Skyting stjerner1-19

早朝より出立した二日目の強行軍は、もとから大森林内はモンスターと遭遇することも少ないため予定より順調に進み―― とはいっても朝、湖へと顔を洗いに向かったキルキスが、その周辺の地形が改変していることに悲鳴をあげるなどといったエピソードがあり、もモンスターと遭遇した時以上に地形を変えるほどその周辺が破壊された様子にあいつらモンスター以上かと頬を引きつらせたり、当の本人達といえば何事も無かったかのように片や笑顔、片や涼しい顔といったこともあったが――
とにかくも移動を開始してしまえば問題も起きることなく、その昼頃、達は草木の抜けた場所へと出た。
そこは来た道は違いはすれど、が過去に一度だけ見たことのある土地だった。太い幹を切り倒し、組み立てられた頑丈そうなログハウスは数軒並び、 柵で囲われた庭も幾つか見受けられる。大森林の小鳥が囀り、そよぐ風は心地よく、それまで幾つもの大木で空は覆われていたが、開けたそこには日が燦々と降り注ぐ。 それまで進行を邪魔するほど生い茂っていた草花も、邪魔にならない程度に刈られていた。 雑音もなく、静謐なその村は一見、理想の別荘地とも思える。
けれどその様子のおかしさに琴音は眉を潜める。 それはこの村を知っているエルフの青年、キルキスも同じだったようで呆然と呟いた。
「こ、これは・・・。」
「どうしたんですか?」
目を見開き動揺も露に呟いたキルキスに、グレミオが尋ねる。キルキスはそんな彼に、視線は村へと固定したまま呆然と異変を話した。
「・・・ここはコボルト達の村だったのですが・・・」
眉を顰め、彼は続ける。「それが、誰一人いなくなっているのです・・・。」
が来た時、この村はここまで静まり返っていなかった。
この村には大森林に暮らす人とは違う三種族の一つ、コボルト達が辺りを出歩いていた。特に彼らは種族柄、鼻が敏感なため外から来た者にはすぐ反応するのである。 だが達が村に入っても誰も出てこないし、外を出歩くものもいない。ただ木で出来た赤い屋根のログハウスが建っているだけだ。
はコボルトというのを邂逅は過去一度でも、その印象は強烈でよく覚えていた為、その異変に気づいた。
そして琴音以外の解放軍メンバーはその事を知らないものの、戦闘員であるが故敏感になった五感で、その村で暮らす上で発生する雑音が全くしない事を感じとり始める。皆がその村の異変に眉を寄せた、そんな時だった。琴音達がやってきた森の右手から、威嚇の声が上がったのは。
「バウバウ!お前ら人間、仲間をつれさった。ゆるさない。うー、ゆるさない。」
達の前へとやって来たのは一人のコボルトだった。こちらを黒くつぶらな大きな目で睨み付け、尻尾を逆立てたそれは威嚇されていても、久しぶりに見たは思わず胸をときめかしてしまう茶色の毛をもつ犬、だった。
二足歩行の、だが。
それがコボルトという種族であり、は始めて見たときその愛らしさに人間だからといくら邪険にされようがこの村に泊まる!と決意を翻すことは無かった。
コボルトと触れ合った時間、まさに夢のような心地であったとしみじみと思う。何しろ彼らは犬みたいだが喋ってくれる。夢の動物との会話実現。動物ではなくコボルトだが。
「でも今はじかんがない。はやく、みんなのびょうきをなおす。」
過去を懐かしむ彼女とは裏腹に目の前のコボルトは達を威嚇し続けていたが、悔しそうに奥歯をかみ締めるとそう言って踵を返してしまう。
犬のようなコボルトは犬のように走るのが速かった。突然現れたかと思うとあっという間に村の出口へと向かっていく。ティル達が話を聞く暇すらない。 しかしそのまま森へと去ってしまうかと思われたコボルトだが、森へと入る前に突然止まった。
「・・・へん。何か嗅いだことある、におい。」
そしてそんなことを呟き訝しげに達を振りかえる。その言葉にははっとした。
「もしかして、クロミミ?」
