DreamMaker2 Sample 青天井の下に、眩い肌。炎天下に汗を流すうら若き少年少女はスポーツに精を出す。暑さに負けない程の声は張りがあり、なんとも若さとは元気なことだと思うばかり。
膝上丈のプリーツスカートに、ワイシャツの胸元にはリボンタイを揺らすは、窓から聞こえる賑やかな声に、改めて思う。
あの、なんで私ここに?????
。数年前の若かりし頃は賑やかな彼女たちの輪に加わっていた記憶は正直なところないが、それでも疚しい事のない正真正銘の女子高生であった。魔法や妖精が残る、遥か昔のお伽噺ともされるアーサー王の時代に行くまでは、である。
現代に暮らしていた女子高生のは、まさにアナログな生活に四苦八苦したが、それでも心優しい人々の助けで数年かけて徐々に慣れ親しんでいった。そう、数年前である。もう一度言おう。
なして、こうなった????
プリーツスカートは他の生徒に合わせて僅かに丈が短く、膝小僧が除く。白いハイソックスに艶々のこげ茶色のローファー。ボタン?え?あ、第2まで開けるのが普通?あ、はい、分かりましたそうします。周囲の生徒からは可愛いと専らの評判であるらしい、トドメには胸元の真っ赤なリボンタイである。
しかし彼女、既に成人は迎えていた。鏡を見て頭痛を覚えない日は、今のところない。
気が付けば元の世界に似た現代で、は見知らぬ土地の学生であった。天涯孤独であるらしい。いや、両親元気に存命していますが。
早くに亡くなった親の遺産のお陰で、衣食住にも困らず、学校にも通っている。しかも記憶のない学校へは、翌週から転校生として編入するらしい。うん?やっぱりステイ??唐突な高校生活リトライに、は戸惑いが隠せなかった。
突然遥か昔のブリテンに暮らすことになった頃は、の手元には何もなく、人の良い住民がいたからこそよかったものの、何度も世知辛いと思ったものか。それにしてもここまでご都合主義に全て用意されていると、第三者の関与を考えてしまう。の都合の良いように用意された環境は、誰かが用意したものでは。そもそも、ブリテンでの最後の記憶では・・・少なくても、自身が生きているはずがないのだ。
幾ら考えても、時間は過ぎる。翌週であった編入の日はあっという間に訪れた。仮に誰かの意図があったとしても、生きる手だてのないは、動かないわけにもいかなかった。まずは、と用意された道筋に従っていく。

