札、火炎槍が生み出した光景である。二度目のそれは、変わらず地獄絵図そのものだった。
規模こそ前回と比較にならないものの、行われていることに大差はない。石突に取り付けた紋章により、数メートル規模の炎が吐かれ、人が焼け運良く逃げ延びたものは、槍で串刺しにされる。守りに徹していなければ虐殺といわれても致し方ない光景であった。夥しい血の匂いや、肉の焦げる匂いに、目の前の惨状に、は必死に込み上げてくるものに耐えていた。以前乗り越えられたのは彼がいたからだ。だが、その彼はいない。頬を撫ぜる熱風とは反対に体の芯は冷たかった。目を逸らしたい。今にでも逃げ出してしまいたい。いやだ、こんなところ、いやだいやだいやだ―――
そうした心の悲鳴を、しかしは閉じた瞼を開けると、今度は、表に出すことはしなかった。そして隣にいる彼を見る。
「リオウ。」
「すごい、ね。これだったら、あのルカ・ブライト相手にも、」
声をかければ、リオウは目の前の光景に否でも目を捕らわれながら答えた。は首を振る。
「無理して笑う必要はないよ。」
そこでリオウが必死に浮かべていた、歪な笑みが消えた。リオウは自身の前髪を掴むと、眼を細め零す。
「こわいなぁ。」
――誰だって、目の前の光景に恐怖を抱かないはずがなかった。何度戦を経験しても、決して馴れることはない。は唇を噛む。そこへジョウイがリオウに尋ねた。
「じゃあ、逃げるか?」
リオウは即座に首を降った。そして今度こそ自然に微笑みを浮かべて、彼は言う。
「逃げないよ。」
今度こそ揺れる事のない瞳で前を見据えてリオウに、は眼を細めた。また、だ。以前にも一度あったように、リオウがある人物に重なった。
けれどは頭を振りその考えを飛ばした。今は戦のことだけを考えなければ。――生きて、必ず彼に会う為にも。決意も強く辺りを見回す。その時、視界の隅に写った人物にははっと息を呑んだ。
「リオウ、馬を宜しく。」
「え?」
それだけ言い捨てると、驚くリオウに乗っていた馬を頼んでは馬から降りる。駆け足である人物の元へと向かうと素早く馬の手綱を掴み、今にも馬から落ちそうになっていた人物を支えた。は彼女の意識を戻すため、名前を呼ぶ。
「ナナミ!!」
名前を呼ばれ、朧げだった彼女の意識が覚醒したようだった。
「これが・・・戦争、なの・・・・?」
呆然と呟く彼女の目尻には、涙の跡があった。
彼女の細い体躯は震えてる。どんなに強気にふるまおうと、彼女はまだ少女であった。は眉尻を下げる。平穏な生活を送っていただろう彼女が初めて見た戦争。それはあまりにも惨たらしかった。彼女に見せるべきものではなかったのだ。
「ナナミ、行こう。」
はひとまず、彼女を戦場とは関係ない、安全な砦へと戻そうとした。けれど馬は動かなかった。不審に思って見れば、ナナミが馬の手綱をしっかりと握っていたのである。そして目の前の光景に目を逸らさず――否凄惨な光景に目を逸らすことが出来ず、体を震わしながらも彼女は言った。
「お姉ちゃん、は、強いのよ。」
どんなに恐怖に震えていても、彼女は手綱を握る手だけは緩ませなかった。
そして頑なに、戦場に立ち続けた。
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