ティル達は突然口を開いた少女に驚き、視線をコボルトから少女へと移す。はいきなり集めた視線に少しひるんだが、嗅いだことがある、ついでに見たことのあるような 毛並みに知り合いであるコボルトのクロミミかと思ったのだ。残念ながらドワーフの村のように半年住み続けたわけではなく、2日ほど滞在しただけの彼女には似たようなコボルト達をぱっと見で区別することは出来ない。 が、よくよく見れば確かにクロミミであるような気がしてきた。そしてそれはその通りであったらしい、コボルト――クロミミはその声と言葉にを見て大きな目を更に見開かせる。
「おまえは!旨い飯!くれた、にんげん!・・・・!」
はそんなクロミミになんともいえない表情を浮かべた。彼の言い方からしてどうも旨い飯辺りから連想された感がする。
まず自身より旨い飯を思い出し最後に名前を思い出したあたりがその証拠だ。 ひどいとは思うが彼女も今まで思い出せなかったのだからどっこいどっこいである。は苦笑を浮かべた。
「久しぶり、クロミミ。元気にしていた?」
「おれは、元気。コトネも、変わらない。よかった。」
なんとも嬉しいことを言ってくれるものである。最初は相当警戒されていたのだ。思わずそんなことを言ってくれたクロミミに頬を緩ませる。 しかしそこでクロミミは首を横へと傾げた。
「・・・・でも、ちがう。前きたやつ、ちがう。」
「ああ・・・アレは・・・うん。ちょっと今はこの人達と行動してるの。悪い人達じゃないよ。」
前きたやつ、というのはとともにこの村へと来た彼のことだろう。思い返して見ればエルフの村へと行く代わりに、変わった種族がいるというここへと彼に連れてきてもらったのだ。
その際とりつけたエルフの村にはもう行かない、という約束のせいでその後しばらくしてエルフの村へ行こうとして酷い目にあい、それからもうエルフの村へ行く気にもなれなくなってしまったのだが。 今は懐かしいばかりである。アレがいないって平和だ・・・精神的に。しみじみと思っているとそんなに話についていけない一同を代表してティルが尋ねてきた。
は彼と知り合いなの?」
「あ、うん。昔、知り合いとこの村に来たことがあってね。その時に知り合ったの。最初はすごく警戒されてたんだけど、ご飯を作ったら仲良くなったんだよ。」
餌付けか。
ティルとグレミオの視線がなんとなしに餌付け第二号と思われる熊へと向かう。その視線を受けた熊ことビクトールは思い当たる節があるのか慌てたように声を上げた。
「な、なんだよ!おれは別に餌付けされたわけじゃねぇからな!?」
その言葉で事情を察したのか、周りからビクトールへと冷たい視線が送られビクトールはちょっと泣きたくなった。
「それで、クロミミ、他のみんなはどうしたの?クロミミのお母さんとかお兄さんとか。」
事情も話終えた所で、クロミミへと視線を向ける。その際クロミミの尻尾が二度ほど嬉しそうに振られ再会を喜んでもらえているのだとは嬉しくなった。 けれど話の内容を聞くと、彼ははっとしたように尻尾を立てる。
「みんな、おかしくなった。みんな、びょうき。」
「・・・病気?どういうこと?」
「わからない、おれもわからない。けど、人間来て、おかしくなった。みんなどこか行ってしまった。」
眉を寄せながら尋ねるとクロミミは尻尾を力なく垂れて首を振る。流行病というわけではないらしい。それとも病に倒れたところを人間が来て連れ去ってしまったのか。 が考え込んでいるとクロミミは再び尻尾を立ていきり立つ。
「だからおれ、いそぐ。みんな治す。も、きをつける。」
そう言ってしまうとクロミミは再び森の出口へと走っていってしまっていた。どうやらもう引き止めることは出来ないらしい。は口に両手を当ててクロミミへと叫ぶ。
「ありがとう!クロミミも気をつけてね!!」
クロミミの尻尾が答えるかのように振られ、そして彼は森へと消えていった。
「どういうことでしょうか。」
クロミミがいなくなると、グレミオが怪訝そうにそう口にした。けれど今は誰もそれに答えを出せず、誰もが沈黙する。
「・・・我々の村に急ぎましょう。何かわかるかもしれない。エルフの村はここから南に行ったところにあります。」
キルキスの言葉に一同は頷き、再びエルフの村へと馬を走らせた。



