Skyting stjerner2-??
木々の合間から差す木漏れ日は朗らかで、穏やかな情景だ。森林に囲まれた一軒家、中庭から見える景色は自然に溢れ簡素で、だがだからこそ目の前の彼は、穏やかに過ごせたのだろう。緊迫していた以前とは違う、昔と同じ柔らかな表情で笑い、彼は問いかける。
「元気にしてたかい?」
髪は以前より少しばかり伸びたようだ。後ろで結われた金色の髪は、相変わらず繊細な糸のように滑らかである。
顎は尖り、青年へと成長した彼は蒼い目を細めた。青年、ジョウイにリオウも笑う。
「うん。ジョウイも、元気そうでよかった。」
戦争が終わり、それぞれが違う道を進んだ。戦争の最中に違えた仲は、戦の終わりとともに修復できたが、互いに戦いの中で見つけたものがあったのだ。道こそは違うものの、彼らの仲は変わらず、もう敵対することはないだろう。
それから1年後、リオウは別の道を進んだジョウイに会いに来ていた。厳密にいえば、リオウにとっては諸事情で1年ではない。だからこそ彼にとって久しぶりに会うジョウイは、とても懐かしく感じた。
「ピリカと皇・・・ジルさんも、どう?特にジルさん、こういった生活は初めてだろうし・・・。」
リオウの問いに、昔よりも随分と成長したように見えるジョウイは穏やかな答える。
「二人とも、元気だよ。ジルも、元から器用だから。」
蒼い目は細まり、とても優しげな表情だ。親友の成長に微笑ましく思いながらも、思わずにやつく笑みが浮かぶ。
見とめたジョウイが、リオウの表情に口を引き結んだ。「なんだよ。」
「呼び捨て、ねぇ・・・。いやあ、覗くだけだったジョウイが、ここまで成長出来たなんて・・・。」
「そ、それは・・・!子供の頃の話だろ!!」
業とらしく涙をぬぐう仕草をすれば、ジョウイは顔を林檎もかくやという程赤く染める。やはり、彼の純朴さはそうそう変わらないようだ。笑みを隠し切れないリオウに、顔を真っ赤にしながら苦し紛れにジョウイは反撃を開始した。
「そういう、リオウはどうなんだよ。」
「・・・それ、聞いちゃう?」
「・・・ごめん。」
途端真顔になったリオウに、ジョウイは心の底から同情した。リオウ程ではないが、彼女とは共に仲間として行動したことがある。マイペースで時に多少、いや大分ぶっ飛んだ所もある彼女相手には苦戦するだろう。
頬を引きつらせたジョウイを、しかしリオウは小さく噴出すると笑い飛ばした。
「ははっ。冗談だよ。ま、ガードが固いからねぇ・・・。でも、」
「待って!ナナミさ「キャー!!」」
しかし台所から響いた悲鳴に、リオウの言葉は途切れる。ジョウイと共に、目を瞬かせて顔を見合う。
最初の声はこの家の同居人である、ジルのものだろう。元皇女なだけあって、儚げな見た目とは裏腹に些細なことでは動じない彼女が声を荒げるとは珍しい。
悲鳴は、とても聞きなれたものだ。二人の背筋に嫌な汗が止まらなかった。
「わ!わ!ど、どうしよう!??火が止まらないよ!?!?」
「うん、油熱しすぎだよね。」
予感を的中させるように、リオウの姉、ナナミの焦った声にの淡々とした声が続く。状況をなんとなく理解して、ジョウイは乾いた笑みを浮べた。「ナナミも、変わってないみたいだな・・・。・・・そこは変わってほしかったけど。」
「なんでさんはそんなに落ち着いてるんですか!?」
「慣れてるからねー。」
「慣れないでください!!早く!火を止めてください!!」
「だめー!熱くて近づけれない!!」
阿鼻叫喚と化す台所が目に浮かぶようである。やれやれ、とリオウが腰を上げて台所に向かうのと、ジルが意を決したように口を開いたのは同時であった。
「そんな・・・!こ、こうなったら私が・・・!!」
「あ、大丈夫ですよ。リオウー!いつものー」
「はいはい。」
リオウは心得たとばかりに紋章を発動させた。
「ふー・・・助かった・・・。ありがとう、リオウ!」