懐かしさを覚える学校生活であったが、若さとは偉大なもので、ジェネレーションギャップを感じながらも必死に周りに合わせる。そうして、気が付けば1か月。なんとまぁ、は流されやすかった。
考えたところで、第三者の気配など微塵もなく、結局、は考えることを放棄した。うん、まぁ、もしかしたら見知らぬ土地で死んだ自身を不憫に思った神様が、こうして二度目の生を用意してくれたのかもしれない。最初は浮きに浮いていたも、転校生だからという免罪符を得て、今では少しずつ学校生活に溶け込み始めている。しかし、しかしだ。学校生活には、避けては通れない科目がある。そう、体育である。
この炎天下、外で運動しようものなら死ぬ。絶対死ぬ。
心は愚か、体も当然追いつかないのだ。高校生活に戻るのであれば少しぐらい若返っているかと思ったが、なんと悲しい事に見た目はブリテンの頃と変わらない。いや、そこは変えろよ。ばれるだろ。そう思っても、まさか成人を越した人間が制服を着て高校生に交じっているとは、幾ら老け顔であろうと周りは思いもしないのだ。見た目は変わらないのに、戸籍の年齢だけは若くされているのだから。
無駄に丁寧な設定や環境の割に、何故か変わらない容姿に、やはりは憤りを隠せなかった。もしこれで第三者の関与があるなら絶対に、ゆるさない。仮に、第三者がいたとしても性別は愚か、年齢もわからないが、本人にも制服着て高校生活を送って貰わない限り、許せそうになかった。
そんなわけで、は堂々たるサボりを決行することにした。運よく、この学校の保険医はゆるい。体調が悪いといえば、二つ返事で休ませてくれる。
窓から聞こえる若々しい声を背に、は保健室の扉を叩く。「失礼しまーす。」軽く声を掛けて、ガラリと戸を開いた。
しかし、保健室には既に先客がいた。丸椅子に座り込んだ黒髪の少年は、目を丸くしてを見上げる。まさか、既に人がいるとは。さっと室内に目を通すが、保険医の姿は見当たらなかった。
「・・・あ、転校生。」
その時、少年が小さく呟いた。廊下には未だ開け放たれた窓から校庭の声が響いているが、保健室はわずかな物音すらしない。少年の呟きは、の耳にも入った。
視線を向けると、少年はやはりを見ている。しかし、少年は彼女の記憶にはない。思い当たる節もなく押し黙っていると、少年は自身を指さした。
「俺、クラスメイト。」
やっちまった。額に手を当てて、は慌てて頭を下げる。「ごめん!まだ、クラスのみんな覚えていなくて・・・・!」
僅かな欠片も覚えていなかったに対して、少年は気にした様子もなく、からからと笑う。「まぁ、しかたないよ。俺、地味だし、影薄いしね!」
「名前、聞いても・・・?」
申し訳なく思いながら、は少年に尋ねる。思っても見なかったのか、少年は目をまん丸としてから、にかりと笑った。
「藤丸立香。宜しく!」
それが藤丸立香と、の出会いだった。

それから、立香との不思議な縁は続く。体育をサボるために保健室に行けば、立香と鉢合わせるのだ。
最初は体調が悪いだけかと簡単な挨拶のみ交していたのだが、しかしそうではないらしい。曰く、「だって、今日暑いじゃん??炎天下の下運動なんかしたら、インドア派のオレなんて倒れるって。」つまり、サボり仲間である。
保険医は学会などでよく席を外していた為、二人はやがてサボっているにも関わらず、保健室で悠遊と過ごすことになる。
立香が漫画を持参して読んでいる姿が気になり声をかければ、にも漫画を借すようになった。しかもそれがの世界にもあった某有名な奇妙な冒険なものだから熱中してしまい、思わぬ同志に立香と話す事も多くなる。しゃべり通して時間を終えることなどざらで、クラスではあまり話すことはないものの、片方がおもむろに拳を差し出せば、無言でピシガシグッグッが出来るようになった。ただのオタクである。
(・・・立香君、珍しいな。)
が中々慣れない学校生活も、3か月が経った頃だ。自称インドアなサボり仲間・藤丸立香であるが、1日も学校を休んだことも、ましてや遅刻したこともない。しかし、3限目が終わる頃だというのに、珍しく立香は通学してこなかった。
急な教室移動の為、移動の準備をするはぼんやりと考える。この後、立香が遅刻してくるかもしれない。行き先を知らないと彼が可哀想だ。移動すると声をかけてくる友人に、後から向かうと伝えると、は一人教室に残った。
立香に向けてメモを書き留めると、立香の机と向かう。誰もいなくなった教室はやけに静かだった。床のリノリウムと上履きのゴムが擦れる音が響く。消しゴムを重りに机の上にメモを置こうとした、その時だった。
唐突に、眩暈がを襲う。立っていられず、傾いた手からメモがはらりと落ちた。
急激な眠気は長いようで、一瞬だった。重くなる瞼に傾く体を直す気力もない。これは、頭から転がる。そう思っても意識はどんどん遠のいていった。恐ろしいほど急に、体の感覚すらも抜けていく。だが微塵も、不思議と危機感が湧かなかった。
視界が落ちきる前だ。ふわりとした香りに、は安心したのだ。
それは何故か懐かしいような、花の香りだった。





花の幻影




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