「あそこがエルフの村です。」
それからしばらくして、日が暮れる前にキルキスが前方を指差した。そこには少し空間の空けた木の間に立つ一際巨大な一本の樹。
は目を瞬かせてそれを見る。どう見たって樹だ。まさかとは思うが――
「もしかして、あそこの樹の上に暮らしてるとか?」
「はい。私達はあの樹の上に板を張り家を建てて暮らしています。」
よっしゃきたー!とは内心ガッツポーズをした。まさに憧れる某エルフ達の某エルフの里と同じである。エルフであるキルキスは、最初こそローブを深く被っていたため顔は見えなかったが、肩まで伸びたオレンジ架かった金の髪に白い肌、蒼い目と期待を裏切ず大変美しい青年であった。 これはまさにの描いていた通りのエルフ像だ。それで喜ぶなというほうが無理な話である。
「じゃあそこの木の影の枝に、馬を繋げておこう。」
そう指示を出すティルの横で、は今から訪れる憧れのエルフの里へと思いを募らせるのだった。



木から吊るされた梯子を使い、その高さに怯えつつも憧れのエルフの村はもうすぐということもありなんとか上り終えたは、憧れのエルフの村へと入れたのだが。
道行くエルフ達は誰も美しい。まさに美男美女パラダイス。ついでに村内も木の上に出来ていることもあり自然に溢れ蔦と草と木で出来た家屋はコンクリートジャングル出身のからすれば大変神秘的で美しく感じる。 しかし。
突き刺さるエルフ達の視線はとてつもなく痛かった。それが美しい彼らからこそ余計に痛いその視線。通りかかる者、家から出てきた者と誰もが達人間を見るとあからさまに不快そうな顔をして睨み付けてくる。 一番傷ついたのは達を見ると金糸のように艶やかで綺麗な髪を靡かせ逃げていったエルフの少年少女達だ。これは結構胸にぐっさりきたとは思う。
突き刺さる視線にぐったりしかけていると案内をするキルキスが、一軒の家の前で止まる。
「ここが長老の家で」
す、と言い終わる前にそのよく見れば通常より規模の大きい家の扉が開く。は一瞬長老かと思ったが違った。出てきたのはエルフの女性だった。 それも緩やかなウェーブを持ち、青みがかった銀髪にラピスラズリのように輝く蒼色の瞳、透き通るような白い肌といったエルフの里で見かけた中でも相当な超絶美女のエルフである。
彼女は長老の家から飛び出してきたかと思えばキルキスを見るとその大きな目を零れ落ちるのではないかと思うほど見開き、彼へと突撃しそのガラス細工のように華奢な手を握り締め彼の胸を叩く。
「キルキスー、どうして私のことを一人にしたの。シルビナは寂しかったんだよー!」
「いや、一人にした訳では・・・」
「ひどいわ、1人で行っちゃうなんて。シルビナも連れてってくれたらよかったのに。ねぇ、外は面白かった?」
「いや、その、遊びに行った訳じゃないし・・・、危ないから君をつれていけなかったんだよ。」
エルフの超絶美女、シルビナに対しキルキスは困ったような表情で、けれどとても優しい目をして彼女を見ていた。 シルビナも他のエルフ達のように達人間に嫌悪を露にすることなく――というか多分彼女の目に入っていない状況である。
まさに二人の世界。はなぜかあたりが甘ったるい雰囲気になっているような気がした。 これが世に言うバカップルだろうか。なんとなしに気まずくなって視線をグレミオへと向けると彼は自分を見たへと苦笑を浮かべた。彼もまた、彼らの対応に困っているような表情である。 邪魔してはいけないし、というか邪魔できないと思う。けれど事は一時を争い、今目の前に長老の家がある――そこへキルキスも自身の役目を思い出したのか優しくただ見つめていたシルビナから視線をあげた。
「す、すみません!長老はこの家にいます。急ぎましょう!シルビナは少し待ってて。」
ティル達に振り返りそう言うと最後に着いてきそうなシルビナに言い残し彼女を抱きとめていた手を離す。シルビナはそんな彼に不安そうな表情を浮かべた。
「ねぇ、キルキス。キルキスは何か悪いことしたの?おじいちゃんが恐い顔してるから・・・。」
しかしシルビナは何も言わず、シルビナの頭を優しく撫でるだけだった。 そして視線を険しくしてティルに向き直る。
「行きましょう、ティル殿。」
それにティルも頷き、長老の家への扉へと手をかけた。


中に入るとそこは広く、床に布かれた絨毯も上質なものであった。 そしてその部屋にはティル達がやってくるのを待ち構えていたように一人の老人を中心にして幾人かの武装したエルフ達がいた。 白く長い髭を生やし、杖をついた老人はゆっくりと部屋へと入ってきたティルの横に立つキルキスへと鋭い眼光を向ける。
「キルキス、わしの許しなく村の外に出て、お前は何をしてきたというのだ。」
「はい。人間の中にも帝国と戦っている者がいます。彼ら解放軍の力を借りるために僕は村を出ました。このエルフの村を守るために。」
老人――若しかしなくても長老にキルキスは怯むことなくその鋭い視線を受け止め答えた。立派な考えだ、とは思う。
長老の話から彼は許可無く村を出て、恐らく相当エルフが嫌っている人間に村を助けてもらうため会いに行ったのだ。村を大切に思っていなければ出来ないことだろう。 外は恐らくこの木の上で隠れて暮らす彼らにとって、未知の世界であるというのに。はその勇気は称えられこそすれ、貶されることはないと思っていた。 しかし長老はそんな彼の返答に顔を歪める。
「この村を守るために、だと。何を言うか。この村を守るのに人間の力を借りる必要などない。確かに一時はクワンダの兵に押され気味だったが。所詮は人間。最近は大人しいものだ。」
「しかし・・・。」
「うるさい!キルキスよ。村を勝手に出た上に薄汚い人間共を連れてきおって。この者達も牢にぶち込んでおけ!」
それには驚いた。長老は同じエルフであるキルキスの言葉を少しも聞こうとせず声を荒げる。 しかも牢に入れておけとはそんな・・・。が驚いている間にもすぐに武装したエルフに達は囲まれ、その腕を力強く掴まれていた。

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