やはり脳内で浮かんでいたような惨状の台所であった。旅の中でも度々起きる現象であり、慣れていたリオウは流水の紋章で沈静化させるとナナミは胸を撫で下ろす。毎回悲惨になるのだが、そろそろ姉は料理を自重してくれないだろうか。大火事一歩手前であった惨状に、しょげるナナミは眉を潜めた。「おっかしいなー・・・今度こそ大丈夫だと思ったんだけど。でも、次は絶対大丈夫・・・!」両こぶしを握り、素早く意気込むナナミはやはり懲りてなかった。
正反対に、どんよりと雲を背負いそうな程ジョウイは落ち込み、顔を引きつらせる。「うちのキッチンが・・・。」
壁は煤で汚れ、溶けている箇所すらある。改装は免れまい。美しく清潔さを保たれていた台所の変わり果てた様子に、ジョウイの目は自然と遠くなった。
「た、たいへん!皇女さま、じゃなかった、ジルさん!顔!顔!!」
「え?」
そこで、ナナミの焦った声がする。ナナミの指摘に視線がきょとんとしたジルへと集中した。
ジルは大きな黒曜の目を瞬かせ、白い顔に手を当てる。彼女の陶磁のように滑らかで美しい肌に、先ほどの惨事で黒い煤がついていた。
「あら、」
気づいたジルが思わず呟く。だが皇女であったはずの彼女は顔を汚されたことに怒ることなく、目を瞬かせるのみだった。
皇女様の顔を煤で汚してしまった。焦りだすナナミやだったが、しかし当の本人であるジルは彼女たちを見て花のように顔を綻ばせる。
「ふふ・・・!ナナミさんやさんもお顔、凄いですよ。」
ジルは皇女として、気を強く持つよう教育はされていたが、元から穏やかな性格であった。自身の顔が汚れようが気にせず、自身と同じように煤だらけなナナミ達を見てクスクスと笑みを零す。彼女の指摘に我に返ると、とナナミは顔を見合わせた。そして互いに煤だらけな顔に気付き、思わず笑いがこみ上げてくる。
笑う彼女たちに、落ち込んでいたジョウイもやがても柔らかな笑みを浮かべた。戦では互いに敵対していた。そんな自分達がこうして穏やかに笑いあえることに、幸せが込み上げてきたのだ。穏やかな彼女たちにジョウイは表情を柔らかくして、懐から白いハンカチを出すとジルへと手渡す。礼を言って受け取るジルの傍ら、リオウもまた苦笑しながらナナミにポケットから使用していない手拭を取り出し手渡した。
「はい、ナナミ。」
「ありがとうー!」
ナナミが礼を言って受け取ると、リオウは今度はに向き直った。そして呆れたようにため息を吐く。
「仕方ないな、も。」
「ちょっと!痛い!痛い!!いいから!自分でするから!!」
思い切り頬を拭われ、思わず悲鳴が上がる。ひったくるようにリオウから布を奪い、自身で煤をとる。そこへ気づいたナナミが目を丸めた。
「あれ、それ、リオウのスカーフじゃあ・・・。」
「え、」
喉の奥から固い声が出る。
視線を手元に向ければ、それはリオウがいつもつけている黄色のスカーフであった。
「ごごごごめんリオウ!!」
「いいよ、別に。」
すぐさまひれ伏す勢いで謝罪をするに、しかしリオウは軽く笑う。
だが、いつもしているということは彼が気に入っているという事だ。汚されたら怒るものでは。焦るに、リオウは楽しげに笑って言った。
「代わりに、デート1回ね。」
「・・・そんなものでいいの?」
「うん。二人でね。」
「買い出しなら、別にいいけど・・・。」
そのやりとりを見ながら、ジョウイは先ほどの途切れた言葉の答えを聞いた気がした。
元から彼は普段穏やかな分、一度意志を固めると揺らぐことは終ぞなかった。戦争の最中も、最後までそうだったのだ。リオウならば、最後まで諦めることはないだろう。他ならぬジョウイだからこそよく知っていた。
ジョウイは笑いながらも、反面、心の底から関心するのだった。
俺の幼馴染、やるなぁ・・・。
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