微笑む魔術師

DreamMaker2 Sample
何故か教室から突如として見知らぬ地にいたは、馬に轢かれそうになったことをきっかけに、良心的な農園の夫婦に保護された。始めは慣れなかった農作業も大分要領を得てきている。また、知り合い一人いなかった街でも、最近よく出会う、黙っていればキラキラ輝くエフェクトすら出そうな超絶イケメンの癖に、ミスディレクション並みに何故か周りには意識されにくいプー太郎のヒモ男(これを言ったら普段の敬語が抜けて笑顔で凄まれたが)とも軽口を言い合うほど馴染んできた。
そして眠りに落ちる度、眼前に広がる色鮮やかな花に、無駄ににこやかな笑みを浮かべる優男も、大分見慣れたものになっていた。
街で会う無駄な敬語で毒吐くガングロもそうだが、こいつも眩しい。目が覚めるような美青年である。夢の中だが。
の目は自然と半目になった。
彼女は既に、眠りに落ち、これは目の前の男が作り出した夢であるのは、度重なる夢で彼女も知るところとなっていた。
自身の夢の中で目が覚める気分になるなど、誠に理不尽であった。その日は羊の毛狩りで非常に疲れていたは、目の前で満面の笑みを浮かべる青年をさっそく遮断しようと開けた瞼を再度閉じた。だったのだが、
「ててれてってってー!」
「そ、その音楽は・・・!?」
突然、目の前の男の口から単調で軽快なリズムが流れる。
容姿だけでなく、無駄に良い声で軽快に歌われた懐かしき響きに、は思わず閉じようとした目をかっ開いていた。
ごくり、と生唾を飲み込み、何やらローブのポケットに手を突っ込んだ男の動作を待つ。
「まさか・・・!??」
予約は既にしてある。こちらの世界の日数はあやふやだが、元の世界ではそろそろ発売されているだろう。NNに並ぶ名シリーズ。あまりにも有名ゲームな為因んだドラマもありましたヨシヒコ面白いよね。
夢の中で毎回何処から手に入れるのか、様々なゲームを青年とプレイしてきただが、その作品はまだ出てきたことはなかった。
生唾飲み込み待つに、青年はにこりと笑い、おもむろにポケットから手を出した。
「じゃじゃーん!人生ゲームweeex!」
「古い!!しかもクソゲー!!」
男が誇らしげに取り出した先程のワンフレーズには全く関係ないソフトに、思わずはぶちギレ、そのあとすぐに青年にサソリ固めを決めるのだった。

「だって、RPGだと君、僕を置いてきぼりにするでしょ?」
完全に腰を砕く勢いであったのに、何故か無傷で飄々とした男、マーリンには歯軋りせん勢いでルーレットを回す。チキショウ、これは奴の夢だった・・・。奴に苛つく度に、どれだけプロレス技をかけようと毎回無傷なマーリンに報復出来るのは、常にが得意とするゲームのみだった為、はひたすらルーレットを回していた。
「お兄さん寂しいよ、死んじゃうよ。」
「はい、離婚ー。あんたとはおさらば!私は玉の輿になる!!」
「酷い!僕とは遊びだったんだね!?」
「資産家以外興味はない!」
「鬼畜!人でなし!!」
着実に大富豪に向かうだったが、わあ!と両手で顔を覆うなりそう避難してきた煩い真横の男に思わず顔が歪だ。「どっちが!」
「自分は私がいない間にプレイした挙げ句詰んで、プレイしたくても出来ない未プレイの私に助けを求めるくせに・・・!この真性鬼畜が・・・!」
何故自分が元の世界でプレイしたかったゲームのネタバレをされながら、奴が詰んだところをどうにかしなくてはならないのか。それでも初めの頃はもう二度と出来ないかと思うと、喜んでプレイしていたが、それも回数を重ね、今では殺意すら覚えていた。何せ奴はわざとだ。絶対に故意にそうしているのである。嫌がらせ以外の何者でもなかった。マーリンシスベシ。
ところがそう罵倒しようとも、マーリンはあっさりと頷いてみせた。「まあね。」
「だって君、そうでもしないと僕を見てくれないだろう?」
無駄に整った顔でにこやかにそう告げたマーリンは、異性が見たならばさぞ胸をときめかせただろう。しかしは頬を紅潮すらさせず、その目は死んでいた。
「その心は?」
「手にいれた僕より先にクリアされるのは悔しい。」
笑顔のままけろりと答えたマーリンは、そのまま何て事のないように続けた。
「ドラエクも手にいれたんだけど、ちょっと難しくなってきちゃってさ。今度教えてよ!」
「嫌がらせか。楽しいかこの悪魔め。」
「やだなぁ、違うよ。僕は夢魔だよ?」
どちらにせよ、精根腐っていた。

運によるところが多くても、ゲーマーであるが故に今回も人生ゲームに勝利したは、額に浮かんだ汗をぬぐう。
運だけは自身より良いらしいマーリンに、度々局番をひっくり返そうになったが、無事奴を負かすことができた。ゲームであるのだから楽しめば良いのだが、それはそれ。マーリンに勝つ事は最早の意地でもあった。
対して負けたことに特に悔しさの色を浮かべることなく、マーリンは笑うばかりだったが、そこでふと顔をあげた。
「おや、そろそろ朝かな。」
言われてみれば、の体が指先から白ずみ始めていた。
夢から覚めるとき、の体は徐々に輪郭が薄れていくのだ。勝利にご満悦であったはそこで慌てたようにマーリンを見た。
「明日は絶対、ドラエク出してよ!?」
しかしそれに、マーリンは笑顔で首を傾げる。
「うーん、どうしようかな。教えてくれないなら「わかった!教えるから!」」
「ワー!ありがとう!悪いなー!」
「その棒読み腹立つなチキショー!」
満面の笑みでそう礼を言ったマーリンだが、その言葉には少しも感謝の色は見えない。しかし、背に腹は代えられぬ。ネタバレをされようとゲーマーのとしてはドラエク新作は是非ともプしたかった。明日、といってもその日の夜だが、いよいよドラエクの新作をプ出来る!意気揚々と現実に戻ったは、その時マーリンが小さく微笑んだのに気づかなかった。


「仮にも悪魔に、約束を簡単にしちゃダメだよ。」
既にその場にはいない異世界の少女に告げた言葉は、風に吹かれた花弁に紛れて消えた。



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